ICT活用教育のヒント

解説茨城県那珂市立芳野小学校 黒羽 諒 教諭の実践から学ぶ【Part3】 端末の持ち帰りの実際と展望 家庭学習においても
「指導の個別化」と「学習の個性化」の両方を意識することが大切

本誌では、2021年2月号および4月号で茨城県那珂市立芳野小学校 黒羽 諒教諭の学級(小学校第2学年)における児童1人1台端末の活用について紹介してきた。本稿はその最終章として、2020年度末に取り組んだ家庭への持ち帰りの実践を紹介するとともに、筆者が携わった先駆的な実践事例と研究知見について紹介する。

小林 祐紀
茨城大学 准教授

はじめに

GIGAスクール構想において、児童生徒1人1台のコンピュータは、持ち帰りを前提として整備されている。したがって、現時点では持ち帰りを実現していない学校・教育委員会があったとしても、段階的にはなるだろうが持ち帰りを早期に実現することが強く求められていることを冒頭で確認しておきたい。

ある自治体では、整備当初からの持ち帰りを想定し、充電保管庫を各教室に設置せず、家庭での充電を前提としている。また、ある自治体では家庭での充電をどのように依頼するのかについて、アダプタの追加購入も含めて検討が進められている(本稿の執筆時点)。このほかにも、端末の持ち帰りには実施前に考えることが多く、広く全国で情報を共有する仕組み(例:GIGAスクール構想の情報サイト「GIGA HUB WEB」)も適切に利用しながら活用を進めていきたい。

GIGAスクール構想の情報サイト「GIGA HUB WEB」
  • https://giga.ictconnect21.jp

黒羽 諒教諭の取組から

端末の持ち帰りを計画する段階での準備

図1保護者向けの案内および承諾書

黒羽 諒教諭の学級では、2月中旬から端末の持ち帰りを計画していた。まず実施したことは、教育委員会や管理職と連携して保護者向けの案内および承諾書の配付であった図1。これは、持ち帰りについての意図や家庭での取り扱いの方法を周知するとともに、端末が破損するといった万が一の際の対処方法や、学校および教育委員会は責任を負えない旨の承諾を得ることが目的であった。

さらに事前に各家庭のWi-Fi環境を調査し、環境が整備されていない家庭には教育委員会が用意しているモバイルWi-Fiを貸し出す手続きを行った。当たり前のように思われるが、このような手続きは忘れられがちである。何事も初めが肝心であり、このような手続きを確実に踏むことで、安心して持ち帰りを推進することができる。

自由意志を大切にしながら活用を促す

図2初めての端末持ち帰り時はWi-Fiへの接続を宿題とした

いよいよ端末の持ち帰りを始めるという際にも、焦らずじっくり、でも着実に黒羽教諭は進めていた。まずは端末を持ち帰り、一定の期間を設けて家庭のWi-Fiに接続することを宿題とした。2年生であるから保護者の協力は不可欠である。家庭でインターネットの接続に成功したら、「お家の人に写真を撮ってもらう(学校に持ってこられないような大切なものや人と一緒に撮ってもよい)」という課題を出し、[発表ノート]にまとめた 図2。これまでの学級での活用が十分に活かせる家庭学習といえる。

構図を決めて写真を撮影すること。複数枚からもっとも良いと思うものを選択し、[発表ノート]に貼りつけること。手書き、仮名入力、ローマ字入力(指導したわけではないが、黒羽学級では半数以上の児童が、いつのまにかローマ字入力ができるようになっている)、それぞれが得意な方法で文字を入力といった一連の学習成果が求められる。

保護者はわが子の姿を見て、ずいぶんと驚かれたのではないかと想像する。子どもたちの自由意志を大切にしながら活用を促してきたことによって、端末は着実に学習の道具として認識され、操作に関するスキルも身についている。

一度の取組でも黒羽教諭自身に新しい視点を提供

その後も、ドリル型教材を家庭学習として課したところ、これまでの紙のドリルやプリントの宿題では、熱心に取り組んでいるとは感じられなかった児童が、非常に熱心に取り組んでいることが学習ログなどの記録から把握できたと伺った。指導の個別化には、継続的な利用と計量的な結果の提示が必要であろうが、児童1人ひとりの学習に臨む様子については、一度の取組からも把握でき、黒羽教諭自身に児童理解の新しい視点を提供していることは興味深い。今年度の取組はここまでであったが、わずかな回数の中からも私たちに多くの情報を提供してくれた。

