学習指導要領 / 教育の情報化

INTERVIEW NEXT GIGAへ─ 「子供主体の学び」 実現のポイント 先生が導きながら子供に“学びを切り開く経験”を

子供主体の学びに向けて、「自由進度学習」「自己調整学習」などの学び方が注目され、様々な実践が行われています。そういったなかで、子供が主体性を発揮して学ぶために必要なことは何か、改めて子供主体の学びについて確認するとともに、授業改善のポイントなどについても菅原 弘一宮城教育大学教職大学院 特任教授に語っていただきました。(2024年12月取材)

菅原 弘一

宮城教育大学教職大学院 特任教授

仙台市立の公立小学校の教頭、校長、仙台市教育局の主任指導主事、文部科学省生涯学習政策局情報教育課専門職などを務め、2023年4月から現職。文部科学省 学校DX戦略アドバイザー。

子供主体の学びとは? 今一度確認する

GIGAスクール構想以降、クラウド環境と1人1台端末を活用した授業が日常的に行われるようになりました。現在は、子供主体の学びの実現に向け、自由進度学習のように、大胆に子供に委ね、子供自らが学びを調整していくような学び方に注目が集まっています。

実際にこれらの学び方に挑戦する授業を見せてもらう機会が増えている一方で、「この学び方で、子供たちが本当に学べているか心配」という声を耳にすることもあります。

「子供主体の学び」は、これまでもめざしてきたものですが、その捉え方は人によって様々です。さらに、児童生徒、学級、学校の状況によって、どの程度子供に委ねるのか、挑戦できる子供主体の度合いは異なります。それぞれの状況や実態に合わせた授業改善に取り組んでいけるように、今一度子供主体の学びをどうとらえるのか、一緒に考えてみたいと思います。

「学ぶ」は主体的、「習う・教わる」は?

例えば、「学ぶ」と「習う・教わる」では、どちらが主体的なのか考えてみます。 一見、「学ぶ」が主体的で、「習う・教わる」は受け身なように感じられますが、本当にそうでしょうか。

「学ぶ」は、具体的な学習内容が決められていない状態で使われることもあり、自分から行動して能力を広げるイメージがあります。一方「習う・教わる」は、例えば「そろばんを『習う』」という時、そろばんを使った計算の仕方を先生から教わるというように、あらかじめ決まっている内容を指導してもらうイメージがあり、受け身のように感じられます。

しかし、子供が「速く計算できるようになりたいから、この先生からそろばんを習いたい」と考えていた場合、これは十分に主体的に学んでいるといえるのではないでしょうか。

「学ぶ」にしても「習う・教わる」にしても、大事なのは学習の動機を持っているかどうかです。子供が自ら目標を持ったり、問いを立てたりできれば、「学ぶ」でも「習う・教わる」でも、どちらでも主体性は発揮されると思います。従って子供が「習う・教わる」、つまり先生が「教える」ことも否定されるものではなく、先生が積極的に関与しながら導いていく学習活動であっても、子供の主体性を大切にできるということは確認しておきたいと思います。

ただし、今、課題となっているのは、子供たちがどれだけ自律的に学ぶことができるのか、そこにICTはどのように寄与するのかといったことなのです。

先生が意欲を刺激し、学ぶ動機の形成を促す

子供自身が自律的に学ぶということについて動機づけの側面から考えてみたいと思います。大人であっても、学びを自律的にしていくというのは、簡単なことではありません。九州大学の伊藤崇達准教授は、「自己調整学習」を支える心理的な要件を「メタ認知」「学習方略」「動機づけ」の3点から整理し、子供の学習活動に対する動機づけには様々な種類があることを示しています。「メタ認知」「学習方略」「動機づけ」は、それらが一体となって自律的に学ぶ姿勢を形成していくものですが、ここでは、動機づけについて、図1の4種類に着目して考えてみたいと思います。

図1

外的動機づけや取り入れ的動機づけは、その効果が長くは続かず自律性を高めることにつながらないことは、誰もが経験的にわかっているのではないでしょうか。当然、教科等の学習における課題設定の工夫等で内発的動機づけを強めるようにしていくことこそが、授業改善の重要なポイントです。しかし、現実的には全教科、毎時間それを行うことは、なかなか骨の折れることです。私が注目したいのは、伊藤准教授が内発的動機づけと共に、「自律的動機づけ」と位置付けている「同一化的動機づけ」です。

1人1台端末環境が整備されたことで、学習の振り返りを学級の皆で共有したり、先生が適切なタイミングで、その子なりの学び方の良さを認め、価値づけ、励ましたりしていくようなフィードバックもやりやすくなっています。学び方の良さをどのような言葉で認め、価値づけ、次の学びへつなぎ、学ぶことの価値を認めることができるように同一化的動機づけを促していくのか、教師による言葉かけの仕方が授業改善の大切なポイントになってくると思います。

