Opinion 教師一人ひとりが課題に向き合い授業改善に臨む 対話と振り返りを重視し、探究する新しい校内研修を
主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業へと改善していくために、研究授業や校内研修の充実は重要です。一人ひとりの教師が課題を立て、1年をかけて協働で解決していく「授業改善プロジェクト」に取り組まれ、新しい校内研修の在り方を探られている前田 康裕 熊本大学大学院教育学研究科 特任教授にお話を伺いました。(2025年5月取材)

前田 康裕
熊本大学大学院教育学研究科 特任教授
熊本市の公立小中学校教諭、熊本大学教育学部附属小学校教諭、熊本市教育センター指導主事、熊本市立向山小学校教頭、熊本大学教職大学院准教授、熊本市教育センター主任指導主事を経て、2022年4月より現職。
研究授業をやっていれば、一人ひとりの授業は改善されるのでしょうか?
全国の先生方は日々「主体的・対話的で深い学び」を実現するためにICTなども活用しながら授業改善に取り組まれていることと思います。
以前、研修講師を依頼された際に、ある小学校の校長先生から「研究授業をやっていれば、一人ひとりの授業は改善されるのでしょうか?」と問い掛けられました。詳しく話を聞くと、ICTを活用した授業改善の取り組みを、研究授業を行う先生だけでなく、そのほかの先生方にどのように広げていくのかお悩みでした。つまり研究授業を、実践者以外の先生方が自分の授業改善に生かしきれていないというのです。
この相談を機に始まったのが、校内研修の在り方をあらためて考える「授業改善プロジェクト」です。
中央教育審議会答申の「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について(2022年12月)」では、「教師の学びの姿も、子供たちの学びの相似形である」や「探究的な学びを、研修実施者及び教師自らがデザインしていくことが必要になる」といったことが示されています。つまり、教師も子どもたちと同じような学びを経験すべきだということです。
一人ひとりの教師が立てた課題を協働で解決する「授業改善プロジェクト」
「授業改善プロジェクト」は、学校の研究テーマに合わせて、一人ひとりの教師が個別最適な課題を立てて、1年をかけて協働で解決していくプロジェクト型の校内研修です。
「主体的・対話的で深い学び」の視点による授業改善をICTも活用しながら、対話とリフレクションを通して実現することを目的とします。つまり、「主体的・対話的で深い学び」を教師自らが体験的に理解できるようにするものです。
対話とリフレクションを大事にするため、授業改善プロジェクトでは、先生方が数人のグループになり、対話をしながら研修を進めていきます。グループ編成は、授業改善に向けて抱える問題点が近い人同士でも、教科ごとでも構いません。年代や経験が異なる人と対話することで、自分にはない視点や気づきを得ることが大切なのです。
望ましい状態を共通認識した上で、先生一人ひとりが課題を設定する

まずは1学期の間に、「一人ひとりが問題点を発見し、課題を立てる」ための研修を実施します。自分なりの課題を立てる前にまずは、望ましい状態とはどういったものなのか、対話によって明らかにしていきます。
例えば、研究テーマが「主体的に学ぶ子どもの育成」だとすれば、「その望ましい状態」を先生方が対話によって明らかにしていきます。「宿題がなくても家庭学習ができる」「振り返りに『次はこうしたい』と考えられる」といった意見が出てくるでしょう。このように先生同士で理想の状態を共通認識した上で、自分の授業を振り返り、授業の問題点を考えていきます。
このときにポイントとなるのは、「子どもの問題」ではなく、「自分の授業の問題」を考えるということです。そして、自分なりに考えた問題を「問い」のかたちにして、課題として設定します。
「教師が話しすぎて子どもの発話の機会が少ない」といった問題があるのなら、「すべての子どもが考えるための対話をどう行えばよいだろう?」といった課題を設定できます。
次に、この課題に対して、どのように取り組めばよいか、見通しをもつために、対話によってアイデアを出し合うのです。
一人ひとりが課題を立て、対話によって皆でアイデアを出し合う姿はまさに、個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実といえるのではないでしょうか。
見通しをもって、実践し、振り返る。授業改善のサイクルを1年間回す

