学習指導要領 / 教育の情報化

INTERVIEW NEXT GIGAで実現したい子どもの姿 自ら学習を調整する子どもに
ICTで“学ぶ過程の楽しさ”を感じ取らせて

GIGAスクール構想は4年目を迎え、第2期整備に向けた検討が全国各地で進んでいます。そこで今回は、幼児教育から初等中等教育まで、ICTを活用した授業について広く研究、指導されている堀田 博史 園田学園女子大学 教授にお話を伺いました。(2024年10月取材)

堀田 博史

園田学園女子大学 教授

子どもが自分で考え、やりたいことを追究する

私が以前、オーストラリアの幼稚園に視察にいったときのことです。その施設には、「絵画の部屋」「砂の部屋」「光の部屋」「音楽の部屋」など、7、8つの部屋がありました。子どもたちは登園すると、好きな部屋を選んで入っていきます。各部屋には教員が1~2名ついており、ランチタイムまでその部屋でずっと遊び、眠くなったらそこで寝るのです。午後は全員が同じ部屋に集まり、それぞれ午前中の遊びについて報告し合ったり、一緒に工作などをしたりします。このようにオーストラリアのある幼稚園では「自由な遊びの時間」を大切にして、「探究のおもしろさ」を感じ取らせる取り組みが展開されていました。

では、日本はどうでしょうか。登園したら、みんなで歌ったり、みんなで工作をしたりと、みんなで同じことに同じように取り組む機会が多く見られます。「自由な遊びの時間」は、海外に比べて少ないように思います。オーストラリアの幼稚園の先生に日本の状況を伝えると、「日本では、みんなに同じことを同じように要求しているの?」と驚かれ、その印象が心に強く残りました。

オーストラリアの教育手法を日本の学校現場にそのまま当てはめることは難しいでしょう。しかし、現在日本では自ら学習を調整する取り組みが注目されています。そこでは、先ほどお話ししたような「みんなで同じことを同じように要求しない学び」がめざされています。子どもに「探究のおもしろさ」を感じ取らせる、いわゆる「学ぶ過程の楽しさ」を感じ取らせる学びです。

その学びの例として、オーストラリアの幼稚園の取り組みをご紹介しましたが、これは小学校中学年から始めても遅くはありません。子どもが自分で考え、自分がやりたいことを追究する。その中で課題を見つけ、友達と教え合い、課題解決を図っていく。その一連の過程が、子どもたちの自信につながっていきます。子どもたちに「好きなことに集中して遊ぶ」「分からないことを質問する」「さまざまなものに興味を持つ」といった経験をたくさんさせることで、学びに向かう力が高まり、それ以降の学びに大きな影響を与えるはずです。

NEXT GIGAの“新しい波”に乗り、
「学ぶ過程の楽しさ」を感じ取らせる学びへ

このような変化が生まれている背景には、GIGAスクール構想による1人1台端末の整備の影響も少なくありません。1人1台端末の活用によって、子どもたちがより自信をもって授業に参加できるようになった、友達と協働することの楽しさを感じられるようになったという声が上がっています。

しかし、端末の活用度には差があり、「端末がなくても授業は成立するので、なくなっても別に困らない」という声は依然としてあります。このような差を埋めるきっかけの一つとなるのが、教科書の改訂だと考えています。

新しい教科書にはQRコードが掲載され、端末を使った学び方が多く紹介されています。これを見た子どもたちからは「教科書に書いてあるように端末を使って取り組みたい」「QRコードをスキャンしてみたい」といった声が上がるでしょう。子どもたちの声が教員の背中を押すことで、端末の活用が自然と促進される状況が生まれると考えられます。

さらに、AIがデータ分析を行い、子ども一人ひとりに適した学び方を提示するような学習用ツールの開発と活用も進んでいます。こうした変化により、端末を使うか使わないかで、ますます大きな差が生まれるようになっていくでしょう。

