学習指導要領 / 教育の情報化

解説 『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』 生成AIから得た情報を問題解決や探究的な学びに生かす活用を

令和4年11月に公開された「ChatGPT」をはじめとする生成AIの教育現場における利用について、文部科学省は令和5年7月4日に『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』(以下、本ガイドライン)を公表しました。本ガイドラインについて、国立教育政策研究所 教育課程研究センターの田 丈晴 教育課程調査官(情報担当)に解説していただきました。

丈晴

国立教育政策研究所 教育課程研究センター 教育課程調査官
文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課 / 教育課程課 情報教育振興室 教科調査官
文部科学省 初等中等教育局 参事官(高等学校担当)付 産業教育振興室 教科調査官

本稿中における引用部分は、文部科学省のWebサイトに掲載された「生成AIの利用について」で公開されている本ガイドラインに基づいて記載しています。(https://www.mext.go.jp/a_menu/other/mext_02412.html)

本ガイドライン作成の背景と検討経緯

本ガイドラインは、文部科学省のWebサイトで公開しているPDFファイルにも含まれている別添資料の「【別添1】検討経緯」にあるように、本年(令和5年)4月下旬からの学識経験者や現場教員に対する書面ヒアリングを踏まえ、政府のAI戦略チームでの関係省庁による議論やG7教育大臣会合、中央教育審議会への報告および意見照会を経て、政府のAI戦略会議に報告した上で7月4日に公表しました。

政府はAI戦略会議の下に、関係省庁連携のAI戦略チームを設置しており、AI活用の具体的な検討を進めています。特に、OpenAI社の「ChatGPT」、マイクロソフト社の「Bing Chat」、Google社の「Bard」といった生成AIの利用については、さまざまな議論があるところではありますが、現在の社会状況を見ても「Society 5.0」という未来を見据えても「使わない」もしくは「使わせない」という選択肢は、現実的ではないと考えています。生成AIの利用を前提に考えるのであれば、より有益に活用するためには何が必要なのか、あるいは不適切な利用に陥らないためには何に留意すべきかを、早急に整理しなくてはなりません。これは「児童生徒や教師を含め、社会に急速に普及しつつある現状もあり、一定の考え方を国として示すことが必要である」とあるとおりです。こうした背景から本ガイドラインは作成されました。

7月4日付の「『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』の作成について(通知)」に「令和5年6月末日時点の知見をもとに暫定的に取りまとめたものであり、今後も『広島AIプロセス』に基づく様々なルールづくりの進展や、科学的知見の蓄積などを踏まえて、機動的に改訂を行うことを予定しています」と示したように、今後も随時改訂していくことになっています。

しかし、本ガイドラインは生成AIの概要や教育利用における方向性、重要な留意点を端的にまとめたものですので、まずは全体をご一読いただき全体像をご理解いただくことが肝要だと考えています。

※G7広島サミットで合意されたAIの活用と規制の国際的なルール作りに向けた議論

生成AIを正しく活用することは、情報活用能力の育成につながる

「『情報活用能力』の育成強化」に記載しているとおり、本ガイドラインは情報活用能力に関連させてまとめられています。今一度、情報活用能力とは何かを確認すると「【別添2】学習指導要領における情報活用能力の記載(抜粋)」には、小学校学習指導要領の総則の解説が記載されており、引用部分に次のような記述があります。

情報活用能力は,世の中の様々な事象を情報とその結び付きとして捉え,情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して,問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力である。

これは、生成AIの活用においても重要になります。情報活用能力とは「情報及び情報技術を適切かつ効果的に活用して、問題を発見・解決したり自分の考えを形成したりしていくために必要な資質・能力」なのですから、「情報及び情報技術」を「生成AI」に置き換えて考えるならば、生成AIも問題解決や自分の考えの形成に役立てられることが求められるといえます。

一方、各社の生成AIの利用規約を見ると、18歳未満あるいは未成年の利用については保護者の同意が必要であるか、利用そのものが18歳以上に制限されています。

【参考2】主な対話型生成AIの概要<P.16> ※一部抜粋

このように、小・中・高等学校の児童生徒が生成AIを利用する場合は、原則として保護者の同意が必要になります。これは利用にあたっては留意すべき点があることの現れだと考えられます。その上で、本ガイドラインの位置づけは「学校関係者が現時点で生成AIの活用の適否を判断する際の参考資料」であり「一律に禁止や義務づけを行う性質のものではない」というものですので、本ガイドラインの内容を教員のみならず児童生徒とも共有し、「【参考1】各学校で生成AIを利用する際のチェックリスト」も踏まえて、各学校における適否をご検討いただければと思います。

