実践レポート
中学校3年 音楽生徒1人1台の活用 1人1台 × SKYMENU Cloud

楽曲の背景を知って、総合的に音楽を味わう

単元名:旋律の変化を味わって

清水 匠 主幹教諭

茨城県土浦市立土浦第五中学校

授業の様子をYouTubeでご覧いただけます

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本時のねらい

本時は、エルガー作曲「威風堂々 第1番」を題材に、エルガーの生い立ちや楽曲が生まれた経緯、イギリス人にとっての意味など、楽曲の背景となる文化的側面に目を向けることで、楽曲への理解を深める学習である。イギリスで最も親しまれている作曲家であるエルガーの「威風堂々 第1番」は、第二の国歌といわれるほど人気で、国内の音楽祭では、国を称える歌詞をつけた中間部を大合唱するのがお決まりとなっている。そのような文化的背景を知ることで、楽曲をより深く味わったり、音楽の多様性に気づいたりすることをめざす。

授業の実際

「威風堂々 第1番」は、中間部の旋律が非常に有名で、小学校時にリコーダー奏をした経験をもつ子どもも多く、馴染みのある楽曲である。第1時で2つの対照的な旋律が曲想の変化を生み出していることを学んだ子どもたちは、第2時では、イギリス最大の音楽祭である「BBCプロムス」の最終夜公演「Last Night of the Proms」の映像を見た。イギリスの方が音楽に合わせて国旗を振って盛り上がっている様子や、大合唱している様子を目の当たりにし、イギリスの方にとってこの楽曲は何か意味のある楽曲なのではないかと課題をもった。そこで、楽曲の背景をインターネットで調べる活動を設定した。『SKYMENU Cloud』の[気づきメモ]機能を活用して、Webサイトに載っていることをメモしながら情報を収集し、最終的にそれらを総合して、課題解決を行った。子どもたちは、コンサートの大きさや、チケット入手の難しさ、国内の様々な場所で中継されていることなどに驚きながら、楽曲について理解を深めていくことができた。

単元計画(全2時)
第1時

≪威風堂々 第1番≫を鑑賞し、旋律の特徴とその変化をつかむ。

第2時(本時)

作曲家やイギリス人に親しまれている理由ついて調べ、楽曲の背景を理解する。

本時の展開(第2時)

学習の流れ 主な学習活動 指導のポイント
(タブレット端末活用場面)
導入

イギリスでのコンサートの様子を動画で視聴し、課題をつかむ。

展開

インターネットで作曲者や楽曲について調べる。

1[気づきメモ]の[ポップアップメモ]機能を活用して、インターネットを見ながら得られた情報を、文章や画像でメモに蓄積していく。

2[気づきメモ]の[グループメモ]機能を活用して、友達と調べた情報を共有する。

展開

分かったことを全体で確認する。

終末

単元全体を振り返って、楽曲の紹介シートを作成する。

3[気づきメモ]の[発表ノート貼り付け]機能を活用して、これまでの気づきを総合して、楽曲を言葉で批評する。

SKYMENU Cloud活用のポイント (効果と児童生徒の反応)

1ネットの情報をコンパクトにメモ

[気づきメモ]ポップアップメモ、画像メモ

▲ 画面右上の[ポップアップメモ]に自身の言葉で端的に入力している子ども

イギリス国内での盛大なコンサートの様子に興味を持った子どもたちは、なぜこれほど盛り上がっているのか、インターネットを用いて調べていった。演奏会そのものを調べる子どももいれば、エルガーがどのようにこの楽曲を作曲したのか、中間部で大合唱している歌の歌詞はどんなものなのかなど、それぞれの視点でWebサイトを検索していった。見つけた情報は、画面の右上に常時表示されている[ポップアップメモ]に、自分なりの短い文章でまとめて入力していった。Webサイト上の長い説明文も、「第二の国歌として親しまれている」「エドワード王子の指示で歌詞がつけられた」など、ポイントを押さえた端的な文章でメモをする子どもが多かった。

▲ メモとともに、画像をキャプチャして貼ることもできる

普段の授業であれば、インターネットで調べたことを紙にまとめたり、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]や[シンプルプレゼン]、その他の文書編集アプリ・プレゼンテーションアプリを使ってまとめたりしている。その際、多くの子どもが、Webサイトの文章をコピーして、そのまま自分の発表資料にペーストしている様子が多くみられる。確かに効率は良いが、自分の頭で考えて、自分の言葉でまとめた文章ではないため、よく理解しないままに使用することもある。一方、[気づきメモ]の[ポップアップメモ]の場合、絶妙な大きさの枠で表示されており、長い文章をコピー&ペーストしても、文章が見えなくなってしまう。また、メモという性質上、短い端的な言葉で入力しようとする思いも生まれていたように感じた。それらのことから、ただ単に文章をコピーするのではなく、自分の言葉でかみ砕いて、必要な情報だけを短い文章でまとめる姿が、多々生まれていた。

