授業でのICT活用

鳥取県岩美町立岩美中学校 中学校3年 理科「エネルギー資源とその利用」 [シンプルプレゼン]で鍛える情報活用能力

1.中学校における情報活用能力

平成29年7月に示された中学校学習指導要領解説 総則編には、学習の基盤となる資質・能力として、言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力等と記されている。また、そのあとの記述には、情報活用能力の定義として「情報活用能力は,世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え、情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力」としている。つまり、課題発見・課題解決型の学習過程を通して繰り返し育成する必要があり、その繰り返しの先に新たな価値の創造がある。その能力を学校教育の教育課程内で育成するのだが、その場合、学級内の他者と協働的に学ぶ場面が少なからず生じる。課題について調べている情報だけでなく、自分の考えと他者の考えもそれぞれの情報である。それらを批判的に比較・検討したり、相反する考えの中から合意できる部分を建設的に探ったりする活動を様々な学習過程に盛り込むことが求められる。これらを効果的に育成するためには、ここにカリキュラム・マネジメントの重要性が見えてくる。

2.理科で育成する資質・能力

中学校理科では、思考力・判断力・表現力等及び学びに向かう力、人間性等に関する学習指導要領の主な記載内容として下記のようにまとめられている。

思考力・判断力・表現力等といった資質・能力については次のとおりである。

1学年 問題を見いだし見通しをもって観察、実験などを行う中で、規則性、関係性、共通点や相違点、分類するための観点や基準を見いだして表現すること。
2学年 見通しをもって解決する方法を立案して観察、実験などを行い、その結果を分析して解釈することで規則性や関係性を見いだして表現すること。
3学年 見通しをもって観察、実験などを行い、その結果(や資料)を分析して解釈することで、特徴、規則性、関係性を見いだし表現すること。また、探究の過程を振り返ること。

また、3学年では、エネルギー・粒子領域で育成する資質・能力について「見通しをもって観察、実験などを行い、その結果を分析して解釈するとともに、自然環境の保全と科学技術の利用の在り方について、科学的に考察して判断すること」と追記されている。中学校理科の学習は問題解決過程であり、先の述べた情報活用能力を育成するための課題発見・課題解決型の学習過程とつながる(図1)。

3.授業の設定

次に、実際の授業について述べる。今回実践した単元は中学3年エネルギー領域の「エネルギー資源とその利用」である。エネルギーや物質についての理解を深め、日常生活や社会と関連付けながら、エネルギー資源や物質を有効に利用することが重要であることを認識させる単元である。また、それと合わせて科学技術が我々の生活に貢献していることなどについても認識を深めさせ、思考力・判断力・表現力等を育成する単元でもある。

火力、水力、原子力等の発電についての理解や、我々の文明が電気を必要とし、様々なエネルギーを電気エネルギーに変換して社会生活を行っていることを学習するのだが、場合によっては知識ベースの調べ学習で終わりかねない。

主体的・対話的で深い学びにするために、この単元を構成する上でそれぞれ次の対応を考えた。

  • 主体的な学び = 切実感のある自分ごと
  • 対話的な学び = 意図的な衝突場面
  • 深い学び = 現在と将来をつなぐ見方・考え方

つぎに、この3つの学びについてもう少し具体的に触れる。

1切実感のある自分ごと

本校のある岩美町は人口1万人程度の小さな町である。北側には海岸線が広がり、南側には兵庫県と隣接する山地が広がっている。

人口も年々減少傾向にあり、今年度から1学年が4クラスから3クラスとなり、生徒も人口減少を目の当たりにしている。一方、幼い頃から町の手厚い支援で育ってきている生徒たちは、地元をとても愛しており、そういう意識に揺さぶりをかけることで学習への意欲づけができないかと考えた。そこで、学習課題は「地元の財政確保のために発電所を誘致する場合、火力発電所と水力発電所のどちらがよいだろうか。住民説明会を行い、その後住民投票を行うので、そのためのプレゼンを作成し、住民説明会で代表者が説明すること」というものにした。

自分たちの町に発電所を建設するとなると、慣れ親しんだ町の自然に手を加えることになる。必要な開発と守りたい環境。それも他人の町ではなく、自分の町でという条件設定にすることで、生徒にとって自分ごとでのマインドセットができた。

2意図的な衝突場面

火力発電所推進派と水力発電所推進派の2つにクラスを分けた。発電所建設は必須で、住民には火力か水力のどちらの発電所建設を望むのかといった二者択一の状況にすることで、対決姿勢がはっきりしてくる。クラスは6班編成で、それぞれ3班ずつ、火力と水力に分かれてプレゼンを作成した。各推進派に分かれる前、あくまで個人の判断としてどちらの発電所建設を望むのかといった質問をしたところ、火力:水力=2:22と圧倒的に水力推進派が多かった。そのような背景をもとにそれぞれの推進派に分かれてプレゼンを作成したが、その時には様々なレベルでの衝突場面を想定した。

①個人内での衝突

先ほどの投票からすると、半分近くの生徒が、最初に賛成した水力推進の考えとは相反する火力推進派として火力発電のメリット・デメリットを調べ、住民説明では火力発電に賛成してもらうプレゼンを作らなければならない。個人の考えと、立場としての考えの衝突がそれぞれの生徒の中で起きることとなる。

②班内での衝突

班ごとで推進派を割り振りしたので、班内では同じ発電方法でのプレゼンを作っている。個人でプレゼンを作ったものを班でミニ発表会をし、班で一つのプレゼンを作る設定にした。そうすると、同じ水力発電でも、様々な発電方法が規模によって違っており、どの方法を採用するのかといったことで、同じ推進派同士でも衝突が起こることが考えられた。

