学習指導要領 / 教育の情報化

Opinion 「1人1台端末×クラウド」で学びを活性化しよう

「新たな学びの創造」が求められています。これからの時代を生きる子どもたちに必要となる資質・能力を育成するために求められる学習形態や指導、また、その実現のために必要な学習環境についてお話しします。

佐藤 幸江

放送大学 客員教授

「新たな学びの創造」にICTを生かす

今、「新たな学びの創造」が求められています。私たち教師の目の前にいるのは、これから「Society 5.0」といわれる社会を生きていく子どもたちです。子どもたちが自らその社会をつくり、自立した学習者として自己実現していく力を育てること。それが私たち教師に求められていると、まずは認識しなければなりません。

しかし、これまで教室の中で行われていた一斉伝達型の授業の多くは、導入から展開、まとめまでを先生が主導し、ゴールまで子どもたちを連れていくものでした。時間割があり、それぞれの時間に算数や国語の授業が割り当てられている。学習規律もあり、同年代の子どもたちが一緒に学習する。そのような環境では、子どもたちはテストで評価されることが多くなります。つまり、「周りの子たちはライバルだ」というように感じることが多かったのではないでしょうか。今はまだ、そんな授業にそのままICTを取り入れた「デジタル一斉伝達型」の授業が多く見られます。

「新たな学びの創造」のために、私たち教師が学びの概念を広げる必要があると思います。

1人1台端末とクラウドで実現するシームレスな学び

GIGAスクール構想により1人1台端末環境になったことで、次の3つの点で変わりました。一つは、「空間」を超えられるようになった点。私自身、ビデオ会議システムを使い、自宅にいながらにして離れた地域にある学校の先生方に講演を行うこともあります。また、クラウドがあればいつでも学ぶことができます。つまり、「時間」も超えられるようになりました。電車の中でスマートフォンを使ってクラウドにアクセスし、教材研究をしている先生もいらっしゃるのではないでしょうか。

そして、「仲間」をつなぐことも可能です。同年齢の子どもたちが同じ教室で学習していれば、考え方は似てくるもの。それが1人1台端末の環境であれば、クラウド上の学習支援ツールを使って、ほかのクラスの子どもたちとも話し合いができます。

ICTの活用によって、空間・時間・仲間を超えたシームレスな学びが実現されることを、先生方にはぜひ認識していただきたいと思います。

1人1台端末を活用して学びの環境を整えると、図1のような好循環が発生します。課題管理は教師が行いますが、そこにいつアクセスするのか、時間は子どもたちが自分で調整できます。そして、考えを形成するときにもさまざまな学び方が選択できるので、ほかの仲間と一緒に学びながら、自分の考えを形成することもできるのです。ここで対話が発生します。クラウド環境があれば、リアルな対話だけではなく、時間・空間・仲間を超えた対話を行えます。

図1

そして、考えが「見える化」される。これにより、「あの子の考えが面白いから取り入れて、自分の考えをもう一回作ろうかな」などと、考えの再構築を行うことができます。自分の考えを取り入れてもらえた子どもは、「私の考えに賛成してくれた」と、達成感を覚えるかもしれません。そうすると、自己効力感がますます増していきます。

子どもたちの自ら学ぶ力を引き出す

ここで大切なのは、先生方の「子ども観の転換」です。今まで私たち教師は、「先生が教え込まないと子どもたちは学ばない、学べない」からと、一斉伝達型の授業をしてきました。しかし、循環が起きている学校では、先生方の子ども観も「子どもたちは有能な学び手であり、環境さえ与えれば自ら学び出す力や姿勢を持っている」という捉え方に転換していきます。

子ども観の転換のために教師がすべきことに、「伴走」があります。これは、ただ見ていればいいというわけではありません。子どもたちが何をしているのか、どんな考えをしているのか、どんな試行錯誤をして学んでいるのかを、教師が見取る必要があります。その見取りを基に、いつ、どんな支援が必要なのか、また、支援の対象は特定の子どもなのか、クラス全体なのか、教師が瞬時に判断することで、学びをステップアップさせることができます。必要なところは教師が出るということが「伴走」だと感じています。

教師が出るべきポイント

では、教師として出るべきポイントはどこでしょうか。郡司 直孝 学校法人桐蔭学園中等教育学校情報科教諭(実践時:北海道教育大学附属函館中学校 教諭)は、生徒自身が一人で考える時間を長く取っています図2。これは、新型コロナウイルス感染症対策がきっかけ。配信授業のためにビデオを作ると、これまで45分かけて教師が説明していたことがわずか10分にまとまってしまったのだとか。

図2 多様なコンテンツから生徒自身が学び方を選択できる

その事実を受けて、今では教師は授業の初めに課題と資料を紹介するだけで、その後は生徒自身が学び方を選び、考える時間を取る形態に変更。生徒たちは小学校時代にさまざまな学び方を身に付けてきているので、中学校でもスムーズに導入できているそうです。これは、自分のクラスだけで育つものではありません。“チーム学校”としてカリキュラムマネジメントを行う必要があります。

さらに今では、さまざまなコンテンツをタブレット端末の中に入れられるため、教材を印刷したり、教室を移動したりする手間も時間も必要ありません。今後は、デジタル教科書の導入もさらに進みます。どんどん充実していくコンテンツの中から、子どもたちが自由に選択して活用できるようにするために、教師が出るべきポイントがあります。

対話の質を向上させる学び方を示す

そして、対話の“質”も重要です。これは、ただ話しているだけでは向上しません。ある小学校では、対話の質を向上させるために、友達と学ぶ際の“学び方の良いモデル”を子どもたちに示しました。

