学習指導要領 / 教育の情報化

高校生1人1台端末活用 情報社会に主体的に参画するための資質・能力の育成 生徒の創造性を高める学びの設計を

鹿野 利春

京都精華大学 メディア表現学部 教授

課題を解決し、価値を創造する力を身に付ける

2022年から全国の多くの高校1年生に1人1台端末が整備されていると思います。ここをスタートとして、1人1台端末をどのように活用していくのか。それを考えるためには、まずはこれからの時代に必要な力について把握しておかなければなりません。

人類は、狩猟社会(Society 1.0)、農耕社会(Society 2.0)、工業社会(Society 3.0)、情報社会(Society 4.0)と発展してきました図1。それぞれの社会において必要とされる力は異なると思います。例えば狩猟社会では体力、農耕社会では協調性が必要でしょう。では、これからの「Society 5.0」の社会で生きていくためには何が必要でしょうか。これから多くの仕事は自動化されていきます。人間は人間にしかできないことをやるしかなくなるのです。ですから、そのための力をつけていかなければなりません。もちろん、知識は必要ですが、それだけでは足りません。日本経済団体連合会では、「イマジネーション」と「クリエイティブ」という2つの力を使って課題を解決し、価値を創造する社会の実現をめざすことを示しています。

図1

文部科学省では、知識・技能だけでなく、思考力・判断力・表現力が必要だとしています。これまでは仕事に習熟することが大切だと言われてきましたが、これからは新たに仕事をつくりだすことが必要になります。そういった人を育てるために、現在の学習指導要領は、身に付けた知識・技能をどう使っていくかということや、どのように社会・世界と関わってより良い人生を送るかというところまで見据えています。

学びの主語は生徒。生涯にわたって学び続ける姿勢を養う

こうした力を身に付けさせるために、文部科学省では、主体的・対話的で深い学びが必要だとしています。そして、それを実現するための授業デザインが先生たちに求められています。具体的に言うと、これからは学びの主語が生徒になるということです。これまでのように、先生が前に立って話し続けるという形の授業はそろそろ終わりだろうと思います。子どもたちが主体的に、活発にそれぞれ話し合いながら、深い学びに到達できるよう、先生は授業を企画しなければなりません。

そもそも良い授業とは、子どもたちが質の高い学びを得られることだと、私は考えています。そのためには、先生方は日頃の教材研究などにより、教科の特質を理解していなければなりません。そして、それを具体的な学習内容として展開するとともに、児童生徒の状況に合わせてその展開を変更できるということも重要です。子どもが学習内容を深く理解し、資質・能力を獲得するだけでなく、もう一つ大切なことは、生涯にわたって能動的に学び続ける姿勢を身に付けることです。理科や数学の点数が伸びて大学に合格できたけれど、理科や数学が嫌いになってしまったのでは何にもなりません。その内容が好きになって力がつく。そしてもっと勉強したいと思ってもらえるところまでいけば良い授業だと思います。

「先生の授業」と「生徒の学び」。2つの視点で授業をデザインする

主体的・対話的で深い学びを実現する授業改善には、先生と子どもたちのそれぞれに必要な視点があります。

主体的な学びに向けては、例えば、子どもたちは見通しを持つという視点が必要です。一方で先生は、子どもたちに自ら考えや見通しを持たせるという視点で、その手だてを用意しなければなりません。達成すべき学習目標は共通していても、そこに向けた見通しは子どもたちそれぞれに異なるでしょう。主体的な学びは、子どもたちの方向性にある程度合わせることが必要です。クラスの40人の子どもたちに別々のものを用意することは、これまで難しかったのですが、1人1台端末により、一斉で行う授業もあれば、1人ひとり別々のことに取り組んで力をつけさせる授業もあるというように、力点を置いてやっていくことができると思います。

対話的な学びに向けて、先生は、子ども同士での対話、さらに地域の人や大学の先生との対話が起こるような準備をする必要があります。外部の方は、実際に呼ぶこともあれば、Web会議システムなどを活用して遠隔で登場いただくこともできます。また、子どもたちには「先哲の考え方を手掛かりに考える」という視点も必要です。図書室に行って本を読み込むことだけでなく、Webサイトで調べることも大事でしょう。それぞれの特性をしっかり把握した上で、子どもたちに最適なタイミングで使わせるのが先生の役目になると思います。

