ICT活用教育のヒント

中学校3年 音楽生徒1人1台の活用 1人1台 × SKYMENU Cloud 「威風堂々」を鑑賞し、気づきを記録して交流対話と共感で深まる、子ども主体の鑑賞活動 単元名:旋律の変化を味わって

『SKYMENU Cloud』新機能[気づきメモ]のプロトタイプ版を使った授業を、茨城県土浦市立土浦第五中学校の清水 匠 主幹教諭に実践していただきました。授業を振り返って、[気づきメモ]の活用効果や活用のポイントを伺いました。(2023年3月取材)

清水 匠 主幹教諭

茨城県土浦市立土浦第五中学校

振り返りに至る「学びのプロセス」を充実させる[気づきメモ]

清水先生には、新機能[気づきメモ]について、機能企画の当初からアドバイスをいただきました。

図1子どもが端末上に気づきを残す[気づきメモ]

新機能の企画について、最初に相談を受けた際、子どもの学びを深めるために「振り返り」に着目するとお聞きしていました。振り返りは学びの連続性を生み出す上で重要な活動ですし、今、話題になっている探究的な学びや自己調整学習などにも関わる大切な活動です。どのような機能になるのかと期待していました。
それからしばらくして、新機能が「子どもが端末上でメモを残す機能になった」と聞いた際は、驚きを覚えました。しかし、すぐにその方向性に納得しました。そもそも振り返りとは、授業のまとめの時間で書ければそれで良い、というものではありません。大切なのは、子どもが振り返りに至るまでの学びのプロセスです。[気づきメモ]が、子どもの学びのプロセスを充実させ、ひいては子ども主体の授業を実現させることを意図していることは、すぐに理解できました図1

子どもの気づきを共有し、対話。共感でイメージを広げる

[気づきメモ]のプロトタイプ版を使って実践をいただきました。
授業づくりにおいて工夫されたことや配慮されたことをお聞かせください。

私は音楽科の教員なのですが、[気づきメモ]の具体的な説明を受けたところ、私が音楽科の授業において最も大切にしている鑑賞の授業と相性が良いと直感しました。実は、鑑賞の授業を充実させるのはとても難しく、私の長年の課題だったのです。音楽は、そもそも個人差が大きく、得意、不得意がはっきりしている教科です。鑑賞となると、その差が一層顕著になります。けれども、不得意な子どもも友だちと関わり、対話を重ねることで友だちの考えに共感し、そこからまるで花が咲くように音楽のイメージが広がっていくことがあります。私はそのような音楽科の授業特有の対話をしている姿を見るのがとても好きなので、鑑賞の授業に[気づきメモ]をドッキングしたら、絶対に面白いことが起こると思いました。

第1時 [気づきメモ]を交流して、音楽の特徴に迫る

本時のねらい

本時は、エルガー作曲「威風堂々 第1番」を題材に、小刻みで激しい旋律A(主部)と、なめらかで伸び伸びとした旋律B (トリオ)の、2つの対照的な旋律の特徴を捉え、曲想の変化との関わりを理解することを目標としている。そして、楽曲全体を通して、対照的な2つの旋律が交互に繰り返されるABAB形式の変化を味わう学習である。

