教育情報化最前線

山形県尾花沢市教育委員会 [電子連絡板]で、教育委員会から教員・児童生徒に直接アンケート調査を実施 端末活用の日常化に合わせ、学校の負担削減につながる活用方法を検証

山形県尾花沢市では、令和4年度から市内全小中学校で1人1台端末の持ち帰り運用を推進。児童生徒の端末活用が日常化しています。また[電子連絡板]を活用して、教育委員会から教員、児童生徒へアンケート調査を実施。学校の負担軽減に向けた取り組みも進められています。同市の取り組みについて山形県尾花沢市教育委員会 こども教育課の鈴木 正樹 課長補佐、田中 雄大 指導主事、石山 穂奈実 主事にお話を伺いました。(2023年3月取材)

鈴木 正樹課長補佐

山形県尾花沢市教育委員会 こども教育課

田中 雄大教育指導室 指導係長(兼)指導主事

山形県尾花沢市教育委員会 こども教育課

石山 穂奈実教育指導室 指導係 主事

山形県尾花沢市教育委員会 こども教育課

複式学級が多い環境のなか、ICTを活用して創意工夫した授業づくりを

当市は山形県北東部に位置し、奥羽山脈や出羽丘陵などの山々に囲まれた盆地で、人口14,393名(令和5年2月現在)という小さな自治体です。市内には小学校が5校、中学校が2校あり、小学校5校のうち3校で複式での授業が行われています。児童生徒数の減少が続くなか、令和8年度に中学校2校が1校に、令和9年度に小学校5校が1校に、それぞれ統合することが決定しています。

複式学級は、一方の学年を指導している間、もう一方の学年は間接指導となるため、児童自身で学習活動を進める時間が必ずあります写真1

こうした環境も含め、各学校においては教員が『SKYMENU Cloud』などを活用して創意工夫しながら授業づくりをしています。今回の取材でご紹介する尾花沢市立常盤小学校は、学級担任の多くが20代の若い教員で、令和4年度の校内研究の研究主題を「子どもと創る算数科の授業」と定め、ICTを積極的に活用しています。

複式学級の様子。間接指導中もICTを活用して学習に取り組む
写真1 複式学級の様子。間接指導中もICTを活用して学習に取り組む

令和4年度から、市内のすべての学校で端末を持ち帰る運用に

GIGAスクール構想に伴うICT環境整備により1人1台端末(Windows)が整備されましたが、当市はそれに先立ち校内ネットワーク環境などの整備を進めてきました。1人1台端末の本格的な活用が始まった令和3年度には、ICT教育推進委員会(以下、推進委員会)を設置して各学校の情報担当の教員を組織化し、情報共有や意見交換、研修などに取り組んでいます。令和3年度は6回開催。同年10月には、すべての学校に端末の持ち帰りの方針を示し、持ち帰り時のルールの整備や各家庭のネットワーク環境の調査、モバイルルータの貸し出し準備などを行いました。こうした取り組みを経て、令和4年度からはすべての学校で、端末の持ち帰りを行うようになっています。

推進委員会の設置によって学校間の格差が縮まり、ICT活用のスピード感は増したと感じています。近隣の学校の取り組みを推進委員が各学校に持ち帰って管理職やほかの教員と共有することで、校内のICT活用意欲の向上につなげられるので、どの学校でも「まずは使ってみよう」というところからスタートできたのだと思います。

令和4年度は教員の負担軽減を考慮して、推進委員会は年間3回の開催としましたが、今後は「Microsoft Teams」などのコミュニケーションツールを活用したり、Web会議システムを利用したオンライン研修を開催したりするなど、教員の負担を軽減する形で情報共有や意見交換ができる仕組みを設けていきたいと考えています。

[電子連絡板]×「アンケートフォーム」部活動の地域移行に関する意識調査を、教育委員会から児童生徒、教員に直接実施

教育委員会でも、『SKYMENU Cloud』を活用しています。例えば、令和8年度までに中学校の部活動が地域移行することに対する意識調査として、児童生徒と教員を対象としたアンケートを実施し、その連絡手段として[電子連絡板]がとても役に立ちました。アンケートそのものを「Google Forms」で作成、回収し、各学校の[電子連絡板]にアンケートへのURLリンクを掲載しました写真2

