学習指導要領 / 教育の情報化

特集ニューノーマルにおける学校教育<後編> 1人1アカウントの活用 新しい情報環境に適応した、新しい授業をつくる

GIGAスクール構想によって児童生徒1人1台端末が整備されました。これにより、コンピュータが児童生徒1人ひとりに配付され、常に自在に使える環境が整いました。そして端末と合わせて、児童生徒1人ひとりに「アカウント」も配付されました。私たちは目の前の「1人1台端末」に気を取られがちですが、これからの情報化社会を考えれば、「1人1アカウント」の活用が重要です。後編では、GIGAスクール構想によって整備された情報環境の活用について考えます。

奈須 正裕

上智大学 教授

国立教育研究所教育方法研究室長、立教大学教授などを経て2005年より現職。新学習指導要領に関わり、中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会をはじめ、数多くの部会に参加。小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議や2020年代に向けた教育の情報化に関する懇談会などの委員も務める。

「1人1台端末」よりも、「1人1アカウント」が重要

GIGAスクール構想による児童生徒1人1台端末の配付で、子どもたちはいつでもコンピュータを使えるようになりました。併せて、クラウド上のサービスを利用できる「ユーザアカウント(以下、アカウント)」も児童生徒1人ひとりに付与されました。これにより、クラウド上にストレージを持ち、さまざまなクラウド上のシステムやプログラムにアクセスできるようになりました。つまり、自分のアカウントでログオンすれば、どの端末からでも自分のデータや情報環境を使える環境が整ったのです。

例えば、自宅のコンピュータに自分のアカウントを入力して、ログオンし、クラウド上のストレージにファイルを保存。翌日、学校の端末でファイルをダウンロードして、先生や友だちに紹介するといったことができるのです。

また、個人のファイルをすべてクラウド上に保存しておけば、端末が故障した場合に便利です。子どもが予備の端末にログオンすれば、直前まで編集していたデータを読み出して、そのまま学習を継続することができるのです。

低学年からログオンの習慣を身に付ける

これからの情報環境では、アカウントの扱い方がとても重要です。児童生徒が端末に電源を入れると都度求められる「自分のアカウントのIDとパスワードを入力する」という作業は、非常に大切な行為であるといえます。

しかし、学校現場からは「コンピュータの電源を入れれば、自動的にログオンするように設定できないだろうか」「ログオンの操作は不要ではないか」という声も聞きます。確かに主に低学年の児童生徒にとって、ログオン操作は負担になり、使い勝手は悪くなります。とはいえ、コンピュータの電源を入れるだけで、すぐに誰でも使えるという環境はセキュリティ対策として良手とはいえません。

コンピュータをはじめ、情報端末に自分のアカウントでログオンするという行為は、今や誰もが行っている当たり前の行為です。ぜひ学校では、情報端末を一生涯触れる子どもたちにとって、「基本的な概念」や「構え」を形成する上で極めて大切な行為であると捉えて、ログオンの指導をしてほしいと思います。

これからの社会の基盤となる情報環境を理解させる

「アカウントが主で、ハードウェア(端末)が従である」。この事実は、「モノ」から「コト」へと変化する、今の社会そのものを表しています。身近な例でいえば、カーシェアなどがその典型です。かつて、私たちは車という「モノ」を買うことで、遠くまで自由に移動する機能、「コト」を手に入れていました。しかし、今は車を買わず、借りたり、共有したりすることで機能、「コト」を手に入れられるようになりました。今、「第4次産業革命」や「Society 5.0」「持続可能な社会」などといわれていますが、要は「モノ」から「コト」へと「社会の構成原理」が変化しているということなのです。

子どもたちの手元の端末が変わっても、クラウド上にデータやシステムがある。だから、どの端末からでも必要な機能が使える。「モノ」がなくても、必要な「コト」が行える。そのことを低学年のうちから経験させ、理解させることが、GIGAスクール構想のねらいであり、本質です。1人1台端末の整備は、これからの社会の基盤となる情報環境を子どもが理解するためのものであるということを、まずは共有したいと思います。そして、そのことを踏まえたうえで、日々の学習活動でどのようにコンピュータを使っていくのかを考えてほしいのです。

一方的に知識を与える授業は通用しなくなる

では、学習活動のなかで1人1台端末を、どのように活用すればよいのでしょうか。多くの先生方は、「調べ学習」を真っ先に思い浮かべると思います。

今は情報端末から誰もが自由に、手軽に情報にアクセスできる時代になりました。知っていることよりも、調べて得た情報の「信憑性」を判断したり、情報をもとに自分の考えを整理したりすることがますます重要になっています。「子どもが自ら調べる」という行為が、これからの学習活動で重要になることは間違いありません。

とはいえ、インターネット検索には、多種多様で膨大な量の情報が表示されます。子どもがさまざまな情報を得てしまうため、これまでのような一方的に知識を与える授業は通用しなくなるでしょう。