本時の展開

学習活動 タブレット端末活用場面
1.楽曲のおおまかな特徴をつかみ、本時の課題を確認する。
2.2つの旋律の特徴を聴き取る。

[気づきメモ]を用いて、楽曲を聴いて気付いたことを、メモする。

3.聴き取ったことを、グループや学級全体で整理する。

[気づきメモ]の[グループメモ]機能を用いて、メモを友達と見せ合い、気づきを深めると共に、互いの感じ方に共感し、聴き方を広げる。

4.本時のまとめをする。

[気づきメモ]の[しおり]機能を用いて、学習したことを簡潔にまとめて、教員に提出する。

個の気づきを持ち寄り、グループで話し合う

2時間扱いの音楽科の授業で[気づきメモ]を活用いただきました。第1時の取り組みをお聞かせください。

第1時は、「威風堂々 第1番」の2つの旋律の違いを聴き分けました。[気づきメモ]を使い、まずは子どもたち個人で気づきを入力させました。手で書かせると、時間をかけて大量の文章を書く子どもが多いのですが、[気づきメモ]の場合は端的な言葉でどんどん入力していました。
[気づきメモ]で個人の考えを出させた後、[グループメモ]機能を使って、個人の気づきをグループで共有しました。ここで従来の鑑賞の授業との違いを2つ感じました。
まず一つは、「全員が自分の意見を出した上で話し合いをスタートできる」点です。[気づきメモ]は、最初に個で考えを書き出して、それをグループに持ち寄って交流します。普段は、自分の意見を積極的に表現しない子の考えも、[気づきメモ]の画面上で共有されるのです。従って、積極的に発言したり、表現したりする子どもの考えに偏ることなく、グループ全員の考えを持ち寄った話し合いができました。全員の個の考えを尊重した交流が行われていました。
もう一つは、「みんなの気づきが共有されるから考えが深まりやすい」という点です。グループ全員の気づきが共有されるので、全員に話を振れます。グループ全員の参加意識も高まり、話し合いたいという意識も高くなる。だから、今までグループ活動で課題だった、面白い奇抜な意見に偏ることや、誰か特定の人の意見に流されるという様子があまり見られませんでした。そこには先ほど述べたような「文章が短いから全体を俯瞰しやすい」という[気づきメモ]の特性もあると思います。全体を俯瞰できたことで、より学習内容に焦点を当てた話し合いが展開されていました。

話し合いで得た「共感」を基に、自分の考えをまとめる

これまでの鑑賞の授業と[気づきメモ]を使った鑑賞の授業に、どのような違いがありましたか。

図2子どもが第1時の終末で[気づきメモ]にまとめた内容 ※記述内容を抜粋して掲載

グループでの話し合いの後、個に戻って第1時のまとめをしたのですが、まとめで使われる言葉の幅が広がり、より深いまとめが書かれるようになりました。画面上でみんなの考えを共有しながら話し合ったことで、グループ内の交流が充実し、たくさんの音楽的な特徴への気づきを得ることができたのだと思います。
また、どの子も自分の言葉で表現していました。鑑賞は、自分で感じ取ったイメージを豊かに表現することが大切であり、加えてそこに音楽的な根拠があることが重要です。図2は、今回の授業で、ある子どもが[気づきメモ]でまとめた内容ですが、非常に言葉が豊かで、音楽とイメージがつながっていることが分かります。気づきを共有しながら話し合うことで、友だちの意見に共感を覚え、聴いた音楽のイメージをもう一度想像してみる。そんなことが起こっていたのではないかと思います。

先生からの「いいね」が、意見を伝える自信になる

子どもの気づきに対して、「いいね」のボタンを押して反応されていました。
これはどのような意図からでしょうか。

図3子どもの気づきを閲覧し、「いいね」を返す

[気づきメモ]は、教師の端末の画面上に、子どもの気づきがリアルタイムに流れてきます。しかもキーワードでつぶやかれるので、考えがひと目でつかめます。「いいな」と思った意見には、すかさず「いいね」を押しました図3
普段は、子どもが書いている様子を机間指導で見ていて、「面白いね」などと声を掛けています。でも、手元で書かれている内容は、腕に隠れてよく見えなかったり、長文のため読み取るまでに時間がかかったりしていました。授業時間は限られていますから、一人ひとりの見取りを十分にすることは難しいです。
今回は、机間指導をしながら教師用端末も見て、全体の半分くらいのつぶやきに「いいね」をしました。それくらい意見が見やすく、反応を返しやすかったですね。効率的でした。
でも、効率的に反応を返せるから「いいね」を押しているわけではありません。教師が「いいね」を返すことで、発言することに苦手意識のある子が自信を持って意見を伝えたり、話し合ったりできるように後押しをしたいというねらいがありました。音楽の感じ方は、十人十色です。だから自信を持って答えにくく、その不安から考えを表明しづらいと感じてしまいます。
本時の「いいね」は、グループ、全体共有の場面で、子どもたちが自信を持って話し合い、「みんな正解」として受容的に共感し合うことで対話を充実させることに大きく寄与していたと思います。

みんなが主体的に入力するから、全員参加の授業になる

曲を鑑賞してから、気づきを入力したり、対話をしたりと、子どもたちはずっと学習に集中していました。

本時以外の鑑賞の授業でも[気づきメモ]を活用しています。そのため、子どもたちは最初に[気づきメモ]に入力をしておかなければ、その後の話し合いで気づきを提示できないことを体験的に知っています。そのため、気づきをメモする段階、つまりはじめから集中して曲を聴き、その後の交流からまとめまで、ずっと主体的に取り組んでいました。
極端なことを言えば、本時で私(教師)が行ったことは曲を聴かせただけなんです。そういう意味では、全員参加の授業、子ども中心の授業になっていたと思います。

