授業でのICT活用

確かな学力を高める「学習・指導方法」

“諮問”をもとに今後を展望する

情報誌「学校とICT」2015年6月号の巻頭言において千葉商科大学の永井克昇教授が、「いま求められる『情報教育』」のテーマのもと、学習指導要領の改訂に向けた要点について解説しておられます。今回は「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」をもとに、『アクティブ・ラーニング』と『タブレット端末』に焦点化して今後を展望します。

“諮問”から分かるキーワード

現行の学習指導要領で重視されている『確かな学力』の三要素(「基礎的な知識及び技能」、「これらを活用して課題を解決するために必要な思考力、判断力、表現力その他の能力」及び「主体的に学習に取り組む態度」)の育成、そのための言語活動や探究的な学習活動を充実させること、一人一人の可能性を一層伸ばし、新しい時代を生きる上で必要な資質・能力を育んでいくことを目指していることが分かります。これに関する諮問文から「習得」「活用」「探究」を取り出すことができますが、この3つに加え「表現」「実践」のキーワードも見えます。つまり、「学びの成果等を表現し、更に実践に生かしていけるようにすること」も重要としていることです。そして、そのために必要な力を育むための学習・指導方法として、アクティブ・ラーニングが登場してきています。

アクティブ・ラーニングの捉え方

諮問が出されて以来、「アクティブ・ラーニング」の言葉だけが先歩きし、活動的な学習、すなわち、グループ活動に注目されている感がありますが、諮問では次のようになっています(下線筆者)。

「何を教えるのか」という知識の質や量の改善はもちろんのこと、「どのように学ぶか」という、学びの質や深まりを重視することが必要であり、課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)や、そのための指導の方法等を充実させていく必要があります。

下線部分の「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」がアクティブ・ラーニングであり、課題の発見から解決までの一連の学習、これに主体的・協働的に取り組んでいく学習と捉えることができます。要するにグループ活動は一連の学習の一部であるということです。

私がなぜこれを強調するのかと言えば、「言語活動の重視」が叫ばれたとき、発表中心の授業をいくつか見受けたからです。発表だけでなく、その前後の学習活動といかに効果的に繋ぐか、ここでも一連の学習・・・・・といった捉え方をすることが大事であると言えます。

指導方法・学習方法の改善

諮問では、「『何を教えるか』という知識の質や量の改善はもちろんのこと」と、教師の教え方、つまり、指導方法の改善について示しています。いわゆる分かる授業、そして深まりのある授業のための改善と言えます。さらに、これらに加え、いえ、これら以上に次のことを重視することを示しています。「『どのように学ぶか』という、学びの質や深まりを重視することが必要」であるということです。この『どのように・・・・・』の方法としてアクティブ・ラーニングが登場しているのです。よって、指導にあたる教師に求められることは、指導方法と学習方法の改善であると言うことができます。

教育方法としてのアクティブ・ラーニングの位置づけ

教育方法から見た場合、「指導方法」と「学習方法」は、一体のものとして捉えることができます。それは学習指導上、教える側の教師から見るか、学ぶ側の児童生徒から見るかということです。

そこで、これまで整理されている教育方法を俯瞰するとともに、いわば新しい教育方法としてのアクティブ・ラーニングの位置づけについて考えてみたいと思います。

教育方法の基本原理として古くから「系統学習」と「問題解決学習」があります。

また、それぞれに関連する教育方法として「プログラム学習」、「完全習得学習」、「発見学習」、「範例学習」、「オープン学習」を挙げることができます。

図1これらを整理すると【図1】のようになります。

そして、アクティブ・ラーニングは、間接的な教育方法による授業・学習に位置づくことが分かります。

指導にあたる教師はこのことを意識することにより、問題解決的な学習過程においてアクティブ・ラーニングをどのように具体化していくかについて検討する必要があることを確認することができます。

アクティブ・ラーニングの具体化の方法

アクティブ・ラーニングは、教師にとっては指導方法であり、児童生徒にとっては学習方法です。よって、学習形態としては前述したグループによる学習活動もありますが、グループで課題解決するためには何らかの手段、すなわち、教材教具が必要になります。

例えば、グループで話し合うときや考え合うときには思考ツールが、考えたことや話し合ったことを表すときには表現ツールが、グループで表したことをクラス全体に発表するときには発表ツールが必要になります。

図1「思考」→「表現」→「発表」といった一連の学習そのものがアクティブ・ラーニングであり、その過程で効果的な活用に期待できるのがタブレット端末です。タブレット端末は、思考ツール、表現ツール、発表ツールに成り得るからです。両者の関係は【図2】のように表すことができます。

このように考えると、アクティブ・ラーニングとタブレット端末との整合性は極めて高く、指導方法・学習方法の改善に大いに役立つと思われます。

“諮問”の参考資料に見られるアクティブ・ラーニングの取組例

“諮問”にはアクティブ・ラーニングの取組例が紹介されています。(以下、強調文字は筆者によります)

