ICT活用教育のヒント

1人1台実践レポート茨城県那珂市立芳野小学校 活用場面を自ら判断してICTを使いこなしていく児童と共に 2年1組20名の児童が、タブレット端末と出会ってからの日々をレポート【Part2】

前号(2021年2月号)では、タブレット端末の導入初日から約1か月の様子として、子どもたちがどのようにタブレット端末を扱い、どのようなことが起こるのか、そしてどのようにして「学習の道具」としてなじんでいくのかをレポートしました。今回は、その後さらにタブレット端末活用の深まりが見られる学級の様子について、那珂市立芳野小学校 黒羽 諒 教諭にお話を伺いました。

黒羽 諒
茨城県那珂市立芳野小学校 教諭

1人1台端末活用 ≪2か月~3か月≫

タブレット端末([発表ノート]機能)の活用力UP

(1)困ったときに子ども自ら解決策を考えるようになった

国語科の学習で、図書室の本を使って調べるという学習をした際に、調べたい内容が載っている本が少なくて、一冊の本に複数の子どもたちが集まってしまい、子どもたちが困っている姿がありました。教師から「順番に読むことにしたら?」と提案したところ、見たいページを写真に撮ればいいことに気づき、子どもたちは自発的に読みたいページをタブレット端末のカメラで写真に撮って、その写真を見ながら資料を作成することで困っていることを解決していく様子が見られました。

(2)自分で適切な表現方法を考えるようになった

生活科の学習でおもちゃ作りをした際、「~のために」という相手意識をもたせるために、1年生を招待して、遊んでもらうことにしました。1年生に遊び道具の使い方を説明するために、紙に書いて読んでもらうグループや、タブレット端末で説明書を作り始めるグループがありました。しばらくすると、動画なら1年生が見ても分かりやすいのではないかと考えて、[発表ノート]機能を活用して遊び方の動画入りのスライドを作って説明する児童が出てきて、さらにその方法を見てまねする児童も見られました。「どうしたら一番伝わるか」という視点で考えることができるようになってきたと感じています。

【写真1】1年生に遊び方を説明するための準備の様子

(3)文字入力の方法を児童が選択して活用するようになった

児童の文字入力スキルが向上しました。手書きしかできなかった児童も手書き入力になったり、自主的にローマ字を学習してキーボード入力ができるようになったりしました。また、中にはフリック入力機能を見つけて活用するようになった児童もいます。枠内には文字入力で、枠外のちょっとした場所には手書きでなど、文字入力の方法を児童が選択して活用している様子が見られるようになりました。

【写真2】文字入力の方法を使い分けている学習者機の画面

電子連絡板の活用をスタート

電子連絡板にその日の予定(時間割)や今週の連絡事項などをあらかじめ入力し、子どもに連絡する際に提示するようにしています。電子連絡板を使うことで教師の伝え漏れや抜けが防げます。また、児童のタブレット端末でも自由に閲覧できるようになっているので、一部の児童は自分で電子連絡板を見て行動するようになってきました。児童からも見やすいという意見があったので、継続して使っています。

【写真3】電子連絡板でその日の予定(時間割)を提示

どのようなトラブルが起きて、どのように対応したか

2か月~

機器の破損

タブレット端末を持ったまま転んでしまい画面破損:当初からタブレット端末を持ち運ぶ際は両手でしっかり持つように指導していましたが、あらためて両手で持って気をつけて歩くように学級全体に指導しました。
ペンの破損(水没):手提げ袋にタブレット端末とペンをしまわせる運用をしていました。下校前にタブレット端末は電源キャビネットに戻したのですが、ペンを手提げ袋に入れたまま帰ってしまい、そのまま洗濯してしまった事例がありました。それ以降、ペン入れを用意して、タブレット端末を戻す際にペンも忘れずに戻すという約束事を決めました。

動画に映りたい・映らせたくない

タブレット端末で動画を撮っていた児童グループが「みんなに見せたい」ということで、教師が内容確認した上で給食の時間にみんなで観ることにしました。すると動画に一緒に映りたいという児童が急増し、もともと動画を撮っていた児童グループが困ってしまうことがありました。話し合いの結果、動画に映れる日と映れない日を決めました。

3か月~

トラブルの内容が変化してきました。児童はかなりタブレット端末の扱いに慣れ、トラブルや操作の不明点を聞きに来ることや、利用ルールやマナーのトラブルもほぼなくなってきました。しかし、児童の人間関係のトラブルはやはりまだあります。ただこれは、タブレット端末がなくても1年間をとおして多かれ少なかれ何かしら起こるものですから、その都度指導のチャンスと捉えています。

1人1台端末活用 ≪4か月≫

インターネットに接続した活用へ

<インターネット接続にあたっての指導>

タブレット端末の活用を開始して4か月目以降、教育委員会が市内各校へポケットWi-Fiを整備。インターネットに接続することになりました。そこで、情報リテラシーの指導をしていく必要があると考えました。インターネットは非常に便利で、検索ワードをうまく使えば、既存の知識であればほとんどの情報が手に入ります。また、遠くの人ともやりとりができたり、便利な無料ソフトウェアなどもあったりする一方で、危険なこともあります。子どもたちには、「インターネットには、本当のことだけでなく、うその情報もあるから、しっかりと自分で考えないといけないよ」ということや、「書いたことや撮った写真が一度広がってしまったら、もう消すことができないんだよ」ということを伝えました。

【写真4】ポケットWi-Fiによるインターネット活用をスタート

<検索の仕方の指導>

画面上で入力する場所や、検索結果の見方、入力のコツ(キーワードで検索、間にスペースを入れる)、ランキング機能などについて伝えました。

インターネットは誘惑が多く、ついゲームを検索したくなる子どももいます。これはタブレット端末導入初期にも指導していることですが、このタイミングであらためて「学習用のタブレット端末」であり、学習に関係のあることに使うことを子どもたちと再確認しました。

【写真5】インターネットで検索する児童

1人1台タブレット端末を活用することで児童に見られた成長

今回の実証研究では「教師の意図を超えた活用を行える児童の育成」を目標としました。この『教師の意図を超えた』というのは、タブレット端末は鉛筆やノートなどと同じ「多様な表現方法のうちの一つ」であり、教師の指示ではなく子どもが自分で判断して必要に応じて活用できる姿です。それは、前提として子どもたちが十分にタブレット端末を使えることからスタートし、自ら思う存分使ってみることをとおし、「この道具ではあんなことや、こんなことができそう」という思いをもつことによってなされるものだと思っています。子どもたちがタブレット端末を自由に使える環境を与えることに、不安を感じる先生方ももちろんいらっしゃると思いますし、自分も常にこれでよいのかと思いながら実践しています。ですが、ぜひ子どもたちの可能性を信じて与えてみてください。教師が見守ってさえいれば、子どもたちは、あっという間に使い方を覚え、教師が思いもよらない活用方法を(ほとんどの場合)教師の思いに沿って生み出し始めます。その子どもたちが見つけ出した活用法を共に楽しむことが、1人1台タブレット端末活用を子どもたちが進んで行っていく環境には必要不可欠なのではないでしょうか。

今後の活用予定(家庭へのタブレット端末持ち帰り)

GIGAスクール構想により那珂市教育委員会から学校へ端末が整備される前に、先行実践研究として、児童が家庭にタブレット端末を持ち帰って学習することを計画しています。その際には保護者の協力は不可欠ですので、まずは保護者への説明文書を作成しようと考えています。タブレット端末持ち帰り実践に向けて、引き続き準備を進めていきたいと思います。

(2021年1月取材 / 2021年5月掲載)