第2時 楽曲の背景を知って、総合的に音楽を味わう

本時のねらい

本時は、エルガー作曲「威風堂々 第1番」を題材に、エルガーの生い立ちや楽曲が生まれた経緯、イギリス人にとっての意味など、楽曲の背景となる文化的側面に目を向けることで、楽曲への理解を深める学習である。イギリスで最も親しまれている作曲家であるエルガーの「威風堂々 第1番」は、第二の国歌と言われるほど人気で、国内の音楽祭では、国を称える歌詞をつけた中間部を大合唱するのがお決まりとなっている。そのような文化的背景を知ることで、楽曲をより深く味わったり、音楽の多様性に気付いたりすることを目指す。

本時の展開

学習活動 タブレット端末活用場面
1.イギリスでのコンサートの様子を動画で視聴し、課題をつかむ。
2.インターネットで作曲者や楽曲について調べる。

・[気づきメモ]の[ポップアップメモ]機能を活用して、インターネットを見ながら得られた情報を、文章や画像でメモに蓄積していく。

・[気づきメモ]の[グループメモ]機能を活用して、友達と調べた情報を共有する。

3.分かったことを全体で確認する。
4.単元全体を振り返って、楽曲の紹介シートを作成する。

[気づきメモ]の[発表ノート貼り付け]機能を活用して、これまでの気づきを総合して、楽曲を言葉で批評する。

「威風堂々」に熱狂するイギリス国民。「なぜ?」を調べてメモする

第2時は、子どもたちが調べ学習を行い、「威風堂々 第1番」の背景に迫りました。

第2時の冒頭は、イギリス国民が「威風堂々 第1番」を聴いた際の熱狂的な様子を動画で見せました。子どもたちに「これは一体なぜなんだろう」と課題意識をもたせて、そこからインターネットなどを用いて検索。[気づきメモ]に入力させました。
メモを入力する際、子どもたちはWebサイトの記述をコピー&ペーストして、そのまま使うのではなく、端的に要約してから入力していました。[気づきメモ]の入力欄がコンパクトなので、コピー&ペーストをする、という発想に至らなかったのかもしれませんし、長い文章をコピー&ペーストしても、文章が見えなくなってしまうからかもしれません。またメモという性質上、短い端的な言葉で入力しようとする思いも生まれていたのかもしれません。いずれにしても、自分の言葉でかみ砕いて、必要な情報だけを短い文章でまとめる姿が生まれていました。
また調べ学習は、友だちと会話をしながら教え合って調べてほしいと考え、グループの形態になって行いました写真1図4。はじめは黙々と調べていたのですが、徐々に調べたことを語り合いながら、メモを入力する姿が増えていきました。
そして「友だちが調べた情報(メモ)が欲しい」という思いが膨らんだある子どもが「[グループメモ]機能で、友だちとメモを交換していいですか?」と自発的に尋ねてきました。「素晴らしい提案だ」と褒め、活用させました。子どもたちが必要感から、自発的にツールを選び、さらにジグソー活動のような学習も展開されました。
本当にたくさんの情報がメモとして蓄積されました。そして、[グループメモ]機能でつながった友だちのメモを必死に読み取ろうとする姿も見られました。こうした姿は[気づきメモ]の仕組みの良さもあると思いますが、やはり授業の導入で調べる目的を明確にもつことができたことが大きかったと思います。

