学習指導要領 / 教育の情報化

INTERVIEW 今こそ教師の指導性の発揮を デジタル学習基盤を本当の意味で活用し「深い学び」を実現するために

2024年12月、文部科学大臣より「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」が中央教育審議会(以下、中教審)に諮問され、次期学習指導要領の改訂に向けた議論が始まっています。あらためて「主体的・対話的で深い学び」を実現するために、今教師に求められる指導性とは何かを文部科学省 初等中等教育局 主任視学官の田村 学 先生に伺いました。(2025年6月取材)

田村 学

文部科学省 初等中等教育局 主任視学官

次期学習指導要領の改訂の議論は、現在の授業づくりに直結している

文部科学大臣の諮問により、次期学習指導要領の改訂に向けた議論が始まりました。中教審の教育課程企画特別部会では、現行の学習指導要領の方向性に誤りはないものの、その理念が実現できているのかといえば、まだ途上であるとの認識に基づいて議論が進められているところです。

つまり、これからの社会に求められる資質・能力を3つの柱として整理し、育んでいこうという学習指導要領の方向性には変わりありません。むしろ、AIのような新技術が急速に普及し、ただ答えを暗記すればいいという時代ではなくなりつつある現代は、前回の改訂時以上に資質・能力の育成が求められています。

前回の改訂以降の経緯を振り返ると、本格実施が始まった直後にコロナ禍となってしまいました。そのため「主体的・対話的で深い学び」が動き出したばかりにもかかわらず、対話そのものがはばかられる状況になり、出鼻をくじかれました。この状況に対応するためにGIGAスクール構想が前倒しされ、1人1台端末をはじめとするICT環境が急ピッチに整備。そして、これらの環境変化を踏まえて令和3年1月に、中教審より「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して」との答申(以下、令和答申)が出されました。

このときに示された「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」と、学習指導要領が示す「主体的・対話的で深い学び」の関係性が、いささか不明瞭であったため、資質・能力の育成を目指すことに違いはないものの、何を優先すべきかがあいまいになってしまった点は否めません。

「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」と「主体的・対話的で深い学び」の関係

あらためて確認すると、「主体的・対話的で深い学び」には、学びがより能動的になり(アクティブラーニング)、実際の社会で使える力をつけようという点にメッセージがあります。一方、1人1台端末の整備には、一人ひとりの子どもに最適化された個に応じた学び(アダプティブラーニング)にメッセージ性があるように感じられます。

多様な子どもたち一人ひとりを大切にし、子どもが選択したり決定したりしながら自身で学ぶ。そのこと自体はとても大切で、大きな価値があると思います。だからこそ気をつけなければならないのは、その中で学習の格差が生じたり、学びが表層的で浅いものになっていたりしないかです。

文部科学省は、「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」を図る授業づくりのために公開したサポートマガジン「みるみる」の中で、両者の関係を 図1のように位置づけました。そして「あくまで『主体的・対話的で深い学び』の実現を通じて資質・能力の育成を図っていく」とし、「『個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実』はそのための具体的な改善の視点である」と説明しています。

図1「主体的・対話的で深い学び」と「個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実」の関係
図1
出典:文部科学省 サポートマガジン『みるみる』(P.11)
https://www.mext.go.jp/content/000356850.pdf

つまり、1人1台端末などのデジタル学習基盤の活用を前提としますが、資質・能力を育むためには「主体的・対話的で深い学び」の実現が重要であり、とりわけ「深い学び」を実現することが最優先なのだと再確認する必要があります。

「深い学び」の実現のために、デジタル学習基盤をどのように役立てるべきか

重要なポイントは「いかにして深い学びを実現するか」です。「深い学び」とは、知識・技能が関連づいて構造化されたり、身体化されたりして高度化し、駆動する状態に向かうことと考えることができます。

この点において、デジタル学習基盤の活用には大きな可能性があります。一般的に、授業における子どもの学びは「インプットして」「処理して」「アウトプットする」の繰り返しです。まず、デジタル学習基盤が整っていることで、インプットが質量ともに豊かになります。関連づけ、結びつけ合う情報は3個よりも10個ある方が当然いい。さらに、処理過程においてもデジタルデータは加工しやすく、やり直しもすぐにできるため、試行錯誤を積み重ねるなかで構造化が進み、深い学びに向かいやすくなります。アウトプットについては後ほど詳しくお話ししますが、デジタルの活用によってアウトプットのボリュームが増え、質を向上させられます。これらは、深い学びを実現する上で大きなアドバンテージになります。

