OPINION
[気づきメモ]で一人ひとりの気づきを生かす
みんなが参加し、みんなと考え、
みんなで学び合う学習のススメ
村井 万寿夫 北陸学院大学教授は、児童生徒が学習に積極的に参加し、互いに考えを共有し合える授業には、児童生徒一人ひとりの「気づき」を生かすことが大切だと言われます。「みんなが参加し、みんなと考え、みんなで学び合う」理想の授業づくりに、Sky株式会社との共同研究で開発した『SKYMENU Cloud』[気づきメモ]機能がどのように役立てられるのか。活用のポイントや活用事例をお話いただきました。(2024年12月取材)

村井 万寿夫
北陸学院大学 教授
一人ひとりが主役になる授業に
授業にICTを取り入れることで、「個別最適な学習」と「協働的な学び」を一体的に充実させ、より効果的な授業へと改善することができます。その実現に向けて、さまざまに授業研究、授業改善が進んでいます。
各地の学校の授業を参観するなかで、私が注目しているのは、積極的に学習に参加できていない児童生徒の様子です。授業は、いわゆる「できる子」「分かる子」のペースで進んでしまうことが多いので、そうした児童生徒は、しばしば授業の進行と学習の進捗が合わなくなります。しかし、みんなが考えをもてるまで、みんながノートに書き終わるまで待っていたら、45分、50分の授業時間ではとても足りません。限られた授業時間の中で学習を進めざるを得ないわけです。
それでも先生方はみな、一人ひとりが主役になれる授業、私なりに表現するなら、「みんなが参加し、みんなと考え、みんなで学び合う学習」を実現したいと願っています。
では、どのようにすれば、そのような学習を実現できるのでしょうか。私は放送大学の中川 一史 教授と協力し、Sky株式会社との共同研究で開発した『SKYMENU Cloud』の[気づきメモ]機能の活用に、そのヒントがあると考えています
。この[気づきメモ]を活用することで、次の4つのメリットが生まれ、「みんなが主役になれる授業づくり」につながります。
- メモをすることで、みんなが学習に参加できる
- 毎時間の気づきをメモとして蓄積し、学習のまとめに生かせる
- グループやクラスでメモを共有することで、みんなと考え、話し合う学習になる
- メモをすることで考えを共有しやすくなり、みんなで学び合う学習になる
![気づきを蓄積・共有・活用できる[気づきメモ]](img/img01.jpg)
思い浮かんだ言葉を手軽にメモして活用できる[気づきメモ]
まず、「気づき」についてお話しましょう。「気づき」は、どの学習においても重要です。児童生徒は学習事象(課題や問いなど)に対して気づきをもっています。一人ひとりがどのような気づきをもっているかを先生は把握し、学習を展開していきます。
これまでは、先生が児童生徒に紙のノートやワークシートに気づきを書かせたり、挙手させて即座に聞いたりすることで把握していました。しかし、頭の中で言葉をあれこれ考え続ける子もいれば、浮かんできたたくさんの言葉からどれを選ぶべきか決めかねて悩む子もいます。一人ひとりの学習の進捗に差が生じるのは、やむを得ないことでした。
そうしたときに役立つのが、1人1台の端末と[気づきメモ]です。ノートよりも気軽にメモできるので、思い浮かんだ言葉をすぐに可視化できます。一度メモとして可視化できると、その言葉が目に入るため、「それで良いのか」と自分で考えられるようになるのです。この仕組みは、児童生徒の思考の支援としてとても有用です。
初読の感想をつぶやき、みんなが参加できる学習に
例えば、神戸市立宮本小学校の佐伯 友嘉 教諭は、学習の初めから全員が参加できる授業をめざして、[気づきメモ]の特徴を生かした学習を展開されています。
小学6年国語「帰り道」の授業では、児童に物語文を読ませ、その後、初読の感想をつぶやくようなイメージで[気づきメモ]にメモをさせました
