ICT活用教育のヒント

Column オンライン教育と著作権2021年4月1日から有償化となる授業目的公衆送信補償金について

2020年9月に認可申請しておりました授業目的公衆送信補償金の額が、同年12月に文化庁長官の認可を受けました。今回は、2021年4月から有償化されることが決まった授業目的公衆送信補償金制度について、その詳細をお知らせします。

野方 英樹

一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS) 理事

1. 改正著作権法第35条運用指針(令和3(2021)年度版)

ご承知の通り、2020年度には、予期せぬ新型コロナウイルス感染症の感染拡大によりオンライン授業を余儀なくされた教育機関に配慮して、緊急的且つ特例的に授業目的公衆送信補償金を無償とする形で改正著作権法第35条が施行されました。これに合わせ、「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」では、改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)を公表しておりましたが、この運用指針(令和2年度版)の適用期間は2021年3月31日までとされ、この4月から参照いただくガイドラインとして、2020年12月、新たに運用指針(令和3年度版)を公表しております。

主な変更点は、⑦「必要と認められる限度」と⑨「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」の記述が大幅に書き改められ、より詳細なものとなったことと、初等中等教育の教育機関の先生方向けに、いわゆるホワイトリストとしての典型例が掲載されたことです。

(1)「必要と認められる限度」

冒頭の「『授業のために必要かどうか』は第一義的には授業担当者が判断するものであり、万一、紛争が生じた場合には授業担当者がその説明責任を負うことになります(児童生徒、学生等による複製等についても、授業内で利用される限り授業の管理者が責任を負うと考えるべきです。)。その際、授業担当者の主観だけでその必要性を判断するのではなく、授業の内容や進め方等との関係においてその著作物を複製することの必要性を客観的に説明できる必要があります。」の表現は、やや厳しく感じられるかもしれません。ですが、著作権という私権を制限して円滑且つ充実した教育の便宜を図るという趣旨からすれば、法の趣旨をご理解のうえで著作物を利用いただく必要があります。そうした観点から、先生方自らが主体的に考えていただくうえでの重要な視点を提示しているものです。

こうしたガイドラインでは、どの程度であれば無許諾・無償又は補償金の範囲で利用できるのか、という線引きをできるだけ具体的にしてほしいというニーズがあることは理解できます。しかしながら多様な授業の在り方、著作物の種類を掛け合わせると、答えを一つに絞り込むことはむしろ困難です。「『必要と認められる限度』は授業の内容や進め方等の実態によって異なる」のであり、「外形だけで判断するのではなく、個々の授業の実態に応じて許諾が必要か不要かを判断する必要」があることにつき、ご理解をいただきたいと思います。

(2)「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」

「必要と認められる限度」であっても、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は、別途権利者の許諾を得ていただかなければなりません。不当に害しない、すなわち「学校等の教育機関で複製や公衆送信が行われることによって、現実に市販物の売れ行きが低下したり、将来における著作物等の潜在的販路を阻害したりすることのないよう、十分留意」いただく必要があります。

とはいえ、こちらも「必要と認められる限度」同様、明確な線引きは難しいところです。つきつめれば、この観点では「権利者がその利益を不当に害されたことを客観的に説明し得るかによって判断せざるを得」ないこととなります。

こうした状況の中、教育機関側の判断のヒントとなるよう、運用指針(令和3年度版)10ページから14ページにかけての枠内に基本的な考え方を示していますので、ぜひ十分読み込んでいただき、教育と著作権との関わりを整理した唯一のガイドラインとして運用指針(令和3年度版)を使いこなしていただければと思います。

(3)典型例

(1)、(2)で、線引きは難しいとは申しましたが、明らかに無許諾・無償で利用可能、あるいは補償金の対象の範囲で利用可能などホワイトリストとしての典型的な事例をとりまとめたのが「2.学校等における典型的な利用例」です。現時点では初等中等教育での事例ですが、こちらもぜひご参照いただき、日々の授業の中で活用いただければと思います。

