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- 【基調講演】タブレット端末活用の現状とこれから
タブレット端末の導入を検討する地域や学校が増加
2011年4月に、文部科学省は「21世紀にふさわしい学びの環境とそれに基づく学びの姿」として「教育の情報化ビジョン」を公示しました。これが今の流れの一つのきっかけとなりました。この時期に、すでに学びの姿として、タブレット端末活用を想定されるような絵が、非常に多くの場面で提示されていました。
しかし、当時は、「うちの地域、学校には関係ないな」という方がすごく多かったと思います。2年経ち、タブレット端末の導入を検討する地域や学校が非常に多くなってきました。
教師と子ども、行き来するICT活用の軸
ICTの活用は、これまで、もちろん今もそうですが、デジタルテレビ、プロジェクタ、あるいは実物投影機などで、教師が「知識の定着」「理解の補完」「技能の習得」に使うことが、割合としてはすごく多いし、多かったと思います。そこに、タブレット端末を導入し、「どのように学習場面で使うか」を考えた途端に、一気に活用の軸が「教師の活用」から「児童生徒の活用」に移ってきました。
ただ、タブレット端末は、児童生徒ばかりではなく、教師が授業で使うこともあります。今後の「教師の活用」は、児童生徒の「学習履歴」の確認などにも使われると思います。
6つのタブレット端末活用場面
さて、教育の情報化ビジョンには、協働学習、個別学習、一斉学習という3つの学習形態が示されています。個別学習、一斉学習については、すぐにわかるものと思いますが、協働学習とは一体何だろうか。
私は、フューチャースクール東日本小学校5校の事業者協議会の座長を担当していましたが、それぞれの学校のICT支援員が3年間付けていた授業記録の分析から、6つの授業形態に分類できることがわかりました。
一斉学習・個別学習・協働学習という分け方でいうと、全部ではないですが、一斉学習に多く使われる【クラス共有】、それから、個別学習で多く使われる【収集】【習熟】ですね。【グループ共有】【交流】【制作】がいわゆる協働学習的な活用になります。
タブレット端末は、協働学習での活用が一つのキーになると思っています。2020年までに日本がOECDの調査でトップクラスになるためには、協働学習での活用が欠かせないと思います。今後、導入が進み、初めのうちはドリル的なもので使ったとしても、その後、どのように協働学習的な活用に広がっていくのかがポイントになるであろうと思っています。
協働教育、協働学習の3つの肝
さて、文部科学省は協働学習を「子どもたち同士が教え合い学び合う恊働的な学び」としています。また教育の情報化ビジョンの中に、「発表、討論、制作、意見の分類・整理」という言葉があります。協働学習、あるいは協働教育の肝となるのは、次の3つだと思います。
【1】子どもたちが本気になれる場を創る
今、国語の教科書の中に、調べてまとめて伝え合う学習活動、言語活動の例がたくさん盛り込まれています。しかし、これを教科書の額面どおりに進めるのではなくて、相手をきっちりと想定して伝える場面をつくらない限り、表面的な活動になってしまいます。
【2】建設的な妥協点に迫る
建設的な妥協点とは、試行錯誤したり議論したりすることで、よりよい解決策を出していくことです。皆さんは、学校や教育委員会で校内研究のテーマを討議したり、あるいは施策を考えたりするときに、まさに正解がない中で話し合っています。では、子どもたちが社会科や総合的な学習の場面で、一体どれだけ、建設的な妥協点を求める活動をやっているのか。そのような場面で、ICTをぜひ活用していただきたい。
【3】思考の見える化に寄与する
ICTが、思考の見える化に寄与するということです。例えば、映像・図表と言葉・文章との行き来で事象が明確になります。私もキーセンテンスやあるいは図表、それから写真をお見せした方が皆さんに伝わりやすいと思うから、プレゼンテーションで見せているわけです。このような姿は、当たり前になってきました。学習場面でも、子どもたちにこのような体験をたくさんさせていくことが非常に大事なことだと思います。
「タブレット端末は、強力な学習ツールになる」
『SKYMENU Class』で協働的な資料作成
この後、2人の先生方からタブレット対応授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』を使った実践報告があります。今後、このシステムを使って、グループで新聞やパンフレット、レポートあるいは図表の作成を協働で行うことが起こりえます。
結局、タブレット端末そのものは非常にシンプルなものです。キーワードを出しますと、まず何か情報が「見える」、カメラで「撮る」、「大きくする」、それから「書き込む」、さらには「動かす」。さまざまに指で動かしながら「見せる」、見せるというのもタブレット端末の画面の大きさであれば、その場で数人単位であれば見せられるわけです。そして最後に「送って共有する」、つまりネットワークで共有すること。
