ICT活用教育のヒント

1人1台実践レポート茨城県那珂市立芳野小学校 教師の意図を超え、ICTを「道具」として活用できる児童の育成をめざして 2年1組20名の児童が、タブレット端末と出会ってからの日々をレポート

「GIGAスクール構想」により、全国の小中学校で、児童生徒1人1台端末の環境が実現する。子どもたちがどのように端末を扱い、どのようなことが起こるのか。そして、どのようにして「学習の道具」としてなじんでいくのか。9月から児童1人1台端末の活用をスタートさせた、那珂市立芳野小学校 黒羽 諒 教諭にお話を伺いました。

黒羽 諒
茨城県那珂市立芳野小学校 教諭

「GIGAスクール構想」に先立ち1人1台端末活用をスタート

那珂市立芳野小学校は、那珂市の北西部に位置する、全校児童数262名の学校です。当校では、コンピュータ教室にある40台のタブレット端末を使ったり、各普通教室に設置されている大型テレビに教師が教材を提示したりして授業でICTを活用してきました。ICT環境・活用は一般的な水準の学校だと思います。今回の「GIGAスクール構想の実現」によって、当市においても年度内に1人1台端末整備が実現すると聞いています。がらりと変わってしまう学校のICT環境を、どのように今後の教育活動に生かせるのか。私を含め当校教職員は、期待と不安の中にいます。

そのような中で、「GIGAスクール構想」による環境整備に先立って、2年1組20名の児童と1人1台のタブレット端末を活用した実証研究の機会をいただきました。どのように1人1台端末を活用していったのか。その様子をご紹介したいと思います。

教師の意図を超えた活用を行える児童の育成をめざす

「教室に1人1台端末がある」という、当校では誰も経験したことのない学習環境で実践をスタートさせるにあたり、今回の取り組みの目標を考えました。目標は「教師の意図を超えた活用を行える児童の育成」としました。この『教師の意図を超える』というのは、タブレット端末は鉛筆やノートなどと同じ「多様な表現方法のうちの一つ」であり、教師の指示ではなく子どもが自分で判断して必要に応じて活用できる姿を指しています。

そのような子どもを育むためには、この場面で「使って良い、悪い」という軸で考えるのではなく、この場面なら効果的に「使えそう、使えなさそう」という軸で判断できる力を育む必要があります。そして、判断をするためには、端末やソフトウェアがもつさまざまな機能の「メリット・デメリット」を子どもたち自身が感じて、理解しなければなりません。

図1

それらを踏まえて、図1の4つの視点をもって実践を展開することにしました。

上から3つ目の“遊びも許容する”というのは、[発表ノート]などの学習で利用するツールを休み時間に「遊び」で使うことで、操作や機能に自然に詳しくなるだろうということと、「こんな風に使えたらもっと楽しそうだな、面白そうだな」という発想を得て、それを学習活動で生かしてほしいという期待から設定しています。

もちろん、2年1組の児童が、朝学習の時間や休み時間にタブレット端末を使うことについては、事前に学校長に許可を得るとともに、全職員に周知をしました。

1人1台端末活用 ≪初日≫ 

授業外で1日1時間、タブレット端末に触れられる時間を確保

設置の翌日には、子どもたちに、タブレット端末利用の基本ルールやコンピュータに関する基礎知識・操作方法、Windowsや『SKYMENU Cloud』のアカウントやログオンの仕方、ソフトウェアの操作方法を教えました。

タブレット端末利用のルール

ルールは最初から事細かに決めて示すのではなく、大まかな約束事を示しました図2。子どもから「先生がいるときに、授業時間以外で、タブレット端末を触ってよいか」と聞かれ、自主的に触れる機会を多くしたかったので、朝学習や業間休み、昼休みに自由に触れてよいと伝えました。

それから、授業で学習課題が終わった後の「自学の時間」であれば、触ってよいということにしました。子どもたちが1日の中でタブレット端末に触れる時間は、平均して1時間程度を確保しています。

図2

端末やソフトウェアの使い方

タブレット端末で使用できるアプリケーションは、Windows OSのアプリケーションと『SKYMENU Cloud』のみだったので、子どもたちの活用の中心になる『SKYMENU Cloud』の[カメラ]や[発表ノート][提出箱][グループワーク]などの機能を簡単に説明しました。

入力方法については、2年生はローマ字はまだ学習していないので、Windows OSに搭載されている「手書き入力」を教えました。数名の児童はローマ字入力を知っていました。

そのほかにも、例えば「[発表ノート]の枚数を何枚も何枚も増やしてしまうとコンピュータが大変な気持ちになって動かなくなってしまうよ」などと「処理落ち」についても話しました。

