教育情報化最前線

レポート栃木県矢板市 1人1台端末の活用推進 “教員が使い慣れた環境”から児童生徒1人1台活用を始める

森本 聡

栃木県矢板市教育委員会事務局 教育部 教育総務課 副主幹 兼 指導主事

毎日活用している『SKYMENU Class』を使い続けたい

当市は、2018年度の整備で教職員1人1台の端末と、コンピュータ教室の端末をタブレット端末に置き換えて整備しました。導入からの約2年間で、教職員用タブレット端末(以下、教職員用端末)の活用は、若手からベテランまで広く浸透しており、学習活動ソフトウェア『SKYMENU Class』が先生方の日々の活用を支えています。端末画面に表示されるツールバーは分かりやすく、初心者の先生でも使いやすいと評判です。[タイマー]機能を使った時間管理はもちろん、机間指導しながら[カメラ]で児童生徒のノートを撮影し、大型提示装置に複数のノート画像を[比較表示]で投影して共有するという活用が普及しています。ICTに詳しい先生方は、[発表ノート]などを使った児童生徒との協働的な学習を展開しています。ICTの初心者から詳しい人まで、先生方の幅広いニーズに応えてくれるのが『SKYMENU Class』の良さだと思います。

▲ [タイマー]機能で時間管理(矢板市立乙畑小学校)
▲ 児童生徒のプリントを[カメラ]で撮影し、拡大提示(矢板市立川崎小学校)

ですので、GIGAスクール構想における整備においても、「毎日活用している『SKYMENU Class』を使い続けたい」という要望が、先生方から多く寄せられました。そこで、教職員用端末は既存の環境を生かして『SKYMENU Class』を継続利用。児童生徒1人1台の端末はChromebookを採用し、教員と児童生徒はGoogle社のGoogle ClassroomやSky株式会社が新たに開発したクラウドサービス、学習活動端末支援Webシステム『SKYMENU Cloud』を併用して、学校だけではなく学校外でも双方向性のある授業が実現できる環境を整えました。

図1『SKYMENU Class』と『SKYMENU Cloud』の併用

「紙のプリント」と同じ感覚で学習に取り組めるシステムが必要

市立全小中学校への端末は、6月末に納入され、9月11日までに配備が完了しました。臨時休業期間中にGoogleアカウントを取得し、臨時休業中におけるオンライン学習支援で活用していたGoogle Classroomで1人1台端末の授業をスタートさせました。

いくつかの学校に訪問して授業を参観させてもらって感じたのは、小学校の、特に低学年においてはGoogle Classroomを主体とした授業は難しい面があるということでした。

Google Classroomで課題を配付して取り組ませようとすると、まず課題のファイルがアップロードされた場所に児童がたどり着いて、その内容を確認することから始めなければなりません。授業では、「学習課題」に注力させたいのですが、教員も児童も端末の操作にばかり気がとられていました。慣れの部分もあると思いますが、このままでは日常的な活用や効果的な活用には至らないだろうと感じました。授業後、子どもに感想を聞くと「できるようになるまで、僕、何度も泣いちゃったんだ」と言われ、胸が締め付けられる思いでした。

『SKYMENU Cloud』のシングルサインオンで、低学年でも使いやすい

そうしたなかで、9月末ごろに『SKYMENU Cloud』への全児童生徒のユーザ登録とGoogleアカウントとの「シングルサインオン」の準備が整いました。早速、先生方にお知らせしたところ、11月から順次スタートする全校訪問の研修会よりも先に、有志の先生方による自主的な活用が始まりました。

こちらも授業の様子を参観すると、子どもが机から端末を取り出して、自分のGoogleアカウントのユーザIDとパスワードでログオン。シングルサインオンなので、『SKYMENU Cloud』のマイページにすぐにアクセスして、教員から配付された[発表ノート]を受け取って課題に取り組んでいました。紙のプリントを受け取るのと同じ感覚なので、多くの児童生徒が抵抗感なく授業に参加できていました。先生方からも「『SKYMENU Cloud』は、教員機と児童生徒機の画面がほぼ同じだから指示がしやすい」「[発表ノート]の画面が『SKYMENU Class』と同じだからすぐに取り組める」といった肯定的な感想をいただきました。