この7つのキーワードが、さまざまに取捨選択をされながら、学習の場面で有効活用される。タブレット端末は、これから強力な学習ツールになるのではないかと思っています。
タブレット端末で学級の様子を交流する教師
そして、教師の活用についてはまだまだこれからです。今のところ、教師がタブレット端末を活用するときの条件の一つとして考えられるのは、児童生徒の状況把握の一助になるのかどうかということです。学習履歴として、子どもたちのタブレット端末の操作記録(ログ)が数字でいくら出てきても、授業では使えません。いかに整理し、詳しく見せるのかが課題です。
それから操作性。教師がタブレット端末を持つことで、授業が滞ってしまったら本末転倒です。これらを確保できれば、タブレット端末の活用が伸びると思います。
また、先日、先生方を集めたゼミで、自身の学級開きについてグループ討議をしてもらったときのことです。先生方は、自身の学級開きの様子を撮影し、タブレット端末やスマートフォンで見せて紹介していました。以前は、資料として紙でプリントアウトして持ってきていましたが、このような使い方が普通に行われるようになりつつある。「教師の活用」は、これからさまざまな場面で広がるという予感がしています。
「紙の教科書、黒板がなくなるかというと、私はNOだと思う」
従来の教材、教具の価値は変わらない
これからタブレット端末の導入を検討する学校や地域の方に向けて、2つお話ししたいと思います。
1つは、従来の教材・教具の価値は変わらないということ。タブレット端末に目を向けられがちですが、紙の教科書がなくなるかというと私はNOだと思います。黒板がなくなるか。それもNOだと思います。紙で作業をすることと、タブレット端末で作業することの使い分けをどうするかも、1つのポイントになると思います。
この後に報告される2つの実践事例のうち、例えば理科の例では、実験をきっちりやり、そこにタブレット端末を組み合わせて使っています。それを考えることが非常に大事なことだと思います。タブレット端末だけで授業は行われません。
「書写や絵の具の道具と同様に、保護者が負担する」
3つのタブレット端末導入形態
そして、もう1つ。タブレット端末の導入形態の検討です。ここでは、導入形態を「松」「竹」「梅」で整理します。
まず「梅」ですが、1学級分のタブレット端末の導入です。よくコンピュータ教室にあるデスクトップのコンピュータを、次の機器更新のときに、教室に持ち運べるタブレット端末に変えたいという相談を受けます。これは予算がプラスマイナスゼロか、もしかすると安く導入できるわけですよね。だから予算的には、その自治体の負荷にはならない。単なる更新の予算でできる。
次に「竹」。これは、大阪市のように複数学級用のタブレット端末の導入です。大阪市では、モデル校1校に対し、小学校では164台、中学校には246台が導入されています。1つの学校に4、5クラス分のタブレット端末があるということです。
では「松」は何か。1人1台の導入、と言いたいところですが、自治体、教育委員会は導入できるのか。日本でもいくつかの自治体はできるかもしれませんが、私は、ほぼ無理だと思います。それよりも先に来るのが、保護者負担による購入です。
つまり、書写の道具や、絵の具の道具と同じように保護者が買うということです。ちなみに、アメリカのシカゴ市は、保護者負担をモデル校で始めています。ただし、家庭の経済的な理由で購入できないところは、教育委員会、学校が貸出をしています。私がかかわっている千葉の公立高等学校でも、入学時に生徒のタブレット端末を保護者が購入するという学校がでてきました。このようなケースがこれから増えていくのではないでしょうか。
予算、ICT支援員、公平性 山積する整備上の課題
「松」「竹」「梅」の導入形態には、それぞれ課題もあります。
「梅」の1学級分のタブレット端末の導入は、導入の仕方としては、これからオーソドックスになってくるという感じがします。しかし、教室に持って行けるのは1クラス分です。つまり、運用をどうしていくのかが課題です。例えば、タブレット端末の電池を使い切ったら、充電をしなければなりません。次の時間に次のクラスがすぐに使えないということが起こります。これをどのようにクリアしていくのか。
それから「竹」。大阪市のように複数クラス分の整備でやるとなると、予算の問題が一つ。そして、もう一つはICT支援員をどうするのかという問題があります。物には予算がつきますが、人には予算がつきにくい。ここをどうするのか。
そして「松」。保護者負担には、公平性の問題があります。それから、さまざまな機種がバラバラに購入されて学校に持ってくると、何かやるときに非常にやりにくいことが想像に難くない。さまざまな課題が出てくるでしょう。
この後のパネルディスカッションで、それぞれの当事者の方々にご自身の口からこの点について語っていただきたいと思います。
岩﨑 有朋 鳥取県岩美町立岩美中学校教諭
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村井 万寿夫 金沢星稜大学教授、岩﨑 有朋 鳥取県岩美町立岩美中学校教諭
(2013年月5月掲載)