学習指導要領 / 教育の情報化

INTERVIEW

メタ認知を高め、自己調整力を育む

「振り返り」を再考する

「子どもたちが学びとる授業」の実現のために

前田 康裕

熊本大学大学院教育学研究科 特任教授
熊本市の公立小中学校教諭、熊本大学教育学部附属小学校教諭、熊本市教育センター指導主事、熊本市立向山小学校教頭、熊本大学教職大学院准教授、熊本市教育センター主任指導主事を経て、2022年4月より現職。

授業の方法を変えるだけでは実現しない「主体的な学び」

「学ぶ」とは何か?「習う」との違いは何か?

まず初めに、皆さまに今一度考えていただきたいことがあります。それは「学ぶ」とは何だろう? また、それは「習う」とはどう違うのだろう? ということです。私は、教師自身がこうした問いを立て自分の中に答えを持つことが、とても大事だと考えています。この問いに対して、私は「習う」と言う場合は内容が先に決まっていると考えています。例えば「筆順を習う」「三味線の弾き方を習う」といったときです。一方で「学ぶ」と言う場合は「あの人の生き方から学ぶ」「失敗から学ぶ」というように、あらかじめ内容が決まっていることばかりではありません。むしろ、自分自身で意味づけ、価値づけることによって学びが成立するものが多いと言えるでしょう。

もちろん学習というのですから、習うことによって知識や技能を習得することはとても大事です。しかしそれ以上に、学ぶことで自ら気づきを得て、自分を変えようとすることが重要と言えます。

自分の認知の仕方が分かれば、学び方が変わる

学びのために大切なのが「メタ認知」です。皆さまもご存じのとおりメタ認知とは、理解する・考えるといった自分の認知能力を客観的に認知する能力です。

子どもの頃、私は歴史が苦手でした。しかし、大人になってから気づいたことがあります。当時の私は、時代劇をほとんど見ていなかったのです。そのためか、どれだけ教科書を読んでも歴史上の出来事やその背景がまったくイメージできずにいました。しかし、中学生のときに「漫画:日本の歴史」を読んでみると理解できるようになったのです。つまり私の場合、物事はビジュアルを通して覚える方が合っていたのです。そして高校生になってからは、歴史上の出来事を漫画で描くようになりました。すると、教科書を読むだけでは理解できなかったことが、どんどん分かるようになっていきました。

このように、ひと口に学習経験といっても子どもによって千差万別ですから、1人ひとりが「自分の認知の仕方」を理解することが非常に大事です。そして、自分の苦手と得意を理解することで、自分に合った学び方が分かるようになっていきます。

学ぶこと自体に興味や関心が持てるよう働きかける

もう一つ考えていただきたいのは「主体的な学び」とは何か、ということです。この点について、学習指導要領解説(総則編)には「学ぶことに興味や関心を持ち,自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら,見通しをもって粘り強く取り組み,自己の学習活動を振り返って次につなげる」と示されています。すなわち、興味や関心の対象は「学ぶこと」それ自体だということです。つまり「学ぶって面白い」「新しいことを知るって楽しい」という気持ちです。

これは、教師が授業の方法を変えればすぐに実現できるというものではなく、子どもたち1人ひとりの意識を変えていかなければならないのです。ですから、少なくとも小学校の段階では、「学ぶということは、こういうことだよ」と教師が教える必要があるだろうと思います。

図1「子どもが学びとる授業」の概要

図1のように子どもたちが出発点となる「子どもが学びとる授業」では、「めあて」と「対話」と「振り返り」が重視されます。

図画工作や美術でポスター作りをする授業を例に考えてみましょう。このとき、単にテーマだけを決めてポスターを作るのではなく、それぞれに優れたポスターを集めて持ち寄り、どんなキャッチコピーを用いているのか、どういう色使いで、どういう写真を使っているのかなどを話し合いながら制作する活動を行うとします。

こうした活動の背景には、仲間が集めたそれぞれの情報を認め合うことやコミュニケーション力を高めることで、学びに向かう力を育んだり、人間性の涵養を図りたいといった教師の意図があるわけですから、それをルーブリックのような評価基準に整理したものに落とし込むと、誰にでも分かりやすく伝えられます。それを授業の最初に子どもたちと共有することで、子どもたちがめあてを立てるときに「活動を通して、自分は何を学ぶのか」を意識させることができます。その上で教師による指導と支援があり、活動が終われば振り返りを行い、それらに対して個別の形成的評価を重ねることで、子どもたちのメタ認知の力を高めていくことができます。

「振り返り」は、まさにその人の学びそのもの

振り返りは認知の仕方なので、教えられるものではない

次に、振り返りについて具体的に考えたいと思います。例えば、新聞を制作したとき「新聞を作りました。楽しかったです」では振り返りにはなりません。活動内容と感想だけで、何も気づきがないからです。「振り返り」は英語で「リフレクション」と言いますが、直訳すれば反射という意味であり、内省や省察と訳されます。つまり、自分の姿を鏡に映して観察するように、自身の学びを省察することを指します。