生成AIは、あくまでも「統計的にそれらしい応答」を生成するもの

生成AIの利用にあたり、留意すべき点はさまざまにありますが、特に生成AIの回答をうのみにしないということは必須の要件です。報道等でも頻繁に言及されており、ご存じの方も多いかと思いますが、生成AIは必ずしも正しい回答を返すとは限りません。大規模言語モデル(LLM)と呼ばれるこの仕組みは「ある単語や文章の次に来る単語や文章を推測し、『統計的にそれらしい応答』を生成するもの」です。その処理の流れを概略して表すと図1のようになります。

図1 生成AIの概要<P.3>
[出典]CRDS「対話型生成系AIの概要と課題」を基に文部科学省において作成

つまり、生成AIは正しい答えを教えてくれる便利なシステムではなく、あくまでもWeb上に存在している膨大なテキストデータを機械学習した結果「統計的にそれらしい応答」となるように「文章を自動生成する仕組み」でしかありません。その結果として「回答は誤りを含む可能性が常にあり、時には、事実と全く異なる内容や、文脈と無関係な内容などが出力されることもある」のです。

そのため、生成AIの回答が正しいかどうかの判断は、あくまで利用者自身が行わなくてはなりません。これを「ファクトチェック(情報の正確性・妥当性の検証)」と呼びます。これは特別なことではなく、Web検索を行った結果として最上位に表示されたWebサイトが、必ずしも正しい情報を掲載しているとは限らないのと同様です。しかし、検索エンジンが独自技術によってWebサイトの信頼性を評価し、利用者の閲覧動向等も踏まえて検索結果の表示順位を調整しているのに対して、生成AIが作り出した文章は、Web上に存在する真偽不確かな有象無象のテキストデータに基づいて、機械的に生成されたものである以上、今後の精度向上が見込まれているとはいえ、正確性・妥当性については利用者自らが判断する必要があります。これを踏まえ、本ガイドライン「2.生成AIの概要」には次のとおり示されています。

あくまでも「参考の一つに過ぎない」ことを十分に認識し、最後は自分で判断するという基本姿勢が必要となる。回答を批判的に修正するためには、対象分野に関する一定の知識や自分なりの問題意識とともに、真偽を判断する能力が必要となる。

また、すでに存在しているテキストデータに基づいているという点で、時系列でいえば「過去」のものとなります。つまり「未来」に向かう創造のための人間が持つ独創的なアイデアが回答として示されることは期待できません。あくまでも「AIに自我や人格はなく、あくまでも人間が発明した道具であることを十分に認識する必要がある」のです。

これらの留意点を踏まえた上で生成AIがうまく活用できれば、自分が独創的なアイデアに行き着くまでの「補助」として使うことができます。最終的には「自分が考える、発想する」という前提で、生成AIを活用すれば大幅なスピードアップが望めます。そして、学習指導要領がめざす、生きて働く「知識及び技能」や未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力」の育成に資する効果的な使い方があるはずです。

最終的には「自分で考える、発想する」という前提で、
生成AIを活用すれば大幅なスピードアップが望めます

生成AIを適切に活用することで「考える機会」を増やす

本ガイドラインの「3.生成AIの教育利用の方向性」の「(2)生成AI活用の適否に関する暫定的な考え方」では、児童生徒の発達段階や実態を踏まえて検討することを前提とした上で、「適切でないと考えられる例」と「活用が考えられる例」を列挙しています。

このうち「適切でないと考えられる例」については、先述の「答えを教えてくれる仕組みではない」ということをはじめ、世間的にも取り上げられているさまざまな懸念点に基づいた例ですので、ご理解いただけるものが多いと思います。

今回は「活用が考えられる例」をもう少し具体的に掘り下げてみたいと思います。まず、①の「生成AIが生成する誤りを含む回答を教材として使用し、その性質や限界等を生徒に気付かせること」について。例えば小学校段階では、問いに対する生成AIの回答を児童に示し、「AIはこう言ってるけど、みんなはどう思う?」と問いかける使い方が考えられます。先ほどご紹介した「ファクトチェック」は、利用者に一定以上の知見がなければ生成AIが示した情報の正誤を見極めることが難しいため、さまざまな教科の学びをスタートしたばかりの小学生には難しいかもしれません。しかし、生成AIの回答を題材として「ファクトチェックそのもの」を学ぶことで、情報源を評価することを経験させることができます。

また③の「グループの考えをまとめたり、アイデアを出す活動の途中段階で(中略)足りない視点を見つけ議論を深める」という例は、生成AIを「グループを構成する1人」に位置づけて、例えば「○○に関する新しい事例を10件挙げて」といったように問いかけることで、ブレーンストーミングに新しい視点を加えるといった活用が考えられます。

