学習指導要領/教育の情報化

いま求められる「情報教育」~学習指導要領の改訂に向けて~

ICT活用は、付けたい力や学び方に密接に関係する

昨秋に文部科学省の下村大臣から、中央教育審議会に教育課程の見直しについての諮問がありました。以前、大臣が2020年の4月には小学校の外国語活動を教科化したいと話されたことがありますが、これを見据えたスケジュール感で学習指導要領の改訂も進んでいくと考えております。

その第一弾として1月29日に教育課程企画特別部会が第1回の会議を開催しました。この部会の役割は、学習指導要領冒頭にある総則に関する部分を担います。つまり各教科の議論に入る前に、学校種ごとに「どのような教育の在り方があるのか」「児童生徒にどのような資質・能力を身に付けさせるのか」その資質・能力を身に付けさせるためには、「どのような学習方法が必要なのか」が議論されていきます。

タブレット端末の活用、ICTの活用は、身に付けさせる資質・能力の在り方とその学び方に、極めて密接に関係します。中教審全体の議論のスケジュールを考えますと、総則をまとめるこの部会は、本年夏をめどとして方針を出すと思われます。この部会の議論内容や配付資料については文部科学省のWebサイトに掲載されますので、皆様ぜひともご関心の向きを持っていただければありがたいと存じます。

学習指導要領の改訂、「育成すべき資質・能力」「教育方法」が審議の柱に

学習指導要領の諮問がなされますと必ず説明文というものを添付します。そこには、今なぜ学習指導要領を改訂しなければならないのか。どのような内容を中教審に議論いただきたいかといった、具体的な審議事項なども書かれています。この説明文についても、先生方にぜひお読みいただきたいと思います。教育に熱い思いをお持ちのプロの眼でその説明文を読んでいただければ、次の学習指導要領の構造について、その兆しを感じ取っていただけるのではないかと考えております。そして、その説明文の要点をまとめたのが【図1】になります。

図1 「初等中等教育における教育課程の在り方について」諮問されました

特にご関心をいただきたいのは「特に重視する視点」と書かれているところです。今回の改定に当たって ①「何を教えるか」 ②「何を学ぶか」その結果として ③「どのような力が身に付いたか」という点について、総論を含め教科ごとに、中教審で議論いただきたいと要請しています。

これを踏まえて審議事項の柱としては「教育目標・内容と学習・指導方法、学習評価の在り方を一体として捉える」。そして、「新しい時代にふさわしい学習指導要領の基本的な考え方」について議論してくださいとなっています。この書きぶりにご注意ください。

これまで、学習指導要領の全面的な改訂は戦後6回ありましたが、このような内容の審議の要請は、私が知る限り初めてのことです。従来の学習指導要領は「何を教えるか」について軸を置いて書かれているものでした。「どのように教えるのか」「その結果どのような力が付くのか」ということまで、学習指導要領やその解説書に色濃く示されることはありませんでした。こういった点が、先生方に構造的な変化の兆しを感じていただける点ではないかと思います。

受け身的な授業から、主体的・協働的な学びへ

審議事項の柱の1つに「課題の発見・解決にむけて主体的・協働的に学ぶ学習の充実」があります。説明文には、主体的・協働的という言葉に続いて括弧書きで「アクティブ・ラーニング」という言葉が添えています。アクティブ・ラーニングは、ともすれば受け身的な授業だったものを主体的・協働的に学ぶという学習の形態にしていき充実していくことと表現しています。タブレット端末はこういった点において活用されるでしょう。

次の学習指導要領の改訂に当たってICT、特にタブレット端末が大きな軸になることは確かです。つまり、タブレット端末をどのように教育・授業に生かすかが大きな関心事になります。

活用することは、「学び」の手立て

私たちは教育のためにさまざまなものを活用しています。タブレット端末などのICTもそうですが、例えば言語なども活用しているものの一つです。このように、さまざまなものを活用するわけですが、ともすれば陥りがちな大きな課題があります。それは「活用が目的化してしまうこと」です。