図2メタ認知を促す振り返りの記述例

図2は、振り返りの記述例です。例えば「文章を短くすることの大切さを学んだ」というのは、学習内容に関する気づきです。また「次は時計を見ながらやりたいです」というのは学習方法に対する気づきです。このように気づきの中心は、学習内容と学習方法になります。それ以外にも「社会で見学した、記者さんの工夫の意味がよく分かりました」と、ほかの経験や学習と結びつけた気づきであれば、より学際的になるでしょう。加えて「○○さんが“いいね”と言ってくれた」といった友達の言動から得る気づきもあると思います。

いずれも、子どもたちが自分を変えようとしているかどうかが大切です。学習活動などの具体的な経験を、振り返りによって省察して言葉にすることで概念化し、次の試行につなげていくという経験学習モデルによって、自分の経験をほかの場面でも応用できるようになっていきます。

しかし、振り返りは認知の仕方なので「こうしなさい」と言って教えられるものではありません。子どもたちが学びとるしかないのです。例えば、ある子が「○○さんがいいねと言ってくれて、話しやすくなった」と書いたら、それを「良い振り返りですね」と形成的評価を行い、それを全体で共有することで「自分も同じようにしよう」と、ほかの子どもたちも気づきを得る。その繰り返しが必要です。ですから、振り返りでは知識を言語化するだけではなく、感情や人間関係も言語化して共有することが大事です。

子ども自身が自分の変化を実感できる仕組みをつくる

図3「自己評価カード」 取り組みを継続することで、振り返りの力が付いていることが見て取れる

振り返りは、仕組みをつくって継続することが何よりも重要です。図3は「自己評価カード」と呼び、私が活用していた振り返り用のひな形です。まず先述のルーブリックを基にして、中央にめあてと学んだことを記述します。その隣のチェック欄は教師による評価です。

自己評価カードを作ったばかりのころは、評価欄にコメントを書き入れていました。しかし、毎時間全員分のコメントを書くのは本当に大変な労力が必要でした。振り返りや形成的評価は継続できなければ意味がありません。そこで図3のようにチェックを入れる形式に変更しました。すると子どもたちは「もっと書こう!」や「何を学んだの」などのチェックをなくしたいと頑張るようになり、意外にも反応が良くなったのです。

そして、特に優れた振り返りには星印を書き入れて返却し、その子たちに発表してもらいました。ほかの子どもたちはその発表を聞いて、どんなことを、どんなふうに書けば良いのかを学びます。それを何度も繰り返しているうちに、自分の振り返りに星印がつくようになると「やったー、星だ!」と喜び、さらに書く意欲が増していきました。次第に星印がつく子が増えていくので、次は星印を丸で囲むなどして、少しずつ評価のレベルを上げていくような工夫をして、その単元が終わるまで続けていきました。

興味深いのは、ほかの子の発表を参考にして書けるようになった子だけではなく、最初に良い振り返りをした子も、最初の何倍も良い振り返りができるようになっていくことです。互いに気づきを得ながら、自分の学びについて考えを深めていく姿に、振り返りはその人の学びそのものだと感じました。

図3に取り上げたある子どもの例では、9月の時点(左)は記述の量も少なく内容も乏しいものでした。しかし、わずか3か月後(右)には、ここまで書けるようになりました。これは伸びが分かりやすい例ですが、何よりも子どもたちが自分の変化を実感できることが大きなポイントです。

メタ認知の力を育むには、教師が振り返りから学ぶことが必要

子どもたちの問いからスタートすれば、常に振り返りが必要に

もう一つ常々感じているのは、メタ認知の力はメタ認知ができる人にしか伸ばせないということです。つまりそれは、教師自身も振り返りによって学ぶことが求められていることを意味します。

私は、校内研修の講師を務める機会が多いのですが、参加された先生方に伺うと、ご自分の授業に問題意識がない先生はほとんどいません。一方で「それらを、どのように改善していけばいいと思いますか?」という問いに、すぐに答えられる人は多くありません。そのなかで、ある英語の先生が「ほかの教科の授業を見る」という提案をしてくれました。学習内容だけを見るなら、他教科の授業からは学べません。しかし、どのようにめあてを立て、対話や振り返りをどうやって進めているのか、グルーピングの仕方や学習課題の設定はどうなのかといったことは他教科からも気づきが得られるはずです。

ここで、先述の経験学習モデルに当てはめれば、振り返りの際に少しだけ抽象度を上げて言語化することで、概念化(一般化)することができます。もし抽象化しすぎて「学習課題が大事」としてしまえば、「そのとおりだ」という話で終わってしまいますし、逆に具体的すぎると一般化しにくくなります。バランスを見ながら掘り下げていけば「それならば、自分の授業はどう改善できるだろうか」という視点が生まれます。それを実践した結果として、子どもたちの変化が感じられてこそ、教師も変われるのだと思います。