深い学びに向けては、子どもたちは、今まで習ってきた知識を相互につなげる視点が必要です。ですから先生は、そういう瞬間を演出しなければなりません。さらに、先生は教材の価値を把握するという視点で、学習していることが世の中の役に立つ、やって良かったと子どもに思わせる場面を用意する。そういった示唆を与えるのは、学校外の人ということもあると思います。ですから、先生はストーリー立てて準備をし、さまざまな知識がつながる深い学びによって、子どもたちに「もっと知りたい」と思わせる。そういう意欲を育てることも大切になってきます。

授業デザインとは、「単元の中における学びの場面設定や組み立て」です図2。主体的・対話的で深い学びに向けた授業デザインは、授業者である先生と、学習者である子どもたちが双方向に働いて初めて実現できるものです。さらに、地域の方などさまざまな人が参加することで、学習がより深く、より広くなっていくだろうと思います。そしてそのなかで、資質・能力の獲得や生きる力の育成がなされていくのです。こういったことを実現するためのツールとして1人1台端末を活用するのが、正しい使い方なのだろうと思います。

図2

個別最適な学び、協働的な学びには1人1台が欠かせない

さらに、中教審答申では、個別最適な学びと協働的な学びを一体的に充実させることが、主体的・対話的で深い学びを実現するとしています。

個別最適な学びは、「指導の個別化」と「学習の個性化」に整理できます。中教審答申には、「指導の個別化」について「一定の目標をすべての子どもが達成することを目指し、異なる方法等で学習を進める」とあります。従来の授業の形で、クラスの40人が異なる方法で学習に取り組んだとしたら、先生は到底指導しきれません。これを実現するには、先生があらかじめいくつかの異なる方法を準備し、子どもたちが選ぶ、という形で学びを進めていくことが必要です。それには1人1台端末が欠かせません。さらに、ハードウェアだけでなく、異なる方法で学習を進めるためのコンテンツを用意する必要があります。

今1人1台端末というハードウェアが整いました。ですからこれからは、デジタル教科書をはじめとするさまざまなコンテンツが整備され、多様な教材が学校に入ってくることになるでしょう。それがゆくゆくは「異なる目標に向けて、学習を深め、広げる」という「学習の個性化」につながっていくのです。しかし、コンテンツだけで学習を深め、広げるということは難しいので、外部の方が参加するなど、さらにさまざまなものを追加していく必要があると思います。

協働的な学びでは、異なる考え方が組み合わさることで、より良い学びを生み出すことができます。子どもたち同士でも異なる考え方は当然あると思いますが、そこに大人や違う地方の方、さらに、外国の方も参加するとなれば、文化背景が違うので、より良い学びが出てくる可能性があります。そういうものを準備してあげたいです。やはりそのためには1人1台端末やネットワーク環境など、人とつながれる環境がなければなりません。ですから、先生方は学びをコーディネートするということも当然ありますが、そのために必要なことを整えていくということにも、できれば力を発揮してほしいと思います。

先生のこれからの仕事は「学びを設計」すること

図3は授業から次の授業までのサイクルを示したものです。今までは主に授業の中でさまざまな学びを行ってきましたが、1人1台端末を学校でも家庭でも使うという前提に立ったとき、「授業」「振り返り」「復習」「探究」「予習」というサイクルを考えることができます。このサイクルの中で、子どもたちがどのように学んでいくのか予測してプランを立て、それぞれの段階に必要なものを準備して子どもたちに提示し、取り組ませることが大切です。もちろん、教科書や副教材、Web上のコンテンツなどを提示した場合、AさんとBさんでは、使う教材が異なったり、使用しないコンテンツが出てきたりということもあるかもしれません。

図3

このサイクルをもう少し簡略化すると図4になります。これからは授業設計ではなく、学びの設計をしていきましょうということです。「学び」はさまざまなところにあるものです。さまざまなところとは大きく、「家庭」「授業」「その他」に分けられるでしょう。授業をしたら、次の授業までの間に、子どもたちは家庭や通学の電車の中など、さまざまな場所でさまざまな経験をします。そこで何かを学んだり、何かを発見して「なるほど」と思ったり、「もっと知りたい」と思ったりするかもしれません。また、子どもにそのように思わせるためにはどんなストーリーが必要なのか、といったことを考え、学びの設計をしていくことが先生のこれからの仕事だろうと思います。

