教育情報化最前線

教員1人1台のタブレット端末を整備、
日常的なICT活用へ タブレット端末3,600台を教育センターから一元管理

小杉 哲男副主幹

大阪府高槻市教育委員会 教育センター

中村 吉博指導主事

大阪府高槻市教育委員会 教育センター

大阪府高槻市では、平成26年度に教員1人1台のタブレット端末を整備されました。あわせて全普通教室に電子黒板や大型テレビ、無線LAN環境を整えられ、教員が日常的にICTを活用できる環境を構築されています。平成27年度には、小学校のコンピュータ教室をタブレット端末(セパレート型)で整備され、児童が普通教室に持ち出して活用することも可能な環境になっています。

約3,600台にのぼる教員用・児童用タブレット端末を整備された同市の教育情報化の取り組みついて、またその運用管理について、高槻市教育委員会 教育センター 小杉 哲男 副主幹、中村 吉博 指導主事にお話を伺いました。

教員用タブレット約2,000台を整備、教員1人1台を実現

当市では、ICTを活用することで効率的で効果的な授業を実現し、教員の負担を少しでも軽減したいと考えています。これまでは教員が授業でICTを活用する際には、授業で使う教材のほかに、ノートPCやプロジェクタ、投影用のマグネットスクリーンなどを、教室へ持って行く必要がありました。特に、毎時間異なる教室で授業を行う中学校では、準備や片付けの負担が大きく、準備のために授業にも影響が出てしまう可能性がありました。

そのような不便を解消し、普通教室における日常的なICT活用を推進するため、平成25年度に、中学校の全普通教室に電子黒板機能付きプロジェクタを常設。平成26年度には小学校の全普通教室に大型テレビを整備しました。また同年、タブレット部分が着脱でき、ノートPCとしてもタブレット端末としても使えるセパレート型の端末を約2,000台整備。教員1人1台の環境としました。

これまで校務用の端末と授業で利用する端末を別々に整備していましたが、教員1人1台の端末整備に伴い、「校務」と「授業」の両面で利用できる環境にしました。校務で利用できる端末が増えたことで、成績処理などもやりたいときにすぐに取りかかれるようになり、教員が子どもと向き合う時間が十分に確保できるようになりました。校務と授業での利用を両立するにあたっては、セキュリティ対策にも配慮しました。専用の認証機器を使わなければ校務ネットワークに接続できない仕組みを用意し、誰もが「校務」と「授業」の用途に応じて切り替え、安心して使える工夫をしました。

授業でICTを使いたいときに、すぐに使える教室環境

この教員用端末には、授業をよりスムーズに行えるように、タブレット対応授業支援・学習支援ソフトウェア『SKYMENU Class』も導入。さらに、教員用端末と大型提示装置を無線でつなぐ機器も全普通教室に整備しました。この機器は無線LANのアクセスポイントも兼ねているので、校内ネットワークとも無線LANで接続できます。

これら一連の整備によって、授業で使いたいときに、教員用端末を教室に持って行くだけで活用できる環境が整いました。

翌平成27年度には、市内の小学校全41校のコンピュータ教室を更新しました。このとき、児童用端末も教員用端末と同じセパレート型で整備し、タブレット部分のみを手軽に持ち運びができるようにしました。また、普通教室や体育館など、さまざまな場所で活用することを想定して、以前からコンピュータ教室で使っていた『SKYMENU Pro』に加えて、教員用の端末と同じく『SKYMENU Class』も導入。コンピュータ教室でノートPCとして活用するときは『SKYMENU Pro』を使い、コンピュータ教室から持ち出してタブレット端末として活用するときは『SKYMENU Class』を使えるようにしています。さらに、情報セキュリティの強化やICT活用の支援のために、全教員端末とコンピュータ教室の端末(小学校)にクライアント運用管理ソフトウェア『SKYSEA Client View』を導入しました。

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机間指導しながら子どものノートを撮影し、すぐに投影できる

特定の教科でのみ使えるソフトウェアとは違い、『SKYMENU Class』はどの教科の授業でも活用できます。

例えば、[投影]機能を使って教員機の画面を大型提示装置に映して見せることで、子どもたちの顔が上がっている時間が増えたように感じています。顔が上がると自然と指示が通りやすくなり、短時間で正確に伝えられるようになりました。それだけ、子どもたちの理解も進みやすいと感じています。

また、机間指導しながら、全体で共有したい子どものノートを[カメラ]機能で撮影し、その場で[投影]することもできます。授業の進行に手間取らない分、子どもたち同士が意見を交わす時間をより多く設けられます。子どもたちの中には、いつ映し出されてもいいように、ノートを丁寧に書くようになった子もいるようで、学習意欲の高まりも感じられます。教員からも、ICTを活用した授業では発表回数が増えたという話を聞きます。

授業でやりたいことを、1つのソフトウェアで手軽にできる

普通教室での授業だけではなく、最近は体育の実技などでも活用されることが増えています。例えば、走り幅跳びの実技を動画で撮影して、子どもたち自身がイメージしている動きと実際の動きを比較したり、バスケットボールの試合の様子を撮影し、パスを受けるにはどの位置にいれば良かったのかを振り返ったりしています。そのほかにも、校内に落ちているゴミを写真撮影して美化活動に取り組むなど幅広い場面で活用しています。

