学習指導要領 / 教育の情報化

INTERVIEW 1人1台端末の活用でめざす高等学校の新しい学び 「生徒の時間軸」で捉えて「生徒が主語」となる学習活動に

令和4年度、年次進行で学習指導要領の実施が始まった高等学校では、現在1人1台端末の整備が進められています。新たなICT環境の中で高等学校における情報活用能力の育成の中核を担う「情報科」や、情報科とほかの教科等の連携について、国立教育政策研究所 教育課程研究センターの田﨑 丈晴 教育課程調査官(情報担当)にお話を伺いました。

丈晴

国立教育政策研究所 教育課程研究センター 教育課程調査官
文部科学省 初等中等教育局 修学支援・教材課 / 教育課程課 情報教育振興室 教科調査官
文部科学省 初等中等教育局 参事官(高等学校担当)付 産業教育振興室 教科調査官

高等学校においては、
より強く「普段使い」を意識してもらいたい

高等学校における1人1台端末の整備状況について

高等学校では、令和4年度から年次進行で新しい学習指導要領が実施されています。新年度を目前に控えた令和4年3月25日の末松 信介 文部科学大臣の会見におけるメッセージ※1の中で「新学習指導要領を着実に実施し、全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びを一体的に充実するためには、高等学校教育においてもICT環境の整備とその活用は必要不可欠です」と述べられているとおり、現在各自治体において高等学校の1人1台端末の環境整備が進められています。

整備費用は設置者負担(24自治体)と保護者負担(23自治体)に分かれますが、公立高等学校では令和4年度の1年生用の端末については、どの自治体でも整備が完了する見込みです。なお、全学年一斉に整備した自治体以外では、令和5年度、6年度と年度ごとに引き続き整備していくと伺っています。

特定の教科等にとどまらない日常的な活用を

これらの環境整備と同時に、ICT活用をしっかりと推進していくことが重要です。文部科学省が令和4年3月3日に公表した局長通知※2で、1人1台端末等のICT環境を活用するための方針を示していますが、これは令和3年度に5回にわたり開催した「GIGAスクール構想に基づく1人1台端末の円滑な利活用に関する調査協力者会議」での意見をとりまとめたものです。この中で「特定の教科等のみでの活用にとどまらず、日常的にICTを学習に活用することが重要である」と示されているように、いわゆる「普段使い」を意識することが大事です。特に高等学校においては小・中学校以上に普段使いを強く意識して取り組んでいただきたいと考えています。

普段使いということですから、先生から「使いましょう」と指示されてから使うのではありません。例えば、先生が説明したことをもう少し詳しく知りたいと思えば、その場でタブレット端末を取り出して検索するといったことが当たり前に行われるべきです。生徒自身が今知りたい、解決したいと考えた結果の取り組みであれば、それは自分のペースでの学びのために活用しているのですから、個別最適な学びという視点でも認められなくてはいけませんし、むしろ応援するような気持ちで接していただきたいと思います。

先述の局長通知でも、情報モラル教育の文脈の中ではありますが「自他の権利を尊重し、ICT端末等を適切に扱う責任を児童生徒が自覚できるよう指導を充実するとともに、課題に対処するために児童生徒が自分で考え、解決できるように指導を工夫すること」と示されています。高等学校では生徒の自立に向かって指導していくわけですから、こうした活用の在り方こそ、ぜひ実現していただきたいところです。

  • 令和4年3月25日会見『高等学校等の新学習指導要領のスタートを契機とするこれからの高等学校教育について』(全ての高等学校教育関係者の皆様へ、文部科学大臣からのメッセージ)
  • 令和4年3月3日公表『GIGA スクール構想の下で整備された学校における1人1台端末等の ICT 環境の活用に関する方針について(通知)』

情報活用能力の育成の中核を担う情報科の位置づけ

カリキュラムマネジメントの考え方で整理する

学習指導要領では、情報活用能力は言語能力などと共に学習の基盤となる資質・能力に位置づけられており、すべての教科等で身に付けるべき力としています。その育成の中核を担うのが情報科です。ここで重要なのは、情報科が担うのは「中核」であり「すべて」ではないということです。情報活用能力をどのように育むのかについては、校長先生をはじめとする先生全員の共通理解が必要なため、カリキュラムマネジメントの考え方に基づいてしっかりと整理しておく必要があります。