。感想を可視化して共有することで、児童一人ひとりの課題に取り組む意識が高まり、学習に参加できるようになったそうです。みんなでつぶやきを可視化して、共有することで、クラスのみんなが一言でも気づきを書き込むことができたのなら、それはとても素晴らしいことです。![初読の感想をつぶやくように[気づきメモ]にメモをさせた佐伯先生の実践](img/img02.jpg)
また、佐伯先生は児童に「一言でも二言でも、文章でも良いよ。みんな書けた?」という声かけをされているそうです。先生の授業観や授業スタイルと[気づきメモ]の機能がかみ合った、とても素晴らしい活用例です。
[グループメモ]で話し合いへの参加意識を高める
児童生徒が机を寄せ合い、班で話し合うような場面では、話が得意な児童生徒の意見に全員が引っ張られてしまいがちです。本当は違う考えをもっている子も、なかなか言い出せなかったりします。
そこで[グループメモ]機能です。[気づきメモ]には、個々で蓄積したメモをクラス全体と共有できる[グループメモ]機能があります。ペアや班、さらにはクラス全体を一つのグループと見立てて、メモを共有できます。さらに、先生も児童生徒も、それぞれのメモを見て「いいね」を送ることができます。自分のメモ、つまり考えがみんなに見られ、認められることで、学習に参加している意識が生まれますし、自分の意見に自信をもてます。それはやがて直接的な会話へと発展していきます。
[気づきメモ]で、児童生徒が考えることの楽しさを感じ、[グループメモ]で話し合いに対する意識を高める。そして多くの児童生徒に「自分も学習に参加している」という実感をもたせられるのです。
“不十分な考え”を生かし、みんなと考える数学の学習に
![清水先生が取り上げた生徒の[気づきメモ]。思考の途中段階を共有できるのが利点](img/img03.jpg)
山形市立第一中学校の清水 海斗 教諭は、[グループメモ]の特徴を生かして、生徒の不十分な考え、つまり学習の過程を共有することで、みんなが参加する学習を展開しています
。先生と7人の生徒がこのメモに「いいね」を押しています。しかし、これは学習問題の正答ではありません。実は係数の8が抜けています。私が清水先生に「(正答ではないのに、)なぜ『いいね』を押したのか」と質問したところ、清水先生は「不十分で、正しい考え方ではありませんでした。しかし、表現の仕方が良かったので『いいね』を押しました。そして全員に途中段階であることを伝えた上で紹介し、分かったら『いいね』を押してねと伝えました」と教えてくれました。
この生徒の考えは、紙のノートに書かれていたのであれば、おそらく共有されることはなかったでしょう。みんなが[気づきメモ]で、考えの途中段階を共有していたからこそ表出されたものだと思います。これはノートのような「フォーマル」さがない[気づきメモ]だからこそ生まれた、「生徒のつまずき」を上手に生かした授業展開です。この生徒は、学習に参加している意識が高まり、「自分の考えをもてて良かった」と感じたのではないでしょうか。きっと数学の得意、不得意に関係なく、数学の授業が好きになったはずです。
単元を通した「みんなの気づき」を振り返り、[発表ノート]にまとめる
[気づきメモ]は、毎時間の学習でのメモを蓄積できるので、自分の学びの振り返りにも役立ちます。学習の過程で自分がメモしたことや、[グループメモ]でみんなと考えて深まった意見を[発表ノート]に貼り付けて、学習のまとめができることも大きな特徴です。
学習の振り返りやまとめをする場面では、冒頭でもお話したとおり、何を書いていいのか分からなかったり、考えがもてなかったりする子もいます。しかし、[気づきメモ]に書き込んでいれば気づきが蓄積されているので、それを見てまとめられます。通常、紙のノートには、各時間の学習課題やそれに対する考え、まとめが時系列順で残されています。そのノートを基にしてまとめる場合、もう一回最初から書き写さないといけません。一方、[気づきメモ]は、[発表ノート]に送るという機能があるので、選んだ気づきをノートに送り、並べられます。いい意味での「コピペ」ができるのです。
