ICT活用教育のヒント

【第3回 誌上検討会】大阪府高槻市立五領小学校の授業から学ぶ

〜つながりを学びの力に、学びの中からつながりを〜

3回目の「誌上検討会」です。

今回は、「主体的・対話的で深い学び」を実現するための授業改善の視点として、「ICTの効果的な活用〜つながりを学びの力に、学びの中からつながりを〜」を掲げて研究を蓄積してきている、大阪府高槻市立五領小学校の取り組みを取り上げます。

五領小学校は、4年前に教科におけるICTの効果的な活用に関する校内研究を始めました。開始した頃は「ICTなんて使わなくても授業はできる」派が多く、なかなか活用が進まないようでした。しかし、研究主任の片山美津江先生を中心に、「まずは、これまで研究してきた算数の単元で、どの場面で有効に働くか検証してみよう」という考えの研究授業を実施。教師主導から児童の思考の道具としてのタブレット端末の活用も視野に研究が進みました。研究授業での子どもたちの様子を熱心に話す先生方の発言に、だんだんと「ICTなんて」という言葉はなくなっていきました。そして、その研究の過程で、同じ単元において「タブレット端末を活用した授業」と「使わない授業」を実施しました。もちろん、今日「使わない授業」のクラスは、別日には「タブレット端末を活用した授業」を実施したことは言うまでもありません。

また、今回は、2クラスの実践例ですので、発話よりも写真を多用しての解説になることをお断りしておきます。

1授業構想

本実践時1組の担任であった久保朋也先生と2組の松本智裕先生は、児童の実態を次のように記述されています。「本校の児童の実態として、少数では楽しく情報交流できるが、全体の場になるとなかなか自分の意見に自信が持てず積極的な発言が少なくなるという傾向が見られた。また、応用する力を深化することにも課題がある。そこで、既習事項を生かして図形を分けたり、動かしたり、付け加えたりして試行錯誤して考える場を設定する。その場面でICTを有効に活用することで、自分の考えたことを友だちに伝え、自分の考えを深め、自分のものにするという児童が育つのではと考えた。」

その方法として、1組では教師1台のタブレット端末を使って全体で考える場を設定した。大型提示装置に提示し、その児童がどのように考えたのか説明するなかで、考えを深められるのではないかと考えている。2組では、児童1人1台のタブレット端末に図を配付し、その図を試行錯誤して考える場を設定した。消したり書いたりが容易にできるタブレット端末の機能が、より個人思考に有効に働くのではないかと考えている。

(1)本単元目標
面積の大きさを数値化して表すことの良さに気づき、いろいろな形の面積を求めようとしている。(関心・意欲・態度)
広さを数値化する方法や、測定する広さに応じた面積の単位や求め方を考えている。 (数学的な考え方)
長方形や正方形の面積を、公式を使って求めることができる。(技能)
面積の単位と測定の方法が分かり、面積の求め方や単位の関係を理解している。(知識・理解)
(2)ICT活用の視点

授業構想のところにあるように、1組では教師1台のタブレット端末を、2組では児童1人1台のタブレット端末を使って、どちらも児童が試行錯誤する学習活動や他者に説明する学習活動を通して、これまで以上に考えを深めることができることを期待している。

これらは、これまでのようにノートを見せて説明したり、画用紙に大きく考え方を書かせて黒板に提示して考えたりする授業でも、同じことができると考えている方もいらっしゃるのではないかと思う。

けれども、大きく映して提示する効果や、容易に分けたり、動かしたりできるというICT活用の良さは、私たちが思っている以上に児童の思考を刺激し活性化させることが本事例で示されているのである。

2授業の流れ(「T:主な発問」と「C:児童の反応」)

(1)導入

どちらのクラスでも、課題が提示され既習事項を基に見通しを立てた。

児童が協働的に学びたくなる課題は、ある程度の難易度をもつことが必要となる。しかし、児童が一目見て「歯が立たない」と思って思考を放棄してしまうような課題では困るのである。本学年では、少しずつ難易度を高めて「あっ、これならこれまでの考え方を使えばできそう」という思いを児童にもたせる工夫をしていることが、【写真2】にあるような壁面の掲示物からうかがえた。両クラスを行ったり来たりして観察した。

(2)個人思考の場
◆1組の場合

では、それぞれの見通しをもとに考えてみよう。道具はそろっているね。ここに図形をプリントした紙があるから、1つの方法だけではなく、もっといろいろ考えついたよという時には、ここから紙を持っていっていいからね。

(まずは、机上にハサミ、のり、定規といった道具を出す。紙を切り、ノートに貼り、考え出す)「分けてたす」方式でできるかも!

