教育情報化最前線

山形県尾花沢市立常盤小学校 『SKYMENU Cloud』[提出箱]で考えを可視化し、共有 子どもの気づきと対話から授業を創る

山形県尾花沢市立常盤小学校は、児童数45名の小規模校で、2・3年と4・5年生は複式による授業が行われています。1人1台端末や『SKYMENU Cloud』の活用が日常化しており、今年度は「子どもと創る授業」を研究主題に掲げて授業改善に取り組まれています。同校の取り組みについて学級担任をされている大山 碧依 教諭、早坂 皐綺 教諭、有路 将則 教諭、須藤 早紀 教諭にお話を伺いました。(2023年3月取材)

1年担任

大山 碧依教諭

山形県尾花沢市立常盤小学校(ICT 推進主任)

2・3年担任

早坂 皐綺教諭

山形県尾花沢市立常盤小学校(複式学級担当)

4・5年担任

有路 将則教諭

山形県尾花沢市立常盤小学校(複式学級担当)

6年担任

須藤 早紀教諭

山形県尾花沢市立常盤小学校(研究主任)

ICTを使って、子どもが協働し課題解決へ。「子どもと創る授業」をめざす

本校では「自ら考え 自信をもって ともに伸びる子ども」という学校教育目標を掲げており、令和4年度の校内研究の研究主題を「子どもと創る算数科の授業」と定めて取り組みました。これは、算数科の協働的な学びを通して課題解決する力を育むことをねらいとしています。中でもICTの活用をポイントにしており、協働的な学びの中ですぐに考えが共有でき、活発な意見交流につなげられるICTの良さを生かした活用をしています。

令和3年度は表現力に焦点を当て教科を絞らずに取り組んだので、令和4年度では全学級で1つの教科に統一することに。その際、多様な考えを共有しながら学びを深めるのであれば算数科が分かりやすいという意見が多く、校内研究としては算数科を中心に取り組むことになりました。

そこから波及してICTの活用は幅広い教科で行われています。特に、手早く子どもたちの考えを共有できるICTの良さを生かすことで、自然と意見交流する機会が増え、子どもたちが学びを深めるきっかけをたくさん作れるようになったと思います。授業中の学習活動はもちろんのこと、宿題などの家庭学習でも同じように、友達の考えをヒントにして発想を広げたり、考えを深めたりすることにつながっています。

ICTで考えを共有することで気づきが生まれ、子どもが自ら学びに向かう

[提出箱]を閲覧し、友達の考えに触れる

2・3年生では子どもたちが問題を作り、みんなで解くという取り組みに活用しました。例えば、算数科の宿題として家庭にあるものを使ってかけ算の問題を作りました。子どもたちは、思い思いにロッカーの中身や並べた靴などを写真に撮ってかけ算の問題を作ります。それを[発表ノート]にまとめて提出した上で、次の授業で問題を大型提示装置に表示して、全員で回答するという取り組みです。

問題が作成できた子から[提出箱]に提出させているのですが、[提出箱]を作るときは「学習者どうしで提出物を閲覧できる」にチェックを入れています。こうすれば、自分以外の提出物がいつでも閲覧できるようになるので、家庭学習であってもほかの子の考えに触れる機会が作れます写真1。それが「もっとたくさんの問題を作ろう」という意欲を高めることにもつながっています。

写真1[提出箱]は、いつでもほかの子の提出物が見られるように設定している

手早く考えを共有し、意見交流を充実させる

もう一つ、ICTを活用する良さとして、個々で作ったものがその場ですぐに共有できることが挙げられます。1人ひとりの考えを集めて黒板に貼り出したり、席を立って友達の意見を見て回ったりしなくても、端末上で全員の意見が見られるので、共有の場面で子どもの思考を止めずに授業が進められます。実はこれが、とても大きな利点だと感じています。特に複式での授業では、子どもたちだけで意見交流する場面も少なくないので、考えを共有する活動に移る際に時間をかけすぎてしまうと、思考が途切れてしまい集中力が下がってしまいます。