教育委員会から児童生徒、教員にアンケートを直接実施
写真2[電子連絡板]でアンケートURLを掲示して対象者へ告知

一般的にこうした調査を行う場合、各学校に依頼文書を送り、教員の手で対象の児童生徒へ配付、回収といった取りまとめ作業を行ってもらい、教育委員会に提出していただくという流れになることが多いと思います。しかし日頃から忙しい教員に、アンケート未提出者の回答回収などのために余計な労力を割かせることは不本意です。

なるべく教員の負担軽減を図る方法を検討した結果、教育委員会が対象者にアンケートへの回答を直接依頼し、回収まで行うのがベストだと考えました。その連絡手段として[電子連絡板]を活用しました。当初はアンケートURLをQRコード化したものを印刷して配付・掲示することも考えましたが、それでは教員の負担軽減につながりません。[電子連絡板]であれば、アンケート実施期間中に継続して掲載し続けられるほか、既読状況も確認できるので、確実に連絡を行き届かせる手段としては最適です。

アンケートの回収率は約90%。負担が大幅に削減され、率直な意見も集まる

この取り組みの結果、このときのアンケート回収率は約90%でした。ICTを活用したことで教育委員会としても回答集計にかかる負担を大幅に減らすことができ、非常に有益な活用ができたと感じています。

教育委員会がアンケートを直接実施することのねらいは、もう一つあります。各学校でとりまとめをしていただくと、どうしても周囲に気兼ねした回答も含まれるのではないかという懸念が残ります。特に今回は部活動の地域移行への意識調査であり、当事者である中学校の生徒、地域移行の際に中学校に進学している小学校5年、6年の児童、そして部活動の顧問にもなる教員、それぞれの立場での率直な意見を知るためには何が最適かと考え、直接入力という方法を選択しました。その結果、教員の負担軽減はもちろん、回答率の高さや回答内容の質にも十分な手応えが感じられましたので、今後もこうした取り組みを続けていきたいと考えています。

現在は、当市の「ふるさと偉人マンガ」の制作を進めており、その一環として児童生徒から提供いただいた写真を使い、モザイクアートの制作を検討しています。その写真を集めるためのデータ回収手段として、管理者アカウントで各学校に[提出箱]を用意して児童生徒に提出していただくなど、[電子連絡板]をはじめとする『SKYMENU Cloud』の機能が活用できないかと考えています。

どのようなICT活用なら学びが深まるのかを、具体的に整理する段階へ

令和3年度と令和4年度の2年間を振り返ると、「まずは使ってみよう」という段階は超えつつあると感じています。とはいえ、まだまだICTが得意ではない教員もいますので、令和5年度は教員間のICT活用スキルの差を縮めることにも取り組みたいと思います。

さらに、具体的に学力向上に寄与するICT活用の在り方を模索していくことが大事だと考えています。どのようにICTを使えば効果的だったのか、その取り組みが学びを深めることにつながっているのかを、きちんと整理して確認する。例えば、ICTの活用にいまひとつ積極的になれない教員がいたとしても、児童生徒の学力向上に興味がない教員はいません。ICTをどのように活用すれば、児童生徒の学力向上につながるのかが教員の間で共有されるなら、おのずとICTの活用が広がるはずです。そうした観点から、令和5年度の学校経営概要では、各学校の現状に合わせて情報教育の取り組み方や情報活用能力の育成カリキュラムを整理していただくよう依頼しました。

先日、ある学校に視察に行かせていただいた際、学習の基盤となる資質・能力の1つと捉えられる「読解力」の育成にもICTの活用が効果的だというお話を伺いました。このように学力向上や資質・能力の育成のために、どのようにICTを活用するのかという観点で模索し、さまざまに試していくことが必要だと思います。

まずは、これまで2年間の取り組みを振り返り、「より効果的な活用に向けた整理」を行い次の段階へとステップアップできればと考えています。教育委員会としても、各学校の取り組みをサポートしながら、教員の負担の軽減にもつながるようなICTの活用をめざして取り組み続けたいと思っています。

(2023年7月掲載)