学習指導要領 / 教育の情報化
レポート

「学校とICTフォーラム2026」対談 デジタル学習基盤を前提とした
これからの子どもの学びと教師の役割

中川 一史

放送大学 教授

横浜市立小学校教諭、横浜市教育委員会、金沢大学教育学部教育実践総合センター助教授、独立行政法人メディア教育開発センター教授を経て、2009年より現職。中央教育審議会初等中等教育分科会の特別部会委員などを務める

中川 斉史

徳島県教育委員会 教育長

徳島県内公立小学校の教諭、校長を経て2024年より現職。教育情報化コーディネータ1級、総務省「地域情報化アドバイザー」、文部科学省「学校DX戦略アドバイザー」

これからの学びのあり方、教師の役割とは

「子どもに委ねる」ためには、自己調整力や情報活用能力の育成が必要

学習指導要領の改訂に向けて、教科や学年間における学習内容のつながりを整理・構造化し、より分かりやすく示そうとする議論が進んでいます。例えば「知識及び技能」が身につけば、「思考力、判断力、表現力」を発揮できるようになる、というものではありません。これらは両輪であり、相互を行き来することで高まります。こうしたことは現行の学習指導要領でも記されているのですが、その意図が伝わりにくい。そのため今回の改訂で整理・構造化が進められています。

もう一つ、着目したい資料が「学びに向かう力の4観点」です。図1の中央にあるのが「学びの主体的な調整」で、いわゆる自己調整の力です。つまり、自己調整の力が中心となって「学びに向かう力、人間性等」が表現されているのです。これまで中央教育審議会がさまざまな場面で、繰り返し主張されてきたことなので、次の学習指導要領で色濃く反映されると予想しています。

図1

また、私も関わっているデジタル学習基盤特別委員会の資料では「従来は教材や情報(知識)を教師が準備して、教師が教えることが合理的あるいはその選択肢しかなかったが、デジタル学習基盤が整備されたことで、児童生徒自身が、様々な教材から自らに適した教材を選択することが可能となった」としています。

  • 文部科学省(2025)デジタル学習基盤に係る現状と課題の整理,第7回中央教育審議会初等中等教育分科会デジタル学習基盤特別委員会,資料5

子ども主体の学びに向けた物理的な環境が整ったという話ですが、今後はこの環境を生かして授業をどのように変えられるのかが課題です。この変化をひと言で言うならば、私は「子どもに委ねる」だと思います。

しかし、子どもたちに学びを委ねるためには、自己調整力や情報活用能力が必要です。これらをどのように育んでいくのか。中川教育長に、徳島県の取り組みやお考えを伺いたいと思います。

子どもの学びには一定の「不便さ」が必要

徳島県の取り組みと私個人の考えをお話しできればと思います。まず私がここで強調したいのは、子どもの学びには一定の「不便さ」が必要である、という点です。

例えば、子ども用の自転車には補助輪があります。補助輪は、転倒のリスクを抑えるという点では有効ですが、カーブが曲がりにくい、取り回しの自由度を制限されるといった不便さも伴います。しかし、その不便さのなかで子どもは成長し、やがて補助輪は外されていきます。教師の支援や生成AI活用の在り方もこれと同じだと思うのです。

生成AIを例にお話しすると、まず大人の使い方と子どもの使い方は、同一であってはなりません。これは大前提です。なぜなら、学習は「答えにたどり着くこと」そのものに価値があるのではなく、考え、迷い、気づく過程にこそ価値があるからです。この前提を踏まえずにカリキュラムを設計すると、学習の本質が損なわれてしまいます。例えば、総合的な学習のテーマ設定や探究の初期段階において、子どもが目的や問いを十分に吟味しないまま生成AIに依存してしまうような実践は、避けるべきです。

では、そうした実践を防ぐために何が必要なのか。鍵になるのは、やはり教師の立ち位置です。教師が「答えを教える存在ではない」ということは、これまでも繰り返し語られてきましたが、生成AIの時代においては、その意味がより一層問われると考えます。

また生成AIの活用をはじめ、さまざまな先進的な取り組みがありますが、教育的意義を十分に検討しないまま実践に取り入れると、単なる模倣で終わったり、大人びた作業をさせて教師が満足したりするようなかたちになりかねません。私たち教師は、本当に気づいてほしいことほど、簡単には言いません。どこで子どもに汗をかかせ、どこで支えるのか、適切なポイントが分かっています。「教育」という視点に立ち、きちんとブレーキをかけられるのが、教師であり学校なのだと思います。

「不便さ」とありましたが、真面目な先生であればあるほど、良かれと思って手取り足取りさまざまに準備をしすぎてしまう。結果として、「本当はそこが子どもの学びになるのに」という場面を、教師が奪ってしまうということもありますね。

そうですね。例えば図工などで、全員に同じ素材や道具をそろえてしまうと、どれも似たような成果物になってしまいます。私は、そこに面白みがあるのか、創意工夫の余地はあるだろうかと考えてしまいます。「この段ボールやこの箱も使えるだろうな」と思ったり、そこからワクワクしたりすることが大切なのではないでしょうか。「みんなで一緒のことをする」というイメージが、まだ私たち教師の頭に残っているのかもしれません。