課題が設定できれば、次に行うのは「探究的な学びによる授業改善」です。
先生方一人ひとりが設定した課題に対して、
のようにサイクルを回していきます。まずは、対話によって得たアイデアから見通しをもち、行動に移します。とにかく行動してみることが大事です。そして、その行動を振り返って「ここはうまくいったけど、ここはだめだった」と改善していくのです。例えば、「協働的な学びの時間を取ったのは良いけど時間が少なかった」「子どもがどんな話し合いをしているのか見取れなかった」など、いくつかの課題が出てくれば、それをどのように解決するのがよいのか、次の見通しをもつわけです。こうした「探究的な学び」によって授業改善を進めていきます。
そして、研究授業も行います。ここで大切になるのが、授業研究会です。従来はこの授業研究会が、授業者の自評、質疑応答、挙手指名型で意見交換をするという流れで行われることが多かったように思います。しかし、これでは公開された授業の評価だけになってしまい、そのほかの先生方の授業改善にはつながりにくいのではないでしょうか。まさしく冒頭に申し上げた、校長先生の悩みにつながる部分です。
そこで授業改善プロジェクトでは、
の流れで、「リフレクション」つまり振り返りを促す授業研究会を行っていきます。
研究授業を見て得た気づきを[発表ノート]で出し合い「概念化」する
まず前半では、『SKYMENU Cloud』の[発表ノート]などのICTを活用して、公開された授業の良かった点をピンク色の付箋、改善点・疑問点を青色の付箋に記入して先生同士で共有します。授業を見ながら、リアルタイムに気づいたことを共有していく方法も有効だと思います。
その後、授業の改善点についてどのように取り組んでいくのか、対話によって明らかにしていきます。つまり研究会の前半では、公開された授業のより良い在り方を皆で考えるのです。
そして後半に行うのが、「概念化」です。概念化とは、研究授業を見て得た気づきを、自分の授業でも応用できる言葉にまとめることです。
例えば、理科の研究授業で「子どもたちが実験の様子を自ら写真や動画で端末に記録している」場面を見て、有効なICTの活用方法だと感じたとします。この理科での実験という具体的な場面を抽象化して、ほかの教科でも応用可能な言葉にすると「実体験の記録」となります。これが「概念化」です。
![[発表ノート]の[グループワーク]で研究授業を見て得た気づきを共有する](img/img04.jpg)
概念化した言葉を具体化して自分の新しい実践に結びつける