『SKYMENU Cloud』なら手軽に活用できるので、考えを共有する場面が自然と増え、友達の意見を見て自分の考えを変えたり、より深く考えるきっかけにしたりする機会が多くなります。また、考えを表出する機会も増えるので、自分の言葉で話して説明する力も伸びていると感じています。

[提出箱]を見た子どもが、自然に交流し始める

6年生でも、同じく子どもたちが[提出箱]の中を見られるようにしています。特に算数科で解き方が複数考えられる課題の場合は、子どもたちが提出し終えた直後から「○○さんは私と一緒だ」「○○さんは違うやり方だね」といった交流が始まっています。

教員が「さあ、意見を交流しましょう」と呼びかけてから交流を行うのとは違い、ごく自然な形で、さまざまな考えに触れて学びを深めるきっかけとなり「協働的な学びを通して課題解決する力を育む」という校内研究のねらいに即した学習活動に近づいていると感じています。

ただ6年生は、5年生のときに1人1台端末が整備されたこともあり、ICTよりも紙ベースで行う学習活動に慣れていますので、すべての活動を端末で完結する必要はないと考えており、紙のワークシートを使った活動をすることも多いです。しかし、このときもワークシートを写真に撮って提出すれば同様の意見交流が行えます。

一方で、まとめの段階からICTを活用した方が良い場面もあります。例えば、社会科で調べたことをまとめるときは、役割を決めて分担することが多いですが、このときに[グループワーク]を利用することで同時編集が可能になり、同じグループの子が書き込んだ内容が見られるので「ここは○○じゃないかな?」「これをそこに付け足して」と対話しながら進められます。対話しながらまとめることで考えが整理されるので、1人ひとりの表現力が伸びています写真2。さらに、この取り組みを何度も繰り返すうちに、1回目よりも2回目、3回目と回を重ねるごとに、良いまとめ方ができるようなっています。

写真2調べたことをまとめる活動では[グループワーク]の活用で意見交流が活発に

[発表ノート]の書式を工夫し、間接指導中の子どもの自力解決に役立てる

4・5年生も複式学級ですので、授業時間の半分は子どもたちだけで学習活動を進めることになります。例えば、社会科の授業では子どもたちが教科書などを見て、おのおのが大切だと感じたところをピックアップしてまとめた後、グループに分かれて意見交流することで、自分たちで主体的に学ぶという活動をすることが多いです。もちろん「こういうことは、大事なポイントになるね」といった声を掛けることもありますが、基本的には子どもたち自身が考えて活動を進めるようにしています。

このとき4年生には、まとめの手助けになる書式(テンプレート)を用意して[発表ノート]の背景に設定してから配付しています写真3が、5年生はどうまとめれば良いのかという段階から考えられるように、白紙の[発表ノート]を使っています写真4。しかし、中には何かしらの手掛かりやきっかけがないと動き出せない子もいます。1人では手が止まって先に進めないときに「友達の考えを見てもいいよ」と伝えることで、活動中に何もせずに手を止めてしまっているということは、ほぼなくなりました。

写真34年生に配付した[発表ノート]。まとめの手助けとなるようにピンクの空の付箋を用意して配付している
写真45年生の[発表ノート]。白紙のノートに画像を添えて思い思いにまとめている

もちろん個の力を伸ばすことが重要ですので、個でそれぞれに取り組ませてから最後に共有するという使い方もあるとは思いますが、「自分の力で取り組みたい」と考えている子は、初めから自分ができるまで[提出箱]の中を見ないようにしています。この点も、子どもたち自身が自分に合った学び方を選択しているということですから、本校ではこの方法が合っているのではないかと思います。

1年生は、とにかく使って慣れることが大切

小学校1年生の場合は少し状況が異なります。これは本校に限った話ではないですが、やはり入学当初は端末の扱い方もままならず、どこを触ると、どう動作するのかも分からない。もちろんタイピングもできません。そうした状態からのスタートになります。しかし、子どもたちの吸収力は目覚ましいものがありますから、恐れず使って慣れさせるのが一番良いと思いました。

