授業でのICT活用

小中一貫教育を推進する「姫路スタイル」

姫路市立総合教育センター姫路市では、平成25年12月、市内104校すべての小中学校の普通教室に大型ディスプレイ、教材提示機、指導者用パソコンと併せ、各校一定数のタブレット型端末、授業支援システム等を整備し、小中一貫教育と連携した教育の情報化を推進されています。学校のICT環境である「普通教室の常設ICT機器」「グループ学習用のタブレット型端末」「パソコン教室」を連携して活用する「姫路スタイル」の取組について、整備の背景、方針、効果などについて伺いました。

原秀樹係長 井上幸史指導主事 小池理平指導主事

教育の魅力向上と、未来を担う子どもたちに

姫路市は、人口53万人の中核市です。平成21年、姫路市総合計画「ふるさと・ひめじプラン2020」において、少子高齢化が進むなか、住みよい都市としての魅力を高めていく方針を掲げました。教育の情報化は、まちづくりの観点からも、姫路市の魅力向上にもつながる取組として積極的に推進しています。

姫路市では、平成3年以降、教育用コンピュータやインターネット接続環境、校務用パソコンの整備など、計画的・継続的に教育の情報化に取組んできました。そして、未来を担う姫路の子どもたちが、グローバル化する時代を生き抜く確かな力を育むことを目標とし、ICTを活用した質の高い教育環境の実現に向けて、平成25年度「学校教育情報化推進事業」に取組ました。これにより、すべての中学校に、大型ディスプレイ515台や教材提示機515台(小学校はこれら機器を平成21年度に整備済み)、指導者用パソコン1,432台を整備。主にグループ学習で活用することを目的としたタブレット型端末は、すべての小中学校に教員用1台、児童生徒用に4人に1台を1セットとし、各校に1セット、大規模校には2セットを整備しました。

統一の環境が可能にする、小中一貫教育との連携

「姫路スタイル」の特長の一つに、「すべての小中学校に統一した共通の環境整備」があります。姫路市では、特色ある取組として小中一貫教育に注力しています。そのため、市内すべての小中学校普通教室のICT活用環境を統一し、義務教育の9年間を通じて、協働型交流学習を推進したり、発達段階に応じた情報活用能力を育成したりすることが必要と考えました。

小学校の授業を参観した中学校の先生が、「子どもたちがICT活用に慣れると、中学校に入ったときに授業がやりやすく、さらに発展的な授業ができる」と話されていました。小学校で身につけた力を中学校でさらに伸ばしていく取組は、小中学校を統一した環境だからこそ行えることであって、モデル校を指定しての段階的な整備ではなかなか難しいと思います。

タブレット型端末のOSも統一

タブレット型端末のOS選定にあたっても、統一した環境を意識しました。そこで、タブレット型端末のOSは、パソコン教室や校務用パソコンに導入しているWindowsを選定しました。

先生方が職員室の校務用パソコンで教材を作成し、普通教室で活用する場合、OSの親和性は重要なポイントです。また、センターサーバから配信している教材やアプリケーションを、パソコン教室でも普通教室でも利用できる。先生方がほかの学校へ異動されても、同じ環境で指導できる。OSが統一されているということは、ICTの活用推進において非常に大切な視点でした。

ICT活用環境を総合的に活かす学習活動

「PC教室」「普通教室」「タブレット型端末」の有機的な連携

それぞれの優位性を生かして

ICTを活用した質の高い教育環境を実現するために、1人1台環境の「パソコン教室」、大型ディスプレイや書画カメラを備えた「普通教室」、グループ学習など協働学習で活用する「タブレット型端末」を有機的に連携して活用できることも重視しました。すでに導入している設備と新しく導入する設備のお互いの優位性を生かすことで、効果的な活用を目指しました。

学習指導要領や教育の情報化ビジョンで示されるICTを活用した授業において、「個別学習」「一斉学習」「協働学習」それぞれの学習場面が相互に組み合わされた、学びの場の形成が必要とされています。

