学習指導要領 / 教育の情報化

道徳×ICTINTERVIEW 道徳の学びに生きるICT活用 ICTによる思考の可視化で「自我関与」と「3つの理解」の促進を

「GIGAスクール構想」や「令和の日本型学校教育」がめざしている誰一人取り残すことなく、すべての子どもの可能性を引き出す教育のために、ICTは「学校教育を支える基盤的ツール」とされています。今回は、学校における道徳教育とは何かをあらためて確認しながら、道徳科の学びに役立つICT活用の在り方について考えます。

浅見 哲也

十文字学園女子大学 教育人文学部 児童教育学科 教授

埼玉県内の公立学校園の教諭、教頭、校長、園長や教育委員会の指導主事、課長補佐を務め、2017年より文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官、国立教育政策研究所教育課程研究センター教育課程調査官。2023年4月より現職。

道徳教育および道徳科の目標にあらためて立ち返ることが大切

ご存じのとおり、令和の日本型学校教育は「全ての子どもたちの可能性を引き出し、個別最適な学びと協働的な学びの実現」のためのものであり、単にICTを活用することだけが目的ではありません。それを踏まえて、道徳におけるICT活用の利点を語る前に、道徳は何をめざすのかを掘り下げて考えることが大切です。

道徳教育においては、週1回の道徳科の授業が要とはなりますが、それ以上に全教育活動を通じて行う指導がとても重要になり、授業だけで道徳教育を行うわけではありません。小・中学校の学習指導要領では、総則に「道徳教育の目標」、第3章に「道徳科の目標」が示されており、いずれも「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養う」とされています。

道徳科の目標
(小学校学習指導要領 第3章 第1)

第1章総則の第1の2の⑵に示す道徳教育の目標に基づき,よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため,道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え,自己(人間として)の生き方についての考えを深める学習を通して,道徳的な判断力,心情,実践意欲と態度を育てる。

※()内は中学校学習指導要領

ここでいう“道徳性”とは何か。学習指導要領解説(総則編)では「人間らしいよさであり,道徳的価値が一人一人の内面において統合されたもの」とされています。また、この“道徳的価値”を平易に表現すれば、諦めずに努力する、人に親切にする、きまりを守る、生命を大切にするといったことになります。

これらが道徳科の授業のねらいになるわけですが、その内容が非常に多岐にわたるため、学習指導要領では内容項目として次の4つの視点に整理しています。AからDのそれぞれに内容が細かく示されており、それを手掛かりに授業を行います。

A:主として自分自身に関すること
B:主として人との関わりに関すること
C:主として集団や社会との関わりに関すること
D:主として生命や自然,崇高なものとの関わりに関すること

学校における道徳教育で養う道徳性についてはさまざまな捉え方がありますが、学習指導要領では、善悪を判断する“ 道徳的判断力”、善を行うことを喜び、悪を憎むといった“道徳的心情”、道徳的価値を実現しようとする“道徳的実践意欲”、そして具体的な道徳的行為への身構えである“道徳的態度”という4つの様相で捉えています。これを“道徳性を構成する諸様相”といいます表1

表1道徳性を構成する諸様相 小学校学習指導要領解説 特別の教科道徳編より抜粋

道徳的判断力
それぞれの場面において善悪を判断する能力
道徳的心情
道徳的価値の大切さを感じ取り,善を行うことを喜び,悪を憎む感情
道徳的実践意欲
道徳的判断力や道徳的心情を基盤とし道徳的価値を実現しようとする意志の働き
道徳的態度
それら(道徳的判断力や道徳的心情)に裏付けられた具体的な道徳的行為への身構え

これらはすべて内面的資質ですので「こういうときは必ずこうしなさい」という類いのものではありません。道徳的価値を理解し、それがどのような気持ちが伴うものかを感じ、意欲となっていく。そして、その意欲がどういった場面で使えるのかを学び、自らの態度として育てていくことが道徳科の授業の目標となります。

目標に対して、実際にはどのような学習を行えばよいのか。先述の道徳科の目標には「道徳的諸価値についての理解を基に,自己を見つめ,物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え,自己(人間として)の生き方についての考えを深める学習を通して」とあります。