[気づきメモ]と[発表ノート]の連携によって、自分の学びの結果としてのまとめを作成しているのが、愛知県豊田市立藤岡中学校の岸田 偲勇斗 教諭の授業です。
の[発表ノート]は振り返りの際に作成したもので、青色の部分はすべて[気づきメモ]から引用して貼り付けているのだとか。1時間1時間、みんなが頑張ったことや自分がメモしたことを基にまとめられており、非常に個別最適な内容になっています。自分が書いたメモを引用できるため、まとめに対するハードルが下がり、デジタルに限らずノートにまとめる練習になります。![岸田先生の理科の授業で生徒が作成したまとめの[発表ノート]。[気づきメモ]で共有されたみんなのメモも引用してまとめた](img/img04.jpg)
また、まとめを作るにあたって自分のメモを見返すことで、「最初は単語でしかメモができなかったけど、最後は文章で残せているな」というように自身の成長を実感する機会になるのもポイントです。さらに、一人ひとりが[発表ノート]にまとめたものは[提出箱]を通して共有することで、友達が書いたものと見比べて学習内容を振り返ることができ、学び合い、学び直しにもつながります。
「いいね」の送り合いで、認め合う学級の雰囲気をつくる
ここまでご紹介してきた[気づきメモ]の活用例は、いずれも小学校高学年や中学校での活用ですが、低、中学年の児童も十分に使いこなせると思います。文字入力はこれから慣れていく段階ですから、[気づきメモ]のメモは単語でも文節でも構いません。「いいね」を送り合って、「押すのが楽しいし、押してもらうとうれしい」と感じられる体験をさせてほしいと思います。
そして「いいね」をつけさせたら「〇〇さんに『いいね』をしたけど、どうしてしたの?」と、そのときの気持ちや考えを尋ねてみてください。尋ねることで、児童が自分の考えをもつことにつながります。
これらの活用は、児童生徒が1人1台端末に慣れ親しむきっかけにもなりますし、何よりお互いに認め合うような授業や学級の雰囲気づくりにつながります。活用の場面は、授業時間に限定する必要はありません。帰りの会で「今日何かしてもらって良かったなと思うお友達を書いてね」などと聞いても良いと思います。
「言葉が増えた!」「『いいね』をもらえた!」個人内評価で成長の実感を
![[気づきメモ]を見返すことで、生徒は自身の成長を実感できる](img/img05.jpg)
岸田先生が取り組まれているように、[気づきメモ]を活用した授業や単元の終わりには、ぜひ自らの[気づきメモ]を振り返って、個人内評価を行ってほしいです。学習が進むにつれて、少ししか書けなかった言葉が徐々に増えていることや、自分のメモに対して誰かが「いいね」をしてくれていることに気づけるでしょう。「あのときは頑張ったな」と、学びの過程を振り返ることで、自らの成長を自覚し、次の学びへと向かうことができると思います。
気づきを1つでもメモできたなら、それが学びの拠り所になる
児童生徒に考えをもたせるのは、本当に難しいことです。なかなか考えをもてない児童生徒が、もし[気づきメモ]で考えを一言でもメモできたなら、その1時間を「授業に関われている」と感じられたり、自分のメモへの「いいね」を見て、「みんなが認めてくれている」と感じられたりできるかもしれません。たった一言のメモ、気づきが、その子の学びの拠り所になるかもしれないのです。教室で授業に臨むことに不安を感じている児童生徒が、そのように感じられたなら、どんなに素晴らしいことでしょうか。
一人ひとりが主役になれる授業に。そして誰一人取り残されることなく、「みんなが参加し、みんなと考え、みんなで学び合う」理想の授業づくりに、ぜひ[気づきメモ]を役立ててほしいと思います。
(2025年2月掲載)