図4

机の上で行われていた「協働」「対話」「評価」がクラウドへ

1人1台端末は、単なるツールに過ぎません。今、そのツールがほとんどの子どもたちに与えられ、先生も使えるような状況になってきたところです。これまで学習は机の上で行われていました。ですがこれからは、クラウド上にコンテンツがあり、子どもたちが協働で編集したり、互いに意見を伝え合ったり、先生からサジェスチョンや評価を受けたりということが行われていきます。1人1台端末が整備されて安心するのではなく、こうしたことができるクラウド環境を、学校または自治体がきちんと整備しておかなければ、子どもたちの学びは進みません。

先生は、問題の発見・解決のサイクルのなかで、主体的・対話的で深い学びに向けて効果的にICTを活用できる場面を把握し、使っていかなければなりません。1時間の中で端末を使い続ける必要はなく、もしかしたら5分だけ使うことが最も効果的だという授業もあるかもしれない。それは先生の授業設計・学びの設計によるということです。

そのためには、どこで、何を、どのように使うかということを先生が理解していなければなりません。提示・掲示するには大型提示装置が必要ですし、交流にはカメラ・マイク・スピーカ、協働制作する場面ではクラウドの環境がなければ難しいです。職人が道具の使い方を熟知していて、一番適したところで一番適した道具を使用するような、そういった使い方がICT活用の正しい姿なのだと思います。

導入期は教材の配付・回収ができ、セキュリティが高い環境を整える

1人1台端末が整備され、現在はICT活用の導入期だといえます。まずは、教材の配付・回収や動画の視聴などに活用していただければいいと思います。ほかの学校で進んだ使い方をしているからといって、いきなりそれを取り入れる必要はありません。

ただ、活用の段階に応じて必要な施設や環境があることを認識しておくべきです。例えば導入期であれば、安定したネットワークはもちろんですが、セキュリティも欠かせないものです。子どもたちのデータは絶対に外部に漏れてはなりません。ですから、セキュリティが強固ではないプラットフォームを使用することは、教育上は考えられないことです。加えて、柔軟な学習基盤やAIなどの実装も必要です。

もう少し進んだ初期では、意見交換や協働するための環境が必要です。子どもが考えを共有したり、協働で作業したりする環境も要ります。中期では、思考力・判断力・表現力を養うために、クラウドサービスや外部人材の活用も必要でしょう。最終的には創造性として、広大なVR空間にみんなで入って交流することなども考えられます。

最初から無理をせずにベーシックなところから始めて、だんだん発展させていってほしいです。その時々で、新しい施設や環境が必要になることを見据えながら、活用を進めていただければと思います。

これからは1人1台とクラウド環境がある「前提」で学びを設計する

冒頭にもお伝えしましたが、「これからの社会ってどうなるの?」「そこで何が必要なの?」という視点で、子どもたちに必要な能力を考えていかなければなりません。そして、それを各学校で、スクールミッションやスクールポリシー、カリキュラム・マネジメントとして取り組んでいくことになるのだと思います。つまり、子どもたちに必要なものを考えたときに、授業設計や学びの設計がしっかりなされていくということです。

これから大事なことは、ICTがある「前提」で設計をするということです。今までのものにプラスするのでは、仕事が増えるだけです。1人1台端末とクラウド環境があるという「前提」で、授業をどのように作り、学びを設計していくか。先生方には、それにしっかり取り組むことが求められます。

そして、授業評価についても、これから1人1台端末の活用度が高くなっていくと思います。文部科学省も、教育データの活用に今後、しっかり取り組まなければならないという認識を持っています。先ほどお伝えしたように、クラウド環境や協働学習のプラットフォームをはじめ、評価に向けたデータを活用するためのシステムなどが、これからどんどん整備され、学校に取り入れられていく。そして、それを使ってより良い学びの設計が行われていくでしょう。

1人1台端末の活用は、ハードウェアを活用するということだけではありません。プラットフォームやソフトウェアが合わさった新しい環境を使うことで、子どもたちと私たちの学びが向上していくのです。皆さんがこれまでに取り組んできたことをベースに、新しい環境をどう使っていくか、これを皆で考え、シェアし、そして、お互いにより良い授業を提供していく。そういう形で進めていくのが、これからの学習だと思います。

(2023年2月掲載)