教職員同士のコミュニケーションの充実で
“チームで働く学校”へ
教職員の働き方改革や安全安心な職場環境づくりが求められるなか、校務用スマートフォンの整備を検討する自治体も出てきています。教職員に1人1台PHSを整備した経験を持つ、毛利 靖 茨城大学 教育学部 副学部長に、働き方改革の現状と校務用スマートフォンの導入で期待される効果について伺いました。
毛利 靖
茨城大学 教育学部 副学部長
茨城県小中学校教諭、義務教育学校教頭・校長、つくば市教育委員会指導主事、つくば市教育局総合教育研究所所長などを経て、現職。茨城大学附属学校園統括長、教授。文部科学省令和7年度「学校DX戦略アドバイザー」、総務省令和7年度「地域情報化アドバイザー」。
クラウド化によりロケーションフリーで校務に対応できる環境を
文部科学省が令和5年に公開した「GIGAスクール構想の下での校務DXについて」では、校務DXの方向性が示されています。
その中で、働き方改革の観点で自治体が実現すべきこととして、「汎用のクラウドツールの積極的な活用」「校務支援システムのクラウド化と教職員用端末の一台化を組み合わせること」などが明記されています。
さらに、文部科学省が令和7年に公表した「次世代校務DXガイドブック」においても、次世代校務DXの姿として、クラウド上での校務実施を前提とし、以下の【資料】のような働き方改革の実現をめざすことが示されています。
【資料】学校における働き方改革
標準的なGIGAスクール環境において汎用クラウドツールを積極的に活用することなどにより、教職員、学校内外の関係者及び教育委員会担当者のコミュニケーション・情報共有の迅速化・活性化、事務負担軽減が可能となります。また、学校内外を問わず、校務をロケーションフリー化することにより、場所や時間を選ばない効率的かつ柔軟な働き方が可能となります。例えば、従来は職員室でしかできなかった業務の教室での実施や、出張先での職員会議等への参加、学校外からのテレワーク等が可能となります。
民間企業においても業務デジタル化や働き方改革が進む中、学校現場も紙ベースの業務から脱却してデジタル技術を取り入れ、業務の仕方を変えていくことは、教師という職業の魅力を高めることにもつながると考えられます。
参考:文部科学省初等中等教育局 学校デジタル化プロジェクトチーム「次世代校務DXガイドブック」
https://www.mext.go.jp/content/20250401-mxt_jogai01-000041267_01.pdf
これまでの校務は、学校や教育委員会に設置されたサーバにアクセスして処理するのが一般的で、場所に縛られる働き方でした。
しかし、クラウド化が進めば、場所を選ばずロケーションフリーで校務に対応できます。もちろん、自宅での勤務を推奨するわけではありませんが、働き方の選択肢を広げ、自分に合った働き方を選べることは大きなメリットです。特に管理職は、出張などで学校を離れていても、業務の指示や処理が可能になります。
複数の目でクラウド上のデータを分析、子どもの変化を早期に察知
汎用的なクラウドツールや校務支援システムには、子どもたちがどんな学習コンテンツにアクセスしているか、出席状況はどうかといった、さまざまなデータが蓄積されます。システムがクラウド化されていれば、データを柔軟に共有でき、場所を選ばずアクセスできます。
蓄積したデータを分析することで、不登校の兆しを早期に把握し、未然に防ごうと取り組む自治体もあります。長く休んでしまってからでは、解決が難しくなることもあるため、兆候が見えた段階で声をかけたり、相談に乗ったりと、初期対応に早めに乗り出しているのです。
また、これらのデータは、担任の先生だけでなく、学年のほかの先生や教務主任、管理職、さらに教育委員会の担当者と共有することが重要です。データを客観的に見ることで、担任の先生だけでは見落としがちな変化を早めに察知できます。
