授業でのICT活用

小中一貫したICT環境を基盤に、全教員の授業構成力向上を

「タブレット型PC等活用研修」の様子。各校2名ずつ参加した姫路市では、平成25年12月、市内104校すべての小中学校の普通教室への大型ディスプレイ、教材提示機、指導者用パソコン、主にグループ学習で活用する各校一定数のタブレット型PC、授業支援システム等の整備が完了し、小中一貫教育と連携した教育の情報化を推進されています。

校内のICT 環境を連携して活用する「姫路スタイル」による授業改善を目指し、このほど姫路市立総合教育センターにて実施された夏期教員研修「タブレット型PC 等活用研修」を取材させていただくとともに、教員の資質・能力向上に向けた取組を伺いました。

姫路市独自の教職員研修体系を策定、106の教職員研修を予定

姫路市立総合教育センターは、平成22年4月に開設、本年度で5年目を迎えました。当市独自の教育改革構想『魅力ある姫路の教育創造プログラム』に基づき、学校教育の支援に取組んでいます。

『魅力ある姫路の教育創造プログラム』では、「授業力」「教師力」「連携力」「学校力」「地域力」「人間力」の6つの力を高めることを重点目標としています。当センターでは、育みたい教職員の資質・能力を体系的に整理し、本市独自の教職員研修の体系を策定。計画的、継続的な教職員研修を実施しており、今年度は106の研修を予定しています。

3つのステージに分けて実施する「タブレット型PC等活用研修」

本年度は、市立小中学校に整備したタブレット型PCおよび大型ディスプレイ等のICT機器を有効活用した「わかる授業づくり」の推進に向け、「タブレット型PC 等活用研修」を実施しています。先生方が段階を追って無理なく学びを深められるように、「ステージⅠ」「ステージⅡ」「ステージⅢ」の3段階に分けて研修を実施。基本的な操作方法の習得から、授業での効果的な活用や有識者から学ぶ機会を設ける等、実践的な研修としています(図1)。

【図1】タブレット型PC等活用研修
ステージⅠ 基本操作研修 6月 タブレット型PCの基本操作講習
ステージⅡ 授業活用研修 7~8月 授業活用例の紹介・ミニ授業体験
ステージⅢ 授業実践研修 11月、1月 講義・演習
※別途、市内の各小中学校普通教室を会場とした操作講習会も実施

タブレット型PCを囲み、教員同士で頭を寄せ合って研修

模擬授業で具体的な活用をイメージ

ステージⅡの「授業活用研修」は、各小中学校から先生が2名ずつ参加。機器の操作講習だけではなく、タブレット型PCを授業の中でどのように効果的に活用するかという視点を重視し、3つの演習に分けて研修を構成しました。

タブレット型PC等活用研修 ステージⅡ 授業活用研修の内容

今回の研修は、授業での具体的活用について学ぶ「ステージⅡ」。姫路市内の小中学校教員を対象に、7月下旬から8月下旬にかけて全6回実施。次のような内容で実施しました。

演習1、演習2、演習3
授業支援ソフトで児童生徒の画面を受信し共有

【演習3】では、小学校4年算数「面積」の単元を題材に模擬授業を実施。当センターの鎌田 隆志指導主事が授業者となり、先生方は4年生の児童として模擬授業を体験しました。

ペアで相談しながら解答を書き込む模擬授業では、タブレット対応授業支援ソフトウェア『SKYMENU Class』の「デジタルワークシート」で作成した問題を先生方の手元にあるタブレット型PCに一斉に配付。先生方は、ペアで1台のタブレット型PCを活用し、面積の求め方を話し合いました。この模擬授業では、タブレット型PCを介して相談しながら意見のやりとりをし、考えを書き込む等、互いの意見を交流する児童生徒の立場を体験してもらうことをねらいとしました。

模擬授業後、1時間程度で授業略案を検討。先生方が考えた授業略案は、ミニ模擬授業として実施する等し、参加者で共有しました。研修開始時は、打ち解けていなかった先生同士も、研修を終えるころには笑顔でコミュニケーションを取っている等、タブレット型PCの活用効果を感じています。

ICT環境を有機的に連携させる「姫路スタイル」

当市では、書画カメラや大型ディスプレイ等を各普通教室に常設しています。平成21年度に整備済みの小学校では、先生方による資料の提示や児童による意見の発表等、日常的に授業の中でICT機器が利用されており、整備後半年の中学校でも同様の活用が進んでいます。また、主にグループ学習で利用することを目的としたタブレット型PC は、持ち運び場所を選ばずに利用することができます。1人1台で利用できるPCルームの利点と組み合わせ、子供たちの情報活用能力を育成するために活用していきたいというねらいがあります。現在では、普通教室でのグループ学習における意見交流や大型ディスプレイに投影しての発表、体育等で客観的に自分の動きを確認する等、様々な活用が進みつつあります。

実践事例を収集し、効果的に発信

受講した先生方がタブレット型PCで模擬授業今後のタブレット型PC等、ICT活用の促進にあたっては、実践事例等の教育情報の「収集」と「発信」が非常に重要だと考えています。「収集」の活動として、市内のすべての学校へ実践事例の提出を依頼しており、1年間で800事例の収集を目標にしています。

収集した実践事例やアイディアについては、内容を整理し市内の教職員向けポータルサイトや当センターのホームページで公開したいと考えています。さまざまな教育情報を効果的に発信することで、先生方へ還元していきたいと思います。

初任者研修でも「授業構成力」向上をテーマに

当センターでは教職1年目の先生を対象とした初任者研修も開催しており、教育の情報化に関する内容としては教育動向や情報モラル、授業でのICT活用等について全体研修や班別研修を実施しています。昨年度までの初任者研修は、校種間でICT環境に差異があったため、学校に戻ってからの実践が難しい点がありました。今回、市内小中学校で統一したICT環境を整備したことを契機に教育の情報化に関する研修内容のさらなる充実を図りました。

「わかる授業」の推進には、「見通しと振り返り」を大切にした授業設計に基づき、ICT機器の特性をふまえ効果的に活用することが大切です。このことから、初任者研修では、ICTの効果的な活用を企図した指導略案の作成や模擬授業の実施等、実践的な内容の研修を実施しました。また、日々の授業実践で留意すべき著作権に関する内容や校務の情報化に対応した情報セキュリティ確保に関する内容も実施しています。

一貫したメッセージを発信する

「授業構成力」という視点や、国の教育の情報化の現状、姫路市の取組については、初任者研修以外の様々な研修の場面でも取り上げています。一貫したメッセージを先生方に発信できるように、指導主事間で何度も打ち合わせや意見交換をして連携しています。

小中一貫教育と連動した取組である姫路市が目指す教育の情報化のイメージが、どの世代のどの先生方にも浸透し、市内の先生方が共通した認識を持つ。その上でICTを有効に活用していくことが大事だと考えています。

特別な先生が特別なアプリを使って、特別なICTを活用した授業をするのではなく、市内の先生方が少しずつ、情報を共有しながらみんなでステップアップできる、長期的な視点に立った教職員研修を目指していきます。

(2014年10月掲載)