また、「同一化的動機づけ」については、1単位時間の目標よりも少し広い視点、長いスパンで、動機形成を図っていくことも必要だと思っています。例えば、「こんな6年生になりたい」「将来こんな職業に役立つから」といった動機から、「生活のこんな場面で役に立ちそう」といったことまで、「自分のためになる」というレベル感は様々ですが、少し先の自分の姿や実際の生活場面と1時間1時間の授業とのつながりを意識できるようにしていくとよいでしょう。

さらに、学んだことが自分のためになるという感覚を得る上で大切なのが、学び方、学習方略への着目だと思っています。授業を参観する機会に、学び方を自己選択させる場面を多く見るようになってきました。例えば、紙と端末のどちらで取り組むのか、誰とどこで学ぶのかなど、授業の様々な場面で選択の機会を設けて意思決定を促しています。数ある思考ツールの中からどれを活用するのかを子供自身が選択するといった場面も見受けられます。

ここで大事なのは、どうして先生は選択の機会を大事にしているのかという意図をあらかじめ子供に伝え、自律的に学ぶという視点での目標を明確に持たせておくことです。その上で、一つひとつの選択が自分の学びにとってどうだったのか、学習内容だけではなく、学び方を振り返ることができるようにしていくのです。さらに、振り返りに対して、「どうしてそう考えたの」と問いかけ、「今日学んだことが〇〇につながるね」とか「次は〇〇でもやってみるとよいのでは」など、先生が価値づけや改善の方向性を示唆する言葉をかけることで「そういった学び方が自分にとって役立つんだな」という思いを強くしていくことができるのだと思います。これを振り返り疲れが起こらないような頻度で適切に行っていくのがポイントとなるでしょう。

振り返りを起点に授業改善を考える

振り返りについては、「振り返りの時間がない」、時間を確保しても「振り返りができない」といった話もよく聞きます。「〇〇について学びました」と学んだ内容だけが記される浅い振り返りから、どのように学べたか、次はどう改善していきたいか、毎日の生活や社会とどうつながっているのかといったことが記されるような「深い振り返り」にしていくためには、どうすればよいのでしょう。まず、考えなければならないのは、浅い振り返りの場合、授業そのものが浅い振り返りにしかならないような授業であったという可能性はないのかということです。そもそも目標は明確だったのか、深く振り返りたくなるような授業内容だったのか、振り返りを起点にすることで、授業の改善点を見出していくことができると思っています。

振り返りを重視するために、授業の冒頭に、丁寧に前時を振り返っている学校もあります。先生が良いと思った振り返りをモデルとしてクラス全体で共有し、どういったところが評価できるのか価値づけしつつ、1人ひとりが自分ごととしてとらえることができるようにしていくのです。このように振り返りにおいても、子供自身で気づきにくい視点は、教師が「振り返りの仕方」を教えていくことも欠かせません。質の高い振り返りができるようになるには、図2のようなポイントが考えられます。

また、振り返りの時間を確保するために、1単位時間の中での導入や展開に要する時間配分、単元そのものの設計を見直してみることも大切です。

図2

どのように学ぶのか、まずはモデルとなるものを観察し、
まねることから始める。

先生が導いていく学習と子供が切り開いていく学習の経験

クラウドツールの活用が日常化してきたことで、授業中に他者の学びを自由に参照するような学び方も多く見られるようになってきました。このような学び方によって、クラスの友達の多様な意見に触れることができ、それを参考にして自分の考えを確かにしたり、比較して新たな問いを見出したりすることができます。山形市立金井中学校の社会科の授業では、自由進度学習を進める中で、『SKYMENU Cloud』の[画面一覧]機能を活用し、電子黒板に友達の作成しているプレゼンの画面を一覧で表示していました。子供たちは、自身のタイミングでそれを確認しています写真1 左

他者参照によってヒントを得ることで、気になった意見を持つ子のところに行って学び合うことができるのです。大画面で共有するのではなく、写真1 右のように学習者同士で相互に閲覧できる[提出箱]を活用しながら個々の端末で友達の学習状況を確認して、協働する相手を見つけることもできるでしょう。学び方の自由度が増していくのは良いことだと思います。ただ、大画面で共有するにしても、個々の端末で確認するにしても、少し気掛かりなのは、その時、子供たちは何を手掛かりに意思決定をしているのかということです。中学生くらいになれば、誰の学びをどのような視点で参照すれば自分の学びに役立つのか、これまでの学習経験をもとに意思決定しているのかもしれません。でも、最初のうちは、「はい、どうぞ、自由に友達の学びを参照しましょう」と言われても、どうしたらいいかわからなかったりするのではないでしょうか。最初から自分で目標設定をして、計画を立て、自分のペースで進むことができるとは考えにくく、まずはモデルとなるものを観察して、まねるところから始まるのではないでしょうか。

写真1友達の学習状況を、電子黒板に投影されている[画面一覧]から確認(左)、個々の端末から[提出箱]で確認できる(右)

