授業でのICT活用

【ICT活用研究】ICTを活用した授業改善を、校内研究でどのように進めるか 全教員で取り組む、ICTを活用した思考力・判断力・表現力の育成 相模原市立緑が丘中学校

「授業づくりシート」で、思考の形に沿った授業へ

今、森本先生からは体育のお話がありましたが、ほかの教科では、資質・能力の育成をめざしたタブレット端末の活用は進んでいるのでしょうか。

はい。以前は導入で映像を見せる、といった子どもの興味関心を惹くためのICT活用が多くありました。今では、さまざまな教科において、子どもの思考をより深めるためのICT活用を意識して取り組む先生が増えていきています。

教科の専門性の高い中学校で「思考力・判断力・表現力」に着目し、さらにICTを絡めて校内研究を進めるというのは、本当に難しい挑戦をされていると思います。

ICTを活用した授業づくりについて、先生方から相談をいただく機会が年々多くなっています。相談を受けたときは、教育研究員の研究で作成した「授業づくりシート」を使い、先生方と一緒に授業を考えています【図2】。このシートがあることで「この場合は、タブレット端末で見返す活動がよい」とか、「この目的ならICTを使わず、紙で取り組んだほうがいい」といった具体的な話し合いができます。

今年の授業研究の状況はいかがですか。

今年は1学期の実践が少なく、2学期から研究授業に取り組む人が多いですね。

決して「授業ができない」から取り組めていないのではないと思います。子どもの資質・能力の育成を考えたときに、より適した単元や教科、ICTの使い方があるのではないかと思案し、その結果まだ取り組めていない状態だとみています。

「この授業で育てたい力が身についた」というのは、簡単には言えませんから、私を含め、今後さらに頭を悩ませることになると思います。

思考を共有する上で、学習活動ソフトウェアの活用は欠かせない

「難易度3」では、ネットワークで端末をつないで授業を進めると伺いました。これは学習活動ソフトウェアの活用を想定されているのでしょうか。

そうですね。先にご紹介した教育研究員の研究において、どのような思考の形であっても、子どもがお互いの考えを共有するための活動が必要であるという結論に至っています。タブレット端末で表現された1人ひとりの考えをネットワークで共有するために、相互の通信が行える学習活動ソフトウェアの活用は欠かせません。

タブレット端末上に表現される、子どもたちの多様な思考を共有する仕組みがなければ、例えば「アハ体験」のような、新たな気づきを得る瞬間が生まれないと思います。自分の周りの子どもであれば、タブレット端末の画面を直接見せてもらうことができますが、遠くにいる子どもの考えまでは簡単には分からないですよね。

確かに、自分の周りの子どもの考えを共有するだけであれば、紙のノートと変わらなくなってしまいますね。

先に文部科学省から示された指針では、タブレット端末等のコンピュータの台数を増やすことが重視されていますが、台数をそろえることだけに捕らわれては駄目だと思います。「どのような資質・能力を育むのか」「そのためにはどのような学習活動が必要なのか」という視点が大切です。

単に整備台数の数字が上がるだけでは駄目だと。

はい。それでは緑が丘中学校のように、100%の先生が整備したICT機器を使ってはくれないと思います。タブレット端末の活用においては、学習活動ソフトウェアのような「子どもの学びをつなげるツール」は、黒板と同じくらい欠かせないものです。

整備担当者が、子どもたちに身につけさせたい資質・能力やその育成に向けて ICT 環境をどのように整備していくかという明確な見通しを持つことが、より活用しやすい学校のICT 環境整備につながるということですね。

多くの先生が使うことで、タブレット端末が子どもに身近なツールに

全国的に見ても、緑が丘中学校におけるICTを活用した授業改善の取り組みは、大変貴重な財産になると思います。ぜひ、全国に広がるとよいと思います。研究主任として、どのようなことをお伝えしたいですか。

本校が研究の1年目、2年目にそれぞれ作成した「タブレット端末(ICT機器)活用事例集」をぜひご覧いただき、まずはタブレット端末に触れてほしいですね【図3】。そして「私たちの学校でも事例集を作ってみよう」と取り組んでいただけたらと思います。私たちも3年目の研究の集大成として、新たに事例集をまとめ、より広く成果を発信したいと考えています。

森本先生は「元使わない先生」として、まだタブレット端末を手に取られていない先生方に、どのようなことをお伝えしたいですか。

「やってみると意外に簡単だよ」とお伝えしたいです。とはいえ、最初は先生だけでなく子どももタブレット端末に慣れていませんから、「先生、分かりません。どうしたらいいですか」という質問がたくさんきます。その都度説明しなければならず、多くの苦労もありました。けれども、今では操作に関しては、ほぼすべて子どもに任せられるようになり、タブレット端末を使わせることに対して負担を感じなくなっています。

子どもの慣れとともに、ICT活用の質も変わってきました。最近では「タブレット端末を貸してください」と借りに来る子どももいます。「何に使うの?」と聞くと、「ダンスの様子を動画で撮影して、自分たちのダンスを客観的に確認したい」と言っていました。

多くの先生が使うようになり、子どもにとっても身近なツールになったのだと思います。もし、限られた先生しか使っていなければ、今のような状態にはなっていませんでした。

子どもたちは、「こんなときにタブレット端末があると便利そうだ」という発想をたくさん持っていますよね。

生徒会で新しいジャージを決める際、タブレット端末を使った「パリコレ」をやっていましたよね。

はい。新しいジャージの候補を着て歩く子どもの姿をタブレット端末で撮影し、その画面を体育館の壁にプロジェクタで大きく映し出していました【写真2】。子どもだけではなく、校長先生もICT活用に積極的です。全校集会や保護者会で、タブレット端末を片手にインカムを付け、まるでスティーブ・ジョブズのようにプレゼンをします【写真3】。

率先してICTを活用される校長先生の姿を見れば、保護者も安心できますね。先生方が一丸となってタブレット端末の活用、そして資質・能力の育成に着目して研究を進めてこられた様子がよく分かりました。

緑が丘中学校の授業公開研修には、ぜひ多くの先生方にご参加いただければと思っています。素晴らしい財産を、ぜひ多くの先生方と共有したいと考えています。

先生方からは「子どもたちが分かる授業、楽しい授業をしたい」という強い思いを感じます。先生方の持つワクワク感が、全国の学校、先生方に伝わり、さらにICTを活用した授業改善が広がっていくとよいですね。

本日はありがとうございました。

(2019年9月取材/2020年1月掲載)