「気づきを促す」教師の立ち位置でAI活用を考える

先ほど、「AIで子どもに正解を教えない」という話がありました。私は校務と学習で、生成AIの活用のベクトルが異なると考えています。例えば、校務では利便性の追究や教職員の負担軽減を目的として使います。一方、学習では「負担は増えるかもしれないが、子どもの学びが深まったり、広がったりするのであれば使おう」と先生方は判断するのではないでしょうか。

徳島県内の小学校での作文指導の事例をご紹介します。作文指導はどうしても一人ひとりの指導に時間がかかってしまい、順番を待つ間に手持ち無沙汰になってしまう子どもが多く出てきてしまいます。先生が一人ひとりにより丁寧な指導を実現したいと考えても、一人では難しい状況があります。

そこで、その先生は作文指導の一部をAIで代替するかたちを取られました。AIに「このとき、あなたはどう思ったの?」「なぜそう感じたの?」といった、いわゆる問い返しを次々に返すように設定したのです。この取り組みを続けた結果、例えば1時間で作文を書こうという課題であれば、ほぼ全員が時間内に書き上げられるようになったそうです。ある先生は「TTが子どもの人数分いる」と表現していました。30人学級であれば、TTが30人いるのと同じだ、というわけです。これはとても適切な使い方の例だと思います。

生成AIとの関わり方は、クラスに30人いれば30通りあります。しかし、45分、50分の授業時間の中で、教師がそれらのすべてを見切ることはできません。だからこそ、「プロセスを共有すること」がとても重要です。例えば、「こういうふうに生成AIに投げかけたら、こう返ってきた」「おかしいなと思ったから、こうした」といったやりとりを、クラス全体で共有するということです。もし、それがなければ、その子一人だけの関わりの強さや弱さになってしまいます。教師が子どもと生成AIとの関わりをうまく設計できるかどうか、それが大きなポイントです。

教師が子どもたちを見取っているから、子どもに委ねられる

もう一つ、「子どもに委ねる」ことについてお話ししたいと思います。授業において、子どもが「ツールを選択する」「1人や2人、グループで活動するかを考え、選ぶ」といった姿をよく見るようになりました。

しかし、よく観察すると、子どもたちがほったらかしになっているような授業も見受けられます。私は、そうした授業のことを「デジタル放任授業」と呼んでいます図2。本来、「子どもに委ねる」というのは、教師が子どもたちを適切に見取ってこそ成立するものです。それなのに、実際には見取られていない。

図2

よくICTを活用すれば「楽になる」という話がありますが、私は「授業は楽にならない」と考えています。むしろ、子どもが1人で考えたり、グループで考えたりするので、机間指導をして見取り、声をかけていくだけで先生は大変なはずです。しかし、そこまでやって初めて子どもに委ねる授業が成立するのだと思います。

一方、「子どもに委ねる」ことを意識し過ぎるあまり、いきなり100%委ねなければならないと思われることがあるのかもしれません。しかし実際には、「1年間○○時間あるうちの、ここだけ」とか「45分の中の、ここだけ」「この単元の中の、ここだけ」「この単元だけ」というかたちで段階や軽重をつけて取り組んでいただければいいと思いますね。

GIGA第2期における端末環境や活用のあり方とは

学習のために意図的に方向づけられた環境であるべき

GIGAスクール構想第2期(以下、GIGA第2期)の学習環境は、デジタル教科書の日常的な活用を視野に入れる必要があります。徳島県ではどのような取り組みが進んでいますか?

まずGIGA端末を取り巻くものとしての「環境」という言葉には、間接的に取り巻くものとしての「Environment」と積極的に用意するものとしての「Situation」の2つの意味があると考えています。授業や学習における環境は「Situation」。つまり学習のために意図的に方向づけられたものであるべきです。これは端末やデジタル教科書に限らず、教室の中のあらゆるものの配置も含めてそうあるべきだと思います。

写真1は、徳島県東みよし町立昼間小学校1年生の教室の様子です。GIGA端末もあり、紙の教科書もあり、算数セットもある。これらが無造作に、当たり前のように置いてありました。私たちが理想とするのは、このような姿なのだと思います。

写真1

しかし、こうした姿に至るためには、道具、つまりGIGA端末を子どもの手に「なじませる」必要があります。そのための時間を、日本はもっと保障すべきです。

それからICT環境は、基本的にすべてかけ算です。どれか一つでもゼロがあると、結果がゼロになってしまいます。徳島県内でも、GIGA第2期になってネットワークや端末、OSに関する大きな問題は聞かなくなりました。

代わりに、ツールの活用に関する課題が大きくなってきています。例えば、デジタル教科書ごとにビューアが異なることや年度更新の負担の大きさ、複数あるeポータルをどう使い分けるかといったことです。学習支援システムや授業支援システムの活用についても、あらためて注目を浴びてきていると感じています。

