学習指導要領 / 教育の情報化

文部科学省に聞く GIGAスクール構想を持続可能なものとするために 20年後、30年後に
国内外で活躍できる人材の育成を

令和5年度となり、GIGAスクール構想の運用は3年目を迎えました。これまでの2年間の運用から見えた成果と課題。また今後のICT環境整備の考え方やコンピュータ教室の位置づけなどについて、文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課の山田 哲也課長にお話を伺いました。

山田 哲也

文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課長
(併)デジタル庁統括官付参事官

※所属・役職は、2023年1月のインタビュー取材時点の情報です

1人1台端末の活用の成果と課題

GIGAスクール構想は、令和元年の12月に予算化され令和2年度に準備を進め、令和3年度から実質的な運用がスタートしましたので、本年度(令和5年度)は3年目に入ったことになります。これまでの2年間を振り返るとさまざまな成果が挙げられますが、それらは学力テストの点数が向上したという類いのものではありません。例えば、これまで感覚的に理解していた事柄を、自分の言葉で言語化することによってより深く理解できるようになった。あるいは、子供たちの意見を集約して共有することで多様な見方や考え方を知り、物事を多くの視点で捉えられるようになったという、数値化されない「非認知能力」の向上だといえます。

また、新型コロナウイルス感染症によって学校を休んだり、事情があって登校できなかったりする子供に対して、遠隔授業を行う実践が増えたことも成果の一つだと思います。さらに、特別な支援を必要とする子供たちが、1人ひとりのペースで学習活動に取り組めるようになっており、例えば文字の白黒を反転したり色を変えたりして個々に見やすく調整できるなど、特別支援に携わる教員の方々からは大変好評を得ています。

こうした成果の一つひとつは、すぐに数値に表れるものではありませんが、今の子供たちの20年後、30年後を見据えて、世界という舞台で活躍できる人材を育成するという観点では、着実に成果が出始めていると感じています。そうした意味でも、現在の取り組みを、今後も継続していくことが最も大事だと考えています。一方で、課題も浮き彫りになっています。よく取り上げられる課題として、自治体間あるいは学校間でICT活用度の格差が広がっていることが挙げられます。いうまでもなく義務教育である小・中学校において、こうした格差が拡大することは好ましくありません。

1人1台端末をはじめとするICTを導入したものの、授業の中でどのように使えばよいか分からないといったケースをひもとくと、従来型の授業に対して「どうすればICTを取り込めるか」と悩み、行き詰まっていることが少なくありません。本来は、学習指導要領で求められている資質・能力の育成のため、どういった授業を行えばよいのかと考えるなかで、必要に応じてICTが活用されるべきなのですが、その手掛かりが見いだせていないというのが実情なのではないでしょうか。

都道府県を中心とした広域連携により、
自治体間格差の解消につなげたいと考えています

GIGAスクール運営支援センターの機能強化

文部科学省としても、こうした格差の解消に努めなくてはならないと考えています。そのための取り組みの一つが「GIGAスクール運営支援センター(以下、運営支援センター)」です。当初は、この運営支援センターはヘルプデスク的なものとして捉えられており「それならば、業者との保守契約で間に合うのではないか」というご意見もありました。しかし今後はメニューを増やし、ICT活用の日常化を推進する機能を強化していきたいと考えています図1。特に「都道府県を中心とした広域連携」が、そのポイントになると思っています。これは、都道府県を中心に域内の市区町村の担当者が集まり「GIGAスクール推進協議会(仮)」を設置することで、自治体間格差の解消を図るといった取り組みを想定しています。

図1GIGAスクール運営支援センターの概要
[出典] 文部科学省『令和4年度文部科学省第2次補正予算事業別資料集』(GIGAスクール運営支援センターの機能強化)より一部抜粋

ICT活用が進まない要因は、やはり人材不足の問題が大きいと思います。しかし同時に、情報不足や経験不足といった側面があることも確かです。自治体間の連携が深まれば、同じように人材不足の状況の隣接自治体が、どのように取り組みを進めているのかといった情報や経験が共有されます。例えば、子供たちが生き生きとICTを活用している。また、教員の事務作業の負担が軽減された。あるいは家庭との連絡が効率化されたといった事例を、先に取り組みを進めている自治体から見て学び、それを手掛かりにしていただきたいと思います。