活用することは「学び」の手立てです。「学び」とは、子どもたちにどのような力を身に付けさせるのかという営みなのですから、タブレット端末の活用もこの「学び」の手立てとなります。つまり、タブレット端末を活用することで、子どもたちにどのような資質・能力・態度を身に付けさせることができるのか、それが明確になる必要があります。この点が不明瞭になれば活用が目的化されてしまいます。ぜひ皆様には「目的化しない活用」を念頭においていただければと願っています。

どのような技能や知識、態度を身に付けさせるのか

あえて乱暴な言い方をすれば、活用の目的が明確化されていない授業で、タブレット端末を児童生徒に渡せば、それは児童生徒にオモチャを与えて遊んでいなさい、と言っているのと同じだと、私は思います。ぜひ、先生方にはタブレット端末を教具にするという観点で見極めていただければと思います。

私は、このことを「共通性を失った多様性」という言い方をしてお話しています。さまざまな事例を通じて、指導方法や学習方法の「多様性」が共有されたとしても、その多様性を共有するときには、タブレット端末の活用によってどのような資質・能力・態度を身に付けさせようとしているのかという「共通性」の部分を忘れないでいただきたいと思います。

そして共有された「多様性」を、先生方のお力を借りて皆様の学校や地域で普及し、浸透していただき、この国の子どもたちにとって良い教育を基盤から底上げしていくということを、ぜひお願いしたいと存じます。そのことについて示しているのが【図2】です。

図2 個々の先生方の頑張りが評価されるには ①

「情報教育」とは「情報活用能力を身に付けさせる教育」のことです【図3】。小学校、中学校、高等学校、いずれにおいても情報活用能力を身に付けさせる教育として実施され、学校教育を通じて国民として必要最低限の力としての情報活用能力を確実に身に付けさせることが、現在の学習指導要領の構造です。

図3 個々の先生方の頑張りが評価されるには ②

基本的なことですが、情報活用能力は単なるコンピュータの操作スキルではありません。スキルやリテラシーではなく能力です。

いわゆる3観点8要素で示される能力・態度を総合的な力とした情報活用能力を育成することが我が国の情報教育は目指しているということをご認識いただければと思います。

次期学習指導要領で、情報活用能力をどのように定義するのか

社会も変化し、タブレット端末という非常にインパクトの大きい教具も登場していますので、次期学習指導要領においては情報活用能力をどのように定義するのか、それを構成する個々の能力・態度をどのように吟味するかといったことから議論が始まるのではないかと考えております。しかし、情報活用能力というものがあって、それを身に付けさせるものが情報教育という基本的な構造には変わりがないと考えています。

皆様もタブレット端末を使ってさまざまな教科で指導をされると思いますが、それぞれの授業のねらいを実現させるとともに、情報活用能力を身に付けさせる教育をしているということをご認識いただければと思います。

【図3】の一番下の囲みに書かれている「情報の科学的な理解が効率的な情報活用の実践につながり、情報活用の実践を多く行い具体例を豊富に持つことが、情報の科学的な理解を促進する。情報社会に参画する態度を身に付けることが適正な情報活用の実践につながり、情報活用実践の経験やその反省を通して情報社会に参画する態度が育成される」という一文を高等学校の教科「情報」の解説に書き込みました。

小学校、中学校には、情報に係る教育課程上のまとまった時間がないので、こういう形で明文化はされていませんが、情報教育は学校教育を通して取り組むと申しましたように、ここに書かれていることを小学校や中学校の先生方も念頭に置いて、明確に位置づけていただければとありがたいと思っております。

タブレット端末をはじめとするICTを適切に使うためには、ただ単に操作のスキルアップだけをすれば良いわけではないということです。機能、動作原理、長所や短所という特性などを見極める。また、心構えを含めた情報モラルを含めた総合的な力が身に付いたときにはじめて、タブレット端末の活用が適切に行われたことになると思います。

一般社団法人日本教育情報化振興会主催 タブレット端末活用セミナー2015特別講演より
(2015年6月掲載)