写真1[グループメモ]で共有しながら「威風堂々 第1番」の背景を調べる
図4[気づきメモ]に、調べたことを端的に発信

第1時、第2時の気づきを見返し、整理して批評文をまとめる

第2時の終末では、[気づきメモ]の情報を使って、個で批評文をまとめていきました。

批評文は、聴いた音楽について自分の価値判断や評価を書いてまとめるものです。授業で得た学びを総動員してまとめるわけですから、振り返りの一つといえます。
しかし、批評文を書かせる際に、私が常々課題に感じていたのは、「批評文を書き上げる前に、子どもの集中が途切れてしまう」ということです。批評文を書くのは、授業の終末部分です。鑑賞の授業が充実すればするほど、子どもたちはその学びの過程に力を注ぎますから、結果として終末の段階で、心も身体も疲れて、いざ批評文を書くタイミングで力尽きてしまいます。
今回の[気づきメモ]の実践は、こうした課題に対して効果的なアプローチになると考えています。まず、子どもたちは授業中に[気づきメモ]に情報を集めます。この情報が批評文を書く際の下準備になります。従って、子どもたちはすでにある情報(メモ)に、加筆するような感覚で批評文に取り組めるようになるのです。これは単純に「批評文を書きやすくなった」という話ではありません。授業の終末のタイミングで「ゼロから考えを創り上げる」のではなく「すでにある考えを整理する時間」に変化したということなのです。そうなると、考えを整理するなかで、「そこから何がいえるのか」とさらに深く考えられるようになるのです。その結果、批評文の記述が自分の言葉になり、内容が充実するのです。
鑑賞において、曲の特徴をきちんと捉えられていることは大切ですが、それは一つのステップにすぎません。本当に大切なのは、その曲と自分をどのように関わらせるかということです。そこまで迫れて、はじめて「音楽の学び」として充実したといえます。本時の批評文から、そのような学びの一端を見ることができたと感じています図5

批評文をまとめた後、もう一度読んで、内容の取捨選択をする子どももいました。

読み直しや取捨選択は紙ではなくデジタルだからこそ見られる姿だと思います。紙の場合に起こりがちだったのが、今までの1時間で捉えていたたくさんの気づきを下手に抽象化してしまったり、削除したりして短い言葉でまとめてしまうということです。深みのある内容だったものが、薄っぺらいものになってしまう。結局、気力、体力のある子しか、その先の活動に行けないのです。
ですので、[気づきメモ]の一番の良さは、子どもの個人差に左右されず、全員がしっかりとまとめられる、振り返りができるようになることだと思います。授業の最後にもう一度、授業の山場が来るような手ごたえがありました。

図6ある子どもが[発表ノート]でまとめた批評文 ※誤字誤用も原文まま

[気づきメモ]は、汎用性が高く、さまざまな教科、場面で活用できる可能性を秘めていると思います。

[気づきメモ]は、メモを超えたメモアプリ

最後に、あらためて[気づきメモ]の良さをお聞かせください。

図6ある子どものグループ活動前後の考えの変容

[気づきメモ]の良さ、強みは、「メモをすること」や「考えを入力すること」自体ではなく、「授業としてメモを活用できること」にあると考えています。
今回、紙のワークシートを用いて、同じ授業を別の学級で行ったのですが、第1時の「威風堂々 第1番」の2つの旋律の特徴をまとめる終末段階において、[気づきメモ]を活用した学級のほうが明らかに記述内容に深まりが見られました。友だちの考えに触発されて、より考えが深まったり、聴き方が広まったりする様子が見られました。
例えば、図6のある子どもは、はじめはAの旋律に対して「速度が速い」「音も強くて大きい」という基本的な要素への2つの気づきをメモしていたのですが、その後、グループ活動の中で友だちの「軍の行進のよう」「小刻み(な旋律)」「どんどん進んでいく感じ」という新しい意見に共感し、新たな視点を得ていました。
そのため、最後のまとめの段階では、自分の気づきと友だちの気づきを融合させて「軍が行進しているイメージ」「小刻みな旋律で速度が速くて強弱が強い」という、特徴を詳細に捉えた内容でまとめられていました。友だちとの関わりから、理解が深まったのだと考えています。
子どもたちも自ら端末にメモした内容が、友だちとの共有場面、まとめの場面で効果的に活用されたことで、[気づきメモ]にさまざまなメリットがあることを感じ取っていました。
こうしたことを踏まえて、私は[気づきメモ]はメモという名称が付いていますが、「メモを超えたメモアプリ」であると捉えています。単に個人でメモを蓄積して学びを深めるだけでなく、友だちと考えを交流しながら、協働的に学びを深められる。そして単元全体を通して連続性のある学びをデザインできるツールだと考えています。
さらに[気づきメモ]は、[発表ノート]のように汎用性が高く、さまざまな教科、場面で活用できる可能性を秘めていると思います。今後、さまざまな教科、場面で実践が共有され、活用が広がっていくのが楽しみです。

  • [気づきメモ]機能は開発中です。仕様や画面は、予告なく変更となる場合がございます。あらかじめご了承ください。

(2023年6月掲載)