それから、GIGA第1期を経て、ICTが手になじんできた先生が増えたことで、活用の仕方が一気に変わってきました。例えば、バイブコーディングです。今までアプリを作った経験やスキルを全く持たなかった先生が、生成AIを使ってコードを書き、校務効率化のためのアプリを作り出すという例が複数出てきています。

こうした変化を踏まえ、設置者として、先生方が創意工夫できる「環境」つまり「Situation」をどんどん用意していきたいと考えています。

「慣れ」の段階まで、教師が根気強く指導することが大切

「手になじむ」というお話をいただきましたが、私は、成熟度はy=x2のように高まっていくと感じています図3。順当には上がっていかなくて、「青丸」の「慣れ」の段階まで、教師が根気強く指導することが大切です。特に「赤丸」を超えたあたりで、さまざまなトラブルが起こります。ここで「使わせない」という選択をすると、今度はいつまでも「赤丸」の範囲内でとどまることになります。手になじむためにはトラブルを乗り越えようという覚悟を学校全体で共有して取り組むことが必要です。

図3

そうですね。ICTに限りませんが、子どもたちに何かをしてもらいたいなと思ったら、教師がどれだけ我慢できるかだと思います。それこそが教育の醍醐味であり、大切な部分です。「赤丸」の段階を超えると一気に上がるという実感は、私にもありますね。

業務の効率化、教員の負担軽減

県教委からの問い合わせや報告書をスクリーニングし、学校の負担を軽減

業務の効率化や教員の負担軽減の取り組みについても教えてください。

自身の教員経験から理想とするイメージがあるので、私はここにかなり力を入れて取り組んでいます。改善に当たっては「手を抜くのではなく、手間を省く」「単なる置き換えではなく、付加価値を生み出す」の2つを重視して進めています。

まず、県教育委員会から各学校への問い合わせや報告書の提出が多かったため、スクリーニングを行いました図4。どの課が、どのくらいの分量を、いつまでに、何分程度を想定して行っているのかをすべて書き出してもらい、減らせるものは減らす、なくすものはなくす、毎年でなくてよいものは隔年にするという整理をしたのです。さらにアンケートフォームで済むものはすべて変更することで、問い合わせや報告書の提出にかかる負担をかなり減らせました。

図4

このような取り組みも含めて、働き方改革に関する通信を継続的に発行しています。他校の取り組み例の共有や「ここまでやってもいいんだ」というメッセージを伝えられるので、とても効果的です。

県域でアカウントを整備し、異動、進学時のストレスを減らす

もう一つが、県域でのGoogle アカウントの整備です。学校を異動するたびにツールが変わるのは、先生方のストレスになりますし、時間もかかります。県内のどの学校にいても同じツールが使える。これだけでも大きな変化があると思います。

子どもたちにも県域のアカウントを整備し、小・中・高等学校で同じアカウントを使います。進学したときに同じツールが使えるので、子どもたちもやりやすいのではないでしょうか。また、このアカウントはもちろん12年間使えます。データが蓄積されていくので、ポートフォリオとして活用できます。

先生方の研修でも、県域アカウントやGoogle Workspaceの使用を徹底しており、初任者研修から使っています。ある学校では、避難訓練で活用し、どこにどの子どもがいて、どう避難させるのかをチャットや音声入力で共有。校内で確実に連絡が取れるようになりました。現在は、この県域アカウントを軸にして、働き方改革の取り組みを加速させているところです。

『SKYMENU Mobile』などを活用した校務用スマホの導入にも注目しています。2027年度を目標に、県内の特別支援学校1校での実証が計画されています。特別支援学校は、建物が入り組んでいることに加え、一人ひとりの対応に特に配慮が必要です。一人ひとりのさまざまな情報についても、複数の教員が共通で分かっていなければなりません。そういう意味で、特別支援学校における校務用スマホは、有用性が非常に高いと考えています。

「未来」は「今」にある。「今」行動することが大事

2040年にどんな世界になっているのか、誰にも想像はできません。しかし、「今の状態のままでは駄目だ」と感じられる部分はあるはずです。とはいえ、すぐに何かを改善しようとしても、実現できるわけではありません。だからこそ私は、「未来」は「今」にあるのだと思っています。将来、実現したい何かがあるならば、今、行動することが大事です。このことをすべての先生方と共有しながら、取り組んでいきたいと考えています。

私は、これからのキーワードは「共生」だと思っています。例えば、デジタルと紙、あるいは生成AIを使う使わない。中央教育審議会でよく言われる「二項対立には陥らない」ということです。「どちらにするのか」という段階は、もう過ぎ去っています。これからは、共生していくためにどうしていくのか、という発想で私たちは考えていかなければならないと思っています。ぜひ、皆さんの学校や地域で、どのように共生を実現していくのかを考えていただければと思います。

「学校とICTフォーラム2026」 対談(2026年2月21日 品川インターシティホール) より