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- 【実践発表】1人1台環境の実践から(1)タブレット端末が学校に導入される意義と課題
FS校3年間の変遷
平成22年に全国10校の小学校で、総務省による「フューチャースクール推進事業」が始まり、実証校に無線LAN、タブレット端末、電子黒板が導入されました。2011年には、文部科学省による「学びのイノベーション事業」が始まり、フューチャースクールの実証校にはデジタル教科書の配備と活用効果の追求、指導方法の開発などが進められるようになりました。実証校である石川県内灘町立大根布小学校が、これまでどのように取り組まれてきたのか。導入時点から本格的な活用へと至るまでの3年間、研究者、座長として参画していた立場から、その移り変わりをご紹介します。
タブレット端末を「ノート代わり」に活用
1年目:とにかく授業でタブレット端末を使う
平成22年9月にICT機器が整備され、10月から使い始められました。
当初、先生方は電子黒板や児童1人1台ずつ整備されたタブレット端末、無線LAN環境を使って「どのように使って授業をすればよいか」ということに意識が集中していました。
整備されたタブレット端末は、専用ペンで子どもが簡単に画面上に書き込めるため、マウスやキーボードの操作が必要ありません。先生方はそこに便利さを感じられ、どの学年も、「ノート代わりに使う」ことから活用が始まりました。例えば、総合的な学習の時間では、外来種のブラックバスについて勉強しながら、子どもたちはワークシートの代わりにタブレット端末に自分の考えを書いていました。
これはタブレット端末でなくても、ワークシートやそのほかの教材でも同じことができます。しかし、フューチャースクールの環境では、子どもたちがタブレット端末に書き込んだ内容を、先生がタブレット対応授業支援ソフトウェア『SKYMENU Future School』を使って電子黒板に映し出し、児童が発表します。
このような活用が言語活動の充実につながります。先生方は、実践を重ねることで「ノート代わりにも使えるが、タブレット端末の良さは違うところにある」と気づいていきました。
研究授業を通じて教師の意識に変化
2年目:“ここ”という場面を設定して使う
2年目の5月に行われた全体研究授業によって、先生方の意識が変わることになりました。
6年算数の複合立体の体積を求める授業で、タブレット端末を活用します。『SKYMENU Future School』の教員機から子どもたちのタブレット端末に問題を配信します。子どもたちは、送られてきた問題図に専用ペンで線を引いて立体を縦に2つに分け、1つ1つの直方体の体積を求めて、足し算すれば全体の体積が求答できることを見つけ、そのための立式と計算を行います。そして、何人かの子どもたちが前に出て説明すると、徐々にやり方がわかってくる。
この使い方は、算数的な活動や思考を外化(見える化)することが目的であったことから、参観した先生方に大きな影響を与えました。ノートの「代わり」ではなく、「ここ」という使いどころでタブレット端末を使わなければならない。2年目には、多くの先生方がその意識に変わっていきました。
タブレット端末を効果的に使える学習場面はどこか
3年目:単元構成・設計から効果的な活用場面を練る
3年目には、有効な学習場面として「考える場面」「表す場面」「伝える場面」を先生方が想定して、そこでタブレット端末を使うようになりました。電子黒板と組み合わせてテンポよく、そして子どもたちが能動的に自分の考えを表して伝える授業が行われました。
タブレット端末を効果的に使える学習場面はどこか。先生方は、単元構想・単元設計の中の位置づけや、タブレット端末を活用する本時の「導入」「展開」「まとめ」のどの段階で、どのように効果的に使えるかを考えるようになりました。思考を高めたり、表現を豊かにしたり、みんなでわかり合うといった場面を、どんどん見つけ、使い方が磨かれてきたのが3年目だといえます。
また、タブレット端末や電子黒板だけでなく、模造紙を黒板に貼ったり、短冊を準備したり、黒板に書く内容も吟味したりすることで、デジタルとアナログを融合させた板書計画も、3年目で意識されるようになりました。
さらに、3年目になると、先生方がそれぞれご自身の授業で、計画、実施、評価、授業改善という、PDCAサイクルでタブレット端末を使われるようになり、3年間で活用度が高まっていきました。
教師の教え方、子どもたちの学び方が変化
「どう授業に使うか」という1年目、「授業のどこに使うか」が2年目、そして、「授業のどこで、どのように使うか」というのが3年目。この意識の変化は、先生方の「教え方の変化」といえます。
また、子どもたちとっては「学び方の変化」といえます。1人1台で学ぶときはお互いに教え合い、2人で1台の場面ではお互いに協調し合い、グループで使うときは、その情報を共有し合う。タブレット端末の導入によって、総務省の「協働教育」や文部科学省がいう「協働学習」が実践され、教師の指導法が変化し、子どもの学び方も従来なかったものへと変化・深化したといえます。
授業後における「学習履歴」の活用
3年目からは先生方の中で「学習履歴の活用」が、少しずつ意識され始めました。タブレット端末を使うと、学習の記録がそのまま残ります。子どもたちと前時にどのように勉強したか確認し、それを基に今日はもう少し難しい勉強をしようというときに、前時の学習の記録を映し出して生かす。これは学びの連続、知識・技能の積み上げの観点から、大変重要だと思います。
また、タブレット端末を使って学習したことが記録・保存され、クラウドやサーバに蓄積されるので、「授業中の活用」だけでなく、教師による「授業後の活用」も検討すべき課題です。タブレット端末の記録を見れば、子どもたちの学習状況の把握や評価を、放課後でもしやすくなります。
デジタル教科書などを使うことで、授業の準備と授業中の学習の効率化が図れるとしたら、少し時間が生み出されるので、授業後に先生が子どもたちの学習状況を把握することや、それを基によりわかる授業に改善するという点にも着目してほしいと思います。このようなことから、「学習履歴の活用」の検討が今後の課題として挙げられます。
タブレット端末1人1台の環境における実践 フューチャースクール事業の実践から
川井 勝弘 石川県内灘町立大根布小学校教諭
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(2013年月7月掲載)