国語科における取組例として、身近な昔話とそのルーツとなった古典を読み、面白さについてまとめ、グループごとに発表し、お互いの発表を比較して分かったことや考えたことを文章で表現するといった一連の学習です。

理科における取組例は、空気でっぽうのしくみについて実験して様子を確認し、自分の考えを図に整理する。それを教師がタブレット端末で撮影し、いくつかの考えを電子黒板に映す。学級全体の考えを分類し、自分の考えと比較するといった一連の学習・・・・・です。

教科学習の取組例は2例ですが、今後のアクティブ・ラーニングの具体化のヒントになる要素がいくつかあります。

1つは、一連の学習です。本稿において強調した「アクティブ・ラーニングの捉え方」で述べたことと合致します。

2つは、一連の学習ゆえにいくつもの学習事象が埋め込まれていることです。これも本稿において着目した「思考」→「表現」→「発表」と合致します。

3つは、「教師が撮影し」、「電子黒板に映す」といったように、一連の学習の過程で教師が主導することも意図的に計画していることです。これも本稿で取り上げた「指導方法」に合致します。

4つは、いわゆる一斉学習の過程においてもアクティブ・ラーニングが行われていることです。これは本稿において留意点とした「アクティブ・ラーニングは、グループ活動だけではない」に合致します。

以上のように、2つの取組例だけでも、アクティブ・ラーニング具体化のためのヒントを読み取ることができます。

もう1つ、取組例を見てみましょう。

ペア学習・グループ学習

ペア学習・グループ学習等の推進の取組例として、ある課題を解決するために複数視点を設定し、グループ内で分担してそれぞれで説明を考え、話し合いによって統合し、クラス全体で発表し、より深い理解へとつなげていくといった一連の学習・・・・・です。

この取組はジグソー法の例として紹介されています。よって、グループ活動においても一人一人の役割を明確にすることで主体的・協働的な学習が成立することが分かります。

さらにもう1つ、タブレット端末等の活用についての取組例を見てみましょう。

ICTの活用

タブレット端末、電子黒板などのICTを効果的に活用することにより、より分かりやすい授業が実現するとともに、個別学習や協働学習を通じて、児童生徒の主体的な学びが可能になると紹介しています。

教科のように具体的な紹介ではありませんが、タブレット端末、電子黒板などのICTがアクティブ・ラーニングに効果的であると示しています。

しかし、ここで確認したいことがあります。それは、例えばタブレット端末を活用すれば、すぐにアクティブ・ラーニングが実現するということではないということです。これはグループ活動を取り入れるだけでアクティブ・ラーニングが実現できるわけではないことと共通しています。

どのようにタブレット端末を活用するか、どのようにグループ活動を行うか、十分に検討する必要があります。

アクティブ・ラーニング×タブレット端末による学習活動の評価

アクティブ・ラーニングもタブレット端末活用も、主体的で協働的な学習が実現されます。いわば、より活動的になるということです。

では、その活動をどう評価すればよいのでしょう。計画的に活動を具体化すればするほど、それをどう評価するかが重要になります。

“諮問”においては、その評価方法についても答申することが示されていますが、先行して予測してみましょう。

例えば、積み重ね・・・・による評価方法としての『ポートフォリオ評価』が考えられます。活動中、または活動の前後に記録したファイルを積み重ねていって評価する方法です。

コンピュータを用いたポートフォリオとして、デジタルポートフォリオやeポートフォリオの活用がありますが、タブレット端末でも同様です。

タブレット端末を活用して、調べたこと、まとめたこと、発表したことを個人フォルダにデータ保存していくことで積み重ねをしていくことができます。

課題としては、一人一人のポートフォリオをどのようにして一元管理するかです。そして、そのためにはどんな授業支援システムを導入するかについても検討する必要があるでしょう。

もう1つ、観察・・による評価方法としての『パフォーマンス評価』も考えられます。一人一人の活動を教師が観察して評価する方法です。

アクティブ・ラーニングは「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」のことを意味します。そして、パフォーマンス評価としては、①課題の発見時の一人一人の関心や態度、②解決に向けて追究しているときの様子、③追究した結果をペアやグループでまとめているときの様子、④表現したり発表したりしているときの様子を観察して評価します。

タブレット端末を活用しながら①から④の学習を具体化させるためには、ポートフォリオ評価同様に、授業支援システムが効果を発揮します。教室の電子黒板と一人一人のタブレット端末とのシステム化は是非、実現したいものです。それによって、タブレット端末の画像を児童生徒自ら電子黒板に映し出しことができます。そのため、表現活動や発表活動が活発になり、主体的・協働的な学習が具体化されます。教師はその様子を観察しながら評価するということもできるようになります。

以上のように、新たな教育方法としてのアクティブ・ラーニングの実践に伴い、新たな評価方法についても検討し適用していくことが求められます。

答申の内容を読者のみなさんと共に注目したいと思います。

(2015年8月掲載)