③同一推進派内での衝突

各班で1つにまとめたプレゼンを同じ推進派同士で発表し合う場面を設定した。これにより3つの班が発表し、それをさらに1つにまとめることになる。ここでも同じ推進派でも、その考えや根拠となる部分が違うので、意見の対立や集約に向けての合意形成などが行われることになる。

3現在と将来をつなぐ見方・考え方

発電所建設はあくまで学習上の仮定の話だが、しかし我々の使っている電気はどこかの発電所でつくられ、それが送られてきている。そうなると、今学習して葛藤している建設場所のことや、発電所の稼働に伴うデメリットの軽減など、現実にどこかでは行われているはずである。また、今以上に電力が必要な時代になり、一方では将来町の存続のためにひょっとしたら現実味を帯びてくる話かもしれない。決して絵空事ではない状況を背景に持ちながら、感情論で議論するのではなく、科学的に判断するための見方・考え方を体験を通して学ぶことになる。

このような学びを想定して、この小単元は4時間構成とした。

主な学習活動
1 火力・水力の担当の分担
各発電のメリット・デメリットの調べ活動
2 調べ活動のつづき
各自で担当のプレゼンづくり
3 個:プレゼン仕上げ
班:相互発表→班で1つに集約
4 班:プレゼン仕上げ
班:同じ推進派で相互発表→1つに集約
全:住民説明会プレゼン
個:住民投票・振り返り

4.住民説明会のためのプレゼン

プレゼンテーションの基本は「私は伝えたいことがある」だと考える。それも一方的に情報を垂れ流すようなものではなく、「考えを共有し、双方が納得に近づくためのもの」でありたい。

しかし、今までの経験上、生徒の作るプレゼンテーションは見るに耐えないものが多かった。

  • 文脈に関係ないフォントの種類
  • 必要性を感じない背景のラインや模様
  • 華美なアニメーション
  • 原稿を読むだけの単調な口調

このようなプレゼンをしていても、聞き手の心を動かすことはできない。

今回の実践で扱った『SKYMENU Class』の「シンプルプレゼン」というアプリは、無駄なものをそぎ落とし、限られた文字数と写真の枚数、それと限られたスライド枚数の中でプレゼン資料を作る羽目になるものである。通常のプレゼンテーションアプリが自由・拡張というイメージなら、こちらのアプリは制約・制限というイメージである。

そこで、生徒にはプレゼンを作る上で3つのポイントを指示した。

  • 伝えたいことを短い文章にする
  • 文章のイメージに近い写真を選ぶ
  • 表示されていない部分(行間)を語る

また、このアプリはレベル設定ができる。文字数やスライドの数など、児童生徒の発達段階に応じて変更したり、場合によっては教師用端末から一括指定して設定をロックすることもできる。

生徒にとって言いたいことを削って短いフレーズにすることは難しく、そこに苦慮する姿が見られた。

しかし、出来上がった資料を使いプレゼンする姿には原稿を読む姿がなく、画面を相手に見せながら、自分の言葉で語る姿が多く見られた。これは、制約のあるテキスト入力の中で、何度も言葉を選び、その繰り返しの中で伝えたいことが明確になったからではないかと思われる(写真1)。

自分ごととしてプレゼンを作っているからこそ、1つの考えに絞る過程では、かなり激しいやり取りも見られた。また、建設候補地を選ぶ場面では、町民の生活を配慮しつつ、できるだけ環境に配慮した場所を選ぼうとする姿もあった。

そして最終プレゼン、住民投票と進んでいき、結果は火力:水力=12:12という同票で終わる結末だった(写真2)。

本実践のあと、担当推進派とは違う発電方法に投票した生徒を尋ねたところ6名いた。変えた理由は次のとおりである。

  • 地球温暖化を防ぐことを考えて
  • 人の少ない場所を活用する火力発電がいい
  • 環境に優しい水力がいい
  • 水力発電のプレゼンがよかった
  • 火力発電も工夫したらいいことがある

プレゼンが聞き手の心を動かした例である。

伝えたいことを厳選し、苦慮の末に絞り出した言葉だからこそ、
聞き手の気持ちを動かすプレゼンになる。

5.まとめにかえて

「シンプルプレゼン」は、操作がシンプルなゆえに教師の課題設定が肝であると感じた。どうしても伝えたい!と思う場面をいかに設定できるかである。そして、どういう対話場面をイメージし、どこにたどり着かせたいのかを明確に持たなければならない。教師の力量が試されるアプリでもある。

一方の生徒も、操作に苦慮するのではなく、そぎ落として短くまとめたり、調べた多くの情報から取捨選択し、どういう形で伝えるのかという情報を扱う場面で苦労していた。しかし、アニメーションや色づけなどの飾りをつけたハリボテのプレゼンではなく、伝えたいことを厳選し、苦慮の末に絞り出した言葉だからこそ、聞き手の気持ちを動かすプレゼンになったということを考えると、このアプリは、様々な教科の学習場面でも多用されることが期待できる。聞き手に伝えるためのプレゼンづくりは当然として、その他には単元の要点をまとめさせるためにプレゼンを作らせるなど、レポート的な活用もできるのではないだろうか。いずれにしても、教師が創造性をもち、成長した生徒の姿をイメージしてしかけていく。そのような授業設計力が今後よりいっそう強く求められることを改めて感じている。

参考文献
・中学校学習指導要領解説総則編(平成29年7月)文部科学省
・中学校学習指導要領解説理科編(平成29年7月)文部科学省

(2019年7月掲載)