これは、他者との協働においても同様です。協働的な学びは、異なる情報が入ってくるチャンスですが、リアルな対話では交流できる相手が限られます。デジタル学習基盤があれば、30人分の情報を一度に共有することができ、離れた相手との交流も可能になり、インプット量が一気に増加します。また、情報の処理も協働的に行えますし、アウトプットも全員に向かって行える。そういう意味で、深い学びとシンクロするかたちで、協働的な学びが実現できます。

ただし、端末を持たせて自由に取り組ませればいいということではありません。「全国学力・学習状況調査」の結果を見ると、端末の利活用率と学力の間には相関は見られませんでした。しかし、「主体的・対話的で深い学び」に関する問いを加えて3つでクロス分析すると、端末利活用率が高く「主体的・対話的で深い学び」に取り組む集団の学力が最も高く、その関係も明らかです。つまり、「主体的・対話的で深い学び」に向かう学びになっていなければ、デジタルが本来もつ強みを生かせないということです。

だからこそ私は、今こそ教師が積極的に指導性を発揮すべきだと考えています。これまで、日本の教師は、教材研究や発問の仕方、板書の書き方など、教師が適切に指導性を発揮するにはどうすればよいのかを真摯に研究してきました。その脈々たる歴史をベースに、GIGAスクール構想によって整えられたデジタル学習基盤をより有効活用するには、どのようにして指導性を発揮すればよいかという視点で考えたいと思います。

学習過程の各場面で、学びが充実する教師の指導性とは

【導入】学習の見通しを持てているか

一つは、学習過程における配慮です。一般的に学習過程は導入・展開・終末というかたちで進められますが、それぞれの場面で、学びが充実するような適切な関与が必要です。

初めに導入について、個別の学びに充てる時間を十分に確保するために、導入は短く端的に終わらせるという教師もいます。しかし、個別の活動で深い学びを実現するには、時間が十分にあることも大切ですが、依存せず自律的に学べることが何より重要になります。

そのため、導入で丁寧に動機づけする必要があります。それは時間をかけることではなく、子どもが自分にとっての課題は何かを考え、学習の見通しを持てているのかを重視することです。子どもたちが「どこにたどり着きたくて」「どんなものを使って」「どのように学べばいいのか」という、ゴールとプロセスを明確に見通せているほど、個別の学びは充実します。そして展開に転じたときも、単に仲良しグループで集まって活動するのではなく、自分の学びたい内容に合わせて取り組み方を変えるといったような変化が見られるようになっていきます。

【展開】学習方略を身につけ、学習環境を構成する

次に展開においては、子どもたち一人ひとりが学習方略を身につけていることが大事です。例えば、情報を調べるときも、加工して分析するときも、その結果を整理してまとめるときも、それぞれの学習方略スキルがなければ、学習を進めることはできません。つまり、スキルを身につけておく必要があり、それが獲得されていることが確認できて初めて、個別に委ねることが視野に入るわけです。

実際の活動では、子どもたちが自ら考えて情報にアクセスしますが、その情報源が教科書などの書籍の場合もあれば、端末内に保存されたデータであったり、インターネット上の情報だったり、あるいは知識をもつ人物だったりします。このときに大切なのは、それらの情報に、どのくらいアクセスしやすいかです。つまり、教師がどこに、どんな情報を、どういう形で配置するのかが鍵を握ります。

何の準備もなく、何となく端末がインターネットにつながっているから自分で調べなさいといっても、ベストな情報にたどり着くまでに時間がかかってしまったり、結局たどり着けなかったりします。何も準備しないで学びが充実することはあり得ません。だからこそ、これまで以上に幅広い選択肢の中で、教師が「学習環境をどう構成するのか」が問われます。

その意味では、1人1台端末があるからといって、まったく別の指導が生まれるわけではありません。デジタル学習基盤がなかった時代に、経験豊かな教師がアナログの環境で取り組んでこられた指導の経験やノウハウのかなり多くの部分が、こうした場面で生かせると思います。

【終末】十分な長さの文字言語で振り返ることができるか

そして終末ですが、振り返りでは文字言語を使って授業の学びを自分なりに意味づけ、価値づけることになります。振り返りの充実と学力との関係は非常に顕著であり、学習の成果が大きく変わるといっても過言ではありません。