また、[画像メモ]機能もほとんどの子どもが活用していた。これは、Webサイトに表示されている画像も、そのままメモに蓄積することができる機能である。子どもたちは、エルガーの写真や、コンサート会場の盛り上がっている様子の写真など、楽曲への理解を深める画像もメモに蓄積していった。中には、中間部の歌詞の意味を、文章で入力するのではなく、画面キャプチャしてメモしている子どももいた。

2情報交換の必要性からグループワークが自然発生

▲ [グループメモ]で共有しながら「威風堂々」の背景を調べる

[気づきメモ]グループメモ

友達と会話をしながら教え合って調べてほしいと考え、グループの形態になって調べる活動を行った。はじめは黙々と調べていたが、徐々に、「エルガーさんはイギリスで勲章をもらっているよ」「あのコンサートは、チケットを買う条件があって、なかなか買えないらしいよ」「国王の就任式で使われてから人気が高まった曲だって書いてある」などと、調べたことを語り合いながら、メモを入力する様子が増えてきた。各自がいろいろな視点で情報を集めているため、いろいろな側面から課題に迫ることができたと同時に、友達の調べたメモに対して、「その情報、欲しい!」という思いが膨らんでいった。すると、複数のグループから、「[グループメモ]機能を使って、友達とメモを交換していいか?」と聞かれ、自発的にアプリの機能を活用しようとする姿も見られた。すばらしい提案だと褒め、活用させた。子どもたちの必要感から、自発的にジグソー活動のようなものが生まれ、たくさんの情報をメモとして蓄積する姿が見られた。

3これまでの学びを総動員した単元のまとめ

[気づきメモ]発表ノートへの貼り付け

音楽科鑑賞活動においては、楽曲の良さや美しさを自分なりに評価し、言葉で言い表したり書き表したりして音楽を価値づけることが大切であるといわれている。そこで、学習の総まとめとして、これまでに捉えた楽曲の特徴や楽曲の文化的背景を根拠としながら、自分なりの楽曲に対する評価をまとめた「曲紹介シート」を作成する活動を設定した。その際、これまでに積み重ねてきたメモから選んで、そのまま[発表ノート]のテキストボックスとして貼り付けることができる機能を活用した。子どもたちは、第1時でまとめた2つの旋律の特徴と曲想との関わりについてのメモと、第2時で調べた楽曲の文化的背景についてのメモを選択し、[発表ノート]に送った。(なお、第1時の段階第1時の段階で、しおりを設定しておくことで、簡単にそのメモまでジャンプすることができた。)

普段の授業では、それぞれの旋律の特徴を手書きでメモしたものを振り返りながら、再度、単元のまとめ場面で、同じことを書く活動になってしまっていた。そのため、面倒に感じる子どもも多く、せっかくこれまで充実した学習を積み重ねてきたにもかかわらず、まとめの段階で力尽きてしまうことも多かった。また、具体的に分かりやすく書かれていたものも、まとめの段階では、抽象度を高くしたざっくりとした考えに集約されてしまい、逆に分かりにくいものになってしまうことも多かった。しかし、[気づきメモ]の[発表ノートへの貼り付け]機能を活用することで、これまで歩んできた学びの軌跡を、そのままワンクリックでまとめの活動に利用することができた。これにより、より深く楽曲の特徴を考え直して加筆する子どもがいたり、自分なりの楽曲に対する評価をじっくり考える時間にあてている子どもがいたりと、楽曲の良さを総合的に文章で表現する活動をしっかりと行うことができた図1

図1子どもの曲紹介シート(まとめの批評文)の一例 ※誤字誤用も原文まま

こんな場面で使える!実践を振り返って

メモを超えたメモ
~子どもたちが教えてくれたこと~

別のクラスでは、同じ授業を、紙のワークシートを用いて行った。すると、第1時の2つの旋律の特徴を聴き取る学習では、一見すると、大きな違いは見られなかった。しかし、よく見てみると、本実践の[気づきメモ]を活用した授業のほうが、最初に自分で感じたことを記載した内容と、本時のまとめ段階での記載内容に深まりが見られた。特に、友達の考えに触発されて、より考えが深まったり、聴き方が広まったりする様子が見られた。例えば、とある子どもは、はじめの段階では、Aの旋律に対して、「速度が速い」「音が強くて大きい」という基本的な要素への2つの気づきをメモしていた。その後、[グループメモ]の中で友達の「軍の行進のよう」「小刻みな旋律」「どんどん進んでいく感じ」という意見に共感し、新しい視点を得ることができたと考えられる。そのため、最後のまとめの段階では、自分の気づきと友達の気づきを融合させた「軍が行進しているようなイメージ。それは、小刻みな旋律で速度が速く、強弱が強いからだ。」という、特徴を詳細に捉えた内容でまとめることができていた。このように、友達との関わりから、理解を深める様子が見られた。なお、授業後でも子どもたち一人ひとりの学習の軌跡がデータとして記録に残っているため、子どもたちの協働的な関わりを詳しく見て取ることができた図2