“自我関与や多面的・多角的に考える場面で
ICTが重要な役割を担うと考えています”

道徳科の学習は、考えを共有するだけで終わらず必ず自分に立ち返る

この部分を細かく分けて読み解きますと、最初の「道徳的諸価値についての理解を基に」の部分は、特定の内容項目に含まれる道徳的価値の中から、例えば「親切」や「相互理解」などを取り上げ、「この授業では、この価値について理解する」ことを基にして授業を構想します。しかし、当然ですが「親切とはこういうものです。だからこうした人になりなさい」と指導すれば、そういう人になれるわけではありません。

そこで、人間としてよりよく生きる上で大切な価値であると理解する“価値理解”をはじめ、大切なことであっても実現できない人間の弱さなども理解する“人間理解”、さらに道徳的価値を実現したり実現できなかったりする場合の感じ方や考え方は、人により異なり多様であることを前提とした“他者理解”という、3つをもって“道徳的価値の理解”としています。

次に「自己を見つめ」とあります。これは非常に重要な部分です。道徳科の授業ではよく読み物教材などを用いますが、そのときに登場人物の気持ちを読み取ろうとするのでは、国語科に近くなってしまいます。「同じ場面に遭遇したら、自分はどんなことを考え、どんな気持ちになるか」というように、自分との関わりで捉える“自我関与”が必要になります。

そして「多面的・多角的に考え」と続きます。つまり、多様な感じ方や考え方に接したり、多様な価値観の存在を前提に考えたり、他者との対話や協働を通じて考えるといったことです。私は、こうした自我関与や多面的・多角的に考える場面で特にICTが重要な役割を担うと考えています。

しかし、そこで終わってしまうと、ただ感じたことを話し合うだけの活動になりかねません。道徳科の授業には必ずねらいがあり、判断力や心情、意欲、態度を育てることがゴールとなります。そのため、道徳科では必ず自分に立ち返ります。いろいろな気持ちや考え方の中から、よりよいと思うものを見つけ、「自己(人間として)の生き方について考えを深める」ことにつなげていきます図1

図1道徳科では、学習活動のなかで自己の生き方について考えを深めることが重要

つまり、自身の問題として受け止め、他者の多様な感じ方や考え方に触れることで身近な集団の中での自分の特徴などを知り、伸ばしたい自己を深く見つめ、そういう自己の生き方を実現していこうとする思いや願いを深めるというのが道徳科の学びなのです。

しかし、道徳科の授業でも登場人物を使い「○○さんは、どんな気持ちですか?」といった発問をします。このときに、教師が自我関与を意識できていないと、いわゆる“読み取り道徳”になってしまいます。あくまで、道徳科の目標は「自己の生き方」や「人間としての生き方」について、一人ひとりが考えを深めることであり、それを忘れてはいけません。

継続的な評価のために、日々の学びの成果が蓄積されるICTが生きる

評価については、全教育活動を通じて行う道徳教育と、道徳科における評価は異なります。道徳教育における評価は、何事にも粘り強く努力し続けていることや、困っている子に優しく声を掛けているといった「人間らしいよさ」、つまり「道徳性そのもの」を評価します。そして指導要録の行動の記録や総合所見などに記録し、通知表にも反映します。

一方、道徳科は「道徳性を養う」こと、具体的には判断力、心情、実践意欲、態度という“諸様相”を育てることを目標にしています。そのため評価は、それらが「どのように育っているのか」という観点になります。

しかし、たくさん発言していれば育っている、ワークシートにそれらしいことが書いていれば育っている、というように一概に言い切れるものではありません。例えば「親切,思いやり」について、友達が転んだときに、すぐに起こしてあげる子と、自分で立ち上がるまで見守る子がいたとして、どちらのレベルが高いといえるのか。これも一様に評価できるものではありません。つまり、道徳科においては評価の基準はもちろん、規準となるものさえも定めることが難しいのです。