さらに、校務支援システムなどを活用した校務DXの取り組みで、授業時数も管理しやすくなりました。
文部科学省の学習指導要領では、小中学校の授業は年間35週以上(小学校1年生は34週以上)行うことを標準としています。つまり、子どもたちがきちんと理解できるように授業を行っていれば、年間35週で計画してよいのです。
しかし、実際に時間割どおりに授業を行うと、40週近くになることもあり、その結果として、先生方の勤務時間は長くなっています。
例えば、先生方が午前8時ごろに出勤すると、法的な退勤時間は17時ごろです。6時間目まで授業を行い、下校の見守りまで終えると職員室に戻るのは16時半過ぎ。これでは、教材研究や翌日の授業準備に充てる時間がほとんど残りません。働き方改革の実現は難しい状況です。
授業時数を正確に計算し、計画を見直せば、子どもたちが14時半や15時に下校できるようになると思います。
また実際に、午前中は授業を行い、午後からは探究学習に取り組むという、時間の使い方を工夫する学校も出てきています。
今後、このような柔軟なカリキュラムを作成していくためには、校務支援システムなどのツールの有効な活用が重要になってきます。
安全なネットワーク環境と適切な運用ルールの整備が重要
ツールやシステムを活用して、時間を生み出している自治体や学校もありますが、一方で、自治体間で取り組みの差が広がっているのが現状だと思います。
この背景には、さまざまな要因がありますが、ICT環境に限定していえば、「重要な情報は有線でなければ扱えない」など、古いセキュリティポリシーを踏襲している自治体が残っています。こうした制約がある限り、校務DXは進みません。
校内で安全にネットワークを利用できる環境に加え、適切な運用ルールを整備することが、DXを進める前提なのです。
例えば、校内のWi-Fiに先生方の校務用端末が接続できない場合、子どもの作品を評価しようと教室に並べても、PCに入力できず手書きで対応するしかない。システムに打ち込めばすぐ終わるのに、ルールが整っていないために効率化できないのです。
生み出した時間で先生同士のコミュニケーションを大切にする
さまざまに課題がありますが、一つひとつ解消していけば、校務DXは確実に前進し、先生方の時間が生み出されるはずです。先生方には、この生み出した時間をどう使うかという点にも目を向けてほしいと思います。
時間が生まれたから、「早く帰ろう」ということももちろん大事なことです。しかし、勤務時間の短縮ばかりに目を向けて、先生同士のコミュニケーションの時間が減ってしまうと、本末転倒です。
例えば、「今日の授業、うまくいかなかったのですが、どうしたらいいでしょうか」。こうしたちょっとした相談の時間は非常に大切です。
教育現場では、新任の先生であっても配属後、1人で35人の子どもを受け持つことがほとんどで、精神的な負担は大きいと思います。だからこそ、困ったときに相談しやすい環境が必要ですが、その時間は十分に確保できているでしょうか。
若い先生はチャットやSNSに慣れています。そうしたツールの方が、相談しやすいこともあるのではないでしょうか。ちょっと聞きたいことがあればチャットで、必要なら会って話す。こうしたコミュニケーションの仕組みを、公的に導入したクラウドツールで実現できればいいと思います。
課題が複雑化する今の時代は、チームで学校を運営していくべきです。働き方改革を進めながら、コミュニケーションの質と量をどう確保するか、考えなければなりません。
教員用PHSの導入で情報共有の円滑化を実感
少し前の話になりますが、私は平成24年度に、当時校長を務めていた、つくば市立みどりの学園義務教育学校で、教職員に1人1台PHSを導入しました。通常、各教室にはインターホンがありますが、それだけでは対応しきれない場面もあると感じていたからです。
例えば、不審者が校内に侵入したとき、すぐにインターホンで連絡できるでしょうか? 校庭で体育をしていてけがをしたとき、迅速に保健の先生に伝えられるでしょうか?
