教科指導の中で情報活用能力をどのように育むか

教科指導の中で情報活用能力をどのように育むか

新学習指導要領では、「情報活用能力」を「学習の基盤となる資質・能力」と位置づけ、教科横断的に育成する旨が明記されています。各学校が設定する教育目標を実現するために、どのような教育課程を編成し、どのように実施していくのか。プレゼンテーション力の育成を中心に、中川 一史 放送大学教授、岩﨑 有朋 鳥取県岩美町立岩美中学校教諭、朝倉 一民 札幌市立伏見小学校主幹教諭にお話しいただきました。

情報活用能力は、言語活動と並んで
学習の基盤となる資質・能力

中川 一史放送大学教授

情報を「厳選」「要約」する力をどのように育むか

新学習指導要領において、情報活用能力は言語能力と並んで学習の基盤となる資質・能力とされています。そして各教科、領域の中に情報活用能力に関する内容が多く記述されています。今回は、情報活用能力の中でも「情報活用の実践力」、「プレゼンテーション力(以下、プレゼン力)」を核に、お話を進めたいと思います。

まず「情報活用の実践力」とは、文部科学省(2017)「21世紀を生き抜く児童生徒の情報活用能力育成のために」において「必要な情報の主体的な収集・判断・表現・処理・創造」と「受け手の状況などを踏まえた発信・伝達」と示され、さらにそれらを支えるものとして、「課題や目的に応じた情報手段の適切な活用」が描かれています。

それを踏まえて新しい学習指導要領を考えたとき、これからの子どもたちに特に必要とされる資質・能力として「情報を要約する力」や「情報を厳選する力」があると考えています。例えば、新幹線の客室扉の上には、非常に短い言葉でニュースが端的に表現されています。情報を厳選する力、要約する力の最たるものだと思います。

ちなみに「要約する」とは、小学校学習指導要領解説国語編で「文章全体の内容を正確に把握した上で、元の文章の構成や表現をそのまま生かしたり自分の言葉を用いたりして、文章の内容を短くまとめること」と書かれています。

また、小学校学習指導要領では、小学校5、6年国語で【図1】のように書かれています。取材した情報の整理や構成の検討、適切な資料の活用、伝える相手の意識化、やりとりによる考えの広がりや深まりについて言及されており、要約したり、厳選したりする力が必要であることがわかります。

【図1】

けれども、私たち大人が仕事で、子どもが学習で使用しているプレゼンソフトの多くは、何でも自由に表現できる便利なものばかりです。スライドや写真は何枚でも挿入でき、エフェクトを駆使した表現も可能です。まさに「何でもあり」の状態です。そうなると授業では、教師が助言をしない限り、子どもたちは文字数やスライドの枚数、写真、図表の数、さらにはスライドのめくり効果など、何でも盛り込んでしまいます。情報がどんどん盛り込まれ、内容が多くなりすぎて、最後はそのままスライド上の言葉や発表原稿を読み上げるだけ、というプレゼンになります。さらには、教師が指導や助言をせず、そのまま発表が進んでしまうという場合もあります。

情報を厳選する力を育む[シンプルプレゼン]を開発

一体どうすれば子どもたちが情報を厳選する力や要約する力を身につけることができるでしょうか。こうした課題を解決することをめざして、今回、Sky株式会社との共同研究で[シンプルプレゼン]機能を開発しました【図2】。

【図2】

開発にあたって強くこだわったのは、先生も子どもたちも迷わずに使える「シンプル」なツールであるということです。具体的には、文字の色やサイズ、フォントの種類などを厳選し、スライドを作成するための必要最低限の機能のみを搭載しています。さらに、テキストボックスの数やテキストボックス内の文字数に上限を設け、上限を超えると警告が表示され、プレゼンが実行できなくなるという仕組みも搭載しました。これによって、子どもたちは「どの情報を残して、どの情報をそぎ落とすのか」「何をメッセージとして伝えたいのか」と考える必要に迫られるので、学習の本質的な部分により集中させられています。