現在、NEXT GIGAと呼ばれるGIGAスクール構想第2期の整備が検討されています。ぜひ、この“新しい波”に乗り、「学ぶ過程の楽しさ」を感じ取らせる取り組みに挑戦してほしいと思います。

クラウドの学習支援ツールで、協働して学ぶ楽しさを感じ取る

今は、友達と協働して一緒に学び、学ぶ過程の楽しさを感じ取れるようなクラウド型の学習支援ツールがたくさん提供されています。それらも、ぜひ有効に活用してほしいと思います。

例えば、『SKYMENU Cloud』の[ライブ公開提出箱]機能もその一つです。ここからは宿題を例に、その活用方法をご紹介します。現在、教員から出されている宿題の多くは「明日までに〇〇ドリルの〇ページをやってきて」といったものではないでしょうか。冒頭の話に戻りますが、ここでも「みんなで同じことを同じように」することを要求しているように思います。

そこで効果的なのが[ライブ公開提出箱]の活用で、「友達と協働して[発表ノート]でプレゼンを作る」という宿題を出すのです。家に帰ってから、グループ4人で時間を合わせて取り組んでもいいですし、時間が合わない場合は、クラウド上で相互に参照しながら取り組んでもいいです。とにかく、子どもたちが自ら考え、ツールを選択して進める。子どもによって過程は違っても、結果的に期限までに宿題ができていたらよい、という宿題にします。

[ライブ公開提出箱]を使えば、子どもたちは家にいながら友達と写真や動画を共有して見合えるため、「友達の成果物が自分とは違うな」と思ったら、クラウド上で友達に質問して教え合うこともできるでしょう。子どもはきっと「家で孤独に進める宿題よりも、友達と協働できるライブ感のある宿題の方が楽しいよね」という感想を持つと思います。

現在、子どもたちは日常的に、LINEやSNSやゲームなど、インターネット上の空間で友達とつながる経験をしています。一人で孤独に宿題をする時間ではなく、みんなで宿題を考えられる空間が求められているのだと思います。[ライブ公開提出箱]のようなツールが開発されたことで、子どもたちの家庭での学びも変化することでしょう。

教科書を参考に単元計画を立て、学び方を教える

ここまで、自ら学習を調整する取り組みや1人1台端末の活用についてお話ししてきましたが、これらを一気に推し進めることは難しいと思います。学級経営をはじめ、さまざまな積み重ねが必要だからです。

まず私たち教員ができることは、「みんなに同じことを同じように取り組むよう要求し過ぎていないか」と自らに問いかけることではないでしょうか。もちろん、「みんなで同じことを同じように」する機会や一斉学習は今後も必要です。それをなくして、日本の教育は成り立ちません。大切なのは、「この単元は、みんなに同じことを同じように取り組むよう要求しよう。逆にこの単元では要求する割合を減らそう」と、私たち教員がバランスを意識して単元計画を立てることです。さらに、子どもから「協働や他者参照のために学習支援ツールを使いたい」といった声が上がったなら、ぜひ取り入れていってほしいと思います。「個別最適な学び」「協働的な学び」を、単元のどこに、どのように配置するのか。教員ではなく子どもたちが決めていく、それがNEXT GIGAでめざすべき学びの姿だと考えます。

「個別最適な学び」「協働的な学び」を
単元のどこに、どのように配置するのか。
教員が決めるのではなく、子どもたちが決めていく。

自分なりのやり方で、思い思いの成果物を作っていた幼児教育

学び方についてさらに言えば、集めた情報を整理、分析し、まとめるという学習の一連の流れについて、教員と子どもとで共有し、理解しておく必要があります。整理の方法や分析の方法が具体的に分かっていなければ、自ら学習を調整して学ぶことはできないでしょう。だからこそ、教科書に書かれている内容を中心にして指導をしてほしいのです。