「質問をする」モデルを実践した子どもは、「こう質問すれば、相手が一生懸命考えて返答してくれるんだ」と学びます。「指さし」や「印を付ける」ことを提示すると、「自分はここが大事だと思った」と、その根拠を指さししたり、印を付けたりしながら話すようになりました。「みんなで聞く」と、聞いてもらえた子どもはうれしくなります。このように、学ぶときにどんな姿勢が大事であるかを視覚化すると、子どもたちもイメージを持つことができます。

「思考」と「試行錯誤」の時間を確保する

そもそもコンテンツがたくさんあれば、子どもたちはそれを操作しながら考えたり、書き込みながらまとめたりするようになります。先述の話にもつながりますが、教師が説明する時間を少なくすることで、子どもたちの「思考」や「試行錯誤」の時間を確保できるのです。個別最適な学びに割く時間が5~6分程度という学校もあるようですが、子どもたちは試行錯誤したり、行き来をしたりしながら考えています。この時間を十分に確保することがとても大切です。

先生が「子どもたちはあまり考えないから」とすぐに諦めて説明に入ってしまうと、子どもは「先生がやってくれるから、自分で考えなくてもいいや」となり、思考がシャットダウンされてしまいます。先生がどこまで我慢して、子どもたちに委ねられるのかが勝負どころ。先生が我慢するのは1週間に一度だけで、残りは説明してしまうというクラスと、先生が毎時間我慢しながら、子どもたちに思考や試行錯誤のための時間を取っているクラスとでは、きっと育ち方に違いが出てくるはずです。

[ポジショニング]と[気づきメモ]で“学び続けたい”気持ちに

ここまで説明してきた学びの環境と教師の出が整うことで、子どもたちはどうなっていくのでしょうか。

茨城県土浦市立土浦第五中学校の清水 匠 主幹教諭の授業で、子どもたちは『SKYMENU Cloud』の[ポジショニング]を活用しながら学んでいます。先生によると、子どもたちの対話の量が多くなってきたとのこと。まずは対話の“量”を多くして、そこから“質”をアップさせていきます。

“質”を高めるポイントは、根拠を示すこと。[ポジショニング]では、自分が今どんな考えを持っているかをマーカの位置で示します図3。例えば、自分はこの位置に置いたが、ある子は逆の位置に置いているという状況があれば、「なんで違うのかな? 不思議だな」という疑問が生まれてきます。その子と一緒に「なぜそう思うの?」と話し合いながら、自分の考えを再構築していきます。子どもたちは、より学びたくなっていくのです。

図3 『SKYMENU Cloud』[ポジショニング]結果を基に子ども同士で対話し考えを再構築

また、『SKYMENU Cloud』の[気づきメモ]では、考えたことが時系列でどんどん表示されます。仲田 祐也 緑桜学園 那珂市立芳野小学校 教諭の授業では、[気づきメモ]の[グループメモ]機能で共有された友達の考えを基にしながら、自分の考えを[発表ノート]にまとめています図4

図4 『SKYMENU Cloud』[気づきメモ]で自分の考えを形成

このような他者参照については、“コピペ”を認めてよいのかという点が議論になります。確かに、そこで「友達の考えを取り入れていいね」と流してしまったら、コピーするだけの姿勢がいつまでも続いてしまいます。そうではなくて、「なぜ、友だちの考えを、自分の考えに取り入れたのか」という理由を取り立てることが重要です。そこが教師の出るポイントになります。

そのように、友達の考えをどんどん取り入れながら自分の考えを形成させていくと、さらには、学び続けたくなる様子が見えてくるのです。

子どもが情報に触れる時間を確保し選択させる

デジタル教科書を使って授業改善に取り組んだ、東京都小平市立小平第三小学校の谷川 航 主幹教諭の国語の授業の実践例を紹介します。今までは図5のようなオーソドックスな流れで授業を行っていたそうですが、短い個別最適の時間で子どもが学びをまとめたり、考えを形成したりするのは難しいということが見えてきました。授業が終わってからも考える時間がほしいと、「私たちは考えているから、先生だけで給食の準備をして」などと能動的に動き出す子どもまで出てきたそうです。

図5 事前に家庭で教材に触れてから授業に臨むように

そこで、先生は子どもたちと相談し、家庭でも個別最適の時間を取ることに。その結果、子どもたちは家庭学習の時間にクラウドでつながって話し合いをするなどして、授業に備えてくるようになりました。どの子もみんな、自分が主張したいことを授業前から一生懸命準備している様子でした。

今までは、例えば「音読しましょう」と言っても、「漢字が読めない」「文章が難しい」からと、なかなかできない子もいました。しかし、デジタル教科書にはふりがなが振られています。音読機能や朗読機能もあるので、聞きながら内容を把握することもできます。家庭学習でデジタル教科書を活用し、何度も教材に触れ、考えた上で学校に来るのですから、それだけ前のめりになる子が出てくることにも納得できます。この様子からも、情報に触れる時間を確保し、子どもに選択させることが、いかに大切であるかが分かります。

新しい社会をつくる「自立した学習者」へ

1人1台端末をただ使うだけで、これまでと同じ授業をしていては、前のめりで学ぶ子どもたちは育ちません。新しい社会をつくっていく一人として、自立した学習者としての力、社会の中で自己実現ができる力をつけるために、「新しい学びの創造」が求められていることを意識する必要があります。

今はその土台をつくるチャンスです。私たちがずっと一斉伝達型の授業づくりに注いできた力を少しだけ、子どもたちが学び取る授業づくり、新しい学びの創造にシフトさせてほしいと思います。

(2024年9月掲載)