何でも発言できる雰囲気や、教員と児童生徒の関係性がより重要に

写真1賛成が多いなか、反対意見も表明されている

『SKYMENU Cloud』の活用は小学校だけではありません。矢板市立片岡中学校では、意見の可視化や共有化を目的に国語や道徳で[ポジショニング]が活用されていました写真1。こうした活用が今後さらに広がっていくものと期待しています。

ただ、このような授業は、教員と生徒の間に「みんなの考えを共有することは、学びを深めるために有効である」という共通理解や、「この先生だったら僕が書いたものをちゃんと取り扱ってくれるだろう」「この学級には、何でも発言していい雰囲気がある」といった信頼関係が重要になります。その信頼関係があるからこそ写真1のように、素直に「反対」の意見を表明してくれるのです。ICTというと、操作や活用スキルばかりに目が向いてしまいがちですが、教員と児童生徒、そして学級の信頼関係づくりの大切さについても、今後、研修などを通じてお伝えしていきたいと思います。

すべての教室で1人1台活用を。全12校に訪問研修を実施

2020年は、試行錯誤の時期でした。今後は、「タブレット端末活用研究会」から名称を改めた「ICT活用調査研究会」が中心となって、効果的な授業場面を集めた実践事例集を作成し、市内で知見を共有、蓄積してきたいと考えています。

また、すべての学校、教室で1人1台端末の活用を進めるために、10月末から市立全校を定期的に訪問して、タブレット端末活用の研修を行っています。研修講師には、Sky株式会社の専門のインストラクターにも協力をしてもらっています。先日実施した片岡中学校の研修会では、研修会が終わってからも先生方からたくさんの質問が挙がり、大変盛り上がりました。インストラクターの方には、1つひとつ大変丁寧に回答いただけたので、先生方の満足度も高かったと思います。「矢板市GIGAスクール構想」の実現に向けて、私どもと一緒になって歩んでいただける方々とさらに連携を深め、取り組んでいきたいと思います。


レポート栃木県矢板市 快適な無線LAN環境が重要 導入後、全校に訪問
“足で稼ぐ”地道な改善で、子どもたちに快適な環境を

石川 民男

栃木県矢板市総合政策部 総合政策課 副参事 電算統計班長

無線LANアクセスポイントの増加により電波干渉のリスクが上昇

9月からの児童生徒1人1台端末の運用に向けて、当市では「GIGAスクール構想専用のネットワーク」を論理ネットワークとして新設しました。2018年度までに、全校全教室に無線LAN環境を整備していたのですが、既存の無線LANアクセスポイント(以下、AP)では、1台で受け持てる端末数には限界があること。さらに限度を超えた端末台数での活用では、1台あたりの通信速度が遅くなってしまうことから、1人1台端末整備に向けては、APの増設を含めた無線LAN環境全般の見直しが必要でした。

しかし、APの台数の増加は、AP間の電波干渉リスクの上昇につながります。単純にAPの数を増やせば良いというものでもありません。無線LAN環境構築の難易度は非常に高くなりました。

そこで導入段階では、IEEE802.11acの5GHz帯のチャンネルのみを使用することとし、すべての校舎、教室の平面図を確認しながら、電波干渉を極力排除するようにAPを設置、チャンネル設定をしていきました。

「教員が動く」ことで発生する「ローミング」の問題

運用開始後、想定はしていましたが「無線LANにうまくつながらない」といった問い合わせが多く寄せられました。ほとんどの学校で発生したのが東西の階段付近でのトラブルでした。そもそも無線LANの電波は、南北に強く飛び、東西に弱いという傾向があります。そして、当市の多くの校舎は、東側もしくは西側に鉄製の防火壁があります。金属は電波を反射・遮断する性質があり、この防火壁が電波状態を悪化させていました。

