授業でのICT活用

日常授業のためのICT活用と授業づくり

1思考力の育成や問題解決のためのICT活用を

「子ども一人1台」「反転授業」など、タブレット端末の導入を視野に入れた学習活動や授業の提案が、教育界をにぎわしている。けれども、タブレット端末を使って「ドリル学習をするのが一番おもしろい」といった児童を、生み出してはいないかという反省の声も聞かれる。

一方で、毎年実施される文部科学省における教員の「ICT活用指導力」の調査では、年々右肩上がりの推移が見られる。しかし、ICTを活用することで、どのような力を児童につけていくのか、一体どのような効果をめざして授業をしていくのかという点において、疑問の声が聞かれる。

つまり、先生方が、ICTの利用に慣れてきたり活用頻度は高まってきたりしているけれど、授業でICTを活用している場面は、児童の興味や関心を高める場面や理解を促すような説明の場面がとても多い。もちろん、今まで学習に関心を示さなかった児童が、ICTを活用することで、意欲的に取り組むようになることは素晴らしいことだ。単に、学校における授業が、そこで停まってしまってよいのかという問題である。

ここで提案しているような思考力の育成や問題解決のために、ICTを活用する授業づくりは、なかなか難しい。ましてやそこに、「子ども一人1台」のタブレット端末の学習環境が入ってきたとしたら、どうなるのであろう。教室の隅に積んでおくだけになってしまったり、どのように授業で活用しようかと慌てふためくことになったりしないように、「日常授業のためのICT活用と授業づくり」を考えていきたい。これからの教師にとって、大事な資質となってくるであろう。

2ICT活用と授業づくり

図1 授業づくりICTを活用した授業による児童の思考力や問題解決能力向上のためには、(図1)にあるように、児童の実態からの単元の指導計画や授業の指導案に基づいた実践と、評価による指導方法の改善を進めていくことが重要である。この点に関しては、これまでの授業づくりと何ら変わるところはない。

今回は、ICTを含み込んだ授業づくりをするには、どのような点に気をつけていけばよいのかに関して、「コンテンツの吟味」「授業展開のイメージの獲得」「豊かな授業スタイルへの対応」の3つの視点から解説をしていくこととしたい。

1コンテンツの吟味

単純にノートや挿絵などを「映し出す、拡大縮小、書き込む」といった機能から使うことで使用頻度が高まったところで、さらなる活用をめざすためには、電子黒板やプロジェクタといった提示装置で何を映し出すのかといったことの吟味が必要となる。

各教科のデジタル教科書やWeb上にあるデジタルコンテンツ、動画コンテンツなどは、非常に情報量が多い。

そこで、児童の生活経験や思考の程度に合わせてコンテンツを選択したり、内容を精査したりする必要が出てくる。最も情報量が多い動画コンテンツを使用する場合には、画像と音声を同時に視聴させるのか、画像のみまたは音声のみの情報を与えるのかなど、教材としてのコンテンツを児童にどのように与えるか決めなければならない。選択したり精査したりする視点として、以下の点が考えられる。

  • ○地理的に離れた場所、人物、事物
  • ○多角的に見るべきもの
    (例えば、見るべき角度が決まっているものや様々な角度から見ることを必要とするもの)
  • ○広大な空間
  • ○微少な空間
    (顕微鏡で見るものなど、小さすぎて目に見えないもの)
  • ○長期にわたる事象や変化
    (地層の形成など膨大な時間がかかるもの)
  • ○短期におこる事象や変化
    (植物の開花など、瞬間的に終わってしまうもの)
  • ○過去のみに存在したもの
    (歴史的な事物、出来事など)
2バリエーションのある授業展開のイメージの獲得

ICTやデジタルコンテンツの導入以前からの授業づくりの要素である「発問」「板書」「掲示物の活用」などに加え、どのような場面で、どのようなコンテンツやコンテンツの機能の組み合わせが有効となるのか、どのような順序で提示しながら授業を進めていくのが効果的かを考えることで、授業展開イメージをより豊かにすることができる。(図2)は、学習過程において、デジタルとアナログを効果的に含み込んだ授業展開のイメージである。