図2ある子どものグループ活動前後の考えの変容

また、単元のまとめの充実度については、一目瞭然で大きな差が見られた。紙のワークシートに手書きで書いたクラスが、上述のように、第1時で感じた各旋律の特徴や曲想が、抽象的な言葉で短くまとめられており、楽曲全体に対する自分なりの評価についても、一言で簡単に添えられているような状態だった。しかし、[気づきメモ]を活用した本実践では、上述のように、第1時での学びをワンクリックで貼り付けることができたため、それらを踏まえた上で、より深く楽曲の良さを考える時間が確保できたと言える。例えば、以下のような考えを記入した子どもがいた。

  • AとBの対照的な旋律が交互に繰り返されるので、印象に残りやすく飽きずに聴いていられる工夫が、とてもいいと思った。国のみんながこの曲で一丸になれて、すごい。
  • この曲は、イギリスの人達の力の源のような曲だと感じた。だから人気のチケットで買う条件が難しくても、大勢が参加して、みんなで楽しんでいるんだと思った。
  • 迫力のあるAが盛り上がるけど、個人的にはなめらかなBのほうが好きだ。イギリスの音楽祭では、この曲でみんながまとまっていて、音楽はみんなに影響を与える存在だと思った。
  • 自分もみんなも知っている有名な曲だけど、ちゃんと調べると、曲の印象を強めるための工夫がされていたり、歌詞をつけてみんなで歌ったりと、長い歴史の中でずっと愛されてきている理由を知ることができた。

[気づきメモ]を使ったクラスと、紙のワークシートで行ったクラスに、授業後アンケートを実施した。メモを取ったり、自分の考えを入力したりする場面を想定したとき、手書きでワークシートに書く方法と、タブレット端末で入力する方法では、どちらが良いかと聞いた。すると、タブレット端末のほうが良いと回答した子どもは、おおむね58%にとどまり、クラス差は見られなかった。タブレット端末のほうが良いと答えた子どもの理由としては、文字の下手さを気にしなくて良い、書き間違えたときの修正や付け足しが楽、漢字が分からなくても大丈夫という意見が多数あがっていたのに加え、これからの時代には必ず必要な能力だからと回答した子どもも複数いた。一方、手書きのほうが良いと答えた子どもの理由としては、思ったことが素早く書くことができるという意見が多数あがっていたのに加え、起動時間がかかることやIDやパスワードの乱立、文字入力への不安、忘れたときの困り感などもあがっていた。一方、[気づきメモ]を使ったクラスには、2つ目の設問として、本実践でタブレット端末を使って学習をした感想を聞いた。すると、おおむね97%の子どもが、タブレット端末でメモをして便利だったと答えた。特に先述の設問では操作面についての記述が多かったのに対し、本実践を行ったクラスでは、「友達とすぐに考えを共有できて、話し合いがスムーズになった」「まとめの際に、それまでのメモをコピーして使えたのが効率的だった」などの学習内容に関する意見が多かった。また、「人前で自分の考えを口にするのが苦手な人も、自分の考えを抵抗なく表現できた」という心理的な面もあげられていた。

これらの結果から、[気づきメモ]の強みは、「メモをすること」「考えを入力すること」自体にあるのではなく、授業として「メモを活用できること」にあると言える。もしかしたら、普段の授業でタブレット端末を活用する際には、教師側に多くメリットがあり、子ども側からすれば手書きでも変わらないという思いがあったのかもしれない。一方、今回の[気づきメモ]を活用した授業では、タブレット端末でメモしたものが、友達との共有場面、まとめの場面で、効果的に活用され、子どもたちにとって多くのメリットがあることを体験的に感じ取れたのではないだろうか。そのため、通常の授業に比べ、タブレット端末のほうが便利だと答える子どもが、約40%という大幅な上昇となったのだと考察する。

この[気づきメモ]機能は、名前はメモでも、メモを超えた機能である。単に個人でメモを蓄積して学びを深めるという活用方法だけでなく、友達と考えを交流しながら協働的に学びを深めていき、単元全体を通して連続性のある学びをデザインすることが重要なのだと、この[気づきメモ]機能を通して、子どもたちが教えてくれた。

(2023年5月掲載)