
友達の考えを参照、協働し、課題を追究 「明治時代は、より良い世の中になったのか?」
神戸市立東舞子小学校の松村 翼 教諭は、子どもたちが課題を追究したり、友達と積極的に交流して自分の考えを更新し続けたりして、自ら学びをコントロールできる力を育てたいという願いを持って授業改善を進められています。『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]や[ライブ公開提出箱]を活用した授業をレポートします。

松村 翼
神戸市立東舞子小学校 教諭
授業の様子をYouTubeでご覧いただけます
※再生ボタンを押すと動画が始まります。この動画は音声を含みます。
子どもが学習の主体となり、自ら学びをコントロール
本単元は、黒船の来航、廃藩置県や四民平等などの明治政府の改革、文明開化などを手掛かりに、我が国が明治維新を機に欧米の文化を取り入れながら近代化を進めたことを学びます。
今回の実践では、明治維新、文明開化など、日本における大きな出来事によって、「世の中がどう変わったか」だけでなく、「本当に世の中が良くなったのか」ということまで、得た知識を基に自分で考え、判断できるような単元づくりを意識しました。
単元の最初に、子どもたちには「学習のてびき」として、「学習目標」、学んだ知識を活用しながら考える「パフォーマンス課題」「ルーブリック」「単元計画・学習課題」などを共有。その上で1、2時間目は、クラス全体で、江戸時代から明治時代になって世の中がどのように変化したのか考えを出し合いました。併せて、教科書や動画教材を活用しながら、黒船が来たことで日本にとって不利な条約が締結された一方で、文明開化が起こったことなど、必要な情報をしっかりインプットできるよう、支援しました。
そして3時間目からは、子どもが主体となって、自らの学びをコントロールして取り組む学習展開です。開国後の人々の暮らしや政治、新しい国づくりの方針などについて、調べて各自でまとめました。『SKYMENU Cloud』を活用して子どもたちは自らのタイミングで友達の考えを参照し、友達と意見交流したり、個別にじっくり考えたりしながら、学びを深めていきました。
本時である6時間目では、ここまでに学んだ知識を活用しながら「江戸時代が終わり、明治時代になったことで、世の中が良くなったのかどうかについて考え、自分の言葉でまとめよう」というパフォーマンス課題に取り組み、7時間目でこの課題について考えたことをクラス全体で意見交流しました。
学習のてびき
明治の新しい国づくり

自分がめざす評価を、ルーブリックで自ら決定
本単元では、あらかじめ子どもたちに
のようなルーブリックを共有しています。評価の基準を子どもたちに開示することで、ゴールが見えて、どのように学んでいけばよいのか、見通しを持って安心して取り組むことができるからです。ルーブリックは3段階設定しており、どの評価をめざすのか、子どもたち自身で決めています。ルーブリック

毎時間冒頭に、「Microsoft Excel」にめざす評価を入力しています。併せて進捗管理表も用意し、クラス全体で共有。同じ目標の子と一緒に学んだり、高い評価をめざす子の考えを聞いたりと、自分の学習を深めるために、協働する相手を選択する場面で役立てています。授業の最後には、めざす評価を入力したMicrosoft Excelに振り返りとして、分かったことや発見したこと、友達と関わって深まったことなどを記入させています。
振り返りシート(Microsoft Excel)