制限(情報活用レベル)は、子どもの実態に合わせて活用できるよう、小学校と中・高等学校で、それぞれ初級、中級、上級と3つのレベルを用意しています。

この[シンプルプレゼン]が、授業でどのように作用したのかを、岩﨑先生からお話しいただきます。

中学校におけるプレゼン力の育成

情報を厳選する過程で教科の
理解を深める

岩﨑 有朋鳥取県岩美町立岩美中学校教諭

私は鳥取県岩美町立岩美中学校で理科を担当しています。

3年生の「エネルギー資源とその利用」という単元で、プレゼンを取り入れた授業を行いました。

本校の生徒たちが住む岩美町は、山も海も豊かで人口は1万人ほどしかいない、小さな町です。この単元の目標は、「持続的可能な社会を作っていくことが重要であることを認識させる」とありますので、「自分たちの住む岩美町に新たに発電所を設けることになった。もし設けるならば、水力発電所か火力発電所のどちらが良いと思うか。自分が推進したいと考える発電を、役場職員の立場で住民に説明しよう」という課題を設定しました。

また、生徒たちは、岩美町の町民でもあります。「火力発電推進派と水力発電推進派のプレゼンをそれぞれ聞き、自然環境と町の将来を天秤にかけて、長期的な判断を下し住民投票をしよう」という課題も設定しました。プレゼン資料は、『SKYMENU Class』の[シンプルプレゼン]で作成しました。

投票の結果、水力発電推進派と火力発電推進派の割合は12対12でした。単元の当初は22対2の割合だったので、最終プレゼンを経て10名の生徒が立場を変えました。その理由を確かめると「相手のプレゼンを見たときに、自分が町民だったら火力発電の方が良いと気持ちが動いた」といった感想がありました。ほかにも、「自分が投じた一票で未来が変わると思うと、自分の意思で決めることが大切だ」「相手の意見を尊重したい」といった感想もありました。彼らが一生懸命プレゼンをして、その中で相手のことも考えて一票を投じたからだと思います。(授業の詳細はこちら

[シンプルプレゼン]の制限する仕組みは、学習活動にどのように働きましたか?

時間どおりに授業が進みました。これまで一般的なプレゼンソフトを使っていたのですが、生徒がスライドの作成に集中するあまり、時間どおりに授業が終わらない。放課後も延々と作業するといったことが多くありました。

それから、生徒たちが理科の言葉を大切にしながら、理科の本質的な部分に注目して学習に臨めました。ソフトの操作や装飾や配色などに目が向かず、教科の内容に集中して学習を進められたと思います。

プレゼンを行う授業の位置づけや意義、留意点をどのように考えていますか?

【図3】

【図4】例えば【図3】のようなスライド。明るい背景に黄色の文字が使われていて文字は読みにくいですし、スライドの装飾にこだわるあまり、火力発電所の提案なのに水を連想するような背景になってしまっています。こうした発表資料は、どの学校でも見られるのではないかと思います。今回使った[シンプルプレゼン]は、学習内容と関係のないスライドを装飾するような機能がすべてそぎ落とされています。それどころか【図4】のように制限だらけです。

このような厳しい制限の中で、生徒たちがプレゼンをまとめられるよう、授業の最初に次の3つのポイントを示しました。

  • ① 伝えたいことを短い文章にする
  • ② 文章のイメージに近い写真を選ぶ
  • ③ 表示されない部分の行間を語る
「文字数や写真数が制限されることで、
言葉による説明力がすごく身についた」

この中で最も重要なポイントは「③表示されない部分の行間を語る」です。

【写真1】授業では、まず教科書を読んでノートに情報をまとめ、そこから[シンプルプレゼン]でスライドを作るのですが、制限があるので情報をそぎ落とさなくてはいけません【写真1】。

