小学校6年 道徳SKYMENU Cloud事例 道徳 × ICT 議論と自己との対話を深め「人間のすごさ」に迫る [ポジショニング]の結果を学級全体で共有し、子どもと共に考える
中村 一代 教諭
愛知県安城市立安城南部小学校
人間の「すごさ」を掘り下げる
D領域で「人間のすばらしさ」を主題にしてマザー=テレサの実話を基に授業を行いました。使用した教材では、マザー=テレサが約80年前にインドのスラム街で慈善活動を始め、「死を待つ人の家」を作ったエピソードを紹介しています。彼女は医師や看護師ではありませんが、今にも死んでしまいそうな人々を家に連れてきて、そこで愛を与え、人々を温かい気持ちにしていたことが読み取れます。授業では「マザー=テレサ」のすごさについて[ポジショニング]を使って掘り下げ、「人間のすごさ、すばらしさ」に迫っていきました。
事前読みの感想をテキストマイニングで可視化
授業の前に、教材の事前読みをしました。読後に、「すごい人」のイメージについて、端末を使ってテキストで入力してもらいました。そのデータをテキストマイニングし、出力された結果を授業の導入で提示しました。結果には「できる」と「優しい」が大きく表れていて、「何かをできる優しい人」「誰に対しても優しくできる人」というイメージを本学級の児童がもっていることが分かりました。
今にも死んでしまいそうな人を助ける必要があるのか
[発表ノート]で教材のあらすじを振り返った後、今にも死んでしまいそうな人をマザー=テレサが助ける場面を取り上げて、「助けられるすごさ」について話し合いました。
そして、真の問いである「今にも死んでしまいそうな人を助ける必要はあるのだろうか」と問いかけて、[ポジショニング]をしました。児童は悩みながら、必要が「ある」と「ない」の軸にマーカを置いていきました。
結果は予想していたとおり必要が「ある」側の回答が圧倒的に多く、少数の児童が真ん中よりも少し左の、必要が「ない」側にマーカを置いていました。
ここで[ポジショニング]の画面を大型テレビに投影し、子どもたちと結果をじっくり見ました。すると、複数の児童から「一番左(ない側)に位置する緑色のマーカの児童が気になる」「その子の話を聞きたい」という意見が出ました。
そこで緑色のマーカを置いたAさんを指名。「無駄とは言わないけれども、もっとほかに助けるべき人がいると思う。だからちょっとこっち(ない側)でした」と理由を話しました。児童は「もっと救うべき人がいる」という新しい角度の意見を知り、中には「確かにそうかもしれない」と納得している子もいました。
「自分」が死ぬと決まっていたら、どうしてほしいか
ひとしきり話し合いをした後に、ある児童が「自分だったらスラム街の道端のゴミ溜めのような場所で死にたくない」と発言しました。
そこで、深化発問「自分はゴミ溜めのような場所で死んでしまってもいいのか」と問いかけ、2回目の[ポジショニング]を行いました。児童は問題を「自分」に置き換えて考え、マーカを移動させました。するとAさんを含めた、多くの児童がものすごい勢いで右端に移動したのです。
それから[ポジショニング]機能の[軌跡]機能を使い、大きく動いたAさんの軌跡を共有しました
。そしてAさんを再び指名して「さっき一番左だったけれど、今は一番右に行ったね。どうして?」と尋ねました。すると「もうすぐ死んでしまうとしても、人に手を握られながら『生きていて良かったな』と思って死にたい」と言ったのです。ほかにも気持ちが左から右へ大きく動いた児童を何人か指名しました。その子たちも皆「自分だったら嫌だ」と言うのです。
さらに「じゃあ、どうして嫌なの?」と聞くと、「誰かに見守られて、最後まで生きることが大事なんじゃないか」と話し合いが始まりました。「こんなに貧しくて一人ぼっちなのに、『今まで生きていて良かった』と思って死ねるのか」「自分を受け止めてくれる人がいることを知って死ねたらいい。だから無駄ではない」といった意見が交わされました。中には「マザー=テレサは、人を温かい気持ちにできる。すごいことだ」と発言する子もいて、「すごさ」について、より深く考えている様子が見られました。
マザー=テレサの「すごさ」と自己を関わらせた子どもの振り返り
授業の終末、子どもたちは次のように授業を振り返っていました。
- 「僕は相手の気持ちを考えることができるけど、それを態度になかなか表せない。でも、それをちゃんとできる人になりたい」
- 「相手が良かったなって思える時間を与えられる人になりたい」
- 「自分にも優しい気持ちはあると思うので、そこを伸ばして少しでもテレサに近づきたい」
単に「マザー=テレサはすごい」という感想に留まるのではなく、自分が彼女に近づく方法を考えたり、自分の未来と結び付けて考えたりする様子が見られました。
児童の意見や考えを細やかにつかむ「ポジショニング」
私は、「ICTを使わなければいけない」という理由で、道徳科の授業でICTを使い始めた教員の一人でした。しかし、[ポジショニング]を使い始めてからは教員も児童も、学級全体の意見や考えを、素早く明確に把握できるようになり、今では授業を深めるためには欠かせないツールになっています。
特に、[ポジショニング]の結果を児童と共有してじっくりと見る時間が効果的です。みんなで見ていると、子どもたちから「この意見はどうなんだろうか」「もっと聞いてみたい」といった意見が出てくるのです。そして、そこからみんなで考えを深掘りしていけます。普段はあまり発言しない児童も、ほかの児童から興味を寄せられると、発言に前向きになる様子も見られます。ちょっとした工夫ですが、みんなが授業に積極的に参加するきっかけになるので、おすすめの活用法です。
成長の実感から、児童の自己肯定感を高める
[ポジショニング]を使い始めた当初は、結果を共有することに懐疑的でした。安易な集団同調を心配したのです。しかし、児童は異なる意見や考えに対して「聞きたい」「知りたい」と感じ、自分の考えをもち続けていました。その姿を見て、「子どもに委ねても大丈夫だ」と思えるようになりました。これが今回の研究で得た最も大切なことだと思っています。
今後は、[ワードランキング]の機能を活用したいと考えています。学習が進むにつれて変化する考えや言葉を可視化し、それを児童と共有することで「学ぶことでより賢く、心がより豊かになる」ことに気づかせたいのです。そうして得られた実感によって、児童の自己肯定感が高められます。これまでは得難かった「実感」をもたせられるツールとして、ICTを上手く使いたいと考えています。
(2024年3月掲載)