教師はプリントを配付し、やり方を説明。児童はさまざまな道具を出し考え始める。定規を使い分割して考えている児童や、どこを分けたのか一目で分かるように矢印を書き込んだり、丁寧に色づけしたりしている児童。友だちに説明することを意識しての行為である。こう見ると、ノートは人に見せるためのパブリックな道具になっていることが分かる。中には、なかなか手が動かない児童も見られた。教師は、机間を回りながらそういう児童に丁寧に助言している様子が見られた。

◆2組の場合

1組の個人思考の場面を6、7分ほど観察した後に、2組に移動した。大型提示装置には、【写真6】のように児童が取り組んでいる様子が一覧提示されていた。

この画面を見ると、まだ何も試みていない児童がいることや、どのような考え方で進めているかが分かる。なかなか考えの進まない児童には、この画面をヒントに考え出す様子も観察された。「分からない人は、友だちの考えをヒントにしてもよい」という学習のルールが、本学級にはできているのだと思う。

しかし、一覧機能を見ていると面白い。さまざまな解き方がある。書いたり消したり試行錯誤をしている児童が多いため、画面がひっきりなしに変化している。児童の頭の中がアクティブになっている様子が観察できる。

あれ、答えが違うな。(画面を見て、再考を始める)

そろそろ、どうかな。友だちに自分が考えたことを説明できるかな。

もう少し時間をください!

今、新しい考えが浮かんだ。(まだ時間が必要なことを口々に訴える)

では、あと3分くらいでいいかな。(と言ったが、結局次へうつるまでに5、6分かかっている)

デジタルの良さは、思考のプロセスを残せることである。【写真7】の児童のように、せっかく間違いに気づいたのだから、その画面を保存しておいて、全体での練り上げで活用することも深い学びにつながる手だてではないだろうか。また、【写真8】の児童は、考えを順序よく書き出している。教師は、このような書き方の工夫も一覧機能でチェックできる。どこかで取り上げると、児童の満足感もアップするであろう。それぞれデジタルの良さを生かせる場面であったが、残念ながら教師は見逃してしまった。

◆1組の場合

2組では1人で2、3通りのやり方を考えていた時間に、1組はどうなったか見に行った。取りかかりに時間がかかったこともあり、2、3通りのやり方を考え出した児童は少なかった。また、【写真9】に見るように、丁寧に色をつけて説明を書いている児童も多かった。しかし、その児童たちは、このやり方1つをやっただけで満足してしまったのか、思考を止めてしまっている様子も見受けられた。ここで、教師に替わって、小さな先生になって困っている友だちにヒントを出す役割を与えておくなど、学習のルールを決めておくとよい。

(3)協働思考の場
◆1組の場合

じゃあ、そろそろみんなでどうやったら面積が求められたか考えを出し合ってみようか。みんなの前で説明できる人はいるかな?(4、5名が挙手をする)
あれ?もっとできていた人いるよね。では、C2さんに説明してもらうから、よく聞いていてよ。

(教師が児童のノートを、タブレット端末を使って「撮影→投影する」)ぼくは、まず大きな長方形の面積を出して、ここの長方形の面積とここの長方形の面積を出して、この大きな長方形の面積から引いて答えを出しました。

C2さんと同じやり方をした人、たくさんいたよね?(同じですという児童が1/3ほど手を挙げる)もっと、違うやり方をしたという人もいたよね?

