ICT活用教育のヒント

【第2回 誌上検討会】筑波大学附属小学校 青山 由紀 教諭の授業から学ぶ

2回目の「誌上検討会」です。

今回は、友達と学び合う良さを生かした活動を通じて、国語科に求められる思考力を育てたいと、たくさんの授業提案をされている筑波大学附属小学校の青山先生の実践を取り上げさせていただきます。

青山先生は、国語指導者用デジタル教科書の開発当時から関わっておられ、近年は学習者用デジタル教科書の授業提案もされています。今回ご紹介する実践は、何と幸運なことに5月の実践です。子どもたちが学習者用デジタル教科書と出会ってまだ日が浅い時期です。青山先生が、どのようにして学びに向かう姿勢や子どもたちの資質・能力を鍛えていくのかが、垣間見られる授業です。これから、学習者用デジタル教科書を活用した授業をしてみたいと考えておられる先生方にとっては、絶好のモデル授業になると思います。

1授業構想

本単元では、筆者の考えを読み取るために、要点から段落相互の関係をとらえる力や、筆者の考えについて自分の経験や知識を基に考えたことをまとめる力を身に付けることをねらいとしています。第1教材と第2教材から成っていて、 第1教材「大きな力を出す」は、呼吸と筋肉の関係性について具体的な例示をしながら述べている説明的な文章教材であり、第2教材「動いて、考えて、また動く」は、自分の身体を動かし動きを見つめ直すことで、目標を達成することができるということについて筆者の体験を基に述べられているものです。人間の身体を題材とする両教材は、成長する身体に興味をもつこの期の子どもたちの興味・関心を刺激する教材であると言えましょう。

また、両教材共に「はじめ」「中」「終わり」で構成された双括型の説明的な文章教材です。第1教材「大きな力を出す」の文章の上には、「はじめ―中―終わり」と文章構成が明示してあるので、第1教材で文章構成を確認し、第2教材「動いて、考えて、また動く」では、そこで行った学び方を生かしてより自立した主体的な学びを展開できるような教材の配置になっています。そういう教材の配置をうまく利用して授業構想をすると良いことを青山先生は提案されています。

本単元目標を、以下のように設定しています。

(1)本単元目標
動いて考えることに関心をもち、筆者の考えを読み取るために事実と説明の関係をとらえて、段落相互の関係を考えようとすることができる。
文章を読んで考えたことを発表し合い、友達の考えと比較して意見を述べ合い、感じ方の違いに気付くことができる。
要点や説明の仕方の工夫に注意しながら読み、必要に応じて引用したり要約したりし、筆者の考えに対する自分の考えを伝えることができる。
(2)ICT活用の視点
本時では、一人一台のタブレット端末環境のもとで、学習者用デジタル教科書を使っています。各段落のキーセンテンスを見つけ、それを範囲指定することで「短冊型」のカードにできるという学習者用デジタル教科書の機能を活用することで、何回も教材文を読み、必要でない言葉や文章を削除したり、追加したりしながら考えを修正して読むことの力を高めていくことができると考えられます。また、文章が長くなることで、段落相互の関係が複雑になってしまうために、事実と説明の関係性等の把握が困難な子どもたちにとっても、本文や挿絵の関係性を示して理解を補完したり、みんなで意見を出し合って練り上げていく学習活動の中で、学習者用デジタル教科書の画面を示して共有したりすることでだんだんと考えを深めることが期待できます。
青山先生は、デジタル教科書のような教材があれば、第1教材の「大きな力を出す」にこんなことが書いてあったと子どもが発言したときに、該当の本文を提示して説明を手助けしてあげるといった使い方も可能であること。それは、その時々の子どもの思考の流れに合わせて授業をデザインできるICTの良さであると指摘されています。

2授業の流れ(「T:主な発問」と「C:児童の反応」)

学習者用デジタル教科書の入ったタブレット端末をカートから持ってきた子どもたちは、それぞれ音読を始める。隙間の時間を無駄にしないという姿勢が育っている。

これ覚えているかな?(と、第1教材の「大きな力を出す」の文章構成を学んだ画面を拡大提示装置で映す)ここの色を説明できる人はいるかな?

