学習指導要領 / 教育の情報化

INTERVIEW 深い学びの実現とICT活用 学びの探究化と質の高い振り返りで資質・能力を育む

小林 祐紀

茨城大学 准教授

「探究的な学び」でこれからの時代に必要とされる「資質・能力」を育む

現在日本は、情報化・国際化が進むとともに、急激な人口減少の局面を迎えています。そういった時代のなかで、子どもたちは予測不可能な課題に対応しながら社会づくりに参画し、自分の人生を生き抜いていかなければなりません。教師に「これからの時代に必要な能力は?」と問うと、コミュニケーション能力や問題発見・解決能力、協調性といった答えが返ってきます。多くの教師が、幅広い能力や有能さ、つまり「資質・能力」が必要だと考えているのです。

文部科学省では、育成すべき資質・能力を「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力、人間性等」の3つの柱として整理しています。教師は、各教科の特性に合わせてこの3つの柱を一体的に扱い、限られた授業日数の中で資質・能力を育んでいく必要があります。

3つの中の、知っていることをどう使うかという「思考力・判断力・表現力等」と、どのように社会と関わるかという「学びに向かう力、人間性等」は特に、教師主導の授業で育成していくことは難しいでしょう。これらの育成には子どもたち自ら、必要な知能や技能に気づき、足りない部分を補うために反復して学んだり、友達と協働しながら問題解決に当たって協調性を身に付けたりできる場が必要なのです。そこで重要となるのが、子どもたちが中心となって学ぶ「探究的な学び」です。

「主体的・対話的で深い学び」の視点で授業を改善し探究的な学びへ

探究的な学びへ授業を改善するための3つの視点が「主体的な学び」「対話的な学び」「深い学び」です。その授業改善の手段としてICTが期待されていたなか、GIGAスクール構想によって1人1台端末の整備が急速に進み、まずは「端末を使う」ことが目的化していました。もちろんこうした段階はあってしかるべきです。GIGAスクール構想から3年がたち、いよいよ「主体的・対話的で深い学び」に迫る活用を見いだす次の段階に入ってきました。

文部科学省でも、このような段階を「『1人1台端末・高速通信環境』を活かした学びの変容イメージ」として示しています図1。ステップ1がとにかく使うという段階です。ステップ2が効果的な活用です。そしてステップ3を「教科の学びをつなぐ。社会課題等の解決や一人一人の夢の実現に活かす。」としていますが、これがまさに探究的な学びを指していると考えています。教師は、これまで培ってきたICT活用の実践的な知識や経験を、探究的な学びの授業をデザインする際に生かしていくことが必要になってきます。

図1
[出典]文部科学省(https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/content/20200706-mxt_syoto01-000008468-22.pdf)
[資料名]「GIGAスクール構想」について
図2

そして、新しい道具立てとしてICT環境が整備されるなかで「個別最適な学び」「協働的な学び」という視点も出されました。文部科学省は「ICTを最大限活用し、これまで以上に『個別最適な学び』と『協働的な学び』を一体的に充実し、『主体的・対話的で深い学び』の実現に向けた授業改善につなげる」としています。

子どもの学び方や興味関心は1人ひとり異なります。1人1台端末を活用することで、多様な学びに対応できるようになります。特に個別最適な学びでは、子どもたち自身が興味関心に応じてICTも使いながら、自ら「探究する」、学習の個性化が重要になってくると考えます。探究的な学びを充実させ、他者からの学びを基にして自らの考えや理解を更新するという「深い学び」につなげることが肝要です。

振り返りの中身を充実させ、
質を高めることにICTを活用したい

探究的な学びを充実させるために「振り返り」が欠かせない

探究的な学びの充実に向けて欠かせない学習活動が「振り返り」です。不確実性の高い時代のなかで、都度課題を解決していくためには、生涯にわたって学び続ける必要があります。そのために自分の学び方の特性を理解し、その特性に応じた学び方のスキルを高めることが求められるでしょう。探究的な学びの中で、授業での気づきや学びを振り返ることにより、子どもたちは自らの学習が最適になるように調整しようとするはずです。これを自己調整できる能力と呼び、学習指導要領では「学びに向かう力」と定めています。先ほどご紹介した資質・能力の柱の1つを担う重要なものです。

さらに、子どもたちがこの「学びに向かう力」を高めていくために、教師にはそれを支援することが求められます。子どもたちが「どんな学びをしたか」「これからどのようなことに取り組もうとしているのか」といったことを見取っていかなければなりません。こうしたことから、学んだことを振り返るという学習活動は欠かせないのです。

子どもに学び方を意識させる「質の高い」振り返りをめざす

さらに探究的な学びを充実させるための振り返りには、単に授業後に感想を書くだけにとどまらない「質の高さ」を追究することが重要なポイントです。教師の手だてなしに、質の高い振り返りができる子どもは少数です。ですから、教師が子どもの振り返りの内容を把握し、適切なフィードバックを与えていくことが必要になります。

そのほかにもポイントがあります。まずは子どもが授業を受けた後に素早く内省させるとともに、振り返りを行う際の視点をきちんと共有しておくことです。例えば「振り返りの中に友達の名前を入れる」といった視点。これは友達の意見を聞いて学んだことや気づいたことから「自分はどうやって分かるようになったのか」「問題を解決できたのは、どんな方法をとったからなのか」といった学び方を子どもに意識させようとしています。このような視点はとても大切です。