そして、概念化した「実体験の記録」を、例えば「図工で実践するなら」と具体化して考えることで「作品の制作過程を記録する活用をやってみよう」と新しい実践につなげられるのです。
具体の場面をそのまま捉えて、「これは理科の授業だからできた実践だ」と考えてしまっては、応用できません。学んだことを抽象化して考えることで、自分の授業と関連づけられ、教科を越えて学び合い、授業改善につなげていくことができるのです。
こうした学び方を身につければ、どんな実践を見ても、「自分の授業にどのように応用できるだろう」という視点で考え、先生自身が「学びとる」ことができます。そして、一人ひとりの先生が、研究授業を自分事として捉えられるようになっていくのだと考えます。
先生同士が認め合い、
同じ目標に向かうことで自然と主体的になっていく
対話と振り返りによって自分の考えを更新する
授業研究会の最後には、全体の振り返りを行います。この研修で「どんな内容を学んだのか」「自分たちの学び方はどうだったのか」という視点で振り返り、その内容をほかの先生と対話して共有するのです。
同じ授業を見ていても、先生の年代や経験値、問題意識が異なれば、必ず異なる気づきがあるはずです。「課題設定の仕方を学んだ」「対話的な学びの具体を学んだ」といった発言に対して、「そんな考えもあるのか」「なるほど、そうか」と感じることで、自分の考えを更新していけるのです。
また、授業改善は最初からうまくいくわけではありませんから、試行錯誤した経験についても他者に伝えることで、自分自身の確かな理解にもつながっていきます。
学び方については、「笑顔で聞いてくれたから話しやすかった」「たくさんうなずいてくれた」といったことで構いません。とにかく、「他者から学ぶ」ことが大切です。
対話の姿勢というのは、意外と重要な視点です。うなずきや相づちは新たな発想を促すといわれており、こうした姿勢がより活発な話し合いにつながっていくのです。
私はよく研修で、先生方に「どのような集団の中で主体的に学べましたか?」と問い掛けます。そうすると、「同じ目標をもっている」「お互いに認め合える」という答えが返ってきます。つまり、先生同士が良好な関係を築き、互いを認め合いながら同じ目標に向かっていけば、自然と主体的になっていくということです。研修での対話の時間は、そういった集団づくりにも役立つものだと考えています。
実践発表で失敗や試行錯誤のプロセスを共有する
最後に、3学期に「実践報告会」を行います。この報告会の目的は、「発表すること」ではありません。「他者の実践から学び取り、自分の実践に生かしていくこと」です。ですから、先生方には成功事例の共有ではなく、課題を改善するためのサイクルをどのように回したのか、失敗や試行錯誤のプロセスを共有することを大切にしてほしいと思います。
そして、グループで発表内容について対話する時間も必要です。自分の実践から得られた気づきを共有したり、フィードバックをもらったり、互いに評価し合う「相互評価」によって、授業改善に対して前向きな気持ちになれるからです。そうすることで、対話によって得られた気づきを「来年度はもっとここを改善しよう」とつなげていくことができます。
ある高校の実践報告会では、自分の実践について共有することに加え、「世界史×化学」という教科を越えた授業のアイデアを発表する姿も見られました。教科を横断すると「こんな面白い授業ができる」と大変前向きな提案でした。これは、1年を通した研修で、教科を越えて語り合い、学び合うことができたからこその提案だと思います。
一人ひとりの実践を皆で学び合う、これはまさに探究型の学習であり、プロジェクト型で協働的に取り組むことによって、さらに効果的になっているのです。
自分の授業改善のために自分自身で変化を起こす
授業改善プロジェクトにおいて、『SKYMENU Cloud』などのICTの活用は欠かせないものです。研究授業の際に、良かった点と改善点をピンク色と青色の付箋に記入して共有すると申し上げましたが、そのほかのグループで対話する場面においても、ICTを活用して考えを共有しています。こうした活用により、情報共有がスムーズになるだけでなく、先生方のスキルアップにもつながっています。
ここまでお話ししてきたとおり、授業改善プロジェクトでは、ICTを活用しながら、先生方一人ひとりが課題を立て、改善に向けたサイクルを回していきます。私は先生方によく、「エージェンシー」という言葉が大切だとお伝えしています。エージェンシーとは、「変化を起こすために自分で目標を設定し、振り返りながら責任をもって行動する能力」と訳されます。
他者が変化を起こしてくれるのではなくて、自分で変化を起こす。つまり、自分の授業改善のためには、自分で変化を起こさなければならないということです。先生方にはぜひ、このエージェンシーを高め、これからも授業改善に取り組んでいってほしいと思います。
著作紹介
まんがで知るデジタルの学び❸ 授業改善プロジェクト(さくら社)
シリーズ「まんがで知るデジタルの学び」は、日本のとある町のとある小学校を舞台に、1人1台時代を迎えた学校が直面する様々な出来事を紹介する物語です。第3巻では教師自身の学びをメインテーマに、中学校との連携も視野に。情熱をもって研究主任として奮闘する教師と、その仲間たちがそれぞれの学びを得て校内研修のアップデート、ひいては教師自身による授業改革へと進んでゆく姿を描きます。
2024年4月23日発売 A5判176ページ 本体価格1,800円
本稿記載の図版の一部は、本書より引用しています。

(2025年8月掲載)