学習指導要領 / 教育の情報化
INTERVIEW 第52回全日本教育工学研究協議会全国大会 高知・香美市大会開催に向けて

教育DXで進化する探究の学びを、香美市から全国へ 地域とともに創る未来の学校をめざして――

2026年10月30日・31日、高知県香美市において第52回全日本教育工学研究協議会全国大会「高知・香美市大会」が開催されます。同市がめざす教育ビジョンと教育DXに向けた具体的な取り組みについて、前田 圭一 教育長に伺うとともに、今大会の授業公開校の7校でスタートした校務用スマートフォン実証研究について、上村 安和 教育DX統括官にお話しいただきました。

前田 圭一

高知県香美市教育委員会 教育長

高知県香美市出身。高知県内の小・中学校の教諭、教頭、香美市立鏡野中学校校長を経て、香美市教育委員会教育振興課統括官。2026年1月より現職。

「よってたかって教育」を合言葉に、地域とともに子どもたちを育てる

香美市は、高知県中部に位置する人口約2万4,000人の自治体です。市域の約9割を森林が占める一方、高知市内からのアクセスも良く、利便性の高い場所に位置します。やなせたかし氏の故郷としても知られ、観光資源も豊富にそろっています。

本市には小学校7校、中学校3校に加え、幼保から大学、特別支援学校があり、地域で子どもが学び続けられる環境が整っています。地域ぐるみのキャリア教育の展開や、県内で先駆けとなる市内全小・中学校へのコミュニティ・スクールの導入など、保護者や地域との結びつきを深め、つながりを大切にした教育環境づくりに力を入れてきました。

こうした一連の実践から生まれたのが、「よってたかって教育」という合言葉です。学校だけでなく、地域住民や行政など多様な主体が一体となって教育に参画し、子どもたちを育んでいこうという願いが込められています。2019年に策定した「香美市教育振興基本計画(後期)」で掲げて以来、今では市民に広く浸透しています。

これまでに構築した強みを生かし、2024年度から始まった「第2期香美市教育振興基本計画」では、社会がいかに変化しようと、「主体的・対話的で深い学び」を実現し、地域とともにある学校において多様な人々と探究的・協働的に学び、新たな未来を創る人を育てることをめざし、「郷土を愛し、探究的に学び、未来を創る人づくり」を基本理念としました。少子高齢化などの課題が深刻さを増すなか、生涯にわたって主体的に学び続け、郷土を愛し、地域に貢献できる子どもを育てることが、われわれのミッションだと考えています。図

図「第2期香美市教育振興基本計画」の基本理念

めざす子どもの姿を共有し、連続した「育ち」を重視知

「探究」を核とした教育を、より具体的かつ先進的なかたちで実践するため、市内3つの中学校区(鏡野・香北・大栃)では小中一貫教育に力を入れています。小中の接続をより太くするには「どんな子どもを育てていきたいのか」というビジョンを共有する必要があると考え、3校区それぞれが9年間の義務教育の「出口」を明確にするグランドデザインを作成。校種を超えて職員会や研修会を行うなどし、到達状況を定期的に報告し合っています。

国際バカロレア(IB)教育の取り組みも、一貫教育の柱の一つです。2021年1月に、本市の大宮小学校が全国の公立小学校で初めてIB教育の認定を受け、翌年には香北中学校も認定校となりました。以前行った両校の実践発表会では、全国から多くの方が視察にいらっしゃいました。大宮小・香北中と同様に、市内すべての学校にIB教育の考え方を取り入れた探究的で深い学びを普及させることをめざしています。

そして2026年度からは幼稚園・保育所と小学校のつながりを太くし、0歳から15歳までの連続した「育ち」を重視した教育実践を進めているところです。高大接続も意識し、有識者を交えた座談会も定期的に開催しています。

授業観を転換させ、「自分で考え、選択して学ぶ子ども」を育む

本市ではこうした教育ビジョンをさらに進化させるため、学びと校務それぞれの観点から、「教育DX」の推進に力を入れています。3か年ごとの具体的な推進プランを立て、学びのDXを「GIGAスクール検証委員会」で、校務DXを「働き方検討委員会」で、それぞれ進捗を定期的に確認しています。

教育DXの推進に向けて重視している取り組みの一つが、「授業観の転換」です。本市では、以前より「自分で考え、選択して学ぶ子ども」を育むための授業改善を行ってきました。GIGAスクール構想第1期による1人1台端末整備を「授業観の転換」を図る大きな契機と捉え、デジタルの力を有効的に活用しながら、子どもたちが主体的に取り組む探究的な学習へとつなげていこうと考えました。

そのためにまず行ったのが、家庭学習とシームレスに連携できる環境づくりです。全国的にも珍しい「全台SIMカード対応端末」とし、家庭等のWi-Fi環境の有無にかかわらず、すべての児童生徒が等しく学べる環境を整えました。早期から開始した端末の持ち帰りや、小学校を中心とした連絡ツールのデジタル化により、保護者も交えて日常的にICTに親しむ機会をつくりました。