他にも、毎時間振り返りの時間を確保することは難しいかもしれません。そういったときにでも、単元末は必ず取り組んでほしいと思います。そして1回だけ振り返りを行ったのでは質の高さは保証できません。各教科で単元ごとに繰り返し行うことで能力は高まっていきます。教科を問わず、「この学習単元を通じてどんなことを学んだのか」「どんな方法で学び、どういった気づきがあったのか」といったことが振り返られるような視点を教員同士が共通理解しておくことが重要です。

こうして学び方を意識することで引き出された教訓は、似たような場面に遭遇したときに必ず生きます。各教科で探究的な学びを行っていれば、教科が異なっていても、学び方を適応できる場面が出てくるのです。

振り返りの効率化だけでなく、質を高めるためにもICTを活用する

1人1台端末を振り返りに活用する事例を多く見かけるようになりました。例えば、アンケートをデジタル化するケースです。その日の授業の理解度を子ども自身が4段階で評価し、自由記述で学んだことを入力します。デジタルであれば、教師はすぐに子どもたちの回答をグラフ化したり、キーワード検索したりできるので、子どもの理解度やその授業で大事にしたかった内容をきちんと記述できているかといったことを効率的に分析することができます。こうしたアンケートの結果は、次時のグループ編成などに役立てることも可能です。また振り返りは、子どもたちが自らの学びを振り返るだけでなく、教師の授業改善にも役立つものなのです。

しかしこの活用は、紙で行っている振り返りをあくまでICTに置き換えているだけです。振り返りの中身を充実させ、質を高めるために十分にICTが活用されているとは言えません。

[気づきメモ]を共同開発。学びの軌跡を可視化し、振り返る

ですから、単に振り返りをデジタルに置き換えるだけではなくて、探究的な学びに役立てられるツールがほしいと思っていました。そんななか、Sky株式会社との共同開発プロジェクトにより生まれたのが『SKYMENU Cloud』の[気づきメモ]機能です。[気づきメモ]は、子どもたち自身が、授業の中での学びや気づきを随時、メモとして残しておくことができます。例えば、残したメモを見直しながら単元末に振り返りに臨むという活用ができるのです。ICTを使って自分の学びの軌跡を可視化できることは、質の高い振り返りに大変役立ちます図2

図2

そしてこのメモは「必ず役に立つ」ではなく、「いつか何かの役に立つ」という視点で残していくものです。子どもたちが、情報を集めたり、自分の考えをアウトプットしたりするなかで、全体がつながって見える瞬間があったり、「これはいらなかった」と思ったり。こうしたことが、学び方を意識することや学びに向かう力を高めていくことにつながるのだと思います。

また、探究的な学びは子どもたちそれぞれに、進捗状況や進め方が異なり、教師がそれを把握するのは困難です。しかし、子どもがメモを残すことによって学びの軌跡を確認でき、それを教師の見取りに役立てることができます。探究的な学びには、「課題の設定」「情報の収集」「整理・分析」「まとめ・表現」という4つのステップがあります。[気づきメモ]はこのすべてのステップで活用できる機能です。汎用性がある機能なので、ぜひ楽しみながら多様な活用に挑戦してほしいです。

教師主導から子どもが自ら学びとる授業へとアップデートが必要になる

そして、子どもたちが資質・能力を身に付けるためには、こうしたツールだけでなく授業の改善も必要です。教師主導で知識伝達型の授業をするのではなく、子どもが自ら考え、気づきが得られるような、つまり学びとる授業をデザインしていかなければなりません。

例えば、教師が授業の中に、他者と意見交換したり、専門家から学ぶ時間を作ったり、徹底的に資料を調べる時間を作ったりすると、きっと子どもたちは振り返りで学び方について言及すると思います。さらにその振り返りを通じて、自分の得意な学び方、興味関心が強いところに気がつくことができたり、自らの思考や認知を適切にコントロールしたりするでしょう。したがって教師は、子どもに学び方について考えさせるための学習活動を授業の中に盛り込んだ上で、振り返りの時間を確保する必要があります。

ブランソンによって考案された「学校の情報技術モデル」には3つのモデルが示されています図3。このモデルは段階を示しているというよりも、授業に対する考え方や価値観(パラダイム)の違いを示していると理解した方が良いでしょう。中央に示された「現在のモデル」を見てみると、子どもたち同士や教師と子どもたちといった双方向のやりとりはすでに実現されています。しかしながら、子どもたちは教師を介してのみ経験や知識に触れることができます。つまり教師のコントロール下における学びであるという点で左側の伝達型の授業と同じといえるでしょう。

図3学校の情報技術モデル
[出典]Robert K. Branson 1990 Issues in the Design of Schooling : Changing the Paradigm. Educational Technology, Vol.30, No.4, 7-10.

最終的に探究的な学びにおいては、子どもたちが教師を介することなく「知識データベース」などにアクセスし、主体的に学びを進めていく「情報技術モデル」をめざすべきです。すべての単元で探究的な学びを行うことは難しいので、まずは2、3割の授業から始め、少しずつ広げていってほしいと思います。教師の皆さんには、子どもの資質・能力の育成に向けて授業観をアップデートすることの重要性を理解し、[気づきメモ]などの適切なツールを使いながら、探究的な学びを充実させていってほしいと願っています。

(2023年6月掲載)