では、何を評価するのか?という話になります。学習指導要領には「児童(生徒)の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し,指導に生かすよう努める必要がある。ただし,数値などによる評価は行わないものとする」とあります。ポイントになるのは、学習状況や成長の様子を「継続的に把握」するという点です。

道徳科の授業では、必ず道徳的価値の理解の下に、どのような様相を育てるかというねらいを設定します。仮に、ねらいに対する子どもたちの達成度が図2のようなものだったとします。「Aさん」はねらいにたどり着いているような発言があった。その隣の「Bさん」は、どうも理解できているように見受けられない。ほかの教科等と同様に達成度を評価しようとすると、矢印の先端の位置に着目する見方になります。しかし、道徳科では評価規準がないため達成度は評価できません。

道徳科で着目すべきは矢印の軸の部分であり、子どもたちがどのように学んでいるのかを見取り、個人内評価をします。さらに、継続的に把握するため図3のように、個々の内容項目だけではなく年間や学期といった一定期間の積み重ねから、学習状況がどのように成長しているかを評価します。

図2達成度(矢印の先端)ではなく、学習状況や成長の様子(矢印の軸)に着目する
図3年間や学期の積み重ねから、道徳性に係る成長の様子を継続的に評価する

従来は、ワークシートなどをとじたポートフォリオを作成し、それらを見返すなどして評価に役立ててきましたが、評価においてもICTの特長が発揮されます。後述しますが、今はさまざまなツールが充実しており、それらを使えば、子どもたちが授業の中でどのような感じ方や考え方をしていたのかが、つぶさに蓄積されます。そして、一人ひとりの学びの成果を取り出して評価することが容易になります。

“ICTを使えば、子どもたちがどのように感じ、
考えたかがつぶさに蓄積されます”

子どもたちの考えをしっかりと見取るための時間を設ける

道徳的価値に対して、そのよさや大切さを考える。さまざまな角度から捉えようとする。これまでの体験と重ねてより深く考えるといった視点で学習状況を見取るには、こうした学習状況が表に出るよう工夫された指導を行う必要があります。

具体的には授業をどのように進めればよいのか。表2は一般的な学習指導過程です。まず、指導においては学習の目的をしっかりと捉え、目的を果たすための学習活動に着目し、その学習活動をより効果的に行うためにICTを活用することが求められます。

表2道徳科の授業の学習指導過程(例)

段階 学習の目的 主な学習活動 ICTの活用例

導入

  • 実態や問題を知る
  • 道徳的価値について、問題意識をもつ
  • 実態や問題の提示(画像や映像、グラフ等)

展開

  • 教材を活用して、道徳的価値を理解し、よりよい生き方を考える
  • 自分自身との関わりで考える
  • 多面的・多角的に考える
  • 自己(人間として)の生き方についての考えを深める
  • 教材の提示(画像や映像等)
  • 自分の考えをもつ(端末に示す)
  • 他者の考えを知る(端末に共有)
  • 話し合う(対話)
  • 自己を見つめる(端末に蓄積)

終末

  • よりよい生き方の実現への思いや願いを深める
  • 道徳的価値についての自己実現への意欲を高める
  • 生活の様子の提示(画像や映像)
  • 外部の方の言葉の提示(画像や映像)

例えば道徳科の授業では、事前に簡易なアンケートを行うことがあります。ある学校では「正直,誠実」という道徳的価値を取り上げる授業の前に「してはいけないことをしたときに、正直に言えなかった経験」を回答させ、そのアンケート結果を示すことから授業を始めていました。道徳科の学びは教材理解ではなく自我関与ですから、アンケートにより自分事として捉えさせ、「なぜ、ダメだと分かっていても言えないんだろう?」という問題意識を高めています。

その上で、教材を使いながら話し合い、一人ひとりが端末を使って自分の考えを表現するのですが、大切なポイントはこのときの教師の見取りです。机間指導をしながら、考えをうまくまとめられない子や操作に戸惑っている子をフォローすることはもちろん大切です。しかし、せっかく手元の端末に子どもたちの考えが集約されているのに、それらをじっくりと見るということは、あまりされていない印象があり、それが非常にもったいないと感じています。

