実践深掘り!
実践を積み重ね、子どもと共に成長を
小林 祐紀 放送大学 准教授に聞き手になっていただき、松村 翼 神戸市立東舞子小学校 教諭の実践における子ども主体の学びや『SKYMENU Cloud』活用のポイントについて深掘りしていただきました。

松村 翼
神戸市立東舞子小学校 教諭

聞き手
小林 祐紀
放送大学 准教授
子ども主体の学びで、学習内容は定着するのか
授業を拝見して、松村先生は「どのような環境を用意すれば子どもたちが主体的に学び始めるのか」と常に考えておられるのだろうと感じました。私が関わっている授業改善が進んでいる自治体や学校においても、教師が何もかも教えるのではなく、子ども同士の関わりやその環境の中に[気づきメモ]や[ライブ公開提出箱]のようなクラウドベースの学習者支援ツールが位置づいており、子どもたちが学習のツールとして上手に活用しています。
そこで、最初に松村先生にお尋ねしたいのは、「子ども主体の学びはよいけれど、学習内容はきちんと定着しているのか?」ということです。
は、今回の単元で子どもたちがまとめたものです。「世の中が良くなった」と考えた児童は、富国強兵や地租改正といった本単元のキーワードを使いながら、自分の考えをまとめています。学習の定着を見取れる部分だと思います。そして、「あまり良くなっていない」と考えた児童も、身分制の廃止、徴兵令、地租改正、殖産興業などのキーワードを使い、しっかり理解した上でまとめています。こちらも学習の定着につながっていることが見取れます。