一人でやるスポーツと何人かでやるスポーツ。

ということ?隣の人に、自分のデジタル教科書の短冊カードの画面を使って説明してみて。(子どもたちはペアで説明を始めるが、まだ声はそんなに出ていない状況)

隣の人に分かるような説明になった?頭の中のことを話すことが、とても大事なのよね。C2さん、何か言いたい?前に来て、説明していいよ。

これは、例え、例。(画面に映し出された短冊カードの色を指しながら説明)

今、C2さんが言ったことは、①と⑤を同じ色にした意味だと思う。

こういうことだ。ここ(短冊を指しながら)は、結論、まとめのこと。

本文の「中」は例とか事例。「はじめ」と「終わり」で、筆者は同じことを言っていたと言うことでいい?

だから「サンドイッチ型」

まだ授業において、学習者用デジタル教科書をそれほど使っていないということで、以前に学習したことを簡単に提示できることや自分の画面を説明に使うことなど、青山先生が意図的に活用できるシーンを体験させている様子が見える。また、「頭の中のことを話すことが大事」というように、集団で学ぶことのよさや、友達の意見を聞いて自分の考えが揺れたり変わったりする、考える過程を楽しむ経験を積むというような思考の訓練も、同時に導入の場面で行っていることが分かる。

「動いて、考えて、また動く」も「サンドイッチ型」と言っていいかな?(前時に)誰かが言っていたように、①段落と⑧段落に似ている言葉があるのかな?今日は、デジタル教科書の短冊カードにそれを抜き出しながらみんなで考えていこう。新しい短冊カードの出し方をやるよ。(先生のやっていることは、拡大提示装置で全体に見えるようになっている)出せた人、目で合図。

①段落と⑧段落は遠いなあ。

そうだね。近くに持ってきたいね。では、言葉や文章の抜き出し方をやってみるよ。1回しかやらないよ。例えば、①段落と⑧段落で同じ言葉や文章に線を引いて、こうやって指で取ると、こうやってカードになる。(全体に提示しながら、やり方を解説)分からない人、手をあげて。

ここも、学習者用デジタル教科書の操作について、何度も確認をしている。こういうプロセスを経て、自分の学びのツールとしてサクサクと活用できるようになるのであろう。

また、文章の構成を読む段階において、青山先生は⑦段落から「終わり」になるという意見が子どもたちから出てくる可能性を予想し、その上で「終わり」が⑦段落からなのか⑧段落だけなのか、二通りの意見が出てきたらその理由を出し合い、話し合わせていくことを考えおられる。そういう思考の対立場面(私は、そうした青山学級の様子を「混沌とした」状態と言う。青山先生は「寄り道」と言っておられる。どちらにしても、そういうプロセスを大事にしている。)を見える化できるのが、ICTの良さである。

(3分ほどカードに抜き出す時間を与えた後)まだ、カードにできていなくてもよいので、隣の人に同じ言葉や文章がありそうか、2分くらい話してみて。(子どもたちはペアで説明を始める。先ほどとは違って、積極的に話す様子が見られる)

ここは課題提示だね。

う~ん。みたいだけれど、でも、違うんじゃないかな。

ほとんど、①と⑧は同じ言葉があるよ。

サンドイッチ型と言えそうだ。

え~。そうかなあ。(画面を提示しながら話している)

今、①と⑧には同じような言葉が入っているのでサンドイッチ型と言えるという人、「え~」⑦もまとめに入りそうじゃないと言う人。いやいや⑦は違うと言う人が出てきているね。また、短冊を動かして、それぞれ考えてみよう。

青山先生の手元には、子どもたちが行っている学びが一覧になって見えている。よくその一覧機能だけを見ていて、黒板の前から動かない先生がおられる。けれども、そうではないのだ。青山先生は、一覧機能で子どもたちの学びの様子を見ると共に、これまでの指導のように机間を回りながら、あるときは話を聞いたりアドバイスをしたりしているからこそ、T8のように、子どもたちの寄り道を取り上げて、全体の学びにすることができるのである。

⑦段落には『自分自分』って書いてあるから、ほとんど筆者の主張に近いんじゃない。⑦からまとめになっているよ。

⑦段落には、「このように」ってあるしね。

さて、そろそろ、終わりの時間だね。ちょっとC9さんの画面を見てもらえるかな。(と、C9さんの画面を拡大提示装置で提示)ぱっと、画面を見られた人、Good!