さらに⑥の「生成AIを用いた高度なプログラミング」は、私自身が実際に行った例があります。まず、生成AI(ChatGPT(GPT4))に対して「円周率の近似をモンテカルロ法で」と問います。すると「モンテカルロ法を使用して円周率を近似するためには、以下の手順を実施します」として4ステップの手順が示されました。さらに「以下のPythonコードは、このアルゴリズムを実装します」とプログラムのソースコードが示されました。この回答を受けて「このコードを20回実行」と指示を出すと、すぐに20回シミュレーションした結果が表示されました。

ここで大切になるのが課題の設定です。「モンテカルロ法を、プログラミングで行ってみよう」といった課題の場合、生成AIが示した回答をそのままコピー&ペーストして提出する可能性があります。そこで、生成AIの回答を生徒へ示した上で「この手順の説明は正しいですか?」「モンテカルロ法の解釈は正しいですか?」「このコードは合っているでしょうか?」といったことを問えばどうでしょう。生徒たちにしっかりと考えさせることが大事ですので、「この回答を踏まえて、より精度を高める方法はないだろうか?」という課題を設定すれば、モンテカルロ法のプログラムを作成するために費やしていた時間を、コードの正しさを検証したり、精度を高めたりするための時間に充てられます。これらはあくまで一例ですが、これまでとは違ったICT活用につながるのではないでしょうか。

※汎用的なプログラミング言語の一つ。文法がシンプルで理解しやすく、幅広く活用されている

「パイロット的な取組」を通じて、より具体的な活用事例を展開

単純な穴埋めのワークブックであれば、生成AIに回答させれば終わってしまいます。もう一歩踏み込み「自分で考える」ことに軸足を置いた課題設定ができれば、有効活用する糸口が見えてくると感じます。考える力は鍛えなければ身に付けることができませんので、その機会を増やすことでより深い学びへとつなげていくことが大切だと思います。

その意味で「リーディングDXスクール事業 追加公募」として、本ガイドラインに示された「パイロット的な取組」を進める「生成AIパイロット校」の公募に非常に注目しています。現在(取材時:令和5年8月)、全国20か所程度の中学校、高等学校および中等教育学校を「生成AI指定校」として指定する予定で、この記事が掲載されるころには指定校が決定しているはずです。今後は生成AI指定校の実践を通じて、より具体的な活用事例が示せるようになるのではないかと思います。

リーディングDXスクール事業は、ICTを効果的に活用して教育活動が変わった、校務の進め方が変わったという「トランスフォーメーション(変革)」の部分に焦点を当て、好事例を横展開していく事業ですから、この生成AI指定校についても「教育利用」「校務利用」を問わずさまざまな取り組みが行われることを期待しています。

なお、本ガイドラインでも校務での活用例が示されていますが、生成AIを活用すれば、表データ同士の単純な突き合わせ作業などは一瞬のうちに終わりますし、PDFで展開されている資料の要約をさせるといったことも可能になると思います。もちろん、生成AIはあくまで「たたき台」としての利用となりますが、業務効率化や働き方改革の一環としての成果に期待したいところです。

生成AIを有効活用するには、広く教養を身に付ける必要がある

生成AIを活用するために、非常に大切なポイントがあります。それは「プロンプト」です。「対話型生成AIを使いこなすには、指示文(プロンプト)への習熟が必要」とあるように、生成AIはどのように指示をする(問いかける)のかによって、回答が異なります。現在、SNSなどを通じて大学教授の方などが積極的に発信されていますが、どういったプロンプトで指示を出すとどんな回答が生成されたのか、さらに精度上げるためにはどのような工夫が必要なのかが検証されています。基本的にはより多くの語彙を駆使してプロンプトを書く方が、目的に合った回答を引き出しやすくなります。

つまり、より有益に生成AIを活用するためには、利用者がより広く教養を身に付けている方が使いこなせるということです。そのため今後、生成AIが広く活用されるようになったとしても、児童生徒はしっかりと教養を身に付けることが大切であることに変わりはありません。

基礎的な知識のフォローや単純な作業については生成AIを活用しつつ、そこから得た知見を問題の解決や探究的な学びにどのように役立てられるのかを考える機会を増やすことで、児童生徒が自ら学びを深められるようになるのが理想的だと思います。

教育委員会や学校においては、本ガイドラインの中で示している利点と留意点の両方を踏まえて、「【参考1】各学校で生成AIを利用する際のチェックリスト」図2なども参考にしていただきながら、各自治体・各学校の実情に応じた生成AIの教育利用の適否について、またその活用方法について具体的にご検討いただければと思います。

図2

(2023年10月掲載)