学習指導要領 / 教育の情報化
INTERVIEW 学校の働き方改革とICT

チームで働き、支え合う学校の実現へ 「業務の見える化」と「情報共有」が鍵

学校の働き方改革が進められ、勤務時間は短縮傾向にあるものの依然として長時間勤務の傾向が根強く残っています。教職員の皆さんの負担を軽減するために必要な仕組みづくりやICT活用について一般社団法人ライフ&ワーク 代表理事 妹尾 昌俊 氏に伺いました。

妹尾 昌俊

一般社団法人ライフ&ワーク 代表理事 /学校法人OCC 教育テック大学院大学 教授

全国の学校、教育委員会等を訪れ、研修やアドバイスを続ける。中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、「質の高い教師の確保特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁における部活動のあり方に関するガイドラインをつくる有識者会議の委員、文科省・GIGAスクール下での校務の情報化の在り方専門家会議委員などを歴任。

“過労死ライン”を上回る教員の勤務実態が浮き彫りに

学校の働き方が特に注目されるようになったのは、2016年ごろからです。その背景の一つとして、まず2013年に経済協力開発機構(OECD)が行った「国際教員指導環境調査(TALIS)」があります。この調査で、日本の教員の勤務時間が参加国の中で最も長い、つまり「世界一忙しい」ことが分かったのです。

さらに2016年ごろ、全国的に過労死問題が大きく報道されたことで、社会全体で長時間労働への関心が一層高まりました。同年、文部科学省は「教員勤務実態調査」を実施し、翌年に結果が公表されましたが、“過労死ライン”を上回る教員も多い実態が浮き彫りとなりました。

こうした状況を受け、2019年には中央教育審議会の答申により、「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」が策定されました。このガイドラインでは、時間外勤務の上限を月45時間、年360時間とすることが示され、のちに指針となっています。

勤務時間は減少傾向の一方、休職者や高ストレス者は増加

以降、教員の働き方改革が進められ、ここ6~7年の間にさまざまな取り組みが行われてきました。表1

表1学校の働き方改革に関する国のおもな動向
2004年 行政改革推進法(簡素で効率的な政府を実現するための行政改革の推進に関する法律)が成立。公務員全体の人件費削減が重要な政策課題となるなか、教員給与の見直しも焦点になる。
2006年 教員勤務実態調査を実施。約40年ぶりの調査。
2013年 OECD・TALIS実施、翌年公表。日本の中学校教員の勤務時間が世界一に。
2015年 文科省「学校現場における業務改善のためのガイドライン」を公表。
2016年 教員勤務実態調査を実施、翌年結果公表。前回調査より超過勤務が増加。
2018年 スポーツ庁「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」、文化庁「文化部活動の在り方に関する総合的なガイドライン」を策定。休養日を設けることなどが柱。
2019年 中教審「新しい時代の教育に向けた持続可能な学校指導・運営体制の構築のための学校における働き方改革に関する総合的な方策について(答申)」。
同年 給特法改正。文科省は業務量の適切な管理等に関する指針を策定。
2020年 新型コロナウィルスの蔓延による全国一斉休校(臨時休業)を要請。
2022年 教員勤務実態調査を実施、翌年公表。
2024年 中教審「令和の日本型学校教育」を担う質の高い教師の確保のための環境整備に関する総合的な方策について(答申)。
2025年 給特法改正、2029年度までに時間外を月平均30時間程度とする目標を明記。
同年 文科省は業務量の適切な管理等に関する指針を改正。服務監督教育委員会に業務量管理・健康確保措置実施計画の策定を義務化。いわゆる業務の3分類を更新し指針に位置付けた。

その結果として例えば、部活動の休みが増えたり、勤務時間外は留守番電話を導入したり、夏休みを長く取得する教員も増えてきました。そのほかにも、男性教員が育児休業を取得するケースも徐々に増えてきています。

2022年度の「教員勤務実態調査」では、在校等時間が前回調査に比べてすべての職種で短縮されました。しかし、依然として長時間勤務の傾向があり、“過労死ライン”を超える時間外労働をしている教員が一定数存在することも報告されるなど、まだまだ課題が残っています。

また、文部科学省が実施した2023年度の「公立学校教職員の人事行政状況調査」によると、精神疾患で休職した公立学校の教員は7,119名おり、1か月以上の病気休暇を取得した教員も含めると13,045名に上ります。精神疾患による休職者数は、ここ数年増加傾向にあります。