これまでは、先行して取り組みを進めている自治体が、その経験やノウハウを多くの自治体に伝えたいと考えていても、それを伝える機会が限られていました。こうした状況を踏まえ、今後は教育委員会の情報担当だけではなく、運営支援センターや学校DX戦略アドバイザーにも加わっていただき、より多角的に意見交換しながらボトムアップにつなげ、域内の教育水準の向上を目指すといった取り組みにつなげられたらと考えています。そのためには、ICTを活用すれば何ができるのかを知り、授業の中でどう活かせるのかをあらためて考え直していくことが重要だと思います。そこで運営支援センターの機能として、教員や事務職員、ICT支援員を対象とした研修や、学びのDXに向けたコンサルティングを行うことも想定しています。そのなかで「こういう取り組みができそうだ」「こんな授業ができた」といった情報共有や意見交換を重ねて創意工夫をしていくことが大切です。ICTは20年後、30年後の社会で活躍するために欠かせないツールです。また、高等学校で必履修科目となった「情報I」も内容が充実し、令和7年度からは大学入学共通テストの出題科目にも加わります。こうしたことからも、小・中学校の段階からしっかりと取り組むことが重要になっていきます。

GIGAスクール構想のビジョンと今後のロードマップ

先ほども触れましたが、GIGAスクール構想のビジョンは20年後、30年後に現在の小学生や中学生、高校生が世界各国あるいは国内の各地域で活躍できる人材となれるよう育成することにあります。それには従来のように情報を得ることだけにとどまるのではなく、学習指導要領が示しているとおり情報を収集し、分析し、発信や共有するといった、情報活用能力の育成が重要な鍵を握ります。

具体的な教育のロードマップについては「教育振興基本計画」がすべてのベースとなりますが、GIGAスクール構想に関するものについては、デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省が策定した「教育データ利活用ロードマップ」にも図2のように示されており、これらに沿って取り組みを進めていくことになります。

図2短期・中期・長期の各フェーズに実現を目指す姿
[出典]『教育データ利活用ロードマップ』(デジタル庁、総務省、文部科学省、経済産業省)

基盤となる教育振興基本計画については、今ちょうど次の計画に向けた議論を進めているところです。第3期は平成30年度から令和4年度であり、その次の第4期は令和5年度から令和9年度が対象となります。このように5年、10年と一定のスパンで区切りながら進めていくことになると思います。

また「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(以下、整備計画)」についても令和4年度末で期限を迎えましたが、学校のICT環境整備を持続的・継続的に進めていくことの重要性を鑑みて、計画期間を令和6年度まで2年間延長することを決めました。これは、次の整備計画がGIGAスクール構想に基づいて策定される初めての計画であることから、これまでの成果や課題に対する十分な検証を行うほか、さまざまな論点での検討が必要であり、一定の時間を要するためです。そこで令和4年度までの5年間と同様に、令和5年度と6年度に単年度1,805億円の地方財政措置が講じられることになりました図3

図3「教育のICT化に向けた環境整備5か年計画」の2年間延長が決定
[出典]令和5年1月23日事務連絡「令和5年度学校のICT化に向けた環境整備に係る地方財政措置について」

コンピュータ教室の在り方を見直し、
従来の枠にとどまらない柔軟な活用方法を
見いだしていただければと思います

今後のコンピュータ教室の在り方について

GIGAスクール構想によって児童生徒1人1台の学習用端末が整備されたことから、従来のコンピュータ教室をどのように位置づければよいのかという声もあります。1人1台端末が整備され、学習活動の中でできることは格段に増えましたが、これらの端末はコンピュータとしての性能が高くない場合が少なくありません。例えば、本格的なプログラミングに取り組もうとしたとき、現在の1人1台端末では性能が不足するケースも考えられます。また、高等学校において「情報I」が必履修科目になっていることを踏まえ、情報科の教員の方からは1人1台端末のスペックでは不十分だというご意見も寄せられています。

そのため令和4年12月19日に、各自治体へ「GIGAスクール構想に基づく1人1台端末環境下でのコンピュータ教室の在り方について」という事務連絡を通知いたしました。すでにコンピュータ教室を撤去しており、新たな空き教室がないという学校もあることは承知しています。一方で、コンピュータ教室は残しているが今後はどのように扱えばよいかと悩まれていた自治体の方からは、考え方が明確になったことで継続のための予算確保の論拠となったという声も伺っています。いずれにせよ、整備には予算が必要になりますから、一概にこうしなければならないと言えるものではありません。また、コンピュータ教室の在り方について、各自治体でさまざまな議論があることは、われわれもよく承知しています。