最初は、算数科の宿題として[発表ノート]に問題を記載して子どもたちに配付。子どもたちは端末を家庭に持ち帰り、[発表ノート]の問題を見ながら回答を紙のノートに書き込むという使い方をしました。こうした活用からスタートすることで、子どもたちは自然と端末の使い方を身に付けていきました。さらに「家に帰ったら、5時までに宿題を済ませてね」と伝え、夕方の5時に回答を記載した[発表ノート]を配付するようにしました。配付された回答を見て、自分で答え合わせをして翌日にノートを提出するという流れです。この取り組みはICTに慣れさせるだけではなく、生活の規則性を整えて家庭学習を習慣づけることにも役立ったと思います。

ICTに慣れてきて文字の手書き入力ができるようになると、朝顔の観察の際に、写真を撮って[発表ノート]に貼りつけ、コメントを書き添えてまとめる活動にも活用。さらにまち探検の活動で子どもたちに「どんなふうにまとめたいか」と尋ねると「ICTを使って作りたい」との意見が多く、さらに「クイズにしたい」という意見も挙がったので、1人ひとりが[発表ノート]でクイズの問題を作り、それを全員で共有して回答するという活動を行いました写真5

写真5[発表ノート]に写真を貼りつけて、朝顔の観察やまち探検クイズを作成

[発表ノート]で大根の成長を記録。学びの振り返りから発表まで、データを生かす

令和4年度は授業以外でも『SKYMENU Cloud』を活用する場面が多くありました。本校では、地域の方々と3~6年生が協力して、毎年約2,000本の大根を栽培しています。そして秋になると、市内で開催される「尾花沢もっとまるだし未来まつり」で販売しています。令和4年度は3年生が[発表ノート]を使って、「大根日記」という成長記録を作りました。そして会場に端末を持ち込み、大根を育てる過程を映し出して地域の方に見てもらったところお褒めの言葉を掛けてもらうことができ、子どもたちもとてもうれしかったようです。このように継続した取り組みの記録を残すとき、ICTであれば蓄積したデータがすぐに取り出せて、以前の状況と比較したり、それまでの過程を振り返りすることが手軽にできるので、最後まで飽きずに取り組めたのだと思います。

継続した取り組みといえば、6年生では読書記録と新聞記事をまとめる活動に[発表ノート]を活用しています。読書記録の場合は、学期の初めに新しい[発表ノート]を作り、本を1冊読み終えるごとにページを追加して読書記録をつけています。書きためた記録は、国語科の読書単元で見返すといった活用ができます。また新聞記事の場合は、毎週月曜に自分が気になった記事を取り上げ、感想を書き添えて記録しています。そして社会科の授業などで関連したニュースが話題に上ったときに、新聞記事を取り出して内容を確認することで、社会科の学びと実社会の出来事の関連性を学ぶきっかけにしています。

「子ども“と”創る」から「子ども“が”創る」へのステップアップを

令和4年度の取り組みを振り返ると、子ども同士の学び合いの場面が、どの授業でもたくさん見られたと思います。そして、子どもたちも先生と個という関係性も大切にしながら、個と個の学びの楽しさが実感できたと思います。

一方で、こうした学び方が課題を解決する力の育成にどれだけ効果があったかという視点では、まだ道半ばというのが率直な実感です。これからは、より効果的なICT活用の方法を考える段階に入るべきだと考えています。学習活動のねらいに応じて、ICTを使うと効果的な場面とアナログの活動の方がいい場面があります。もともとICTを活用した学習活動は、子どもたちが強い興味・関心を示します。だからこそ逆に、われわれ教員が「効果的なICT活用とは何か」を意識して使い分ける必要があります。そうすればきっと、子どもたちもICTを数ある手段の一つとして捉え、自ら選択してICTを使いこなす力が身に付けられるのではないでしょうか。

本校では令和4年度に「子どもと創る」と掲げた研究主題ですが、最終的にはさらに踏み込んで「子ども“が”創る」と言えるような学びをめざしたいと考えています。これは一朝一夕に実現できることではありませんが、一つずつ課題と目標を整理しながら取り組んでいきたいと思います。

(2023年7月掲載)