学習指導要領 / 教育の情報化

Opinion 子どもの学びを拓くICTの活用 “教え込む授業”から“学びとる授業”へ “個別最適なメモ力”を育む[気づきメモ]で個人思考の充実を

文部科学省のGIGAスクール構想によって全国の小中学校に1人1台のタブレット端末が整備されてから、約3年が経ちました。この整備の目的は、単なる“物理的な整備”ではありません。ここでは端末整備の背景をあらためてひもとくとともに、これからの学校教育がめざすべき姿や1人1台端末の活用について考えます。

中川 一史

放送大学 教授

1人1台端末は、“学びとる授業”での活用を前提としている

まずは、中央教育審議会初等中等教育分科会(2019)「新しい時代の初等中等教育の在り方 論点取りまとめ」 の一節を見てみましょう。ここでは、2020年代を通じて実現をめざすべきは「変化を前向きに受け止め,豊かな創造性を備え持続可能な社会の創り手として,予測不可能な未来社会を自立的に生き,社会の規制に参画するための資質・能力を一層確実に育成」することだと記されています。そのためには、多様な子どもたちを誰一人取り残すことのない「個別最適化された学び」と「協働的な学び」が一体的に充実し、「主体的・対話的で深い学び」を実現しなければならないとしています。

「個別最適な学び」については、「指導の個別化」と「学習の個性化」が2つの軸として示されています。その中でも注目したいのが「学習の個性化」です。

この「学習の個性化」について、中央教育審議会(2021)「令和の日本型学校教育」の構築を目指して~全ての子供たちの可能性を引き出す,個別最適な学びと,協働的な学びの実現~(答申)【概要】では「子供の興味・関心等に応じ,一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで,子供自身が学習が最適となるよう調整する」と説明されています。これからの学校教育においては、自己調整の力が重視されていることが読み取れます。

これらのことから、これまで授業を通して“何を学ぶか”が焦点だった学校教育が、“どのような力をつけるのか”にフォーカスされるようになっていることも分かります。内閣府「Society5.0の実現に向けた教育・人材育成に関する政策パッケージ<中間まとめ>」(2021)でも、教師の姿勢は指導書のとおり計画を立て教える「Teaching」から子供の主体的な学びの伴走者となる「Coaching」への転換が求められていると記されています。つまり、学校教育には今、“教え込む授業”から“学びとる授業”への転換が求められているともいえます。

そして、従来の“教え込む授業スタイル”では、児童生徒1人ひとりが端末を占有できる環境が十分に機能していないことも見えてくると思います。つまり、1人1台端末は、これから、“学びとる”授業の中で活用されることを前提としたものであることも分かります。

“学びのデジタル化”を越えて、“学びのDX化”にどう到達するのか

一般的に、端末活用のフェーズは図1のように大きく3つの段階に分けられます。第一フェーズである「とにかく使ってみる」段階、いうなれば”利用の日常化”に取り組む段階は、ほとんどの学校が脱し、9割近くの学校は現在、第二フェーズにあると、私は感じています。ICTならではの使い方を追究したり、紙のワークシートのような従来の教材や教具を使うか、端末を使うべきかを検討したりといった“学びのデジタル化”を、まさに追究している最中の学校が多いのではないでしょうか。ただ、この第二フェーズまでで終わるのであれば、以前のように3人に1台の端末があれば十分ではないでしょうか。「1人1台端末」という環境をもってめざすべきゴールは、その先にある第三フェーズ、“学びのDX化”にあると思っています。

図1 端末活用の3つのフェーズ

では、第三フェーズにおける端末活用とは一体どのようなものなのでしょうか。1つ目は、「児童生徒自らが適切な活用法を判断する」こと。端末を使うのか、そのほかのツールを使うのか。また、端末を使うのであれば、端末上でどんなツールを使うのか。それらを児童生徒自身が判断できる状態になることを指します。2つ目は、「個別最適な情報収集力、整理・分析力、発信力をつける」こと。そして3つ目の「新たな学びのスタイルを模索できる」ということが非常に重要になってきます。私は、これらに到達してようやく第三フェーズだと捉えています。そのため、どのように第三フェーズにアプローチしていくかが、今後の課題となるでしょう。

また、第一フェーズにおける授業は「教師」主導でしたが、第三フェーズに向かうにつれて「児童生徒」主導に変化します。それに伴い、端末活用の自由度も上がっていきます。児童生徒自らがICTの使い方を考え、判断していくという第三フェーズのあり方は、まさに子ども自身が学習が最適となるよう調整する力をどう育成していくかという、これからの授業の焦点とも関連があることが分かると思います。

これからは“子どもに委ねる”姿勢が必要

現在、多くの学校が取り組んでいる第二フェーズを加速化するにあたり、私は端末活用の7つの“しやすさ”がポイントになると感じています。

その1 : 書きやすい・消しやすい
その2 : 動かしやすい・試しやすい
その3 : 共有しやすい・連動しやすい
その4 : 大きくしやすい・着目しやすい
その5 : 繰り返しやすい・確認しやすい
その6 : 残しやすい・比べやすい
その7 : 説明しやすい・まとめやすい

そして、第三フェーズにリーチするにあたっては、授業スタイルの見直しも必要となるでしょう。次の2つの問いから、どのような転換が求められているかを考えてみましょう。

1型のあるシート(ワークシート)を脱するのは、いつ?

ワークシートは、自転車における“補助輪”のようなもの。いずれは大人が使う付箋やメモ帳のように、型のないところで自由に取りまとめる力が必要になります。それを見据えてワークシートを脱するのは、一体いつなのでしょうか。

2「本時のまとめ」は誰がする?