今回、タブレット型端末は第一段階として「4人に1台」の整備です。「1人1台」ではない環境だからこそ、既存の設備を使って「もっとこんなこともできる」といった有効活用が必要です。そのためには、1人1台の環境であるパソコン教室と連携することで、普通教室のタブレット型端末や提示機器の良さがさらに生きてくる――、個別学習から協働学習への展開など、学習活動に深みを持たせて学習効果を高められると考えました。

パソコン教室のノートPCには、キーボードとマウスがセットされているので、個人での資料作成に適しています。一方で、普通教室のタブレット型端末は、拡大や提示、協働作業やプレゼンテーションに適しています。

パソコン教室で各自が資料を作り、普通教室でデータを取り出し、グループでまとめて発表したり、普通教室でグループ学習を行い、パソコン教室で各自が資料に仕上げるといった、それぞれの優位性を生かした使い方を想定しています。ノートPCでコンピュータの基本的な操作を身につけた上で、タブレット型端末では、自分が持っている情報をほかの人に伝える取組に活用するなど、学習活動が相互に関係しあう中において、姫路スタイルのICT活用環境は効果的で効率的であると考えます。

「姫路スタイル」の学校ICT活用環境

パソコン教室は必要不可欠

また、学習指導要領を満たす授業づくりには、パソコン教室は必要不可欠と考えています。例えば小学校低学年の段階から、コンピュータの基本的な操作に慣れさせ、習得させておきたい。そのためには、1人1台のコンピュータが常設された環境がないと指導することは難しいわけです。

仮にタブレット型端末が1人1台になっても、普通教室で実現できる40人一斉での学習活動には性能的な限界があります。例えば、無線LAN環境です。現在の本市のパソコン教室は、有線LANの環境ですので、インターネット上にある容量の大きい高画質の動画ファイルでもスムーズダウンロードして活用できる。また、大型プロジェクタで大画面に映せる。プリンターやスキャナーなどの周辺機器もある。いわばICTのスペシャルルームです。レイアウトを工夫して、グループ学習を行うことも可能ですので、一層の有効活用を期待しており、中学校1校で実証的な取組を行っています。

協働学習を支える授業支援ソフト

普通教室において、大型ディスプレイやタブレット型端末を活用した協働学習をデザインするには、子どもたちのタブレット型端末へ教材を配布できたり、機能を教師側で制御できたり、また、子どもたちのタブレット型端末の画面を大型ディスプレイに比較表示するなどができることが必要です。こうした機能の効果的な活用が、子どもたちの思考の可視化や言語活動の充実につながります。そこで、今回の整備において、授業支援ソフトウェア「SKYMENU Class」の導入が決まりました。「SKYMENU Pro」はすでにパソコン教室で先生方も利用されています。授業支援ソフトウェアの活用は、パソコン教室と普通教室を連携させるベースになる部分と考えています。

パソコン教室と普通教室の連携した取組例

安全で確実な運用管理を

端末の使い方も含めて、安全で確実に運用管理ができるかという点も、システムを管理する側としては忘れてはいけない視点でした。一部の先生による様々なアプリを駆使した授業では、全体的で継続的な取組へはつながりません。パソコン教室で作った資料を普通教室で引き出す。普通教室で作った資料をパソコン教室で引き出すといったことを安全で確実な環境で行ってもらうことが重要です。教育用サーバや教育クラウドへのデータの保管も、セキュリティが守られた状態できっちり行われるように配慮しました。また、セキュリティポリシーの見直しや改訂も行い、運用面とシステム面のトータルでの安全管理に努めています。

ツールの特性を生かして「わかる授業」をデザイン

普段の授業にICTを

整備後、市内の小中学校ではこれまでの黒板や教科書を使った授業の中にタブレット型端末や書画カメラ、大型ディスプレイの特性を組み込むことで、新しい授業スタイルが生まれています。