図2 デジタルとアナログを含み込んだ授業展開

また、ICTを活用するメリットとして、今まで行いたくても環境的に大掛かりになり制限されていたことを可能にしてくれる点がある。これは、授業展開において、大きなメリットとなる。テレビ会議システムの活用などは、教室という空間をボーダレスにする。まだまだ、その活用は大きな可能性を秘めているといえよう。

さらに、ICTを使う「学習形態」は、個で行うのか、グループなのか、あるいは一斉に行うのか、個での学びをグループで検討させるのか、全体化するのか等々の検討も必要となってくる。

3豊かな授業スタイルへの対応

「私は、黒板とチョークがあれば、ICTやデジタルコンテンツなどを活用しなくても、十分に児童に力をつける授業ができる」というベテラン教師も多い。

教師の話を聞いてすぐに理解し応答できる子が、そういう授業では中心となってきた。児童の認識の過程には、様々なタイプの子がいる。話を文字化してはじめて理解できる子、絵や図を用いて図式的イメージを与えることで理解できる子、シミュレーションや動きのあるものを実際に見ることで理解できる子、話を聞くよりもとにかくやってみる、試行錯誤しながら教材とインタラクティブにかかわりながら考えていくと分かってくる子などがいる。これらの児童も含み込んで集団思考を行っていくには、これまでの学習スタイルだけでは、対応できにくい。

ICTを効果的に活用することで、これらの児童の積極的な授業参加が期待されるのである。様々な授業スタイルを用意することで、これまでに出にくかった発想や意見が出て、それらを交流したり検討したりして、より新しい知を求めることができるのではないかと考える。

また、パソコン、プロジェクタ、電子黒板といった学習環境のときには、教師がこれらを活用して、いかに児童が主体的に学習を展開し、思考力や表現力を獲得するかという授業づくりを考えてきた。けれども、タブレット端末がどのような形であれ(自治体が用意するか、個人持ちであるか)、子ども一人1台の学習環境がやってきたときには、否応がなしに学習の主体は児童に移ってくる。

3授業支援システムを活用して、情報共有、集団思考へ

タブレット端末でふりこの実験結果の様子を撮影「児童が学習の主体者」とはどのような授業なのか、一例をあげて解説しよう。

福田 晃教諭(金沢大学人間社会学域学校教育学類附属小学校【実践時:金沢市立十一屋小学校】)の「映像とともに実験結果を伝え合おう」の実践では、児童が自分たちの結果を考察するための根拠を映像で撮影し、本時のねらいである「ふりこが一往復する時間は、ふりこの長さによって変わることを理解する」ことに迫る実践が紹介されている。

撮影した実験結果を持ち寄り、考察を伝え合うここでは、「ジグソー学習」という新しい学習形態を取り入れ、4人で構成される学習班を「A」と「B」の2つのグループに分け、隣の班の同じアルファベットのグループ同士で新たに4人のグループを作って実験させている。AとBはそれぞれ異なる条件で実験をしている。実験後は、元の学習班に戻って結果と考察を伝え合うのである。伝え合う際には、児童らは、ふりこが一往復する平均時間と撮影した動画を同時に見せながら説明し、平均時間を示すだけではなく、その様子を即座に動画で確認している。どのような情報を、どのような順序で示すとより相手を説得・納得させることができるのか、思考・表現する姿が見られる。また、グループの情報を学級全体で共有化するために、授業支援システムを使ってタブレット端末の情報を電子黒板に転送して、比較して集団思考する場面も設定している。さて、このような授業を、読者の皆様はどのように評価されるであろう。

これまでの授業づくりを基盤としながらも、児童の教科の学習を現在よりも、さらに効果的かつ質的に高める道具として、コンピュータやタブレット端末を活用する授業づくりを試行錯誤しながら実施し、Good Practiceが蓄積されていくことを期待したい。

(2014年10月掲載)