端末の保管方法については、使わないときは机の横の手提げ袋に入れることにしました。毎時間タブレット端末を充電庫に戻すことが手間であることと、日常的な活用を進めるためには、子どもが使いたいと思ったときに使える環境が重要だと考えたためです。日中の充電は、各自の判断で各休み時間や業間休み、お昼休みを使ってほしいと話しました。

[発表ノート]を配付し、児童が入力、提出。大型テレビで共有する

授業でタブレット端末を活用する前に、エンカウンターとして[発表ノート]の練習を兼ねて、「友だちの描いたものを当てよう」ゲームをしました。[発表ノート]に好きなように絵を描いて、[提出]機能で先生に提出。大型ディスプレイに提示してクイズをするというものです。[発表ノート]の基本的な編集方法や[提出]など、今後の授業で必要な一連の操作スキルやどのような良さがあるのかを子どもたちが知ることを目的に実施しました。「クイズ番組」のような活動が簡単に楽しくできたので、今後授業以外でも『SKYMENU Cloud』が使える場面があるなと感じました。

1人1台端末活用 ≪1~2週間≫ 

エンカウンターで体験した、配付された[発表ノート]への入力と提出、そして大型テレビで共有という一連の活用。これを国語、算数、生活、道徳など、あらゆる教科や場面で無理のない範囲で活用していきました写真1

また、普通教室で実施する授業の最後には、毎時間「振り返りシート」に入力して提出するという取り組みも始めました写真2。児童の学びの記録として、そして[発表ノート]への入力に慣れてもらうことを意図しました。子どもたちは[絵文字]入力なども見つけて、楽しみながら取り組んでくれました。

写真1授業での活用は、[発表ノート]を配付、回収し、提示するという方法から始めた
写真2毎時間提出する「振り返りシート」

授業、授業外でさまざまな工夫が見られるように

毎日活用していくと、次第に授業や授業外でさまざまに工夫してタブレット端末を使おうとする姿が見られるようになってきました。例えば、写真3は、[発表ノート]の[方眼]機能を使った「模様づくり」です。流行りのアニメの影響で、休み時間に市松模様をつくる児童が現れ、そこから「模様づくり」が学級の中で一大ブームになりました。

ほかにも、Windows OSの「手書き入力」で、流行りのアニメで使われている難しい漢字を入力するうちに漢字に興味をもつ子。文字の認識を試すうちに文字認識の仕組みに興味をもった子。休み時間に[カメラ]でダンスの様子を動画撮影して、練習に生かす子など、さまざまに工夫してタブレット端末を使う姿が見られるようになりました。

また、授業、授業外で[発表ノート]を使うようになると、「ファイルが増えすぎて困る」という相談を児童から受けるようになりました。そこで「お道具箱のように[発表ノート]を整理できる「フォルダ」という仕組みがあるよ」と、[フォルダ]機能を伝えました。整理の仕方は、教師から特に指定していません。子どもの個々の考えで整理していますが、やはり普段から机やロッカーの整理整頓が上手な子ほど、フォルダ分けも上手なようです写真4

写真3[方眼]機能を使った模様づくりがブームに/休み時間にダンスの様子を動画撮影
写真4児童のフォルダ分けには個性が出る

1人1台端末活用 ≪3~4週間≫ 

約2週間で活用が落ち着き、1か月で「端末があって当たり前」の環境に

タブレット端末が設置されてから、約2週間で子どもたちは日常的に使えるようになりました。機器の操作や機器トラブルに関する質問も2週間程度で収まりました。困ったことがあれば、詳しい友だちに聞いて解決しているようでした。

3週間目を過ぎると、[カメラ]を上手に使う児童が増えてきました。例えば、授業中に考えを共有する場面で、ノートにまとめた考えをタブレット端末に入力させて共有するのですが、ある児童はノートを[カメラ]で撮影し、その画像を[発表ノート]に貼り付けて提出してきました。そのほうが効率的だと判断したようです。さらに4週目を過ぎると、書くことに苦手意識のある児童が、口で説明する様子を動画で撮影し、[発表ノート]に貼り付けて提出するといったこともありました。子どもたちは自分にとって適した方法を考えて、工夫するようになってきました。

1か月経つ頃には、もはや1人1台端末は教室の当たり前の環境になっていて、活用が落ち着いていました。例えば、導入当初は、朝学習の時間にほぼ全員がタブレット端末を触っていたのですが、1か月経つよりも早い段階で、タブレット端末を触っている児童は3分の1程度にまで少なくなりました。今では、タブレット端末を使う子もいれば、好きな本を読む子、紙のドリルで勉強する子もいるといった状態です。もし、タブレット端末を使う場面を教師が制限し、使わせる機会を少なくしていたら、このような落ち着いた状況になるまでもっと長い時間がかかっていたと思います。