[ライブ公開提出箱]をきっかけに始まる子ども主体の意見交流
本時では、ルーブリックを入力した後、パフォーマンス課題に取り組みました。まずは、世の中が変化したことを、「平民」「華族」「士族」「社会全体」など、どの視点・立場で考えるのかを決めます。次に、その立場から見て「世の中が良くなったのか」について、自分の考えにつながる情報を収集。収集した情報を整理・分析して、根拠となる情報を決定し、[発表ノート]に考えをまとめていきます。
本時だけでなく、子どもが主体となって取り組む授業で役立っているのが、『SKYMENU Cloud』の[ライブ公開提出箱]です。[発表ノート]の作業状況がリアルタイムに反映されるため、ほかの友達が編集している様子や考え方を、好きなタイミングで参照し合うことができます。
子どもたちは、自分なりに考えを整理した後、[ライブ公開提出箱]を確認。あるグループでは、「良くなったといえない」という自分たちとは異なる意見が多いことに気がつき、「何でだろう?」「聞きに行こう!」と席を立って、その理由を尋ねに行っていました。そのほかにも、気になる考えの子の席に移動して、「人々の暮らしについてどう思った?」「平民から見たら何で良くなったといえるの?」など意見交流。教室のあちこちで「何で?」「どうして?」という声が聞こえ、子ども同士で学びを深めていきました。
そして教室の中では、個別に取り組む子、グループで協働して考える子、これまでに学んだことの中であいまいな部分を私に聞きに来る子など、さまざまな姿が見られました。
![[ライブ公開提出箱]を確認し、みんなの考えを参照。気になる考えの友達と直接意見交流する](img/img04.jpg)
異なる視点の子との議論を通じて視野が広がる
クラスには40人の子どもたちがいます。この40人全員の考えを一度に、リアルタイムに見られることが[ライブ公開提出箱]の大きなメリットです。子どもたちは、気になる子の[発表ノート]をピックアップして確認し、自分の考えと比較しています。
以前は、[グループワーク]機能をメインで使っており、グループの設定から子どもたちに委ねていました。めざす評価が同じ子、似たテーマをもつ子同士がグループになって意見交流するものの、その後、さらに別の子とグループになるところまで発展させることは難しく、交流が限定的だったことが課題でした。[ライブ公開提出箱]によって、学びを深める相手を選びやすくなったことで、交流の幅が広がったと思います。本時の中でも、同じ視点の子と交流することで自分の考えに納得度が増したり、また異なる視点の子と議論して視野が広がったり、といったことが起こっていました。
教員の視点からも、子どもたちの学びを見取りやすくなりました。40人いると一人ひとりの学習状況を見取ったり、1時間の中で多くの子と関わったりすることに難しさを感じるときもありました。[ライブ公開提出箱]によって、子どもたちが今どんなことを考えているのか、どんなふうにまとめていっているのかといったことが可視化され、見取りやすくなったことを実感しています。
「気づきメモを使いたい!」
児童が意見交流のための活用を提案
児童の交流の幅や視野の広がりという点については、前時に印象的な場面がありました。児童から「気づきメモを使いたい!」という声が挙がったのです。理由を聞くと「みんなの意見を知りたい。気づきメモで聞いたらたくさんの人が意見をくれるから」とのことでした。「使いたい」という提案は、ツールの良さや使い方を分かっているからこそできることです。大変印象的で、子どもたちの成長を感じた瞬間でした。
引き続き本時でも[気づきメモ]を活用。「平民から見て良かったところを教えてください」「身分制を廃止したことのねらいは何ですか?」など、自分の疑問に対する意見を募るとクラスの誰かがその疑問に答え、そこから新たな交流が生まれていきました。[気づきメモ]が、より幅広く意見を聞くためのきっかけになっています。
![[気づきメモ]に疑問を投稿すると、みんなから意見が返ってくる](img/img05.jpg)
[ライブ公開提出箱]で学びを見取り、伴走や助言でサポート
教員は、教えるだけでなく、必要なタイミングで資料を提示したり、示唆を与えたり、子どもたちの学びをサポートする「伴走者」であるべきだと考えています。そのためには、教材研究や単元の構成をしっかり行うことに加え、[ライブ公開提出箱]を活用しながら子どもたちの学習状況を適切に見取り、必要なときに助言することが欠かせません。
子どもが主体的に学習を進めるといっても、手が止まっている子には様子を見て声を掛けています。そのほかにも、考えが広がっているものの、もう少し違う視点を持ってほしい場合や、めざす評価をBとしているけれどAまでいけそうな場合にも支援に入り、助言するようにしています。また、個人と個人をつなげたいときにも声を掛けています。席が離れていて話ができていなくても、教員が見取ることで、子ども同士の考えをつなげることが可能です。
実際に本時でも、「こんなふうに考えている子がいたよ。行ってみたら?」「あっちのグループと話してみたら?」と声掛けをすることで、さらに議論が深まったり、考えが広がったりする場面がありました
。「自分の考えをもっと深めたいから」「ここに疑問を感じているから」という理由を持って、「だからあの子に聞きに行こう」と、相手を選ぶ視点や力を身につけてほしいと思います。
単元レベルの授業研究、授業づくりがより重要に
子ども主体の授業スタイルに変更したことで、子どもたちが前向きに学習に取り組むようになったと実感しています。授業が終わった後も、学習や議論を続けていたり、主体的に家庭で取り組んだりする姿はこれまでの授業では見られませんでした。授業に向かう熱を感じます。成果物や議論している内容からも、考えの深まりが見て取れ、学習内容の充実度が高まっています。
![意見交流しながらまとめた[発表ノート]](img/img07.jpg)
また、これまで意見を表出したり、考えを書いたりすることが得意ではなかった子も、自分の考えを持てるようになってきたと感じています。[発表ノート]や[ライブ公開提出箱]を活用して、ほかの子の考えを参照できることで、自分の考えを少しずつ生み出せるようになってきたのだと思います。
そして、変わったのは、子どもたちだけではありません。私の教材研究・授業づくりの方法も変化してきました。以前も単元を見通して学習計画を立てていましたが、それでも授業の前日に考えたり準備したりすることが多かったように思います。現在は、単元計画を考えるタイミングで集中的に教材研究や授業づくりを行うようになり、授業の前日にあわてて準備することはなくなりました。
もちろん以前よりも考えるべきことが増えて難しさを感じる部分はありますが、「この単元で子どもの学びをどのように広げていこう」とわくわくしたり、面白いと感じたりすることも多くなっています。まだまだ試行錯誤の最中ですが、今後も子どもたちが主体的に楽しみながら学べるような授業を考えていきたいと思います。
(2025年1月取材 / 2025年7月掲載)