今回のテーマは「いかにして深い学びを実現するか」ですが、前述したとおり「深い学び」には、学んできたいろいろな知識や情報を関連づけ、結びつけ、構造化して質的に高いものにすることが重要です。そう考えれば、短い文の振り返りでは学びが深まりにくいことは自明です。例えば、「初めに、こんなことを考えた」「こんな資料があった」「○○さんは、こう言った」「僕はこう感じた」と具体的に振り返りながら文字言語として長く書くことで、知識や情報がつながっていくわけです。

とはいえ、振り返りを長く書くための手立てがわからないというのが、実際のところだと思います。何の用意もなく「はい、書きなさい」と言ってしっかりと書けるのは、元から書く力がある一部の子どもだけです。

例えば、小さな「言葉のピース」をたくさん集めて、それをつないでいく方法を考えてはどうでしょう。授業中に気づいたことや感じたことを「言葉のピース」としてたくさん残す。振り返りで、その「言葉のピース」をつないでいくわけです。しかし、残念ながら授業中に気づきや感じたことをしっかり覚えていられる子は多くない。そこで、板書やノート、端末の記録が大切になります。話し合いの中で出た共通の話題などを、教師がうまくキャッチして選別し、黒板にプロットしておく、それを使って書くことにつながります。

これもデジタルを使えば、より多くの気づきなどを残したり共有したりできます。端末の中の自分が書いたものを見直し、友達が書いたものから新しい気づきを得たりする。そして終末で、それらをあらためて見直すことができる。こうすれば、書くために必要な材料は圧倒的に増えるわけですから、それらを使って一人ひとりが自分なりに知識を構造化し、質的に高めることができる可能性が高まります。

いつもは1~2行書くのが精いっぱいだった子が、5~6行書けるようになったときに「すごいね」と褒めてあげることで、「また頑張ろう」という意欲につながります。こうして自分自身の行為と変容を自覚して実感する。つまり、学びの手応えを感じることができれば「次も、自分からやってみよう」「次も、みんなで取り組もう」というサイクルが動き出して安定してくる。それが「自律に向かう」ということだと思います。

ここまでお話ししたことを要約すると 表1のようにまとめられます。これらは、「動機づけ」「学習方略」「内省(振り返り)」の3つとも重なり、これらは自己調整学習といわれる「セルフレギュレーテッドラーニング」が大事にしているものとつなげて考えていくことができます。それが学習過程における導入・展開・終末と合致し、それぞれにおいて教師の指導性があるとご認識いただければと思います。

表1学習指導・学習環境の工夫(例)
学習過程 教師の指導性の発揮
導入(個別に学ぶ前) 目的や課題、見通し(ゴール・プロセス)、活用する知識(資質・能力)などを明らかにし、活動の内容や方向性を自覚する。
展開(個別に学ぶ場面) 確かな学びの実現に向けて学習方略を自覚し、学習環境を整える。
①習熟度、興味 / 関心、学習方略、認知特性などの子どもの多様性に応じる。
②どんな情報を、どこで、どのように獲得するかを設計し、環境が及ぼす影響を視野に入れる。
終末(個別に学んだ後) 獲得した情報(知識)を可視化し、俯瞰したり情報(知識)を交流し整理したりしながら、長めの文字言語で振り返ることで、知識が精緻化する。さらには変容を自覚する場面を用意し、自らの学びや成長に手応えをつかむ。

教師は、導入・展開・終末の学習過程において、一人ひとりの子どもに期待する学びが実現するよう指導性を発揮する。その際、子どもの視点に立って行うこと、多様な子どもの存在を視野に入れること、直接的な指導に加えて間接的な指導も意識することなどを心掛ける。

すべてを選ばせるか、すべてを規定するかの二者択一で考えない

次は、単元構成について考えてみたいと思います。単元構成も子どもが自分で選択する場合と教師が規定する場合があり、今は、子どもたちに委ねるケースが増えていると感じています。それ自体は悪くないと思いますが、子どもたちに委ねるというとき、「すべてを子どもたちに選択させる」というイメージで語られることが少なくありません。しかし、それで本当に深い学びが実現できるでしょうか。

単元計画を考えるときは「何のために(学習課題)」「何を(学習対象)」「どのように(学習方法)」という3要素で考えますが、それぞれに「子どもが選択する」か「教師が規定する」という選択肢があるとすれば、2×2×2で合計8タイプになります。単純に分けただけでも、課題も対象も方法もすべてを子どもが選択するType1から、すべてを教師が規定するType8まで、段階的に異なるタイプが存在することになります。表2

