学習指導要領 / 教育の情報化
「学校とICTフォーラム2026」パネルディスカッション

教職員“1人1台”校務用スマートフォンの時代へ 校務用スマホの整備で
安全・安心で効率的な教育基盤の構築を

学校現場の課題解決に向け、校務用スマートフォン整備の検討が進んでいます。2026年2月21日に開催された「学校とICTフォーラム2026(主催:一般社団法人日本教育情報化振興会)」では、鹿児島市教育委員会のパイロット校での実証内容を基に、教職員1人1台スマートフォンの活用効果や可能性について議論されました。本稿では、その内容をレポートします。

コーディネータ

有朋

札幌国際大学 教授

パネリスト

木田 博

鹿児島市教育委員会
教育DX担当部長

パネリスト

平井 聡一郎

合同会社
未来教育デザイン
代表社員

パネリスト

大川 浩平

Sky株式会社
商品企画部
(SKYMENU Mobile企画担当)

安全と効率を両立させる「校務用スマホ」で教育DXを

教育DXの重要性については、多くの教育関係者の間ですでに共有されています。一方で、その理念を学校現場でどのように具体化していくかについては、いまだ模索の段階にあります。

そこで今回は、公的に整備された端末を活用するという物理的なアプローチに着目し、安全性と業務効率の両立を図る方策として校務用スマートフォン(以下、校務用スマホ)の活用を取り上げます。具体的には、校務用スマホと、Sky株式会社が開発するアプリケーション『SKYMENU Mobile』を切り口として、学校現場への導入と運用の在り方について考察します。

校務用スマホを安全に使えるアプリ
『SKYMENU Mobile』を開発

私はSky株式会社で、文教向けの商品企画に携わっています。以前は、中学校教員や教育委員会の指導主事を務め、学校現場に関わっていました。民間企業へ転職して強く印象に残ったのは、業務用端末が支給され、私物端末の業務利用が禁止されていた点です。これは、情報漏えいを防ぐための情報の保護と、働き方を守るための人の保護を両立させる仕組みでした。

一方、学校現場ではどうでしょうか。これまで、子どもたちの安全確保を目的として、教員が緊急連絡用に私物スマホを携帯することは、やむを得ない対応として受け止められてきました。しかし、それが常態化するなかで、個人向けのチャットツールによる業務連絡や、場合によっては児童生徒の写真を共有するといった運用が行われている実態も聞かれます。この常態化したリスクを解消するために、校務用スマホの企画に着手しました。その後多くのヒアリングを通じて、単にスマホという「端末環境」を整備するだけでは、こうした課題は解決しないと気づきました。端末上で安全に情報をやりとりできる仕組みを整えることこそが重要であり、その考えをアプリケーションとして具体化したものが、『SKYMENU Mobile』です。

例えば[セーフカメラ]機能。撮った写真が自動でクラウド上の学校共有フォルダに保存され、端末には残らない仕組みです。子どもたちの写真の適切な管理と即時共有で、利便性向上を支援します。

[ToDoプラス]機能は、自身のタスク管理はもちろん、電話の取り次ぎ連絡や急な予定変更など、すぐに知らせたいときの連絡手段として活用できます。[グループチャット]機能も拡充予定で、個人向けチャットツールからの移行にもつなげられます。

そして[Wi-Fi通話]機能です。校務用スマホ導入の一番の壁は、予算です。GIGAスクール構想によって校内Wi-Fi環境が整っているのであれば、まずは通信料をかけずに、校内の内線電話的な運用からスタートしてみる。そんな計画にも対応できます。現在、複数の自治体様で本格導入や実証事業が始まっています。

なるほど。今までは先生方がやむを得ない対応として、個人端末を使う場面はある意味、学校文化では普通であったように思います。しかし、昨今の残念なニュースにもあるように、不安要素が大きくなっている今は、その意識の転換期でもあるように思いますね。

鹿児島市内小学校1校で
『SKYMENU Mobile』の実証研究を開始

鹿児島市では、『SKYMENU Mobile』の実証研究に取り組まれています。取り組みの内容や成果について詳しくお聞かせください。

鹿児島市は人口約60万人の都市で、小学校78校、中学校39校、高等学校3校があります。合計で120校となり、子どもの数は約5万人です。今回、検証を行った福平小学校は、児童数1,152人を擁し、鹿児島市内で4番目に児童数の多い学校です。この学校で校務用スマホと『SKYMENU Mobile』を導入した結果、どのような効果が見られたのかご紹介します。

まず、大きな効果として実感できたのが、児童に関する緊急時の連絡体制の改善です。先生方は日常的に、比較的高い頻度で緊急連絡を行う場合があります。これまでは校内に内線電話しかなかったため、連絡を取りたい先生がその場にいなかったり、周囲の子どもの声に紛れて着信に気づかなかったりすることがありました。そのため、やむを得ず私物のスマホを用いて連絡を取ったり、電話をかけたりする場合もありました。導入後は、こうした連絡を、よりセキュリティの高い環境で行えるようになりました。