近年では「学びのDX」の観点から、クラウドサービスを効果的に活用した授業づくりや関連する研修などを積極的に行っています。ICTの活用によって、子ども同士がつながる学習がより活発になったように感じます写真1。さらに、香北中学校では対話型生成AIアプリの活用、楠目小学校ではプログラミング教材の開発など、発展的な授業も行われています。また、大栃小・中学校は国の「生成AIパイロット校」の実践指定校にもなり、より先進的な実践を進めています。

写真1端末活用が日常化し、子ども同士がつながる学習が活発になった

7校で『SKYMENU Mobile』を実証
校務DXのさらなる加速を期待

教育DXのもう一つの側面、「校務DX」についても、さまざまな取り組みを行っています。教職員の業務の軽減や効率化をめざし、クラウドサービスの積極的活用や校内ポータルサイトの設置、デジタルサイネージを使った情報共有などを全校で推進しています。

校内ポータルサイトは各校の先生だけが閲覧でき、議事録やタスクの共有などで日々便利に使っています。生成AIのチャットボットを作成し、活用している学校もあると聞いています。こうした取り組みを通じて情報共有のスピードが格段に向上するとともに、会議の削減やペーパーレス化にもつながっています。

このような教育DXに関する一連の取り組みを評価いただき、2025年度に教育委員会として「学校情報化先進地域」の認定を受けることができました。

また、2026年6月からは「高知・香美市大会」の授業公開校7校で、校務用スマートフォン(以下、校務用スマホ)の実証研究をスタートさせました。Sky株式会社から校務スマート化支援アプリ『SKYMENU Mobile』をインストールした校務用スマホ140台を貸し出していただき、効果検証に取り組んでいます。

『SKYMENU Mobile』の[セーフカメラ]によってセキュリティを確保した上での写真管理が容易になったほか、教職員間の新たな連絡手段としても活用が進んでいます。教職員の働き方を改善し、子どもたちの探究的な学びを支える時間とゆとりを生み出すための新たな取り組みとして期待を寄せています。今後、実証結果を基に校務用スマホの有用性を分析・発信するとともに、より良い環境づくりに生かしていきたいと考えています。

授業は教師の本分であり、命です

私は、現場の教職員、校長、そして行政という複数の立場を経験するなかで、教育DX推進は単なる端末導入や事務の効率化にとどまるべきではなく、教育そのものを「構造改革」することが本質であると考えるようになりました。

その鍵となるのが、学校や教員の成熟度に応じた伴走型の支援です。教職員の「心理的安全性」を確保し、失敗を恐れずにステップ・バイ・ステップでスキルを磨けるような環境整備が重要です。行政がトップダウンで施策を進めるだけでは、日々の多忙な業務に追われる学校現場との間に「溝」が生じてしまいます。そうならないためにも、本市では教育DX統括官やICT支援員が学校を細かく訪問し、教員の悩みにタイムリーに寄り添う伴走型のサポート体制を整えています。

教育DX推進のもう一つの鍵となるのが、先ほども述べた教職員の「授業観の転換」を促す具体的なアプローチです。従来の「知識伝達型」授業のまま端末を使うのでは、教科書やドリルがデジタルに置き換わるだけで、本質的な学びの変化にはなりません。これから教職員は、「教え込む」存在から、「探究をファシリテートする伴走者」へと、役割を再定義する必要があります。

授業は教師の本分であり、命です。これを踏まえてデジタルを活用し、子どもが主体的に学びを深める「余白時間」をつくる。そして、一人ひとりの進度や関心に応じて深め合う授業デザインへと転換していくことが重要です。

こうした思いや考え方は、年度当初の教職員総会で市内の全教職員に直接伝えました。現場が新たな授業観の挑戦へと踏み出す分、行政はそれを支え、共創していかなければなりません。学校・行政双方が対話を重ね、課題を克服することで初めて、教育DXは子どもたちの未来を切り拓く真の力になると考えています。

前田 圭一 高知県香美市教育委員会 教育長

教育DX推進の本質は、教育そのものを「構造改革」することにあります

未来を見据えたこれからの学校づくりを発信したい

「高知・香美市大会」のテーマは「教育DXで進化する探究の学び~地域とともに創る 未来の学校~」です。県内に先駆けて教育DXに注力してきた本市各校の特色ある取り組みを、全7校の公開授業等を通じてぜひご覧ください。IB教育の実践や生成AIの活用、校務用スマホの実証研究の様子などを通じ、最先端の教育DXの現状を肌で感じていただけるはずです。今大会を通じて「地方から実現できる教育DX」を全国に発信するとともに、未来を見据えたこれからの学校づくりを力強く推進していきたいと思います。

教職員1人1台の校務用スマホと『SKYMENU Mobile』の実証研究を開始

上村 安和

高知県香美市教育委員会 教育DX統括官

スマホ本体に撮影データが保存されない[セーフカメラ]に期待

本市では、校務DXの施策を進めるなかで、クラウド活用によるスムーズな情報共有が広がりました。しかし、かえって私物スマートフォン(以下、私物スマホ)に頼らざるを得ない場面が増えてきていました。私物スマホの業務利用は、公私の区別を曖昧にするだけでなく、児童生徒の個人情報や活動記録の取り扱いといったセキュリティ面の課題も深刻化させていました。