【写真2】この過程が本当に苦しく、生徒は「先生、あと一文字が削れません」というのです。辞書で類義語を調べたり、友だちからアイデアをもらったりしてどうにか一文字を削り出していきます。けれども、その苦しい作業を繰り返すうちに、短いフレーズでストーリーが思い出せるようになります。そうなると、後はタブレット端末でスライドを見せながら、すらすらとプレゼンができてしまう。スライドが補助的なものになり、相手との対話の中で納得を引き出すというプレゼンが行われていました【写真2】。

授業後の生徒の感想には「いつもだったらスライドを見ながらその文字どおりにしゃべっていることが多いけれど、文字数や写真数が制限されていることで、言葉による説明力がすごく身について良かった」といった声を聞くことができました。

プレゼンを考える過程で、学習内容をより深く理解できる

理科の限られた時間の中で、どこまでプレゼン、あるいは情報活用能力の育成に力を割けるものでしょうか。

まず時間編成に工夫が必要です。私はまず単元を見通して、この単元の最後に何をさせたいのかを考えています。彼らがプレゼンで、自分の言葉で語ることで理解がより深まるだろうと考えれば、例えばプレゼンの時間を1時間設定します。そうと決めれば授業時間をやりくりして時間を作る必要があります。1時間作らないといけないから、単元の前半で少し一斉授業的な指導をするといった調整を行っています。

今回活用した[シンプルプレゼン]は、さまざまな教科で利用可能なソフトです。中学校であれば、より高度なことに取り組めると思います。ただ、そのときに「こんなプレゼンの力、情報活用能力の力を持った子どもを育てよう」という子ども像を全教師が共通して認識していることが大切です。各先生方が、各教科の目的に合った実践に落とし込んでいくために、カリキュラムマネジメントが必要です。

小学校におけるプレゼン力の育成

プレゼンに至るまでの
学習過程を重視して指導

朝倉 一民札幌市立伏見小学校主幹教諭
実践時:札幌市立屯田北小学校主幹教諭

私が勤務する札幌市立屯田北小学校は、札幌市の北区にある全校児童476名の学校です。今、本校では新学習指導要領の全面実施に向け、一斉授業からのシフトチェンジを進めています。

本校におけるプレゼン指導の実際ですが、小学校段階では、プレゼンの質よりも、プレゼンに至るまでの学習過程が大事だと考えて取り組んでいます。

≪ 6年・国語「未来をよりよくするために」 ≫

【写真3】教材文を読んだ後に「自分たちにとっての平和とは何か」をプレゼンするという題材でした。まず【写真3】のように、板書でプレゼンスライドの作成方法を確認し、作成したプレゼンを教室で発表してもらいました。スライドは、タブレット端末のカメラで教科書や資料を撮影して、それを切り貼りするというシンプルな方法で取り組みました。

≪ 6年・社会「聖武天皇大仏をつくる」 ≫

聖武天皇は、どのようにして大仏をつくったのか。それはどのような過程で、どのようにして作ることができたのか。【図5】のように、子どもたちに集団解決させて、プレゼンをさせました。話すこと、アウトプットすることで概念的知識が形成され、子どもたちの知識が深まりました。

【図5】
≪ 6年・社会「高齢者の願いをかなえる政治」 ≫

「札幌市まちづくり戦略ビジョン アクションプラン」について、キッズコメントを募集していたので、市長にプレゼンで訴えるという、学級や学校という枠を飛び越えた学習活動に取り組みました。「お年寄りの生活の改善」をテーマに、お年寄りの生活について調べたり、実際にお年寄りが住む施設に訪問したりして、市の政策に対する改善案を考え、プレゼンで提案をまとめました。提案後、札幌市のWebページに市長からの回答があり、提案の一部に対して回答を得ることができました。社会に参画するという意味でのアウトプットにもつながりました。

プレゼンを教科学習に取り入れる上では、目的意識や「誰に発表するか」という相手意識が重要です。それによって、プレゼンの内容が大きく変わります。教師がゴールを明確に示すことが大切です。

各教科・領域でプレゼンの指導をどのように位置づけていますか?