全国には約100万人の教員がいるため、休職者は全体の1%程度です。ほかの職種と比べて特段多いとはいえないものの、背後にはもっと大勢しんどい思いをしている人はいます。精神疾患での休職者の約2割が退職してしまいますが、その後は文部科学省等の統計数字には上がってきません。かなりの教員が休職を余儀なくされているという事実は、現場の負担の大きさを物語っているのではないでしょうか。また、学校事務職員の精神疾患での休職率は教員よりも高い傾向を示しています。

大切なのは「勤務時間」だけでなく「仕事の中身」に目を向けること

これらの調査結果から、以前に比べて勤務時間は削減されつつあるものの、休職者は減っていないことが分かります。実際に、公立学校共済組合が実施しているストレスチェックの分析結果によると、高ストレス者は増え続けているのです。図1

図12020年以降、高ストレス者の割合が増加している
図1
参考:公立学校共済組合のストレスチェックデータ分析結果報告書
https://www.kouritu.or.jp/content/files/topics/R6_scbunseki.pdf

これまでの働き方改革では、在校等時間の縮減、つまり「時短」に焦点が当てられがちでした。過労死等の防止をはじめ健康確保の観点から時間管理は大切ですが、「仕事の中身」にも注目する必要があります。

学校現場では、チームで行う仕事ももちろんありますが、進め方などは教員個人の裁量に任されている仕事も多く、一人ひとりの業務の実態が見えにくいのではないかと感じます。授業時数は管理されているものの、授業準備や添削、生徒指導事案などにどの程度時間をかけているのかなど、学校内で仕事の中身が共有されにくい。つまり、「どういった仕事を抱えていて、なぜ忙しいのか」といったことが十分に把握されていないのではないでしょうか。職員室でも子どもの情報は共有するが、教職員、同僚の情報はあまり共有していません。

教職員のストレスを軽減していくためには、精神的・身体的に苦しくなったときのサインを見逃さない仕組みを整えることが重要です。衛生委員会を設置して協議していくことも一つでしょう。また、負荷の高い仕事を抱えている教職員がいるのなら、同僚でカバーできるように調整するなど、支え合える体制づくりが求められます。欠員、人材不足などで厳しい実情の学校が多いことも承知していますが、仕事を一人で抱えず、「チームで働く仕組み」が必要です。

教職員同士の支え合いが、ストレスの軽減につながる

効率的に仕事を終わらせようとする意識が高まること自体は良いことです。しかしその一方で、周囲の先生の様子に気を配る余裕がなくなり、結果としてケアが不十分になってしまう状況もあるのではないでしょうか。これは働き方改革の副作用といえるかもしれません。

加えて、近年深刻化しているのが人手不足の問題です。約2割の小・中学校で教員の欠員が発生しているという全国公立学校教頭会の調査結果もあります。

サッカーに例えるなら、11人で臨むべき試合に10人、9人で出場しているような状況。これでは、それぞれが守備範囲を広げて対応せざるを得ず、負担が増すのも当然のことでしょう。特効薬はありませんが、チームで支えて精神疾患を減らすこと、また休職者が復職しやすくなれば、かなりの程度、この欠員の課題解消にもつながっていきます。

チャットによる「情報共有」がコミュニケーションのきっかけに

こうした状況を踏まえ、先ほど申し上げたチームで助け合える体制づくりを実現していくためには、日々の情報共有が欠かせないと感じています。その手段の一つとして、チャットの活用などが有効です。実際にセキュアな環境で使用できるチャットツールを活用している自治体もあり、インシデントの発生などの情報を学校全体でスムーズに共有できています。

インシデントだけでなく、保護者からの連絡、現在抱えている業務の相談、さらに授業でうまくいったことや困ったことなど、ちょっとした気づきも含めてチャットなどで「気軽に」共有する。こうした場があることで、教職員同士が互いの状況を自然に把握しやすくなり、声を掛けたり支援したりするきっかけが生まれるはずです。

こうしたICT活用に加えて、校内研修もお互いの得意なことや好きなことを知る機会にしたり、ちょっとした学び合いや職場改善のアイデアを出し合ったりしてもいいと思います。経営学でもKnow HowよりもKnow Whoの共有が大事という研究もあります。そうした日常的なやりとりが積み重なることで、職場の同僚性が徐々に高まっていくのではないでしょうか。

GIGAスクール構想により、学校のICT環境が整ってきました。ICTを活用しつつ職場のチームワークを高めるための仕組みづくりを進めていくことが、今後の働き方改革において重要になると考えています。