特にインターネット検索で一通りの情報を調べて、おおよそのことを理解した子どもは、「ここまではわかったが、ここからがわからない」「矛盾する情報が出てきたけど、どのように捉えるべきだろうか」と、より本質的な問いを発するようになります。獲得した情報が、本当に信用できる情報なのかと考えたり、いくつかの情報と比較したりすることで、新たな気づきや疑問が生まれて、学びが深まっていくのです。教師は、そうしたさまざまな子どもの気づきや疑問を聞いて、判断しながら授業を展開する必要があります。授業づくりはより難しくなり、先生方は大変になると思います。けれども、これまでの「知識を一方的に伝達する授業」よりも、面白い授業が実現できます。それは、教科の学力向上にもつながります。

すでに子どもたちを取り巻く情報環境は変わりました。新しい情報環境に適応した、新しい授業をつくる。そのために私たち教師が一歩踏み込んでいけるかどうかが、今、問われています。

まずは、コンピュータの操作を理解することや、
文字を入力できることが大切です。

「調べ学習」は、操作や入力スキルの習熟に適さない

今、学校現場で課題となっているのは、具体的にどのようにコンピュータ活用を始めればよいのかということだと思います。まずは、子どもがコンピュータの操作を理解することや、文字を入力できることをめざすべきです。先ほど、調べることが重要であると述べましたが、「調べ学習」からコンピュータの活用を始めようと考える先生も多いと思います。

しかし、私はコンピュータ操作やキーボード入力スキルの習熟をねらって、調べ学習を行うことをお勧めしません。理由は2つあります。

一つは、「検索スキルの不足」です。子どもたちは、どのような言葉で検索すれば、求める情報が得られるのかがわからないのです。そして、適切な検索語を選ぶ力は、何度も検索を積み重ねることで獲得できます。活用の初期段階では、キーボード入力が不得手ですから、検索語を入れて試すことは容易ではありません。3つの検索語を入力するだけでも大変でしょう。

もう一つは、「文字変換の難しさ」です。例えば、社会の授業で調べる場合、人名や地域の名称で検索します。固有名詞が多く、変換ミスをたくさんしてしまうのです。結果、本や国語辞典で調べるよりも効率が悪いのです。何度も変換に失敗して、どうにか単語を入力できたとしても、先ほど述べたように検索スキルの不足から適切な検索語が入力できていない。結果、求める情報になかなか行きつけない。さらに、多くの子どもは、検索し直す際に、一旦入力した内容をすべて消します。そこから再度入力するので、効率が非常に悪いのです。

つまり、苦労する割に、学ぶことが少ない。そして面白さや楽しさを感じられず、コンピュータが嫌になるという悪循環が生まれる危険性があるのです。

「ワープロソフトウェアで、文章を作成することから始める

ワープロソフトやキーボードを使った文章作成は理にかなっている

原稿用紙に何度も文字を書いて書き直すことが面倒

では、一体何からコンピュータを使い始めればよいのでしょうか。私は文章作成ソフトウェア、いわゆるワープロソフトウェアを使った文章作成が良いと考えています。

子どもには、文章を書く機会がたくさんあります。しかし「文章を書くことが嫌いだ、苦手だ」という子は少なくありません。その理由を聞くと、多くは「原稿用紙に何度も文字を書いて、書き直すことが面倒だ」と言うのです。具体的には、一文字の書き間違いや一字下げを間違っただけで、書いた文字を消しゴムで全部消す。そして一からまた書き直すのが嫌だというのです。一生懸命に書いたことが無駄になる、徒労に終わることが嫌なのです。

実際、作文指導が上手な先生は、一度書いた文字を消したり、書き直させたりはしません。プロの作家がやるように、括弧を入れたり、横に書き足したり、さらには別のページに書き直して貼りつけるといった指導をするのです。一度書いたことを無駄にしていません。

こうしたことを踏まえると、ワープロソフトウェアやキーボードを使った文章作成は理にかなっています。一字下げはキーボード操作一つでできますし、一度入力した文字は、マウス操作で好きな場所に自由に動かせます。何一つ無駄になりません。

この良さをできるだけ早い時期に子どもに経験させたいのです。もちろん最初は文字の入力に苦労します。けれども、それが徒労に終わらないことが分かれば、子どもは苦労を厭わなくなります。

アサガオの観察日記や町新聞のフォーマットを作っておくと便利

コンピュータでの文章の作成は、1、2年生のアサガオの観察などから始めるとよいと思います。ほかには、町探検をした後に町の様子をまとめるカードや新聞を作るとか、町の人への御礼のお手紙を作ってもよいでしょう。

入力の手段は、1年生なら手書き文字変換、2年生の児童は五十音のキーボード入力でも構いません。観察記録やまとめのカード、表彰状などは、文字や写真を入力するだけで完成できる「フォーマット」をあらかじめ作っておくと便利です。

ある児童は、「あなたのお店は、町のために頑張っています」などと入力してプリンタで印刷。商店街のおじさんに感謝状として渡していました。文字を書くことに苦手意識のある子どもは、手紙や感謝状などを作る気持ちにはなかなかなれません。しかし、コンピュータは正しく文字を打ち込みさえすれば、後はプリンタが綺麗な文字を印刷してくれます。字の上手下手を心配せず、思いを積極的に表現しようとするのです。