【図6】は、国語の学習過程のイメージです。一番上の赤枠の部分を見ると、学習過程の中に表現が位置づけられており、プレゼン学習の展開が可能であることが分かります。算数も「筋道立てて考えていく問題解決」、さらには「仲間と交流し合うこと」 「自分の考えなどを数学的な表現を用いて説明すること」が位置づけられています。社会は、プレゼンと非常に相性が良く、さまざまな場面で調べることが多くあります。「調べたことを考察して自分の考えを構想して説明する」 「選択・判断してそれを表現する」というような場面でプレゼン学習は位置づくと思います。理科でも「実験結果などから自分たちの考えを考察して表現伝達する」とあります。

【図6】

<画像を拡大する>

主要4教科を上げましたが、プレゼン力はどの教科においても横断的な部分として使え、必要な力だと考えています。

教科ごとでプレゼンの指導にどのような違いがありますか?

例えば、国語では、どのような言葉を使っているのか、相手に説明するためにどのような文脈で話すと良いかといった言葉、言語活動を強く意識します。社会では、もちろん言葉も大事ですが、どのような資料を使っているか、考えがどこから来ているのか、出典は何かといった部分を大事にします。算数であれば、筋道立てて回答できたか。理科であれば、どのような観察や実験を経て結果が現れたのかを説明できているかどうかといった点を重視しています。教科、領域の特性や違いを意識して指導しています。

小学校段階では、1つひとつをしっかり教えることが大切

このほかに、どのような点に留意して指導されていますか?

本校では 「プレゼンテーションの基礎基本」という冊子を使い、アナログで岩﨑先生の実践にあったような「制限」を与えて考えさせています。具体的には、【図7】のようなシートを使い、テーマを「5W1H」で捉え直すことや、課題解決に向けてどのような情報を調べればよいのか。調べる内容はどのようなことがあるのかといった点まで具体的に考えさせています。1つひとつをしっかりと教えることが、小学校のプレゼン指導ではとても大切だと思います。

【図7】

情報専科と情報教育カリキュラムで系統的な指導を

それから、本校では私が「情報専科」のような形で、ICTが苦手な教師の授業や授業づくりをサポートしています。「屯田北小情報教育カリキュラム」も作成し、半年で各学年3時間程度の指導時間を確保しています。また小学校では、マウスのクリック、ドラッグ&ドロップ、ローマ字入力などの基本的な力が4年生までに身についていないと、プレゼン指導までとてもたどり着けません。特に今の子どもたちはマウスの操作を知りません。まずは基礎基本からスタートして、高学年になって本格的にプレゼンやプログラミングに取り組むといった形で指導をしています【図8】。

【図8】

プレゼン指導では、まずは型にはめるという指導があると思います。朝倉先生は「型を取るタイミング」をどのように見取っていますか?

子どもたちが目的意識をはっきりと持ち、ゴールが明確になっていること。そして何よりも「楽しい」と感じているときだと思います。最初は型どおり進んでいたのだけれど、「型によって思うようにできない」という「もどかしさ」を子どもたちが感じる。そして、子どもたちから「先生、こういう風に取り組んでもいい?」といった要求が出てきたときに初めて型から離します。そうすると、学習活動がさらに広がり、やがて自分たちが本当に伝えたいことが見つかる。型を破った「自分たちのプレゼン」ができます。

【図9】【図9】にプレゼン4要素と書きましたが、これらのどこに重点を置くのか。それは学習内容や意図によって異なります。朝倉先生からは、段階的なプレゼン指導、情報活用能力の指導のお話もありました。それらを含めて、われわれがどの教科の、どの学習場面でプレゼンの指導を取り入れていくのか。情報を厳選する力、要約する力を身につけさせるのか。各学校で検討していただきたいと思います。 

※学校とICTフォーラム(大阪会場)パネルディスカッションより
(2019年6月掲載)