妹尾 昌俊 一般社団法人ライフ&ワーク 代表理事 /学校法人OCC 教育テック大学院大学 教授

私用スマートフォンでの情報共有は個人情報保護の観点から避けるべき。

デジタル化から校務DXへ学校のICT活用には“伸びしろ”がある

校務にICTを活用できているかどうかは、学校間、自治体間に差があるのが現状です。いまだに紙ベースでの手続きが残っているところも多くあるだけでなく、学校は“電話文化”が根強く、困ったことがあると電話でやりとりをして互いの時間を奪ってしまうというケースもあります。

さらに、デジタル化は進んでいるものの、運用が非効率であるケースも耳にします。例えば、セキュリティを堅牢にするあまり、メールの添付ファイルを開くことに手間がかかったり、ネットワーク分離の影響で、校務用・学習用・教育委員会との連絡用など、3台のPCを使い分けていたりするといったことです。

見かけ上はデジタル化されていても、生産性が度外視されているなど、まだまだ学校現場の働き方改革におけるICT活用には“伸びしろ”があると感じています。

そして今後デジタル化が進むことで、次のステップとして期待されるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)です。

現在、学校では子どもの出欠情報、Q-Uテストによる人間関係の把握、いじめ調査などのさまざまなデータが、別々に管理されています。渋谷区では、これらのデータを一覧化し、ダッシュボードでクラスや学校の状況を見える化して、子どもたちの指導に生かす取り組みを進めています。

こうしたデータ活用を無理なく行っていくためには、教育委員会の役割も大事ですし、学校で容易に活用できるツールの提供なども必要です。

校務用スマートフォンが有効な代替案に

注意が必要なのは、私用のICT機器を使用するケースです。先ほど、ICTを活用した職場のチームワークを高める仕組みづくりが大切だと申し上げましたが、私用のスマートフォンなどを使って情報共有を行うことは、昨今の不適切な使用事案や、個人情報保護の観点から避けたほうがよいと思います。

校務用のスマートフォンの導入を検討する自治体も増えてきています。また現在、私用のスマートフォンによる写真・動画の撮影が禁止されている自治体もあります。授業や部活動などで活用していた先生もいらっしゃると思いますが、禁止される一方で、代替案が示されないままでは不便さがあり、ストレスを感じているかもしれません。こうした困り事の解決策としても、校務用スマートフォンは有効な代替案となります。

校務用スマートフォンでの使用を前提とする、教育現場に特化した校務スマート化支援アプリ『SKYMENU Mobile』の機能について確認させていただきましたが、データが端末に残らない仕様の[セーフカメラ]機能をそなえているため、安心して撮影することができると感じました。

さらに、『SKYMENU Mobile』を活用することで、教職員がどのような業務を抱えているのかを可視化できる仕組みも整えられるのではないでしょうか。

[ToDoプラス]機能では、教職員一人ひとりが現在どのようなタスクを抱えているのかを確認することができます。

将来的には、ダッシュボード上で負荷状況がひと目で分かるようになれば、管理職が早期に教職員の業務量を把握し、必要に応じて業務の調整や支援につなげることができるのではないかと期待しています。図2

図2『SKYMENU Mobile』の[ToDoプラス]機能で、教職員の業務負荷を可視化
図2

教職員の探究の成果を授業に生かし、子どもの学びをさらに豊かに

これから先生方にはぜひ、「自分たちの職場は自分たちでより良くしていこう」「チームワークの良い職場にしていこう」という意識を持っていただきたいと思います。働き方改革や職場改善によって生み出された時間は「先生自身の好きな時間や学びの時間」、もしくは休養に使ってほしいと思っています。働き方改革は、子どもと向き合う時間を確保するために取り組むものだと語られることが多いですが、ややミスリードだと思います。なぜなら、子どもと向き合う時間が多いために、先生たちは忙しすぎるからです。

それに、学校と自宅の往復だけの生活だと、視野が狭くなったり、疲労感が募ったりすることもあるのではないでしょうか。

教科書や指導書の内容だけでなく、旅をしながら現物に触れる。最新の研究知見を新書などで吸収する。わたしも自分の好きなアニメやサウナの話をよく講演でも使っています。こうした「ゆとり」が授業の深みや広がりにもつながるのではないでしょうか。子どもたちに探究的な学びが求められている今、教職員自身も探究し、学ぶことの面白さを感じることは欠かせないと思います。あまり肩ひじ張らず、好きなことや気になることに、もう少し時間を振り向ける。先生方にとっても充実感のある、楽しい働き方につながっていくのではないでしょうか。

(2025年10月取材 / 2026年1月掲載)