また、授業中に外部からの急ぎの連絡があった際、校務用スマホを使って担当教員に直接伝えられるようになりました。さらに[Wi-Fi通話]機能により、複数の教職員へ一斉連絡ができるため、不審者対応や災害時など、緊急時の迅速な情報共有にも有効であると期待されています。

▼ [Wi-Fi通話]機能で話す福平小学校の教職員

校務用スマホによる「直接連絡」で業務連絡の効率化を実感

図1は、校務用スマホの活用状況について教職員に実施したアンケート結果です。利用内容として最も多かったのは「業務連絡」で、47件を占めました。特に事務職員は電話の一次対応を担うことが多く、「○○先生を呼んでほしい」「○○先生に伝えてほしい」といった依頼が頻繁にあり、業務が滞るという課題を抱えていました。現在は、事務室からすべての校務用スマホに直接連絡ができるようになり、業務の効率化が図られています。

図1

また、管理職への緊急連絡にも校務用スマホが活用されており、呼び出しを含む緊急連絡として8件の利用が確認されました。

学校行事や学習の様子を教職員が安心して撮影できる

もう一つ、教育活動の記録と発信の観点で注目されるのが、[カメラ]機能の活用です。授業改善に向けて、児童の学習の様子を写真や動画で記録し、評価や振り返りに生かす場面は少なくありません。以前は、仕方なく私物スマホでの撮影やデジタルカメラを使用するケースも見られましたが、データの適切な管理が難しいという課題がありました。

校務用スマホと『SKYMENU Mobile』の導入により、撮影した写真を共通の保存先で安全に共有・管理できる環境が整い、「安心して活用できるようになった」という声が聞かれています。運動会や卒業式、入学式など、学校行事の様子を記録する機会は数多くあります。そうした教育活動の記録を学校全体で適切に残し、共有できる点は大きな意義があると感じています。

校務用スマホの導入では不十分
適切に管理・制御するアプリが不可欠

アンケート調査の「どのような写真を撮影しましたか」という質問では、「児童の様子」「授業の様子」が全体の約7割を占めていました。

一方、校務用スマホ導入当初は[セーフカメラ]機能が未実装であったため、撮影データを必ずMicrosoft OneDriveに保存し、端末本体から削除するという運用ルールで対応していました。しかし、その運用の中で「削除し忘れた経験がある」と回答した教員が約32%に上り、また「都度クラウド上の共有ドライブにアップロードするのは手間がかかる」といった声も聞かれました図2

図2

こうした結果から、撮影した写真や動画を自動的にクラウドへ保存し、端末側に残さない仕組みがなければ、運用上の負担が残ることが明らかになりました。校務用スマホを導入しただけでは十分とは言えず、それを適切に管理・制御するアプリケーションの存在が不可欠であることが今回の検証を通じて確認できました。

実際の姿がよく分かりました。職員間で連絡を取ったり、子どもの様子を記録したりといった業務は変わらないけれど、そこにスマホとシステムが介在することで、効率、安全、安心といったことが付加価値として現れているという印象を受けました。

校務用スマホ整備による業務効率化は、教育の質的向上の手段

続いて、平井氏に、校務用スマホの必要性と安全性の確保についてお聞かせいただきたいと思います。

まず、なぜ今、校務用スマホが必要なのでしょうか。最大の理由は、情報漏えいリスクへの対応です。例えば、教員の異動や転勤の際、私物のパソコンやスマートフォンに個人情報が残っていないかを確実に確認することは容易ではありません。万が一情報が残っていれば、個人情報の持ち出しにつながる恐れがあります。

そして、校務用スマホの価値は、単なる連絡手段にとどまりません。校務システムへ安全にアクセスできる、常に携行可能な情報端末である点が重要です。パソコンを持って校内を移動することには限界があり、日常的に活用できるモバイル端末の必要性は高まっています。

紛失やウイルス感染による情報漏えい
私物スマホに潜むリスク

私物スマホを業務で使用すると、保護者に教員個人の電話番号を伝えてしまい、夜間や休日にも連絡が入るといった状況が生じかねません。校務と私生活を明確に分けることは、教職員の働き方を守る上でも重要な視点です。

さらに、シャドーITや情報漏えいのリスクも見過ごせません。不便さは表に見えやすい課題ですが、その背後には端末の紛失やウイルス感染、個人情報流出といった深刻なリスクが潜んでいます図3。こうした見えにくいリスクへの対策が不可欠です。

図3

校務用スマホは単なる業務ツールではなく、教育の質を高めるための基盤です。業務の効率化によって生まれた時間を教育活動に還元し、その前提として、公費による整備と十分なセキュリティを備えた安全・安心な環境を構築していくことが重要だと考えます。