別の校内研修では探究的な学びについて考えるため、先生方にあるシャッター商店街の写真から問いを立ててもらいました。私は特に「シャッター商店街」という言葉を使わずに示したのですが、先生方は「なぜシャッターが閉まっているか?」「都会にもこういう商店街はあるだろうか?」「どうすれば人が来るのだろう?」といった問いを立てていました。しかし、同じ写真を子どもたちに見せると「なぜ屋根があるの?」「商店街って何?」「どんな目的で作られたのか?」という問いを立てたのです。そこから、商店街はいつからあるのだろう、アーケードの設置には誰がお金を出したのだろうと話が広がり、この場所に行ってみよう、話を聞こうと発展していきました。

子どもたちの問いからスタートさせると学習活動がどこへ向かうのかが見えないため、教師は常に振り返りを行いながら次の行動を考えることになります。それは、主体的な学びを実現するためには、教師も子どもたちの活動から学んでいくことが必要となっているということだと思います。

授業におけるデジタルデータの活用の利点は、
「共有」「集積」「見える化」だと思っています。

ICTによって、より高度な振り返りが実現すると期待している

1人1台端末が整備され、学校のICT環境は大きく変わりました。私は、授業におけるデジタルデータの活用の利点は、「共有」「集積」「見える化」だと思っています。

すでにご説明したとおり、振り返りはほかの子どもたちと共有することで大きな意味を持ちます。しかし、紙の自己評価カードでは、星印をつけた子に発表させるだけで時間がなくなってしまいます。ここで、ICTを活用すれば瞬時に全員の振り返りが共有できるようになります。発表した子の振り返りだけではなく、ほかの子どもの振り返りからも気づきを得られるようになることで、さらに多くの触発につなげられると思います。

また、学びの記録をデータとして蓄積していけることもポイントになります。私は、以前「アートポートフォリオ」という取り組みをしていました。図画工作や美術などで子どもたちの作品を撮りためて、自分だけの作品集を作るのです。子どもたちの中には、自分と他人の作品を比べて自信をなくしてしまう子もいます。しかし、制作の過程や工夫した点などを書き添えて蓄積していくことで、自分自身の成長や変化に注目が向きます。以前は、教師だけがデジタルカメラを持っていましたが、今は子どもたちが1人1台のタブレット端末を持っています。タブレット端末なら動画も撮影できるので、スピーチの様子や体育の実技などにも活用の幅を広げられるのではないでしょうか。

これはどこまで実現できるか分かりませんが、見える化にも期待しています。観点に基づいた評価を数値化し、それをグラフにすることで自分自身の変化を視覚的に感じとれるようになれば理想的だと思います。

紙の自己評価カードの写真をご覧いただくと分かるように、1枚のカードには複数回の振り返りが書けるように記入欄が連なっています。これは、子どもたちに自分の変化を感じてもらいたいからです。そういう意味でICTを活用した振り返りにおいても、1回の振り返りで終わるのではなく、一覧性を高めて学びの記録が俯瞰できるようにすることが重要だと思います。

いずれにしても、振り返りの本質から見ればICTだからこそ実現できることは多いと思いますので、今後の機能開発に大いに期待しているところです。

「学び」とは、自ら意味づけ、価値づけていくこと

今回の話の中で「友だちの言動から得た気づき」についても触れましたが、私は振り返りの中に、ほかの子どもの名前が登場することが重要だと考えています。例えば「○○さんがいいねと言ってくれて、とても話しやすくなったので、次は自分も同じようにしようと思う」という気づきを取り上げ、それを良いことだと共有することは、単純に活動や経験を言語化する以上に、人間的な成長を促すことにつながります。

学習指導要領では、子どもたちが身に付けるべき力を「学力」とは表現せず「資質・能力」と表しました。それは、これからの時代を生きるために必要な力です。自らめあてを立て、対話によって自分の意見を外に出す。そして他者を尊重し、そこから新たに知識・技能を高めたり、思考力・判断力・表現力を伸ばしたり、学びに向かう力を育み、人間性の涵養につなげていく。

こうした一つひとつの「学び」にとって、それらを的確に意味づけ、価値づけていく力を育むために、ぜひ、皆さまにも振り返りの在り方についてあらためて考えていただければと思います。

著作紹介

まんがで知るデジタルの学び ICT教育のベースにあるもの (さくら社)

シリーズおなじみの吉良先生、今回は1人1台時代に突入した小学校に赴任しました。教員は明るく前向きな初任者からEdTechに強いスマートティーチャー、定年間近の昭和ティーチャーと多彩。子どもたちはそれぞれの個性を放ちながら、情報端末に馴染んでいきます。
様々な問題に直面しつつ、それを乗り越えて成長していく教師と子どもたち。その背景には、デジタル社会になっても変わらず受け継がれる教師のあり方が描かれています。

2021年12月28日発売 A5判176ページ 本体価格1,800円

本稿記載の図版の一部は、本書より引用しています。

(2022年10月掲載)