どのように学ぶか、学び方については、先生が導きながら行う学習の中での経験がモデルとなり、子供たちが自分で切り開いていくような学習で生かされるのだと思います。例えば、他者の学びを参照したり協働したりする場合に「いつ、誰の画面を参照するのか」とか、「どんな点に着目して参照したらよいのか」といったことや「異なる意見の子と話せば考えが広がる」といったことは、先生が意図的に仕組んだ学習過程やグループ編成で行うことで実感しやすくなるでしょう。思考ツールであれば、思考スキルと紐づいていることの理解なしに「好きなツールを選びなさい」というのは少々乱暴だと思うので、「それぞれのツールがどういった思考を促すものか」「どんな場面で役立つのか」「どのように分析できるのか」といったことを意図して経験させておく必要があります。

ただし、モデルとなる経験が積み上がらないと切り開けないというわけではなく、委ねられ切り開こうとしたことで、先生の導きで取り組んだ学習の意味がわかってくるということもあると思います。だから、この両者は、どちらの方が大事とか、どの順番でということに縛られるよりは、相互に行き来しながら、だんだんと学ぶことへの自律性を高めていくと考えるとよいと思っています図3

ここでも、大事なのは、子供自身が経験を振り返ることや次への改善の意欲につなげていくための先生の働きかけです。1人ではなかなか気づきにくいことでも、先生がある子の画面を示しながら価値づけを行うことで、友達の学びと自分の学びとのつながりを理解していけるのだと思います。

図3

どんな授業であればより学びに積極的になれるのか、
子供たちの声に耳を傾けてみる。

「生徒同士で解決する話し合いの場面をつくってほしい」

写真2創り上げたい学びについて話し合う生徒たち

どんな授業であれば、より学びに積極的になれるのか。その手掛かりは、学び手である子供たちの声に耳を傾けることで見つかるのかもしれません。金井中学校では、先生と生徒で共に創り上げたい学びについて語り合う「授業を語る会」を行っています。生徒会執行部と先生たちが、「どんな学びを実現したいか」「どんな授業だったらよいか」「自分たちはどのように授業に参加したらよいか」をグループ討議を中心にして話し合うのです。昨年度の話し合いでは「一方的に知識を詰め込まれる授業はイヤだ」「一人ひとりの『わからない』を大切にしてほしい」「意見を出し合える授業は楽しいしわかる」「生徒同士で解決する話し合いの場面をつくってほしい」という意見が出されていました。今年度(2024年度)は11月に開かれ、新旧生徒会執行部総勢38名が活発な意見交換を行いました。「授業で大切なのは、ぼくたちの探究心なんじゃないか」「探究心を大切にすると自分のゴールに向かってそれぞれ進んでいける」「目標が明確になると自分たちが何をやるかわかる」「受けるんじゃなくて取り組む授業で頭に入ってくるし、解けた時の達成感で楽しいと思える」といった意見が聞かれました写真2

こうやって、当たり前のこととして毎日毎時間受けている授業について話し合ってみることは、自分たちにとって「学ぶ」とはどういうことかを改めて考える機会になり、授業に取り組む姿勢も変わっていくのだろうと期待できます。そして、生徒の率直な声は、先生たちにとっては、授業改善の方向性を見出していく手掛かりとなるのです。現在、金井中学校では、生徒の意見も踏まえながら、1人1台端末の環境を生かして、学び方を選択したり、自己調整したりする生徒主体の学びに向けた取り組みが進んでいます。

子供主体の学びを学校全体で実現していく

ここまで、学習者主体の学びの実現について動機づけを手掛かりにお伝えしてきました。特に、同一化的動機づけについては、広い意味でのキャリア教育の充実を図っていくことが大切になると思っています。つまり、学年や教科等を越境した学校全体としての取り組みが必要なのです。授業の展開部分のかたちをどうするかということはもちろん大事なことですが、それ以前に、学校として「子供」や「授業」をどのようにとらえ、一人ひとりの子供たちの資質・能力を伸ばす教育活動を展開していくのか、職員間の合意形成が大切になると思います。冒頭にもお話ししたとおり、主体的な学びは人によって様々な捉え方があり、先生それぞれに理想の授業のかたちや信念があります。だからこそ、学校全体で大きな目標を掲げ、方向性について合意できたならば、後の具体的な取り組みについては、一人ひとりの先生に任せればよいのです。学校全体を俯瞰しながら、しっかりと舵を取る管理職の積極的な働きかけも重要なポイントになってきます。

児童(生徒)が学ぶことの意義を実感できる環境を整え,一人一人の資質・能力を伸ばせるようにしていくことは,教職員をはじめとする学校関係者はもとより,家庭や地域の人々も含め,様々な立場から児童や学校に関わる全ての大人に期待される役割である。

すでに関心は、次の学習指導要領に移っていると感じるこの頃ですが、最後に今一度、現行学習指導要領の前文、結びの部分に書かれていることを確認したいと思います。

かたちだけではなく、「学ぶことの意義の実感」。このことが伴ってこそ、子供主体の学びの実現と言えるのではないでしょうか。

(2024年2月掲載)