このフォーラムでの検討は今後も継続されることとなっており、現在の版の更新、追補を適宜行っていくことが見込まれます。常に最新版を参照していただきますようお願いします。本会のウェブサイト等でも運用指針(令和3年度版)のみならず、補償金制度に関する情報等を積極的に広報していくよう努めたいと考えております。

2. 授業目的公衆送信補償金規程の概説

2021年4月から、授業目的公衆送信を行う教育機関をお持ちの教育機関設置者のみなさまには、所定の手続きをいただき、授業目的公衆送信補償金をお支払いいただく必要があります。

その手続きの内容を説明するにあたり、どのような情報を準備していただくか、まず授業目的公衆送信補償金規程(以下、補償金規程)に関し、ご理解いただくことが不可欠と考えます。詳細は規程原文を参照していただくこととして、ポイントとなる部分を表1で説明します。

表1授業目的公衆送信補償金規程のポイント
用語等 解説・留意事項等
第2条 定義
年度
補償金算定対象者

4月から翌年3月までが基本です。
授業目的公衆送信を行う教育機関の在学者のうち、補償金を支払う年度中に授業目的公衆送信を受けることが予定されている者をいいます。必ずしも全在学生ではない場合もあると思います。学部や学科、学年単位など、実際に授業目的公衆送信を受ける予定の在学者の数を申請ください。
5月1日時点の在学者数をもとに申請いただきますが、その後、年度途中で授業目的公衆送信する在学者の対象を新たに増やすなど、補償金算定対象者数が増える場合は、その年度について残りの利用月数分の申請を追加で行ってください(補償金の額は月割りとなります)。転入・転出などの教育機関設置者側に起因しない在学者数の増減についての調整は不要です。

第3条
授業目的公衆送信の回数にかかわらず支払う補償金の額(第1項)

最も基本的な1人当たりの補償金額(年額)が表にまとまっています。
この額は包括料金(定期券や年間パスポートのような考え方)であり、お支払いいただくことで、引用にあたるかなど他の権利制限のことを気にせず、運用指針(令和3年度版)の範囲で、世界中の著作物を授業目的公衆送信できます。

第3条第2項
公開講座、免許状更新講習、社会教育施設等の授業

1講座・授業あたり、定員30人までごとの包括料金を300円と定めています。
申請は前後期の2回に分け、それぞれ5月1日時点、11月1日時点の授業目的公衆送信を行う講座等の定員数を基に申請ください。

第4条

包括料金に対して個別料金(切符のような考え方)を定めています。
5つの区分、即ち、(イ)著作物、(ロ)実演による音声及び映像、(ハ)レコードに固定された音声、(ニ)放送による音声及び映像、(ホ)有線放送による音声並びに映像ごとに補償金の額を10円とし、利用する著作物毎に関わる権利を積算、授業目的公衆送信を受信する履修者等の総数を乗じて算出します。申請は、前後期の2回に分けて取りまとめてください。
第4条に基づき手続きいただく場合は、利用する全ての著作物についての利用報告が必須となります(利用報告は4. 権利者への分配(2)のところで改めて触れます)。

第5条
遠隔合同授業

人口減などで教育機関の維持が困難な地域の教育機関に適用する額通信制教育機関、履修証明プログラム履修者、科目等履修生

送り手と受け手の教育機関設置者のいずれかが第3条第1項の補償金を支払っている場合は、追加支払は不要です。
法律に基づく「過疎地域」を対象に減額することとしています。

特性、諸事情を考慮し減額することとしています。

附則

3年を経過する毎に、実施後の状況を勘案し補償金規程は必要な見直しをすることとなる見込みです。

3. 手続きのご案内

図1

SARTRASは4月に授業目的公衆送信補償金の申し込みをウェブ上で完結していただけるシステム「TSUCAO」(つかお)を開設する予定です。このシステムを通じて申し込み、お見積もり、請求、そして利用報告までをいただくこととなりますので、授業目的公衆送信をされることをお考えの教育機関設置者のみなさまには開設後ご登録をお願いします。