整備後約2ヶ月の間に3回の公開授業を実施しましたが、どの授業もこれまでどおりの授業の中に自然にICTを活用した素晴らしい授業でした。

授業では、教員は、板書したり自作教材を活用したりしながら、大型ディスプレイに教材や動画を映し出す。また、教員がタブレット型端末に配付した教材に、グループで意見を出し合いながら書き込み、全体の場でプレゼンテーションをする活動も行われました。子どもたちは、辞書やタブレット型端末で調べて、ノートやワークシートにまとめるなど、主体的に情報を活用する姿も見られました。

協働学習の場面では、教員は机間巡視と併せて授業支援ソフトウェア「SKYMENU Class」を使って子どもたちの進捗状況を確認します。これまで以上に思考が可視化され、フォローが必要なグループへの助言がスムーズになりました。また、画面の投影機能を活用したタブレット型端末を使っての発表は、自席でも行うことができるようになりました。

このように、子どもたちがプレゼンテーションする活動を取り入れる等、日常の授業の中で表現する場を取り入れていくことで、義務教育9年間を通して子どもたちの情報活用能力を育てていきます。

授業後、先生方からは「子どもの表情が違う」「集中力が増した」などの手ごたえを感じているという声を聞いています。また、ICT機器の導入により、教員相互に教科を越えて指導方法を相談する輪も広がってきているなど、教員間でもよい効果が生まれています。

今は世界中が密接につながったグローバル化社会であり、環境が目まぐるしく変化しています。子どもたちには、わかる喜びを持ち続けてほしい。そして変化する時代を生き抜く確かな力をしっかり身につけてほしいと思います。

授業力を高めることが、学力を高める

「わかる授業」には、板書や教科書、ノート指導、先生の自作教材の活用といった従来の授業スタイルに加え、ICT機器の特性を加えることが大切です。これはあたりまえだからこそ先生方に伝え続けています。ICT機器の特性を最大限に生かそうとすると、授業設計がしっかりしていないとできません。単に映像を見せる、教材を拡大して見せる、「わかったね」「おもしろかったね」だけの授業では、時間が経つにつれて、先生が一方的に話す授業と変わらなくなってきます。

授業力をしっかり高める。それにより先生方の授業が変わる。授業改善があって、それが「わかる授業」につながる。その結果、子どもの学力が高まっていくわけです。ICT機器の有効な活用方法と併せ、「黒板をうまく使えていますか」といったところも大切にしてほしいと思っています。

「仕掛ける研修」と「情報発信」にも注力

姫路市立総合教育センターでは、教育の情報化の必要性や流れをきっちり理解してもらうとともに、学校内でのICT活用や授業改善を推進する効果をねらい、教職員研修にも力を入れています。機器の操作講習だけではなかなか活用は広がりません。各校の情報化のリーダーを対象に、ICTを活用した授業をデザインする力を付けるための研修や、校長・教頭など管理職向けには、教育の情報化の動向やその必要性をきっちり理解してもらう研修を企画しています。このような研修を計画的に実施することで、ICTを活用した授業改善の取組が一層活性化することを期待しています。

さて、姫路市では、総合教育センターを会場とし、毎年度、教育情報交流展「姫路きょういくメッセ」を開催しており、市内学校園の取組紹介や教育研究発表等を行うことで、教職員、保護者、そして市民の方に本市学校教育の取組を知っていただく機会を設けています。本年度は「教育の情報化」を特集した、有識者によるパネルディスカッションや子どもたちによるプレゼンテーション等を実施し、参加された方々からも好評価を頂きました。この成果をふまえ、来年度から、教育の情報化に特化したフォーラムを市独自で開催する予定です。

このような機会等を通じて、「姫路スタイル」の教育の情報化の取組状況を情報発信するとともに、事業効果・成果の継続的な検証を行いつつ、さらに質の高い教育環境の実現を目指したいと考えています。

(2014年4月掲載)