それでも、すべての子どもが45分の授業のうち30分から40分もの間、自ら学習を調整して取り組めるかといえば、難しいと思います。その場合は、教員と子どもが一緒になって、個に応じた学び方を考えることが大切です。

幼児教育における個に応じた学びとして、「てるてる坊主作り」の例をご紹介したいと思います。子どもたちはてるてる坊主の作り方に関する映像を10分ぐらい見た後、その内容を振り返ります。「あそこは○○だった」「自分は△△と思った」などと話し合い、情報を補完し合うのです。そして先生が「さあ、やってみましょう」と言ったとき、もう一度映像を見る子もいれば、図鑑で作り方を見たり、先生に質問しにくる子もいたりと、その様子はさまざまです。なかには、積み木で遊んでいる子もいます。

それでも1時間後には、なぜか全員がてるてる坊主を作ることができているのです。そして、てるてる坊主には同じものが一つとしてありません。子どもたち一人ひとりが考えた、思い思いのてるてる坊主が出来上がっています。このように幼児教育では、一人ひとりの学ぶ過程、成果物が異なっても「よし」として学習が展開されています。個に応じているわけです。

ところが小学校に入った途端、子どもたちは「これはハサミで切って、これはのりでつけて…」と、学ぶ過程から成果物まで「みんなで同じことに同じように取り組む」ことを求められます。そこで子どもたちは困惑してしまい、一人ひとりが本来もっている可能性がうまく発揮されなくなってしまう。これは、幼小接続における課題の一つだと思います。

単元の終わりにできるようになっていればいい

では、子どもが持つ可能性を、私たち教員はどうすれば伸ばせるのでしょうか。私は、とにかく子どもに学びを委ねることが重要だと思います。しかし、45分という短い授業時間の中で、すぐに成果が出ることはありません。本時や次の時間で目標にたどり着かなかったとしても「家に帰った後や翌週、もしくは単元の終わりまでにできるようになっていればいい」くらいの感覚で取り組んでほしいと思います。

もちろん、教員が何の手だてを講じることもなく、単元の終わりまでに子どもたちが「何かができるようになる」ということはありません。大切なのは、子ども自身に「自分に足りていないもの」を自覚させることです。そのためには、子どもと一番長く接している教員が、これまでのように子どもの表情を読み取り、「何が足りないのか」をきちんと説明してあげることが重要です。

それに加えて、端末や『SKYMENU Cloud』などのクラウド型学習支援ツールを用いて、子どもがいつでも自分の成長を記録し、学びを振り返れるような仕組みを作っておくと良いでしょう。[気づきメモ]機能などの活用も効果的だと思います。ただ、それらはあくまで道具ですから、教員が指示して使わせるのではなく、子どもが自ら選択して使えるようにしてほしいです。

子どもたちに学び方を教え、信じ、学びを委ねる。
この繰り返しで、子どもは「学ぶ過程の楽しさ」を感じ取る。

まずは10分から。子どもに学びを委ねる時間を設定してほしい

私たち教員も、かつては幼稚園や保育園で自由に学び方を調整しながら学習していた子どもでした。しかし、いつの間にかそのことを忘れ、「小学校、中学校の学びはこうあるべきだ」という型にはまってしまってはいないでしょうか。

もちろん、自ら学習を調整して取り組むような学びは、教科によって向き・不向きはありますし、すべての単元で学びを子どもたちに委ねる時間を確保するのは難しいでしょう。それでも、子どもたちに学び方を教え、子どもたちを信じて、学びを委ねる。これを繰り返すことで、子どもたちは授業の楽しさ、学ぶ過程の楽しさをより感じ取れるようになるはずです。

先生方にはぜひ、「みんなに同じことを同じように取り組むよう要求し過ぎていないか」「みんな違っていい」「単元の終わりまでにできていればいい」という言葉を念頭に置いて、単元計画を立ててほしいと思います。そして、10分でもいいので、子どもたちを信じて学びを委ねる時間を設定してみてください。

(2024年12月掲載)