ICT活用教育のヒント

Column オンライン教育と著作権正しく著作権を理解してICTを活用した教育を

2020年4月28日に改正著作権法が施行され、新たに授業目的公衆送信補償金制度がスタートしました。皆さまには、この制度が、オンライン教育の促進を支える著作権インフラともいうべきものであることを理解いただいた上でご活用いただきたく、そのために必要な基礎的な知識をまとめ掲載します。本稿が皆さまのご参考になれば幸いです。
なお、教育の現場で著作権と関わりのある場面はほかにもさまざまありますが、基礎的な理解に必要な部分にフォーカスしてご説明します。

野方 英樹

一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS) 理事

1. 新制度、何が変わった?

ものがたり、論説文、詩歌、写真、絵、グラフ、地図、図表、算数の文章題問題など、授業の教材に用いるものの多くが著作物です。体育の授業で流行の振り付けのダンスを踊るとき、その振り付けもBGMの音楽も「著作物」です。もちろん日本のものだけでなく外国のものも同様です。

これらの著作物には創作した人「著作者」がいて、目には見えませんが、著作物は著作者の持ち物として著作権法により「著作権」という権利を与えられて守られています。つまり、使うときは持ち主に了解を得る、つまり「許諾」を得る必要があります。この著作権は、著作者の死後70年間経過するまで存続します。

では、学校の授業で著作物を使うときはどうでしょう。今回の著作権法改正前の状況を図に表すと、図1のようになります。

図に青線で示した、紙でコピーして児童生徒たちに渡す教材に著作物を使う場合は、許諾を得ずにできました。しかし赤線で示したようにインターネット経由でその教材を送ること(先生から児童生徒へ、児童生徒から先生方へのいずれも対象です。本稿で「公衆送信」といいます)は、一部の例外を除き許諾を得る必要がありました。そのためこのままでは、オンライン教育を推進していくにあたり、著作物を使うたびに許諾を得なければならず、先生方に多大な負荷がかかることになってしまう懸念がありました。

そこで、オンライン教育の促進を目的に、許諾を得ずに公衆送信ができるよう、著作権法を改正し、図1で赤線だったインターネット経由の利用について、図2のとおり許諾を得なくてもできる青線に変えるとともに、こうしたオンライン教育を支える著作権インフラとしての授業目的公衆送信補償金制度が新たに設けられました。

2. 授業目的公衆送信補償金制度

授業目的公衆送信補償金制度とは

新しい制度では、公衆送信でも許諾を得ずにできる代わりに授業目的公衆送信補償金をお支払いいただくこととなりました。

紙のコピーが無償なのに公衆送信が有償となった理由は、コピーであれば、物理的制約があるため、著作物利用の頻度や量は比較的限定的です。一方、公衆送信は、時間的・場所的・物理的な制約が取り払われてしまうため、著作物が送信される頻度や量が大きくなり、権利者に及ぶ不利益の度合いが大きくなります。この国の審議会における検討結果を基に、オンライン教育における著作物の円滑な利用の促進をする一方で、それによってもたらされる権利者の不利益を軽減させることで、著作権の保護とのバランスを保つ必要があるとされたためです。

なお、紙のコピーも公衆送信もどちらの場合も、許諾を得ずに使うためには、著作権法に定められた一定の条件を満たす必要があります。この点については後ほど詳しく触れます。

補償金をお支払いいただくのは教育機関設置者です。公立の学校の場合は各地方自治体(教育委員会)、私立の学校の場合は学校法人となります。

この制度は、当初もう少し検討に時間をかけ、補償金額を法定の手続きに従って定めた後、2021年5月までに有償でスタートする予定でした。しかし、2020年に入ってから新型コロナウイルス感染症拡大の影響によりほとんどすべての学校でオンライン教育の対応を迫られたため、4月28日に改正著作権法が急きょ施行され、しかも補償金については、学校側の予算措置もなかったことに権利者側が配慮し、2020年度に限り、緊急的かつ特例的措置として無償(0円)とする形となりました。

この結果、現在は次頁「3.許諾を得ずに利用する条件」で挙げた条件を満たす場合、どの学校でも公衆送信していただけるようになっています。

SARTRAS

授業目的公衆送信補償金を管理する団体として2019年1月に設立され、著作権法の定めに基づき、日本で唯一授業目的公衆送信補償金を管理する団体として文化庁長官から指定を受けたのが、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会SARTRAS(サートラス)です。

SARTRASは、今後、法定の手続きを経て補償金の額を定め、2021年度からはその収受および権利者への分配の業務を開始する予定です。

3. 許諾を得ずに利用する条件

ここからは、図2で示した改正著作権法に基づいた著作物の利用について、許諾を得ずに利用できる条件についてお伝えします。

なお、ここからの説明は、文化庁等の出席のもと有識者を交えて著作権を有する者と教育関係者による検討の場として、2018年11月に設置された「著作物の教育利用に関する関係者フォーラム」が2020年4月16日にとりまとめた、新制度のガイドラインともなる『改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)』 (以下「運用指針」といいます)を基にしています。この運用指針には具体的な例も掲載されていますし、今後さらに例示も追加されていくと思います。運用指針はフォーラムのWebサイトに掲載されていますので、ぜひ定期的に更新の有無をご確認ください。

第35条第1項に定める条件の範囲内であること

この条文は、公衆送信を伴うオンライン教育を行う上で重要な5つの条件を定めています。それらのうち一つでも満たさない場合は、許諾を得てご利用いただく必要があります。

  • 非営利の「教育機関」であること
  • 「授業の過程の利用」であること
  • 「教育を担任する者」または「授業を受ける者」がする利用であること
  • 「必要と認められる限度」であることただし、以下の条件に該当する場合は、上の4つの条件を満たしても許諾が必要となります。
  • 「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」
  • 非営利の「教育機関」であること