アサガオの観察日記をワープロソフトウェアで作成すると、過去の観察記録を見返す子どもが増えます。手書きだと自分の文字であっても、綺麗に書けていなければ、積極的に見返したくないということでしょう。もちろん綺麗に文字を書けるように指導することは大切なのですが、それは別の機会でしっかりと指導すればよいことです。

できれば低学年、遅くともローマ字入力を学習する3年生から、コンピュータで人に渡す文章や記録に残す文章を作ってほしいと思います。

オフラインでも使えるから、持ち帰り学習に適している

ワープロソフトウェアは、オフライン環境でも利用できるので、持ち帰り学習にも適しています。最初は、文字を入力する速度が遅いので、「授業中に終わらなかったら、お家で書いてきてね」とすれば良いと思います。子どもたちは喜んで取り組みます。

そして、コンピュータで文章を書いている子どもを見ると、保護者は安心します。例えば、家でインターネットを使った調べ学習をさせると「コンピュータで遊んでいるのではないか」と不安に思う保護者が少なくありません。ところがコンピュータで文章を書いていると、「コンピュータで勉強している」と、前向きな印象を持たれやすいのです。

また、子どもたちは運動技能の習得にこだわる傾向があります。キーボード入力は運動技能のようなものですから、「大人のように格好良く、素早くキーボード入力ができるようになりたい」という思いがあります。親兄弟、友だちに教わって、家でこっそりキーボード入力の練習をしてくるのです。入力スキルの向上にもつながるので、一石二鳥の取り組みになります。

「型」や「推敲」がある説明文から、本格的な文章作成を

コンピュータを使って本格的に文章作成をするのは、国語の説明文の学習が適しています。説明文は、今まで読解が中心でしたが、今は読解の後に学んだ「文章の型」をなぞって、説明文を子どもが作るという学習が設定されています。例えば、小学校3年「姿をかえる大豆」の授業では、麦はパンやうどんに変わることをコンピュータで簡単に調べ、説明文をワープロソフトウェアで書いていました。型をなぞって、何をどのように書くかが決まっていれば、少し調べるだけで文章の構想ができます。説明文をどんどん書き進められるのです。もし、感想文や意見文であれば、「何をどのように書くのか」ということに子どもの時間が割かれ、授業時間が足りなくなってしまいます。

もう一つ、説明文が適している理由として、「推敲」があります。どの例を、どの順序で出せば最も説得的な文章になるのかと考えるのです。すると、思いつきで入力していた文章の順序を入れ変えなければなりません。文章を丸ごと入れ替えるという作業は、原稿用紙に書いていれば、非常に手間がかかる作業です。

しかし、ワープロソフトウェアを使えば、対象のテキストをマウスでドラッグして移動させるだけで入れ替えられるのです。こうした「コンピュータの便利さ」を見た子どもたちは大興奮です。コンピュータ上で全ての組み合わせを試したり、できた文章をプリンタで印刷して並べたりして検討する子どもが出てきます。原稿用紙を使った従来の学習ではあり得ないことです。

また、マウス操作で段落を丸ごと変えるという操作は、マウスの正確な操作やドラッグ&ドロップ、コピー&ペーストなどの技術を身に付けることに役立ちます。加えて、ファイルの出し入れや、少しずつ内容が異なるバージョンを保存するといった、コンピュータを操作する上で大切な知恵も身に付きます。3、4年生の段階で、コンピュータを扱う上での基本的なことが習得できます。

活用するソフトウェアの位置付けを明確にして、
これからの授業や整備を考えてほしい。

まずは、コンピュータを子どもの「文房具」にすることが大切

まずは、コンピュータを子どもの「文房具」にすることが大切です。私が文章作成の事例を紹介する最大の理由は、文章作成を通して子どもたちが皆、「コンピュータが好き」になっているからです。毎日、何時間も自分のペースで触れるので、コンピュータを「相棒」のように感じて親しみを持つようです。やがて、子どもは「これがないと家でしごとができない」などと言って毎日、コンピュータを家に持ち帰るようになります。自然な形でコンピュータが鉛筆やノートのような文房具になっていくのです。

それから、ワープロソフトウェアを使えるようになれば、表計算、プレゼンテーションなどのソフトウェアはすぐに使えるようになります。ワープロソフトウェアなどの大人が仕事で使うソフトウェアを、「思考する道具」として積極的に活用してほしいと思います。今後、一生涯コンピュータと付き合う子どもたちにとって、そのスキルの獲得は重要です。

そして、その活動に加える形で、議論や協働など、学校教育に特化した学習用ソフトウェアなどを使い、さらに学習効果を高めてほしいと思います。例えば、作文指導をする際に、子どもの画面を大型テレビなどに大きく投影します。「この場合はどの順序が良いだろうか」などと集団で考えると、学習効果が高まります。

先生方には、活用するソフトウェアの位置付けを明確にして、これからの授業や整備を考えてほしいと思います。

(2021年6月掲載)