学習指導要領 / 教育の情報化

Opinion NEXT GIGAへ備えたい端末破損への対策 子どもの学びを止めない学習環境づくりを

豊田 充崇

和歌山大学 教授

活用の進展とともに増加する端末修理

「GIGAスクール構想」の下、1人1台端末が整備されたことで、「OECD 生徒の学習到達度調査(PISA)」で示された児童生徒のICT機器の活用に関する課題は、克服されつつあります。

GIGA端末の活用が進む一方で、よく耳にしたり目にしたりするのが、端末の故障や破損です。その要因として最も多いのが、誤って端末を落下させてしまったというもの。実際、私が小中学校の研究授業を参観した際も、端末を誤って落下させてしまったり、落下しそうになったりする場面に何度か遭遇しています。特に児童生徒が教室内で端末を持ち歩いて、画面を差し示しながら交流するといった活動的な場面でよく発生していました。これは普通教室や普通教室用机の天板の狭さから、児童生徒の体の一部が端末に接触することが要因です。

また、端末に保護カバーが付いておらず、本体をそのまま使用しているケースも少なくありません。普通教室の床は固いので、落下の衝撃は大きく、故障の原因になります。さらにデタッチャブル型の端末の場合、キーボードを取り外す際に、児童生徒が力をかけすぎてしまい、端末本体が飛んでいってしまうという場面もありました。端末の表面は滑りやすいので、保護カバーの装着は欠かせないと思います。

キートップを紛失したままのキーボードで入力する児童

破損や故障は、端末本体だけに限りません。ある小学校では児童が複数のキートップが外れたままの状態で、キーボードを使用していました。加えて、児童が誤った配列にキートップをはめ込んだりしていて、適切にキーボードを使えていない様子でした。こうしたキーボードの破損は、その多くが児童生徒の扱い方に起因しています。

そもそもGIGA端末にとって、学校は過酷な環境です。例えば低学年では、写真撮影を目的に活用する場合が多くあります。しかし朝顔の観察をする場合、炎天下の屋外に持ち出して使用することになります。「ちょっと先生のお話を聞いてね」と端末を使わずに置いている間にも、強烈な日光によって端末は高温になります。屋外ですから、砂ぼこりなどが端末内部に入り込むこともあります。

けれども、端末の故障や破損を恐れるあまり、学習に活用しないというのは本末転倒です。そうしたときに活用を後押ししてくれるのが、破損や故障による端末の修理費用を保証してくれる端末保証のサービスです。加入していれば、保証の範囲内で修理が可能です。ただし、保証の範囲を超えるような修理は対応できないので注意が必要です。端末保証に加入していなかったり、端末の修理が想定よりも多くなったりした自治体や学校では、児童1人1台分の端末が不足し、やむを得ず2人1台で端末を活用しているケースもあります。また修理のめどが立たない複数の端末が、部屋の隅に積み上がっていたりするケースもありました。端末の破損はある程度発生するものですから、修理のための備えが必要です。

▲ 児童生徒が活動的な場面で端末を落としやすい
▲ キートップを紛失したままの端末が使われていることも

自治体で足並みをそろえ、情報活用能力や端末の扱い方の指導を

GIGAスクール構想第2期においては、端末活用のさらなる進展とともに、端末の故障や破損なども一定程度増加すると思います。文部科学省の令和5年度補正予算案では「1人1台端末の利活用が進むにつれて、故障端末の増加や、バッテリーの耐用年数が迫るなどしており、GIGAスクール構想第2期を念頭に、今後、5年程度をかけて端末を計画的に更新するとともに、端末の故障時等においても子供たちの学びを止めない観点から、予備機の整備も進める」と通知されました。学びを止めないためには、児童生徒がいつでもGIGA端末を活用できる環境が必要だということです。

そうした環境を整えようとする意識を高めるためにも、例えばソフト面では、各自治体レベルで情報活用能力の育成や端末の扱いに関わる指導について体系的なカリキュラムを作成し、自治体レベルで足並みをそろえて取り組むことが必要でしょう。

例えば、和歌山県では「情報活用能力一覧表(小・中・高校)」を作成し、端末は日常的な学びに必須であるとの認識を県下に浸透させようとしています。「きのくにICT教育」のキーワードで検索をかけてみて下さい。

学びを止めないために必要な対策と整備を

ハード面では、まずは児童生徒が便利さを感じて、大切に扱えるような端末を整備することが重要でしょう。ここでいう便利さとは、スペック表だけでは判断できない総合的な使い勝手の良さだと考えます。

そして、児童生徒が端末を破損させてしまうリスクを最小にするための対策も重要です。児童生徒が端末を使って活動しやすい特別教室の設置、普通教室用机の天板の拡張、保護カバーの装着などが考えられます。

さらには今後の活用の広がりを考えれば、自治体、学校の実態によっては予備機15%の整備だけでは端末が不足する可能性もあるため、端末保証サービスへの加入も必要でしょう。子どもの学びを止めないために必要な措置や予算の配分について、今後も継続して検討する必要があると思います。

また、学校教育現場からも、もっと端末の必要性の声をあげてほしいと思います。例えば、今の教科書には多数の2次元コードが掲載されています。それらに児童生徒がアクセスして学ぶような、日常的な学習効果を取り上げるだけでも、端末利用の必然性が増すはずです。

(2024年11月掲載)