しかし、コンピュータ教室の在り方を見直し、STEAM教育などにも活用するなど、従来のコンピュータ教室の枠にとどまらない柔軟な活用方法を見いだしていただければと思います。ある学校の事例では、前述の事務連絡の前から図書室と併設した上で、さまざまな周辺機器とともにコンピュータを設置し、メディアセンターという位置づけで活用されています。ぜひ、各教育委員会におきましては、財政論だけではなく学習指導要領や施設整備指針との関係も踏まえて、まずは十分な教育活動が可能となる環境とはどういったものなのか、そのためにICT機器をどのように活用していくのかという点から、教育環境の充実に努めていただきたいと思います。

新たなICT環境整備方針の策定に向けて

高等学校の1人1台端末は、令和4年度の1年生について全国で整備が進みました。端末の購入費用は、都道府県などの設置者負担のケースと保護者負担によるBYOD(BYAD)というケースの両方がありますが、それぞれについて文部科学省としても整備状況を詳しく確認したいと考えています。令和5年度、令和6年度も新1年生を対象に整備を進める自治体が多く、引き続き学年進行させていくことですべての整備が完了する見込みです。

一方、先に整備された小・中学校の学習者用端末の更新については、現時点で決定していることはありません。しかし情報活用能力の育成という点からも、1人1台端末の活用をやめるという選択肢はないだろうと思っています。もちろん、すべての授業で端末を使うことを目指すのではなく、必要に応じて活用することが大切ですから、まずは現在整備された端末を使い続けていきながら、活用の幅を広げていただければと思います。

その上で、学校現場の皆さまから「端末を活用することで、こんないいことがあった」「こうした成果につながった」といった声を上げていただければと思います。教室に机や椅子がなければ授業が成り立たないのと同じように、端末がなければ授業が成立しないといったご意見を、ぜひとも文部科学省にぶつけていただきたいと思います。

前述のICT環境整備計画の2年間延長を確認した有識者会議の中で、新たなICT環境整備方針については「学校におけるICT環境整備の在り方に関する有識者会議」を設置し、令和7年度に向けて策定していくことも確認しています図3。具体的な議論は今後継続していきますが、GIGAスクール構想を踏まえたこれまでの成果や課題を検証しながら、学習者用端末に限らずソフトウェアや周辺機器、ネットワーク環境も含めた全般的な議論となる見込みです。

令和5年1月16日付の事務連絡「学校におけるICT環境の整備方針について」の参考資料に記載していますが、会議で確認された主な論点は次のとおりです。

新たなICT環境整備方針の策定に当たっては、GIGAスクール構想を踏まえたこれまでの成果や課題について検証するとともに

  • 児童生徒1人1台のICT端末(以下、「1人1台端末」)を活用した「個別最適な学び」と「協働的な学び」の目指すべき姿
  • 「個別最適な学び」と「協働的な学び」の実現のために必要となるICT機器とその整備の在り方
  • 校務のデジタル化に必要となる環境整備の在り方
  • 1人1台端末の活用支援体制やデジタル教材等の整備の在り方

など、検討すべき多くの論点が存在している。

この中でも、1人1台端末の更新に係る費用負担の在り方については「利活用を強力に推進するとともに、地方自治体や関係者の意見等も聴きながら検討していく」ということが確認されています。

現在の「GIGAスクール構想 標準仕様書」にも「学校のICT環境構築に当たっては、端末、ソフトウェア、通信ネットワークなどをそれぞれ別個に考えるのではなく、複合的に勘案して、全てがストレスなく稼働するかを見極めることが重要である」とあるように、ICT環境整備はハードウェアとソフトウェア、ネットワーク環境などが一体となり成り立つものです。標準仕様書では、基本的には一般向けソフトウェアで授業を行うことが可能だとしていますが、一方で学習用に特化した有償のソフトウェアの中にも有効なものがあり得ますので、この点についてもよく見極めた上で有識者会議において丁寧に議論していただく必要があると考えています。

いずれにしても、情報活用能力や非認知能力といった力を伸ばしていくことは、一朝一夕にできることではありません。長い期間をかけて取り組み続けなければならない課題である以上、GIGAスクール構想や1人1台端末の環境を一過性のものにすることなく、持続可能なものとしていくためにも、さまざまな論点を整理し、新たな整備方針の策定に向けて議論を進めます。

(2023年1月取材 / 2023年4月掲載)