MDMで「遠隔ロック」「初期化」
校務用スマホなら適切に管理できる

学校で校務用スマホを一括整備することで、MDM(モバイルデバイス管理)による適切な管理が可能になります。現在、校務用端末や児童生徒用端末は一定の管理が行われていますが、私物のパソコンやスマホは管理の対象外です。この点を校務用スマホとMDMの整備によって、一元的に管理できることは、大きな意義があります。

特にMDMを活用すれば、端末紛失時に遠隔でロックや初期化を行うことができ、情報漏えいのリスクを低減できます。教職員が「安心して使える」と感じられる環境を整えることが重要です。

加えて、教員の意識の転換も欠かせません。これまで「子どもたちのために」という思いから、やむを得ず私物端末を校務に使用してきた背景がありますが、今後は校務に必要なものは公が責任を持って整備するという姿勢を明確にしていくことが、ますます重要になると考えられます。

費用対効果をデータで語り、公費による校務用スマホ整備へ

現在、校務用スマホの取り組みの多くは実証段階です。最大の課題は、予算面です。今後、公費による整備を標準化していくためには、財政担当者に費用対効果を明確に示すことが不可欠です。業務の効率化によってどの程度の負担が軽減されたのかを、可能な限り数値で示し、「データで語る」ことが重要です。

もう一つの重要な視点が、セキュリティです。これは、教職員を「意図せずリスクにさらさないため」という観点でもあります。新しい仕組みに負担を感じる教職員もいるかもしれませんが、「教職員を守るための仕組みである」という点を丁寧に伝え、理解と信頼を得ていくことが大切です。

そして、校務用スマホや『SKYMENU Mobile』の導入によって生まれた時間は、最終的に教育の質の向上へ還元されるべきものです図4 。どれだけの時間が生み出されたのかを具体的なデータとして示していくことが、今後の展開において重要になると考えています。

図4

導入効果をデータで示すことの重要性が分かりました。導入におけるキーパーソンは誰になるのでしょうか。

キーパーソンは教育長です。担当課の職員や指導主事が、取り組みの意義や背景を丁寧に説明し、理解を得ていくことが重要だと考えています。

加えて、財政担当者への説明も欠かせません。財政担当者自身も段階的に上位者へ説明していく必要があるため、その過程で根拠となる材料がなければ、議論は前に進みません。だからこそ、「数値で示す」ことが重要です。今回の実証校で実施したアンケートでは、「業務効率化を実感している」と回答した教職員が70%を超えました。特に、業務ごとに「どれだけ時間が短縮されたか」を示すデータは、説得力が高いと感じています。今後も実証校と連携し、時間削減のデータを丁寧に蓄積していきたいと考えています。

データで語る。このようなシステムの導入で仕組みを変える場合、数値でその成果を示し、納得を引き出すことは大切ですね。また、こういう機会に先生方も業務の見える化・数値化を進めて、学校の「余白時間」をつくるきっかけになるのではと思います。

まずは日々の業務を丁寧に見直し、便利さに潜むリスクへの意識を高める

ここまで校務用スマホを中心にお話を伺ってきました。さらなる校務DXの推進に向けて、学校や教育委員会は、まず何から取り組むべきでしょうか。

文部科学省から示されている「次世代校務DXガイドブック」では、現在の環境の中で校務を見直し、効率化を進めることの重要性が示されています。最終的に校務用スマホ導入をめざすとしても、まずは日々の業務を丁寧に見直すことが出発点になると考えています。

デジタル庁が総務省や文部科学省、経済産業省と連携して策定した「教育DXロードマップ」には、「12のやめることリスト」が示されています。今ある環境でも取り組める内容が多く、見直しを進めるなかで、校務用スマホの必要性も自然と認識されていくはずです。

併せて、私物パソコンや私物スマホにどのようなデータが保存されているのか、その実態を把握することも重要です。環境整備と教職員の意識改革を、同時に進めていく必要があると考えています。

使い慣れた私物スマホには、確かに使いやすさがあります。一方で、業務利用という観点では、見過ごすことのできないリスクも内包しています。だからこそまずは、教職員同士がそのリスクに正面から向き合い、自校の現状を共有した上で、どのような対策が必要かを丁寧に話し合っていくことが重要です。さらに校長先生方には、そこで浮かび上がった課題や気づきを校長会などの場で共有していただくことで、個々の学校にとどまらず、地域全体へと意識改革の輪を広げていただければと願っています。

そうですね。今回の校務用スマホ整備というキーワードで振り返ると、まずは、校務に係るセキュリティの在り方の再認識、そしてセキュアな環境での校務の効率化へ移行する必要性が見えてきました。ただし、その背景には学校教育に関わるすべての人たちの安全・安心を保障する環境づくりという思いがあります。一足飛びにできないからこそ、1つ先2つ先のゴールを見据えた整備と、教育関係者の意識改革が並行して必要ですね。

「学校とICT フォーラム2026」 パネルディスカッション(2026年2月21日 品川インターシティホール) より
(2026年2月取材 / 2026年7月掲載)