私は、この長方形をこっちに動かして、これはこっちに動かしました。そうするとここに小さな長方形ができます。ここの辺の長さは「8−2」で6㎝になって、こっちは「10−3」7㎝になるので、長方形の面積の公式を使って「6×7」で答えは42㎠になりました。

【写真10】にあるように、教師はタブレット端末を使って児童のノートを撮影し、【写真11】にあるように大型拡示装置に投影して説明をさせ、教師は式を板書している。けれども、本学級の提示装置が小さいこともあり、教師は【写真12】のような画用紙を用意しておいて、小さな白い方の画用紙を動かしてどこに移動したかが分かるようにして説明をさせることもあった。大切な手だてである。このように4名の児童が順番に前に出てきて説明したところで、ちょうど時間になってしまった。

◆2組の場合

みんなががんばっていろいろな考え方を出したので、ちょっと時間がかかってしまったな。これから隣の人に自分の考えを説明してもらうよ。説明するときには、タブレット端末にある図を見せながらどういう考えで答えが出たのか、ちゃんと説明してよ。聞いた人は、分かりにくいところがあったら、ちゃんと質問してよ。

(【写真13】にあるように、ペアで画面を示しながら説明を開始)

自分にはない考え方をしていたという人いるかな?(5、6人が挙手)

C6さんの考え方は、私と違っていました。とっても簡単にできていました。

それはすごいね。では、C6さん、みんなに説明してくれるかな。C5さんと、それからC7さんも説明できるかな。

2組では、3名の児童の考えを取り上げて説明の時間をとったが、結局練り上げの時間が足りなくなってしまった。けれども、ペアにそれぞれの考えを説明する時間は確保できていた。教師は、このペアの時間に児童が算数用語を使って説明しているか、その説明に不足や誤解はないか、答えは合っているかなど、机間指導をする必要がある。ICTを使うとついつい机間指導をおろそかにする教師に出会うことがある。それは、本末転倒な使い方だと思う。

また、1組も2組も十分な練り上げの時間やまとめの時間を確保することができなかったということは、タブレット端末を使う・使わないの問題ではなく、児童の説明力の鍛えの不足や授業デザインの課題といえよう。

3ICT活用と授業づくり

2クラスを行ったり来たりの授業観察であったが、ここから見えてきた成果と課題は大きいと感じます。

(1)有効な活用
教師1台の活用

教師1台の活用は、これまでの授業展開のパターンを大きく変えることなく授業ができるので、タブレット端末の活用を始めたばかりの先生には、比較的容易に受け入れられています。ノートなどを「撮影→投影する」ことで、これまで言葉だけでは理解が進まない児童や、説明しにくい児童に有効に働くと考えます。1組でも、説明に困ると画面を示しながら確認をして話す児童も見受けられました。

児童1人1台の活用

学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』を使っての一覧提示は、児童にとって学ぶヒントを得たり共有したりすることに役立ちます。教師にとっては、次にどれを取り上げようかと考える情報や評価に活用できます。タブレット端末はスタンドアロンで使うと、これまでのワークシートとあまり変わりのない使い方になってしまいます。学習支援システムは、今後の学習環境づくりには必要不可欠であると考えます。

また、2組では「どんどん書き込む」という操作をしながら考えを練る児童がたくさん見られました。ハサミ、のり、定規、色鉛筆といった多くの道具を使う必要のないタブレット端末のシンプルさが、児童を学習問題に集中させた1つの要因ではないかと考えます。

(2)検討課題

「授業の流れ」の最後にも書きましたが、1組も2組も練り上げの時間やまとめの時間を確保することができませんでした。既習事項を活用する授業において、時間が足りないという状況がよく見られます。タブレット端末を授業に組み込むと、児童の思考の時間が長くなる傾向があるため、より全体化の時間がとれないという話をよく聞きます。

今後の検討課題となりますが、これまで以上に教材研究が大事になってくると考えます。事前に説明のモデルを想定して、どのような解き方がいくつくらい出てきそうであるかや、どのようなキーワードが必要であるかなどを考えておくことが必要でしょう。それと同時に、他教科の時間も含めて児童の説明力を鍛えておくことも大事です。説明する際には、画面を示して「ここが」と指し示して話を進めてしまう傾向があります。本時のような授業では、分かっている数値から分かっていない数値を導き出したのかを明確にして話させるという点に、これまで以上に留意したいです。

さらに、図形の学習ですので、自分の手で図形を操作することも空間認識を育てるためには必要です。どの時間には実際の図形を使うかまたはICTを活用するか、指導計画を練る際に検討し実践していくとよいかと考えます。

(2020年1月掲載)