表2「子どもが選択する」と「教師が規定する」の組み合わせは、大きく8タイプに分けられる
表2

教師は、子どもの実態や発達、教科や単元の特性、育成をめざす資質・能力に応じて、子どもが選択する部分と教師が規定する部分を意識し、単元計画や学習過程を構想することが重要です。例えば、高校生の総合的な探究の時間なら、自分の課題や関心がある対象に向かって自分の方法で学ぶということは十分に考えられます。一方、小学校の低学年ではどうでしょう。例えば九九なら、最初は5の段から始めるのが分かりやすく、次に2の段というふうに、獲得しやすい道順があります。こうした単元の設計に、まさに教師の指導性が表れるのだと思います。前述の 表1に書き添えたように、多様で認知特性も異なる一人ひとりに応じて、子どもの視点に立つことが重要です。また、教師が直接的に指導することもあれば、学習環境を整えるという間接的な指導もあり、そのいずれも大切な教師の指導性です。

田村 学 文部科学省 初等中等教育局 主任視学官

子どもの主体性と教師の指導性は二項対立する関係ではなく、相乗効果を生み出す関係です。

教師がより自覚的に、主体性と指導性の相乗効果をめざす

そういう意味で、子どもの主体性と教師の指導性は二律背反、二項対立する関係ではなく、むしろ両者が相乗効果を生み出して高まっていく関係と捉えられます。それは、多くの教師が無意識のうちにやっていることですが、私は、より自覚的に行われる方が良いと考えています。そうすれば再現性が高まり、積み重ねることで目の前にいる子どもたちにふさわしいものになるし、学年・発達や教科の特性に適したものになる。そして、上手にカリキュラム上に配列することもできます。

教師の指導性とは何か。それぞれの教科において考えられるかもしれませんが、「子どもが学ぶとは――」といった一番の大本に寄って立つことが大切ではないかと思います。

例えば、教師の「見取る力」がこれまで以上に求められています。個別の学びに取り組んでいるとき、教師は端末を通じて個々の活動の様子を一覧で見ることが可能になっています。しかし、ただ画面を眺めているだけでは意味がありません。一般的に、子どもたちの学習の見取りは、状況を把握してから解釈し、その日の狙いと照らし合わせた上で判断し、行為するというステップで行われます。そのとき大切なのは把握した状況(事実)が「何を意味するか」を、教師が適切に「解釈」することです。

デジタル学習基盤はそのサポートとして活用されます。画面の一覧が見られるようになり、個別の状況が把握しやすくなりました。今後はAIを活用して、解釈もサポートしてくれるようになるかもしれません。AIが何かしら処理を行い、少し絞り込まれた状態で、あらためて教師の目で判断していくということができれば、これまでは職人技によって得られていた情報処理が、デジタルのサポートによってより安定的にできるようになるという可能性はあります。デジタルですべてを見取ることは不可能ですが、これまでは見取りきれなかったことに気づかせてくれるチャンスは圧倒的に増えます。しかし、最終的に状況をどのように解釈し、判断するのかは教師です。

デジタル学習基盤が、教師の負荷を下げつつ、これまで以上に教師の子どもたちへの関与の質を高めることにつながり、学びがより豊かになっていくことが理想です。

指導が適切かどうかは、常に子どもの姿で判断する

これまで日本の教師は、授業をとても大事にしてきました。それは、世界に誇る授業研究として高く評価されており、多くの教師にとって誇れるものだと思います。今はそれにデジタル学習基盤が加わり、相乗効果が生まれる状況になろうとしています。これまで教師がやりたいと思っていたけれどできなかった、一人ひとりの子どもたちに寄り添って指導性を発揮するということが、デジタル学習基盤によって実現可能になってきたということだと、私は感じています。

ですから、教師にはこれまでの経験を生かした指導性の発揮に、自信を持って取り組んでいただければと思います。そのとき、それが適切であるかどうかは、常に「子どもたちの姿で判断する」ということにつきます。その視点があれば、教師がどのように関与するのかについて、間違った方向に進むことはないのだろうと思います。どうか日々の実践のなかで、指導性に磨きをかけ、質を高めていただきたいと思います。

(2025年9月掲載)