授業でのICT活用

教員の活用から児童1人1台まで、活用効果と運用課題を検証

大阪府泉佐野市では、平成27年度に同市内の小学校1校を「ICT教育推進校」と位置づけ、教員・児童1人1台のタブレット端末と全普通教室に無線LAN環境を整備。タブレット端末を中心とするICT活用の効果や課題を検証されています。同市の取り組みについて、泉佐野市教育委員会 教育部 学校教育課 明渡 賢二 課長、渡辺 健吾 指導主事、髙山 晃彦 学事係長にお話を伺いました。

大阪府泉佐野市教育委員会

ICT教育推進校に1人1台のタブレット端末整備

現在、泉佐野市の小学校では、すべての普通教室に「大型テレビ」「校内LAN」「書画カメラ」があります。さらに各担任に1台の「授業用コンピュータ」を整備しており、授業でICTを使いたいときにすぐ使える環境になっています。こうした整備を進めるなかで、書画カメラで教科書やプリントを映し、書き込みながら提示するといった活用が日常化しています。

平成27年度には、児童数85名の小規模校である泉佐野市立第三小学校(以下、第三小学校)を「ICT教育推進校」として位置づけ、タブレット端末を100台導入。児童1人1台のタブレット端末が活用できる環境を整備しました。あわせて、全普通教室に無線LANアクセスポイントを設置して校内LANの無線化も行っています。

多くの場面、幅広い活用を試み、効果や課題を検証

この整備は、タブレット端末を1人1台使う授業を行うことが目的ではなく、さまざまな場面での幅広い活用を試みるなかで、学習効果や運用上の課題を明確にしていくことを狙いにしています。「この場面でタブレット端末を使えば、わかりやすいのでは?」と感じたときに、すぐに使える環境があってこそ活用が広がっていくのだと思いますので、なるべく制約の少ない環境を作りたいと考えました。

タブレット端末の整備とともに、タブレット対応授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』も導入。先生方は、以前からコンピュータ教室での授業で『SKYMENU Pro』を活用されてきたこともあり、同じ概念がベースになったソフトウェアを使用することで、違和感なく活用してもらえます。また、コンピュータ教室で子どもたちが作成したファイルを「個人フォルダ」に保存しておけば、タブレット端末でも同じファイルを読み込んで使えるのも重要なポイントだと思います。

どの授業の、どの場面で、どんな使い方をすれば、
子どもたちの役に立つのか

第三小学校の先生方には、タブレット端末があるからといって「タブレット端末を使うための授業」にならないように意識してもらっています。どの授業の、どの場面で、どんな使い方をすれば、子どもたちの役に立つのかを見極めてもらいながら、子どもたちがどんな力を身につけられたかを中心に考えてもらうようにしています。

例えば、思考力、判断力、表現力という個の学びを深めるという場面ではどうか。協働学習におけるコミュニケーション力を育む場面ではどうか。こうした観点で、タブレット端末がどのように活用されるのが望ましいのかを考えています。

実際に授業の様子を見ると、理科の授業では、グループで1台ずつ使用しているタブレット端末の画面を、皆でのぞきこみながら話し合う場面が生まれていました。また、体育の授業で縄跳びする様子を、子ども同士がお互いに録画して、動画をもとに教え合う場面もあり、子どもたちに主体的な動きが生まれるといった学習における効果を感じています。

また、子どもたちの中には聴覚情報だけでは理解しづらい子もいます。こうした場合には目で見てわかるように視覚化することが大切ですが、これまでは書画カメラなどを工夫して使うことで実現していました。これを『SKYMENU Class』はボタンをタップするだけで、大型テレビに投影でき、マーキングによって焦点化することもできます。

タブレット端末の活用でどのような力を養えるか

第三小学校での取り組みを評価するにあたって、まだ初年度ということもあり「どのくらいの頻度で活用されたのか」が、一つの指標になるかとは思います。しかし今後は、さまざまな学習場面におけるICTの活用が「子どもたちのどのような力を育むのか」という観点で評価していくことが大切だと考えています。

このとき、ICT活用によって養うべき「学力」をどのように捉えるのかが重要になるのではないでしょうか。例えば、学力を「体系的な知識や技能の習得」とするのか、「知識や技能を活用して課題解決する力」とするのかによって評価する観点が異なると思います。「全国学力・学習状況調査のB問題(発展・応用)」への対応を一つの尺度にするという考え方もあるかと思います。

第三小学校での取り組みを通じて、タブレット端末を中心としたICTの活用によって、どんな力が養えるのかを見極めながら、今後の展開へ生かしていきたいと考えています。

ICT支援員の丁寧な支援によって取り組みが順調に滑り出せた

今回、第三小学校における取り組みが順調に滑り出せたのは、ICT支援員の方がいたことが大きかったように思います。タブレット端末の電源の入れ方やカメラの使い方などの基本操作から丁寧に研修してもらったことで、先生方も授業のなかで使うイメージを描きやすかったと聞いています。

ICT支援員の方が、先生方や子どもたちのフォローをしてくださった丁寧な積み重ねがICTの活用を支えていると実感しています。

こうしたことから、今後、市内全校にICT支援員に入ってもらい、各校のICT活用を支援する取り組みを検討しています。各校の教育用コンピュータやコンピュータ教室の活用を含めたICT全般の授業を後押ししていきたいと考えています。

現在学校にあるPC教室や普通教室の環境を生かす

コンピュータ教室は、子ども1人ひとりが集中して取り組める環境があり、調べ学習や自分の考えをまとめる作業に適しています。今の子どもたちは、家庭でスマートフォンやタブレット端末に慣れ親しんでいる子が多いこともあり、ICT機器を抵抗なく使いこなす反面、社会に出て必要になるキーボードによる文字入力などのコンピュータの基礎的な使い方の習熟度に個人差が大きいことが課題になりつつあります。こうした背景からも、今後もコンピュータ教室を活用していきながら、普通教室でのタブレット端末と併用していくことが大切だと考えています。

タブレット端末が市内全校に整備できるまでには、まだ時間がかかりますが、現在学校にあるコンピュータ教室や普通教室のICT環境を生かした授業を考えることから、今後の取り組みへとつなげていきたいと思います。

(2016年2月取材 / 2016年4月掲載)