どのようなトラブルが起きて、どのように対応したか

[カメラ]の利用で、肖像権が問題に

▲ [カメラ]機能を教えると児童はすぐに使いたくなる

[カメラ]機能を教えたとき、ある児童が机の上に端末を置き、動画撮影モードで録りっぱなしにしているという報告がありました。どうやらその児童は教室の様子を撮影してみたかったようですが、報告した児童は、その動画に映りたくなかったようでした。そこで、子どもたちに「肖像権」について話し、動画やカメラを撮影するときは「相手に許可を取ってから撮影しよう」と伝えました。

[グループワーク]の活用で起きるトラブル

協働編集が行える[グループワーク]機能を教えると、授業時間外でグループを組んで、友だちと楽しむ様子が見られるようになりました。すると、すぐに2つのトラブルが発生しました。

教室内での写真拡散

▲ 同じノートを共有でき、協働で編集できる[グループワーク]

休み時間に、BさんがAさんを撮影した写真を[発表ノート]に貼り付けていた。その後、Bさんが[グループワーク]機能で、CさんやDさんとその[発表ノート]をグループ化して共有すると、どんどん写真が貼り付けられた[発表ノート]が学級内で拡散することに。Aさんが慌てて「私は写真が広まってほしくなかった」と私に報告してきました。

学級に呼び掛けて、Aさんの事情を伝え、[発表ノート]を消してもらうとともに、今後どのようにしたら良いか話し合いを実施。「コンピュータ同士がつながっていると写真は簡単に広まっていく。一度広まると削除するのは難しい」ことを伝え、友だちの写真を貼り付けてグループワークをするときは注意が必要であることや本人に聞く必要があることを確認しました。

人間関係で発生する問題

▲ どのグループに誰がいるのか名札で表示するルール

人間関係を発端としたトラブルも起きます。「あるグループに入りたいのに、入れてくれない」「Eさんは、グループに入ってほしくない」といった言い合いです。

学級で話し合い、「グループに入りたい」という人は、グループの人に聞いた上で、誰でも入ってもよいということになりましたが、それでもEさんがあるグループに入ってくると、そのグループからほかの子どもたちが抜けていくということが発生しました。理由を聞くと、どうやらEさんが協働編集機能を使って行う「いたずら」に困って、断りを入れずに抜けていたということでした。Eさんにいたずらが原因だったことを伝えるとともに、再度話し合い、グループに入るときや抜けるときにはグループの人には声を掛けること、黒板のミニホワイトボードに「誰が」「どのグループ」に属しているのかを明示することをルールにしました。

1か月間の取り組みを振り返って

『SKYMENU Cloud』の活用で、1人1台端末が「学習ツール」として早期に機能

子どもたちが日常的に、毎日タブレット端末を活用することで、学習ツールとして早期に機能するようになりました。その要因の一つとして、子どもたちが主に活用する『SKYMENU Cloud』の存在があります。直感的に操作できるようで、すぐに使いこなしていました。

使える範囲、用途も広く、使い込める要素も多いと感じました。もちろん、あまりに機能が多すぎる仕組みは扱いに困ってしまうのですが、少なすぎても逆に面白みがありません。ちょうど良い使い勝手と使い込める要素があったことで、子どもたちが「授業外」に「遊び」で使い倒し、操作を習熟することができました。授業外で積極的に使ってトラブルがたくさん起きたからこそ、授業自体は円滑に進んだようにも思います。

ですから、もし『SKYMENU Cloud』がなくて、ほかのアプリケーションを使っていたら、その使い勝手次第では「子どもが使えない」とか「教師が使わせるのをためらう」ような場面が出ていたと思います。それは結果として、操作の習得、習熟を遅らせることになり、1人1台端末の「学習ツール」としての確立は、もっと遅れていたと考えます。

「これにも、あれにも使えそう」
アイデアが子どもから自然に出てくるように

この1か月間、さまざまな問題やトラブルが発生しました。そうしたときに、教師が一方的に活用を制限することもできるのですが、私は一度立ち止まって、クラス全体で話し合い、解決方法やルールを考えるようにしました。

子どもは大人を、教師をよく見ています。大人が過度に手伝ったり、一方的に決めたりすると、「自分はやらなくていい」「先生に任せればいい」と思ってしまいます。それでは子どもの成長にとって得はありません。子どもは、能動的に、主体的に問題や課題に向かうことではじめて成長できます。

自分たちでアイデアを出し、協働して問題を解決すること。その経験の積み重ねが、教師の意図を超えて、ICTを道具として使う子どもの姿につながると考えます。

「これにも使えそう、あれにも使えそう」と、子どもからアイデアが自然に、どんどん出てくる。そのような活用の段階へと、1歩1歩進んでいきたいと思います。

▲ ある児童の[発表ノート]の画面。さまざまな授業や活動で使われている

(2020年11月取材 / 2021年2月掲載)