そして近年、学校では児童生徒の作品や活動写真など、著作権や肖像権への配慮が必要なものを扱う機会が増加。同時に、これらのデータを成果物として、教育活動の情報配信に活用する場面も多くなっています。撮影用のデジタルカメラは各校に数台配備していますが、撮影した写真を学校便りなどに活用する際には、セキュリティを確保するための無害化処理が必要で、写真の高解像度化に伴ってその作業負担も大きくなっていました。

さらに、教員の不祥事に関するニュースが相次いで報道され、私物スマホやデジタルカメラなど、手軽に撮影できるカメラ機能付き端末の取り扱いには十分な注意が求められるようになりました。そのため本市では、教室への私物スマホの持ち込みを制限し、児童生徒や保護者がより安心して学校生活を送れる環境づくりを検討していました。

ちょうどそのタイミングで、Sky株式会社から校務用スマホと校務スマート化支援アプリ『SKYMENU Mobile』の実証研究のお話を伺いました。『SKYMENU Mobile』の機能の中で特に興味を持ったのが、[セーフカメラ]です。端末内には撮影データが保存されずクラウド上に保存され、校内で自動的に共有されるため、安全性や安心感が担保できる点に魅力を感じました。これらの機能に期待を込め、2026年6月から「高知・香美市大会」の授業公開校7校の教職員(事務職員、校長、教頭を含む)140名に1台ずつ配付し、実証研究に取り組んでいます。

『SKYMENU Mobile』で広がる「安心感」と「効率的な情報共有」

校務用スマホを配付した当初、現場の教職員からは歓迎の声が多く聞かれました。実証研究対象校の教職員に事前に行ったアンケートでは、全体の70%が「ほぼ毎日私物スマホを業務利用している」と回答。その上で、全体の91%の教職員が「1人1台の校務用スマホの整備が業務効率化に役立つ」と回答する結果が得られていました。

実証開始から約2か月が経過したところですが、すでに効果を実感し始めています。学習活動の撮影で[セーフカメラ]を活用し、個人の業務用端末に写真データを残さず自動でクラウド共有することで、子どもたちの個人情報・教員の立場の両方を保護できるようになりました。

また、[ToDoプラス]の活用によって、職員室から「付箋紙」が減りました。従来は電話があった際、付箋に書いて対象の先生の机に貼って情報共有していましたが、[ToDoプラス]をメモとして使うことでその必要がなくなりました。この方法は、以前訪問した学校の校長先生から伺いました。それを聞いた別の先生が「そんな使い方があるのか」と驚いている姿を見て、互いに学び合いながら使い続けることでより効果的な活用方法が生まれ、広がっていくのだと感じました。

校務用スマホを、教員のセカンド端末に

現在は校務での活用が中心ですが、最終的には授業の中でも有効活用していく必要があると考えています。すでに、子どもの作品を写真に撮ってデジタルサイネージに投影する使い方を行っている学校もあります。

個人的には今後、授業の中で『SKYMENU Mobile』をセカンド端末として活用していけたらと考えています。机間指導の間でも校務用スマホを見れば、離れた席の子どもが考えをアウトプットした様子が手元で分かる。その内容を踏まえて子ども同士をつなぐ――校務用スマホの活用範囲を広げれば、より見取りを充実させた授業を実現できるのではないでしょうか。

また、個人だけでなく学級全体を把握するには、やはり先生方の机間指導が重要です。こうした思いから、校務用スマホに歩数計アプリをインストールする試みも行っています。今後も、現場の要望に応じた整備を進めていきたいと思います。

実証研究の当初から、先生方には、「児童生徒の安心につながるので、必ず、校務用スマホを青いストラップでぶらさげて、目立つようにしておいてほしい」と伝えています写真2。「高知・香美市大会」においては、外部から来られた方々にとって、青いストラップのスマホが香美市の先生だと分かる「目印」にもなるのではないでしょうか。各校の特色あふれる公開授業の参観とともに、校務用スマホが日常化している姿を、ぜひ全国の教育関係者の皆さまに見ていただきたいと思います。

写真2授業中も校務用スマホを携行している

第52回 全日本教育工学研究協議会全国大会(高知・香美市大会)

教育DXで進化する探究の学び ~地域とともに創る 未来の学校~

会期
2026年10月30日(金)・31日(土)
会場
高知工科大学 香美キャンパス
公開授業校
  • 香美市立山田小学校
  • 香美市立楠目小学校
  • 香美市立鏡野中学校
  • 香美市立大宮小学校
  • 香美市立香北中学校
  • 香美市立大栃小学校・大栃中学校

詳細や参加登録はこちら
https://smartconf.jp/content/jaet2026


主催:(一社)日本教育工学協会(JAET)
共催:高知県教育イノベーションラボ、香美市教育委員会、(一社)日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)
後援:文部科学省、高知県教育委員会、高知県市町村教育委員会連合会 他

(2026年8月取材 / 2026年10月掲載)