日常の中でも、遅れて登校してきた子どもが教室に向かうことを、担任の先生にインターホンで連絡しようとしても教室にいない、理科の授業だから理科室に連絡してもそこにもいない、花壇で観察をしていたということもあります。PHSを導入したことで、こうした状況での情報共有のスピードが確実に上がりました。
ただ、PHSは専用アンテナを設置して運用していたため、校舎を離れると通信できませんでした。けがの状態を写真で送ることもできません。ですが、今ならスマートフォンがあります。
スマートフォンなら、連絡だけでなく写真などを使った情報共有も簡単にできます。子どもの安全安心のために、教職員一人ひとりが連絡手段を持ち歩いていることは必須です。
そして、教職員間の情報共有のスピードを上げることは、子どもの安全確保に加えて、業務効率化にもつながっていくと思います。
これまでは、業務で私用のスマートフォンを利用するケースがあったのが実情でした。しかし、昨今のさまざまな問題があり、令和7年7月の文部科学省の通知によって、校内での私用スマートフォンの利用に関してより厳しく禁止する方向になってきています。
そんな中、公的に整備されたスマートフォンで教職員の業務を安全かつスムーズに行えるよう、校務用スマートフォンの導入を検討する自治体が出てきています。
校務用スマホでの円滑な情報共有が子どもの安全確保と先生の業務効率化につながる
教職員がつながり、支え合う職場環境へ―― 『SKYMENU Mobile』への期待
[セーフカメラ]で写真を安全に組織で共有・管理
校務用スマートフォンをただ導入すればよいというわけではありません。教育現場に即した安全安心なツールである必要があります。
例えば、校務用スマートフォンで利用するために開発された『SKYMENU Mobile』には、教職員の働き方を支える機能が備わっています。
特に、『SKYMENU Mobile』のカメラ機能で撮影した写真が、自動的にクラウドに保存される[セーフカメラ]は、安全に写真を共有・管理できる、現場に即した仕組みです。
例えば、遠足の後、撮影した写真を各クラスの先生方一人ひとりに共有するのは、大きな手間でした。組織で写真を共有できるこの仕組みであれば、不適切な写真の撮影を防止するだけでなく、業務効率化にもつながります。
写真を共有し、先生同士で確認し合うことで、チームで働く意識を高めることにもつながるのではないでしょうか。
そして、共有するのは、子どもたちの写真だけではありません。文書を撮影して共有するのも良いと思います。
また、私が教頭をしていたときには、水漏れがないかを確認するために、水道メーターを毎日撮影していました。校舎の安全点検でも、担当の教職員が破損箇所や危険な箇所を写真に収めて共有してくれると、管理職としてはとても助かります。
[Todoプラス]に登録した業務について教職員間でやりとり
さらに、[Todoプラス]機能では、自分の業務を登録し、スケジュール管理ができます。
ほかの教職員に業務を依頼するときも、Todoとして設定でき、その業務に関して教職員間でチャットのようにやりとりすることも可能です。
このような仕組みがあれば情報共有がスムーズになるだけでなく、ちょっとした相談や確認も気軽にできます。業務の効率化と同時に、コミュニケーションを深めるきっかけになるのではないでしょうか。
校内Wi-Fiを利用した通話なら通信費がかからない
私がPHSを導入したときは、専用アンテナを立てる必要があり、それなりのコストがかかりました。義務教育学校で学級数が多く、インターホンを整備するのにも費用がかかるため、PHSの整備が実現できたのだと思います。
しかし、校務用スマートフォンなら、すでに校内Wi-Fiが整備されているので、これを活用すれば、通話に通信費はかからず、必要なのは端末代だけ。ランニングコストを削減できるというのは大きなメリットです。
さらに、管理職には緊急時に外部と連絡できる仕組みを整えておけば、どこからでも警察や救急などに直接連絡できます。こうした仕組みは、子どもの安全安心を確保する上で欠かせません。
単なる連絡手段ではなく、校務DXを支えるツール
校務用スマートフォンは単なる連絡手段ではありません。例えば、Microsoft Teamsなどのクラウドツールに研修動画などのコンテンツをアップしておけば、先生方は自分のタイミングで必要なコンテンツを視聴できます。
そして、スケジュールはスマートフォンで確認し、教材はノートPCで作る、簡単なメールや連絡はスマートフォンで返し、しっかりした文書はPCで作成する。こうした使い分けができれば、業務の効率化はぐっと進みます。
昨今の私用スマートフォン利用の対策として、導入が期待される部分がありますが、校務DXを支えるツールとして、コミュニケーションや情報共有、研修など日々の業務に幅広く活用できるものとして捉えてほしいと思います。単なる連絡手段にしてしまってはもったいないツールです。
コミュニケーションの質を高め、チームで働く学校に
今の時代、教育現場が抱える課題は複雑で、先生一人では、解決できないことが多いように思います。
だからこそ、いかにチームを組んで情報共有し、相談しながら進められるかが大事になってくるのです。それができれば、より良い授業につながり、ちょっとした気になることを共有することで、子どもの安全安心にもつながります。
校務用スマートフォンは、教職員がつながり、支え合いながら働ける環境をつくるために役立つものです。業務の効率化だけでなく、コミュニケーションの質を高め、チームで働く学校を実現するために、一つの有効なツールだと私は考えています。
(2025年12月取材 / 2026年2月掲載)