また今後、端末を持ち帰ることで、家庭学習は授業と切り離されたものではなくなり、授業とシームレスにつながるものになり得ると考えられる。2年生の黒羽学級を例に考えてみると、生活科において自身の成長を振り返る学習単元があり、家庭へ持ち帰った端末を使って、保護者に小さい頃の様子をインタビューし録音したり、資料についても幼い頃の写真だけにとどまらず、教室には持ち込めない自身の成長に関連するさまざまなものを撮影したりするといった家庭学習が想定できる。そして、録音されたインタビューや撮影された写真は、教室において友達に意見をもらいながら、1つの作品に仕上げていく。さらに、仕上がった作品を教室内だけではなく、家庭へ持ち帰り、保護者に対して発表することも考えられるだろう。当然、AIドリルに代表されるドリル型教材の継続した利用も十分にありうる。

「指導の個別化」と「学習の個性化」を意識する

個別最適な学びは特性や学習進度などに応じて基礎的・基本的な知識・技能等の確実な習得をめざす「指導の個別化」と興味・関心等に応じ、1人ひとりに応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供する「学習の個性化」から構成される教育用語であり、端末を持ち帰って行う家庭学習においても、この両方を意識することが重要である。また、本稿が読者の手元に届く1か月~2か月先には、夏季休業が待っている。約40日間という長期間に端末を持ち帰り、保管だけを依頼するのか、何か取組を促すのかについては、そろそろ考える必要があるだろう。どのような取組が考えられるのかについて、ネットワークに接続し、他者と協働的に取り組むことを前提とした先駆的な家庭学習の事例および得られた研究知見(小林 祐紀ほか 2016)を最後に紹介したい。

他者と関わり合いながら協働的に学ぶことは
それ自体が、学習の動機づけになる

先駆的な事例と研究知見

協働的に取り組むことを前提とした持ち帰りの学習

研究対象となったのは、ある自治体のモデル校の5年生の児童であった。5年生には1人1台の端末が整備され、1学期から持ち帰りを含めた活用が進められてきた。持ち帰りの学習においては、協働学習を支援するアプリケーションを使用し、家庭にいながらも子どもたち同士が互いに意見交流したり、共同制作することを中心に取り組んでいた。2016年7月21日~2016年8月31日の夏季休業中において、学期期間中と同様に協働的に取り組むことを前提とした家庭学習を実施した。具体的には、「新聞記事を読んで感想を書き、それに対して児童同士がコメントを送り合う」という国語科の学習内容に関する家庭学習。また、「自由研究をまとめる際に、互いに見合うことを推奨し、内容について理科担当教師がコメントを送る」という理科の学習内容に関する家庭学習の2つであった。

操作ログと夏季休業終了後に実施した質問紙調査を分析した結果、次のようなことが明らかになった。

実践を通じて得られた研究知見

1 )夏季休業中の端末の合計活用時間は、通常の学期期間中と比較して、平均して1人1日あたり2倍以上長くなっていた。この結果については、友達の書いている新聞記事の感想を読み、複数人にコメントを書くこと(国語科)や、実験や調べたことをまとめる活動(理科)といった時間がかかると予想できる取組を家庭学習として課していたためだと考えられる。ただし、長時間の使用には健康上の留意を促す必要があり、活用時間を制限することなども必要に応じて考えられる。

2 )児童は、協働的に取り組む家庭学習について、継続的に肯定的な評価をしていた。家庭学習の開始1か月後の結果と同様であり、児童の肯定的な評価は継続していると考えられる。他者と関わり合いながら協働的に学ぶことは、それ自体が、学習の動機づけになるといわれており(杉江 修治 2011)、ネットワークを介して協働的に行う家庭学習においても、学習意欲の向上や関係性の深まりにつながると推測できる。

3 )夏季休業中に端末を持ち帰り実施した家庭学習は、学力下位群に一定の効果があると考えられる。質問紙のすべての設問において、学力下位群の児童が3群(ほかは上位群・中位群)と比較して高い評価値であった。特にタブレット端末を継続して使用したいという内容は、学力下位群の児童全員が強い肯定を示し、端末を使って家庭学習を継続して進めることにとても前向きであると判断できた。ほかの設問においても学力上位群から学力下位群につれて評価値が高くなっているものがあった。

ここで紹介した研究成果は、協働的に取り組むことを前提としていた。2016年から5年たち、ドリル型教材の利用、写真や動画の撮影および編集、共有など、さまざまな家庭学習が想定される。重要であるからこそ繰り返すが、「指導の個別化」と「学習の個性化」の両方を意識した持ち帰りの実践が必要である。今後、学校現場の教師たちの創意工夫によって多様な実践を見聞きできることを期待したい。

参考文献
  • 小林 祐紀・佐藤 幸江・村井 万寿夫・中川 一史(2016)ネットワークを介して協働的に行う家庭学習の実際と児童の意識(2)-夏季休業中の実施状況と児童の意識-,日本教育メディア学会第23回年次大会発表収録,140-141
  • 杉江 修治(2011)協同学習入門,23-25,ナカニシヤ出版

(2021年7月掲載)