補償金規程第3条第1項に基づく利用を例にした具体的な流れは図1のとおりです。

なお、TSUCAOで授業目的公衆送信をされる旨のお手続きをいただいた教育機関名につきましては、補償金規程第4条補償金の上半期のお申込が完了した時点(11月)を目処に順次公表させていただきます。

4. 権利者への分配

(1)共通目的事業

いただいた補償金は、大きく2つに分けます。まず、政令が定める率(2021年度は執筆時未定、2020年度は無償であるが20%)に相当する額をとりわけ、「著作権及び著作隣接権の保護に関する事業並びに著作物の創作の振興及び普及に資する事業」いわゆる「共通目的事業」に支出することとなります。具体的な事業の内容は、今後収受する補償金の額や、学識経験者の意見を聴取したうえで決定、実施することとなります。現時点では、教育機関設置者や教員の方への研修や著作権制度に関する普及啓発教材の作成、著作物の公表の場作りへの助成などを候補として検討しています。

(2)権利者への分配

図2補償金分配の鍵

権利者に補償金を分配するためには、教育機関設置者よりご提出いただく利用報告が不可欠です。本来はすべての利用についてご報告いただくことで、完全な分配ができる、という関係にあるわけですが、図2でおわかりいただけるとおり、分配精度を高めようとすればするほど、教育機関の方の負荷が高まるという関係があります。教育機関のみなさまが大変お忙しいことは承知しておりますし、この制度の検討の過程でも、教育機関への手続きや利用報告負荷軽減を図ることは、規程の仕組みの観点からも、利用報告の観点からも、強く求められてきました。

そこで、手続き面では、補償金の額に包括料金を採用し、すべての利用報告をいただかなくても、ご利用いただけるようにしました。一方、利用報告は、報告依頼のインターバルを空ける、報告いただく期間を短くするなどの工夫により、教育機関の負荷と分配精度とのバランスをとりながら実施していきたいと考えております。

具体的には、例えば2021年度であれば、手続きをいただいた教育機関のうち、数にして1,000校(高等教育機関の場合は学部学科で1校)ほど、最長1カ月程度の期間の利用につきまして、利用報告をお願いする方向で検討しております。

それでも、報告いただく項目は権利者特定のために必要十分なものをいただかなければ分配ができませんので、表2(2020年度に行った試行調査時の項目)に掲げたような項目を記していただくこととなります。

表2
利用報告項目の例
教科等名・授業科目名 著作物名・タイトル
学年 著作者名
履修者等の人数(合計) 発行・制作元
著作物の分類 発行・発売期
著作物の入手・掲載元の分類 利用した箇所・分量
著作物の入手・掲載元名 個別の製品番号等

こうしていただいた利用報告をもとに、これまで著作物使用料などの権利者への分配実績のある団体(連絡先や振込先等の個人情報を多く把握している団体等)へSARTRASが分配業務を委託し、図3のような流れで文化庁の監督の下、様々な作業を行い、必要な情報公開を徹底したうえで権利者へ届けることとなります(受託団体への送金の際、SARTRASの運営に必要な管理手数料(補償金の総額の10%以内を上限とする予定)を控除します)。

図3第3条補償金の分配(共通目的基金、管理手数料控除後)※4条は利用報告どおり分配

お願い

結びの言葉に代えて、一つお願いがあります。

これまでご説明してきましたとおり、利用報告でいただく著作物1つ1つがそのまま利用された権利者への分配に直接結びつくものです。みなさまに作成いただく利用報告によって利用された著作物の権利者に補償金が届きます。

そこで、利用報告を円滑に行っていただけるよう、さきほどの【表2】にありますような項目について、利用の都度、必要な情報の記録、教材への記載を心掛けていただき、本会から利用報告をお願いした際、いつでも的確にご回答いただけるよう日頃から準備いただければ、と存じます。本制度の適正な運用へのご理解、ご協力をお願いいたします。

授業目的公衆送信補償金制度に関する詳細はこちら

(2021年6月掲載)