さらに、この次の単元では、本単元で学んだ黒船来航や五箇条の御誓文、富国強兵の政策などと関連させて事象を捉える子どもの姿が多く見られ、学びがつながっていることを感じました。学習内容は十分に定着していると思っています。
ただ、学習内容を定着させるためには「積み重ね」の視点が大事だと考えています。やはり最初は、子どもたちは「どのようにして学べばいいのか」が分かりません。そのため、教科書の読み方といった基本的なところから指導しています。
また、「情報活用能力の育成」の視点も大切にしています。情報を収集して、整理、分析するような場面を意識して単元構成や1時間の流れをつくり、それを児童にもしっかりと示しています
。
振り返りの質を高め、次の学びへつなげる
加えて、振り返りの質が重要です。自分がその時間に何を学んだのか、どのように学んだのかという足跡を残させています。1時間の振り返りをしっかり行うことで、次の時間、ほかの教科、そして自分がどう学べばより理解できるのかという自覚につながっていきます。振り返りがしやすいようにMicrosoft Excelのファイルを用意したり、友達のものを参照できるようにする仕掛けも大事にしたりしながら、みんなで学んでいます。
この1年、子どもたちが学び方を身につけることを大切にして指導することで、学習内容をしっかりと定着させられたと思います。
振り返りの質を高めるのは、なかなか難しいですよね。松村先生はMicrosoft Excelを使って記録を蓄積しやすくしたり、参照させたりすると言われていましたが、6年生とはいえ、最初は「楽しかった」などの浅い振り返りもあったと思います。学びの成果を残していくために、どんな声掛けや手立て、手順を踏んでこられましたか?
子どもに振り返りの観点を示しています。当初は、「自分がその時間にどういった学び方を選択したのか」「何を使って学んだのか」「次の時間につなげたいこと」の3つの観点でした。しかし、交流が増えていったため、「友達と交流して生まれた自分の気づきや価値」という項目を加えました。
また、最初は教科書の内容をそのまま振り返りとして書く子が多くいました。そこで「それは[発表ノート]に残しているから、調べたことから、分かったことやさらに深めていきたいことをしっかり残していこう」と伝えたり、振り返りのポイントを意識して書いている子の振り返りを取り上げて紹介し、手本を示したりして、少しずつ質を上げてきました。
さらに、子どもたちが自分の書きためた振り返りを、もう一度振り返る時間も取っています。当初は前時に学んだことをもう一度見返し、そこから本時の目標を設定することから始めていました。最近では、振り返りの際に「次の時間の目標はこうしよう」と、次の時間のシートに目標を書き込む子どもも増えています。子どもによって、学び方が変わってきていると感じています。
学びのコントローラーを子どもに少しずつ渡す
なるほど。子どもたちの学び方が少しずつアップデートされ、振り返りから次の主体的な学びへときちんとつながっていますね。どのようにしたら主体的に学ぶ子どもたちになるのか、くわしく教えてください。
子どもたちに「学びのコントローラー」を渡す、つまり学びを委ねられる場面を少しずつ増やすことを意識しています。もちろん、単元の中には、一斉指導で進めるべき場面はありますので、「どこで渡すのか」「どこで委ねるのか」を単元構成を考える際に強く意識しています。
そして、教師、つまり大人の役割の変化も大きいと思います。学びのコントローラーを渡すためには、教師も子どもも単元の見通しをもち、教師は、子どもの学習に適切に介入できることが必要です。「どのような助言が必要か」「どの子とどの子をつなげてあげるとよいのか」を判断したり、見取ったりすることが本当に難しく、教師も実践を積み重ねることが重要だと痛感した1年でした。
「委ねる」と「放任」は違う、教師の介入は欠かせない
自分の中で最もこだわって指導してきたのが、「交流する目的と価値の共有」です。具体的には「自分と考え方が似ている子と勉強すれば、自分の納得が増える」「『自分と考えが違うから交流しない』ではない。考えが違うからこそ、交流することで自分の視野や考えを広げるきっかけになる」と子どもたちに伝え続けてきました。
「交流しただけ」や「話しっぱなし」で終わらないことも大事にしています。本時でも子どもたちの学びを止めて「ずっと友達と話をしているけど、自分のところに戻ってその考えを練り直そう。そして、さらに交流するべき相手を見つけて交流し、自分の考えを深めていこう」と何度か語りかけた場面もありました。
それはとても大事なことだと思います。「委ねる」と「放任」は違います。やはりおさえるべきところはきちんとおさえなければならないし、譲れない部分や大事にしてほしいことは、教師が語らなければなりません。松村先生が「これは大目に見るけど、これはやっぱり譲れない」という部分があれば教えてください。
意味のある交流をたくさんして、多様な考えに触れてほしいと思っています。そのため単元をとおして誰とも交流せず、ずっと自分の考えだけで止まっているのはだめだと思っています。それが譲れない部分ですね。「子どもたちが交流するべきタイミング」にこだわって授業を考えています。
そして「その相手と交流した意図は何?」と尋ねることも大切にしています。この1年間、意識して子どもに問い掛けていました。この子とこの子が交流したらいいな、という場面では「行っておいで」と子どもの背中を押すようにもしてきました。こうした教師の介入は欠かせないものであり、大切な支援だと思っています。
まさに意味のある立ち歩きですよね。譲れない教師の問いかけがあって、そこには、ある種の厳しさを兼ね備えているわけです。松村先生の教師像が見えたと思います。
学習経験や成長の具合で考える自己選択・自己決定のバランス
松村先生のお話の中で、「情報活用能力」という言葉が出てきました。これはとても大事な言葉です。次の学習指導要領の議論においても「情報活用能力の抜本的な向上」と書かれています。
は、1990年にブランソンが示した授業モデルです。これまでは、教師が豊かで確かな経験、教材研究を通じて子どもたちをリードしながら授業を進めてきました。いわゆる一斉の授業ですよね。教師の指示によって個別の学びがあったり、協働の学びが保障されたりしている。こういった場面で、しっかりと情報活用能力を育成すべきです。教師の指示によってみんなが同じことに取り組む時間は一定程度は必要です。

そして、その時間や経験を土台にして、何を使う・使わない、誰と学ぶ・学ばないといった学び方を、子どもたちが自己選択、自己決定できるようにしていくのです。
松村先生の実践から、教師が情報活用能力の「育成」と「発揮」のバランスを考えることの大切さを強く感じました。
学習指導要領の求める学習者主体の学びの実現に向けて、松村先生をはじめ、全国各地の志のある教師が苦心しながら実践されています。そうした教師個々の取り組みを超えて、より組織的に、より計画的に進めていくことが、今、私たち教師に求められています。ぜひより多くの先生方がその先駆者となって、子ども主体の学びを広げていってほしいと思っています。
(2025年7月掲載)