授業で教師が行う「本時のまとめ」。このとき、黒板に「まとめ」などと書きながら、児童生徒に書き写すよう促すことが多いと思います。では、児童生徒自身が「今日はこんなことを学んだ」と自分の言葉でまとめる力は、いつ、どこでつけるのでしょうか。

これらの問いについて考えると、これからの授業スタイルで求められるのは「学びの主体の転換」、いわば“子どもに委ねる”姿勢が必要であることが分かります。これは、決して教師が放任でよいという意味ではありません。子ども自身が学習が最適となるように調整することや次に述べる情報活用能力をつけることができるよう、教師が“側面から支援をする”姿勢、そして、全校的に意識して共有することが非常に重要になってきます。

自身と対話する「個人思考」の場面で役立つ“個別最適なメモ力”

情報活用能力は、中央教育審議会の「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」では、「情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力」とうたわれています。

情報活用のプロセスは、①課題の設定→②情報の収集→③整理・分析→④まとめ・表現→⑤振り返り・改善と、5つに分けて示すことができます。このプロセスのすべてにおいて、端末は有効に活用できるのではないでしょうか。つまり、これら①~⑤を行う力を教科横断的につけていくことが、今求められているといえるでしょう。

児童生徒の情報活用能力や子ども自身が学習が最適となるように調整する力を育むカギは、前述のワークシートに関する問いで触れた「メモ」です。

「メモを取る」という行為は、個人思考の場面でよく使われます。ですが、現状の学校教育におけるICTの活用は、個人思考よりも気づきの共有やプレゼンといった集団討議の場面が多いのではないでしょうか。これは、協働ツールなどが多くの自治体や学校に導入されていることが起因していると思います。もちろん、ツール自体がとても有効に働いている授業も多いですが、集団討議と同様に、自身との対話につながる個人思考にも力を入れていかなければいけません。では、児童生徒の“個別最適なメモ力”を、私たちはどのように育成していくべきなのでしょうか。

メモの蓄積、共有、活用が
スパイラル的に行われて、
“個別最適なメモ力”が高まっていく。

“個別最適なメモ力”を育む[気づきメモ]

“個別最適なメモ力”を育成していくための3つのプロセスをICTでフォローする強力なツールが、『SKYMENU Cloud』の[気づきメモ]ではないかと考えています。

まずはメモの「蓄積」。気づいたこと、必要かもしれないことを、気軽にメモする。私は“いったんメモ”と呼んでいますが、そうしたメモを蓄積していく。そして、本当に必要なことをピックアップして整理する。[気づきメモ]では、テキストだけではなく画像や動画、さらにWebページも“いったんメモ”することができます写真1。 個人思考を整理する前段階として、気づきをメモして蓄積していく場所が用意されています。

写真1 気づきをメモして蓄積。気づきを他者と共有したり、活用したりする過程で個人思考が整理される
※右の画面はイメージです。

また、メモした気づきやデータを基に、児童生徒同士で「共有」する場面ももちろん大切です。そのためには、まず自分の考えを整理しなければなりませんが、それができるのは、メモの蓄積があるからこそ。[気づきメモ]では、気づきの共有だけでなく、ほかの人のメモに「いいね」を押す機能も付加されており、自分なりのアクションを起こすことが可能です。

そして大切なのは、共有までで終わらせないこと。最終的には個人に戻って、もう一度メモを「活用」して自分なりに整理し、自分の考えをまとめたり、広げたりすることが重要な作業です。前述の情報活用の流れにおける「⑤振り返り・改善」の段階であるといえ、ここで[気づきメモ]の蓄積が生きてくるのではないかと思います。気づきを蓄積し、共有したからこそ、それを生かすことができるのです。

[気づきメモ]には、検索や教科・タグの付与による絞り込み、お気に入りの設定など、メモの蓄積、共有、活用を促す、デジタルならではの機能も付加されています。ICTを活用することで、学習の中の気づきを自分なりに蓄積し、整理していくことができるといえます。

図2 [気づきメモ]の活用で、個人思考が充実する

先ほど、実際の授業では、個人思考(自身との対話)よりも集団討議(他者との共有)が重視されがちであると指摘しましたが、[気づきメモ]を活用することで、個人思考が充実し、このバランスに変化が生まれると考えています。

例えば、子どもが自身と対話しながら、気づきをメモとして蓄積。集団討議の中で自分が蓄積した気づきを他者と共有したり、活用したりする。気づきを活用するなかで、新たな気づきが芽生えて、新たに気づきを蓄積していく……。このようなメモの蓄積、共有、活用がスパイラル的に行われるようになります図2。これにより子どもの学びが深まるとともに、“個別最適なメモ力”も高まっていくと思うのです。

[気づきメモ]を「知識の再構成」に生かす

最後に、私の恩師である山田 勉氏は、著書『教える授業から育てる授業へ(黎明書房)』の中で、知識を強固にし広げていく「知識の再構成」について説明しています。そこでは「学ぶということは、経験の自己否定」であり、子ども自身が「自覚的過程」で行わなければならないとされ、「動きのある構造として知識を、子どもが獲得するためには、どうしても既習の知識を自分で修正する経験」が必要であると語られています。これは、まさにメモの蓄積、共有、活用がスパイラル的に行われ、子どもの学びが深まったり、“個別最適なメモ力”が高まったりするプロセスと同じです。皆さんもぜひ、「知識の再構成」につながる授業、“学びとる授業”への転換に向けて、1人1台端末や[気づきメモ]を活用してほしいと思います。

本記事に関する中川 一史 教授の講演「子どもの学びを拓くICTの活用」動画を
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https://www.skymenu.net/stec/

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(2023年12月掲載)