以前であれば、写真や動画はデジタルカメラで撮影していました。そうするとSDカードでデータをコンピュータに移す手間がかかりますが、タブレット端末であれば、その場ですぐに再生できます。このような小さな手間の違いが、大きな違いを生みます。

こうした活動は子どもたちに操作させることもあるので、ICT機器を日常的に活用するには、「誰でも使える」「手軽に使える」ということがとても重要で、「すごいことができる」よりも「当たり前のことがすぐできる」方が大切だと考えています。その当たり前のことを、いくつものソフトウェアを使い分けて実現するのではなく、1つのソフトウェアの中でできるということが非常に大事になると思います。

年間約2,500件にもおよぶ問い合わせに[リモート操作]で対応

当市では平成26年度に、「ICT教育推進室」を設置しました。現在は、職員3名と指導主事1名に、専門スキルを持ったヘルプデスク担当者2名を加えた体制で、各学校のICT活用をサポートしています。あわせて、平成26年度、平成27年度に整備した教員用・児童用端末約3,600台には、クライアント運用管理ソフトウェア『SKYSEA Client View』を導入しました。

ICT機器に不調が起きたときの問い合わせは、ICT教育推進室のヘルプデスクで対応しています。担当者は、[リモート操作]機能で問題が発生した端末に接続して、どんな問題が起きているのかを確認。どんなエラーメッセージが表示しているのかも含めて、問い合わせた教職員と同じ画面を見ながらリモート操作して、その場でトラブルに対応しています。

ヘルプデスクでは、こうした問い合わせに年間約2,500件、1日平均10件程度対応しており、以前よりもきめ細やかに多くの対応が行えるようになりました。

学校では授業の合間の限られた時間に対応しなければならない場面もあり、教員からもトラブル対応が早くなって助かっているという声も聞いています。

操作履歴から各校の活用率を集計、校長にフィードバック

当市では、端末の操作履歴を使ってICTの活用時数を集計しています。以前は、アンケートなどで各学校に問い合わせていました。この方法では、どうしても授業ごとに活用時数を数えてもらう必要があり、教員に負担をかけてしまうことが課題でした。

現在は、『SKYSEA Client View』で収集した各端末の操作履歴のデータをファイルに出力し、別途集計してICTを活用した回数をカウントしています。日々収集される操作履歴データに基づいた集計なので、特定の調査期間の状況だけではなく、毎月の活用時数が正確に計れるようになり、数値を見て現状を把握したり、課題を分析したりする上で、非常に役立っています。

この数値は、長期休業日に入る前に各学校の校長先生にお渡しして、校内研修や活用方法の見直しに役立てていただくようにしています。もちろん、数値を競いあうようになってはいけないと思いますので、自校における月ごとの推移を見たり、活用が進んでいる学校の使い方を取り入れてみるきっかけになればと思っています。

ICT教育推進室では、単に数値を比べるのではなく、高槻市の小学校と中学校のそれぞれの特色に合わせて、子どもたちにとってわかりやすい授業にするには、どういう場面でICTを使うと効果的なのかという視点で検討を重ねています。

コンピュータ教室は、今後も継続して整備を続ける

今の子どもたちが働く時代には、約半分の職業がロボットで代替されている可能性があると言われています。情報化社会が進むなかでは、高度な技術を学ぶための素地を義務教育の中で培う必要があるため、情報モラルやプログラミングなど新たな要素が追加されています。

しかし、平成25年度に実施された「情報活用能力調査」では、キーボードを使った文字入力のスピードについて、小学生が1分間あたり5.9文字、中学生が1分間あたり17.4文字という結果が示されています。タイピングなどの基礎的な操作は、学校教育の中で身につけさせておくことが大切だと思います。これは、子どもたちがこれからの社会を生きていく上で必要な力です。こうした取り組みは、コンピュータ教室でしかできないと思いますので、今後も変わらず必要だと考えています。

そういう意味では、『SKYMENU Pro』の位置づけも変わりません。コンピュータ教室は、毎日の授業で使うわけではないため、いつも同じように使えることが大切です。さらに、「ワンタッチキー」を使えば電源を一斉に操作したり、ソフトウェアを一斉に立ち上げるといった基本的な操作が簡単に行えます。この手軽さがもっとも大切だと思います。

まずは教員が授業でタブレット端末を効果的に使える力を

国は今後、児童生徒1人1台の教育用コンピュータ環境をめざしています。タブレット端末をはじめとしたICTを子どもに活用させるとき、「ICTで、子どもたちに何を考えさせられるか」という観点で教員が考えることが欠かせなくなります。そのときに、教員が授業のなかでタブレット端末を効果的に使える力やICTを活用した授業をデザインする力を身につけていることが前提になると思います。だからこそ今、着実に実践を積み重ね、ICTならではの良さを引き出した授業の実現をめざしたいと考えています。

(2016年7月取材 / 2016年10月掲載)