さあ、どうして、C9さんはここに線を入れているんだろう?(C9さんは、⑦段落と⑧段落の間に線を入れて、分けている。C13やC14の考え方と対立している)隣の人と話してみて。(子どもたち、積極的にペアで話し合う)

サンドイッチ型の文章構成になっていると言えそうだけれど、⑦か⑧かどの段落が筆者の主張なのかについては、「中」の段落を詳しく読まないと分からないね。次の時間は、「中」の内容を詳しくやっていこう。

T9では「ぱっと、画面を見られた人、Good!」などの教師の発言もある。まだまだ5月の時期では、青山学級といえども、このような学習のルールを確立する時期といえよう。けれども、さすが青山先生である。終了の時間がきたからと言って、これまでの子どもたちの話し合いをすっ飛ばして「①と⑧で双括型を担っていたね。次は「中」を読んでいこう」と教師が引き取ってまとめたりはしない。T10にあるように「サンドイッチ型の文章構成になっていると言えそうだけれど、どの段落が筆者の主張なのかについては、「中」の段落を詳しく読まないと分からないね。」という言葉でしめている。「中」は「中」で独立しているのではなく、「はじめ―中―終わり」のつながりの中で読んでいくことを大事にされているのである。

1点。本時は、文章構成の理解を深める時間であった。子どもたちは、短冊に入れる言葉や文章を、時にはペアで考えを示しながら何度も再考する様子が観察された。ただし、授業記録を読むと気がつくが、教材にあるキーワードやキーセンテンスが子どもたちの口からあまり発せられていない。画面を示しながら話しているので、共通理解はされているとは思うけれど、C13やC14の発言のように、形式と内容とを関連させて話すことが大事である。自分はどのキーワードやキーセンテンスを根拠に、どのような考えを持ったのかを明確にすることが大事である。子どもたちの手元の画面には、キーワードやキーセンテンスがたくさん短冊化されていた。それらをもう少し意識的に言葉にして、全体化していく必要があったのではないかと感じた。

3ICT活用と授業づくり

(1)有効な活用
①課題解決のためのツールにするために操作の仕方を徹底
鉛筆やノートの使い方を第1学年や学年はじめに指導するように、学習者用デジタル教科書に関してもどのような機能があるのか、どのようなときに使えそうかという体験をある程度積む必要があります。青山先生は、授業の中にそれらのことをうまく埋め込まれています。
②一覧機能と机間指導
手元のタブレット端末にある学習支援システムの一覧機能を使うと、子どもたちがどんどん手を動かして考えているのか、停滞しているのかがある程度把握できます。けれども、机間指導をしないと、なぜ思考が停滞しているのか、活発に動かしているけれどしっかりと根拠が示されていないなどの状況把握ができにくいでしょう。これまでの指導法も大事にしていきたいところです。
(2)検討課題
学習者用デジタル教科書の活用
抜き出したい部分を簡単にカード化し、それを使って文章の構成を見えるようにするというデジタル教科書の短冊カードの活用は、とても有効な活用法であると言えます。ただし、画面を示しながら話していると、ついつい自分が示しているキーワードやキーセンテンスを相手も理解していると思いがちです。それをきちんと言葉化しないと、同じキーワードを抜き出していたのに、違う考えを持っていたなどということが起こる可能性があります。そしてそこが絶好の学びを深める場面であったのに、行き違ったままの話し合いになっていたということがあります。画面を指すだけではなくどの言葉を取り上げて、どのように考えたのかを言葉化していけると良いでしょう。

(2019年11月掲載)