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学びの世界を広げるICTへの期待

すべての先生が授業をしやすくなる授業インフラとしてのICTの整備は必要です。しかし、教育を変えているのはICTではありません。どうしてICTを活用するかというと、教育を改善したいからICTを導入するわけで、ICTが何かを新しくしてくれるわけではありません。そもそも根底には、教師の「よりわかるように教えたい」というマインドや、取り組もうとする姿勢があると私は思います。

さて、情報教育においては、中央教育審議会の教育課程企画特別部会が出した論点整理の文章の中で、これから育成すべき資質能力について、「必要な情報を選択し、解決の方向性や方法を比較・選択し、結論を決定していくために必要な判断や意思決定・伝える相手や状況に応じた表現」と記されています。これらの能力は、情報活用能力のことではないかと思います。

また、高大接続については、中央教育審議会の答申の中で、センター試験を作り替える上で、「『教科型』に加えて、現行の教科・科目の枠を越えた『思考力・判断力・表現力』を 評価するため、『合教科・科目型』『総合型』の問題を組み合わせて出題する」「『合教科・科目型』『総合型』の問で評価される力としては、言語に関する『思考力・判断力・表現力』のほか、数に関する『思考力・判断力・表現力』、科学に関する『思考力・判断力・表現力』、社会に関する『思考力・判断力・表現力』、『問題発見・解決力』、『情報活用能力』なども想定される」とありました。答申の中に情報活用能力が書いてあることは、非常に重要だと思います。

さらに、全国学力・学習状況調査を高校生にもCBT(Computer Based Testing)の形式で行う、つまり、コンピュータでテストを行うと言われています。コンピュータでテストをするということは、例えば文字の多い記述式の問題だと、コンピュータが上手く使えない人にとっては不利になります。

しかし、小学校5年生と中学校2年生を対象に行われた、文部科学省による情報活用能力調査の結果を見ると、キーボードの文字入力などのICTの基本的な操作が課題であることがわかっています。中学校2年生の1分間当たりの入力速度は平均17.4字です。これで自分の意見が書けるでしょうか。アクティブ・ラーニングが言われていますが、レポートしたりプレゼンテーションを作ったりする時に、これがネックになってきます。ICTがいつでも使える、平気で使えるようにしておく、ということが大事な局面にきています。

さらに、情報活用能力においては、個人差はもちろんありますが、学校差も大きいことがわかりました。同調査で上位にいる10%の学校の指導を調べてみると、授業で「情報を収集すること」「表やグラフを作成すること」「発表するためのスライドや資料を作成すること」など、ICTを活用している頻度が高いのです。こうしたことをいつでもできるようにするには、無線LANなどの整備が必要でしょう。環境との関係も大きいと思われます。

次の学習指導要領では、「何を学ぶか」だけではなくて「どのように学ぶか」を重視することによって、教科を越えて、「何ができるようになるか」という、資質・能力を身につけさせようとしています。今までは「何を学ぶか」が学習指導要領の焦点だったのですが、「どのように学ぶか」ということを意識するようになりました。新しい時代に必要となる資質・能力の育成に向けて教科を構造化するように、中央教育審議会も動いているわけです。

「学びの世界を広げる」のは児童生徒自身であり、それを促進するのは先生です。そしてそれをわかりやすくしている装置としてICT環境が機能する──。だからICTは必要不可欠だけれども、それを目的化してはいけません。それが主客転倒したような実践は広まらないと思います。日本教育工学協会(JAET)は、今後も学校現場に軸足を置き、ずっと先の未来と足元の現実のバランスを意識しなければならない。そして先生には、学校現場で広がる実践の推進をぜひ検討してほしいと思います。

(2015年12月掲載)