ICTが日常的に活用されるようになり、考えを共有する場面が多くの授業で見られるようになりました。しかし、共有したことで満足してしまうことも少なくありません。私は「子どもも教師も、個々の考えを見る時間を設けること」を推奨しています。例えば「じゃあ、自分とは違う考えを見つけてみよう、先生も見つけるよ」と言って1~2分間を割り当てます。無言になる時間があっても構いません。そうやって、ほかとは違った考えなどを見つけることに集中します。

先ほど紹介した授業で「正直に言えなかった理由」を書かせたとき、大半の子が「自分が怒られる」という視点で考えている中で、1人だけ「家族に嫌われちゃうかもしれない」と考えた子がいました。こうした考えが見つかれば、その子を意図的指名をすることができます。もしICTを使わず、この子が手を挙げて発言しなければ、「家族」という視点はその子だけのものになってしまったところでした。

“ICT活用により時間を短縮すれば
考え、話し合うための大切な時間が増えます”

ツールを用いて子どもたちの思考を可視化し、意図的指名を行う

今はICTが充実しており、子どものよさや可能性を引き出す授業に役立つツールも増えてきました。図4は全員で同時編集できるノートを使い、付箋に自分の考えを書いて貼りつけている様子です。この例のように、意見によって違う色の付箋を使用して視覚的にも分かりやすく工夫し、相反する意見を踏まえた話し合いを行うこともできます。

図5は『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]です。最初にご紹介したように、授業の導入で事前アンケートの結果を示し「どう思う?」と発問をすることはあります。しかし、授業の中で考えを集約して発問することは、これまではなかなかできませんでした。それが[ポジショニング]であれば、その場ですぐにできます。

図4一人ひとりが考えを付箋に書き込み、相反する意見を基に話し合いを行う
図5[ポジショニング]は集団の中での自分の特徴を客観視することにつながる

まず「この結果を見てどう思いますか?」と全体の考えの傾向について考えさせることができ、それが集団の中での自分の特徴を客観視することにつながります。また、二者択一の設問ではなく数直線上にマーカを配置するので、個々の考えの微妙な違いも見て取れます。そこで「どの子の考えを聞いてみたいですか?」と、子どもたちに指名させるのもいいかもしれません。それをきっかけに他者の考えに関心を持つことができ、自分とは違う考えがあると気づき、より多面的・多角的に捉えられるようになります。

なお、この例では左右の数直線上にマーカを配置する2象限でしたが、縦軸を加えた4象限の[ポジショニング]もお勧めしたいです図6。例えば、左右の横軸で「好き・きらい」、そして上下の縦軸に「よいこと・悪いこと」と設定します。人間が物事を判断するときは善悪だけではなく、感情が大きく影響し、好き嫌いの感情が善悪の判断を邪魔することもあるし応援することもあるという、より深い“人間理解”につなげられます。道徳科においては、こうした思考を積み重ねることがとても重要になります。

図6[ポジショニング]で4象限の軸を設定した場合の例

今回は、道徳科の授業についての解説とともに、ICTを活用したさまざまなツールをご紹介しましたが、決して授業時間のすべてでICTを使った活動をするのではありません。むしろICTの活用は、考えを表明したり共有したりすることを、より手早く短時間で行えるというメリットが大きいと考えています。それらの時間が短縮した分だけ、より深く考えたり話し合ったりする最も大切な活動のための時間が増えます。

私は、日本の先生方はICTを活用しなくても素晴らしい授業が行える、高い指導力をお持ちだと思っています。しかし、そういう先生がICTを活用することで、これまでの自分の力量を超えるような授業ができるということを、ぜひ体感してもらいたいと願っています。おそらく、今までとはまた違った広がりが経験でき、新しい視点が身につけられると思います。

また、さまざまな経験によって指導力を身につけられたベテランの先生と、ICT活用に長けている若い先生とがお互いに協力し、組織力を発揮して授業改善に取り組むことも可能になると思います。どんなことも最初は大変かもしれませんが、子どものよさを生かすために、どうか指導技術の向上を楽しみながら授業を行っていただければと思います。