当市では先生方の端末はセパレート型です。先生方は授業に向かうため、ログオン状態の端末を持ったまま、防火壁に近い階段を頻繁に移動していることも分かりました。その結果、端末が階段付近のAPに自動接続し、その状態で少し離れた教室で授業を開始していました。そのため「無線LANにはつながっているようだが、スムーズに動作しない」という現象が発生していたのです。

実は、こうした問題は教員に集中し、児童生徒にはそれほど発生していません。これは児童生徒が校舎を移動する際に、Chromebookを閉じていたためです。児童生徒の端末は、閉じるときは、必ずログオフし、同時に無線が切れる設定になっています。ですので端末を再度開いた場所、つまり次の時間に使う教室のAPにほぼ確実に再接続されていました。

こうした状況から、先生方には、移動のたびに無線LANの再接続を実施するようにお願いしています。さらにローミングは、端末に搭載されているWi-Fiチップの性能に左右されるようで、端末の機種により、Wi-Fiへの接続の仕方が分かれてしまいます。このように、本当にさまざまな要因を考慮しながら、無線LANの最適化を進めています。

図1教員は動くから、ローミングの問題が発生しやすい

サイトサーベイだけでは不十分。全学校の教室をくまなく歩いて調査

電波は目に見えませんから、無線LANにおける問題は、学校の先生方だけでは解決することが困難です。

また専門業者にサイトサーベイを依頼して、電波干渉の状況の可視化したとしても、それだけで快適な環境にするための方法や解決策が分かるというものでもありません。サイトサーベイによる電波状況の可視化は、レントゲン写真のようなもので、よほどの高い専門性や技術がなければ、原因の追究や問題の解消には至らないのです。サイトサーベイなどで状況を確認しつつも、最終的には人的な対応が重要です。

実は、9月に1人1台端末を導入してから、森本指導主事と私で各学校を訪問し、全教室、教室前の廊下、体育館、特別教室など、無線LANが活用できるすべての場所をくまなく歩き、電波状況の調査をしています。教職員用端末や児童生徒用端末を手に持って、YouTube上で公開されている動きの細かな動画を流しっぱなしにして、校内の隅々まで歩くのです。動きの細かい動画であれば、データがスムーズに通信できているかどうかが一目瞭然で分かります。

電波干渉が発生している場所があれば記録し、チャンネルや配置の見直しなどの微調整をしています。チャンネル設定は、パズルゲームのようなもので、1か所の設定を変えると、校舎全体に影響が出ます。例えば、学校独自の判断でチャンネルが異なる別の教室のAPと取り換えられることがあり、電波干渉が悪化しているケースもありました。

図2サイトサーベイで電波の状況は分かるが、不具合の原因は分からない

現場に足を運び、先生方とのコミュニケーションをとることが大切

教育に限りませんが、ICT活用の普及において、「快適」であることは最も重要な要素です。その要素に加えて、学校では授業の合間に教室を移動したり、児童生徒の相手をしたりする先生方が、素早く次の授業の準備ができる環境が求められます。そのことを踏まえて整備直後の学校を回ると、目標とする快適性の半分程度しか達成できていないと感じる部分があります。

「導入して終わりではない」とよくいわれますが、GIGAスクール構想が求めるICT環境を実現するためには、導入後の設定変更やチューニングは欠かせないものと思います。

学校に訪問して、教室の隅々まで見てまわること。1人1台端末を使う先生、子どもたちと対話し、小さな声にもしっかりと耳を傾けること。足で稼ぐ地道な取り組みをこれからも続け、快適で、学びに役立つICT環境の構築を通じて「矢板市GIGAスクール構想」の実現に寄与したいと考えています。

(2021年3月掲載)