おそらく皆さまは、この条件は満たしているのではないでしょうか。営利目的の私塾や各種学校等の認可を受けていない予備校、カルチャーセンターなどは対象ではありません。

  • 「授業の過程の利用」であること

授業の定義は、運用指針で「学校その他の教育機関の責任において、その管理下で教育を担任する者が学習者に対して実施する教育活動を指します」とあります。その過程で行われる複製や公衆送信であることが条件です。予習・復習は授業の過程とされています。

  • 「教育を担任する者」または「授業を受ける者」がする利用であること

複製や公衆送信をする人も条件の一つです。先生とその担任する児童生徒である必要があります。それ以外の人が複製したり公衆送信をしたりする場合は、授業のためであっても許諾が必要になります。

  • 「必要と認められる限度」であること

許諾を得ずに複製したり公衆送信したりできるのは、授業に必要な分だけです。生徒の人数分を超える枚数のコピーをしたり、授業に使わない部分まで著作物をプリントに使って公衆送信したりすると許諾が必要になります。

そして、ここまでの4つの条件を満たしていたとしても、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りではない」とされており、この条件を満たさない場合は、許諾を得なければならないという仕組みです。

  • 「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」

このことについて、運用指針は「学校等の教育機関で複製や公衆送信の利用行為が行われることによって、現実に市販物の売れ行きが低下したり、将来における著作物の潜在的販路を阻害したりすることのないよう、十分留意する必要がある」としています。

運用指針では、上記の記述に続けて、2つの基本的な考え方を示しています。

■複製部数や公衆送信の受信者の数

原則として、複製部数あるいは公衆送信の受信者の数は、授業を担当する教員等及び当該授業の履修者等の数を超えないこと。なお、著作権者の利益を不当に害することまでは認めていないことについて、十分留意すること

■著作物の種類と分量

紙、デジタル等形式にかかわらず原則として著作物の小部分の利用。ただし、小部分の利用が著作者人格権(同一性保持権)の侵害にあたる場合など、全部の利用が認められる場合もある

やや抽象的ですが、「複製部数や公衆送信の受信者の数」については、原則として担任する児童生徒の数を超えないこと、「著作物の種類と分量」については、原則として「小部分」とされています。

この「小部分」が具体的にどれだけの量なのかは示されていません。これは、著作物の種類(ものがたり、論説文、音楽など)ごとに、また授業の目的によってもその都度変わることが考えられ、なかなか定量的に示すことは難しいという事情があります。とはいえ、運用指針では検討課題としつつ、「可能な限り具体的な目安を示す」、全部利用できる場合も含め「例示等によって明確化する」などとしており、有償化後の指針となる令和3(2021)年度版とともに今後の検討を待ちたいと思います。

以上が著作権法第35条第1項に関する説明ですが、著作権法はこれ以外にも許諾を得ずに利用できる場合を定めています。その中から代表的なものを2つ、参考までに記しておきます。

引用であること(第32条)

第35条第1項にかかわらず、例えば、著作物を引用の範囲で書き写したプリントであれば全校生徒分コピーしたりインターネットで送信したりしても許諾を得る必要はありません。ただし、著作権法でいう「引用」は、法律の条文のほか、いろいろな裁判で争われた判例を基に、以下の要件のすべてを満たしてはじめて「引用」といえる、と理解されています。

【要件】
  1. 既に公表されている著作物であること
  2. 「公正な慣行」に合致すること
  3. 報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること
  4. 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
  5. カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
  6. 引用を行う「必然性」があること
  7. 「出所の明示」が必要(コピー以外はその慣行があるとき)

(出典:文化庁Webサイト)

非営利、無料、無報酬であること(第38条第1項)

著作物を演奏したり、上映したり、読み聞かせ(口述)したりするときの場合(これらを公衆送信する場合は第35条第1項が適用されます。)の条件です。非営利、無料、無報酬をすべて満たす必要があります。

おわりに

今後、SARTRASでは、いただいた補償金を、著作権を持つ人たちに分配する必要があります。このため、皆さまには分配のための資料のご提出にご協力をお願いすることとなりますが、2020年度はその前段階としてサンプル調査を行わせていただき、そこで得られた結果を、今後の分配のあり方はじめ、この制度をよりよいものにしていくために生かしていく所存でおります。

SARTRASは、今後もオンライン教育の推進と著作権の保護の両立をめざしていきます。皆さまのご理解とご協力をお願いいたします。

  1. 本文でいう著作権のほかに、著作隣接権という権利があります。音楽などの著作物について、CDのもととなる原盤を作ったり、演じたり、放送したりして広く人々に伝える役割のある人たちに認められている権利で、この権利があるのは、レコード製作者、実演家、放送事業者、有線放送事業者とされています。紙面の都合で著作権に絞って話を進めていますが、考え方の原則は同じですし、授業目的公衆送信補償金制度の対象でもあります。
  2. 対面授業(主会場)を遠隔地(副会場)へリアルタイムで配信(遠隔合同授業)するための公衆送信であれば、改正前の著作権法でも許諾を得ることなくできました。
  3. SARTRAS Webサイト(https://sartras.or.jp/)
  4. 『改正著作権法第35条運用指針(令和2(2020)年度版)』は、著作物の教育利用に関する関係者フォーラムWebサイトに掲載されています。(https://forum.sartras.or.jp/info/004/)

(2020年10月掲載)