生徒が情報科の学びを通じて培った力を総合的な探究の時間も含めたほかの教科等でも活用されるよう意図的に計画し実践するということです。例えば、数学Iではデータの分析を学び、情報Iではデータの活用を学ぶなど、学習内容に深い関連があります。そのため、数学Iではいつどのように学び、それを受けて情報Iではいつどのように学ぶのか。その連携がよくできているかどうかによって、得られる教育効果は異なります。

また総合的な探究の時間は、学校の実情に応じて運営されているかと思いますが、その際にほかの教科等の先生とのコミュニケーションがどこまで円滑にできているかが、重要なポイントになります。特に高等学校は教科担任制で教職員の人数も多いため、意識的に共通理解を醸成する取り組みが求められます。

ほかの教科等との連携により情報活用能力を育成する

図1
[出典] 文部科学省 StuDX Style (https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/new-cs/mext_01592.html)
[資料名] STEAM教育等の教科等横断的な学習の推進について

Webサイト「StuDX Style」のSTEAM教育のコーナーに掲載されている資料図1には、総合的な探究の時間の構造イメージが示されています。ここで情報活用能力は言語能力と共に「教科・科目を越えた全ての学習の基盤となる資質・能力」に位置づけられています。この基礎の上に「探究課題を解決することを通して育成する資質・能力」が位置づけられています。

つまり、情報科を担当する先生としては情報科で情報に関する学びを通して身に付けた資質・能力が、総合的な探究の時間にどのように生かされるかを考え計画的に授業を行うことが十分考えられます。それは言語能力を養う中心的な教科の先生の場合も同様です。ただし、これらの資質・能力は学習の基盤ですので、基本的にはすべての先生が、自身が受け持つ教科等の特性の中で育む情報活用能力・言語能力が、総合的な探究の時間で生かされていくイメージを持つと良いですね。

ですから、情報活用能力の育成は、情報科の先生だけが取り組めばいいということではありません。『学習指導要領解説(総則編)』では「各学科に共通する教科である情報科は,高等学校における情報活用能力の育成の中核を担うものであるが,その育成においては情報科と他の各教科・科目等とが相互に関連を図ることが重要であり,また,他の各教科・科目等においても積極的に実施していくことが必要である」と記されているとおりです。加えて補足をすると、これは情報科の先生が中核となって取り組むということではなく、情報科の授業が中核となることであり、生徒が情報科の学習を通じて養った力をほかの教科等でも活用することで「情報科で学んだことは、大事だったのだな」と実感できるような指導が行われることが望ましいということです。生徒の皆さんには、学習指導要領の共通教科情報科の目標に示されている「情報に関する科学的な見方・考え方を働かせ,情報技術を活用して問題の発見・解決を行う学習活動を通して」身に付けた資質・能力を存分に発揮してほしいと思います。

生徒が、何ができるようになるか
生徒が、何を学ぶか
生徒が、どのように学ぶか
それが大事だということです。

「生徒を主語にした高等学校教育の実現」をめざす

学習用ツールは、どのように活用するのかが重要です

1人1台端末を活用する上で、学習活動を支援するソフトウェアなどの学習用ツールがありますが、大切なのはその使い方です。単にタブレット端末にワークシートを配って取り組ませるだけでは、ICT活用の意味はなさないと言えます。先生と生徒が、1対1あるいは1対多の関係となる使い方では、協働的な学びを実現しているとは言えないからです。学習用ツールの上で、生徒が相互に意見交換しながら、生産的な活動ができるように活用されることが望ましいのではないでしょうか。

『学習指導要領解説(情報編)』を見ると、主体的・対話的で深い学びとは、どのような学びなのかを具体的に示している部分がありますが、いずれの学びにおいても生徒が自ら課題を発見して解決していく学習活動が重視されています。ですから先生も、生徒が取り組む学習活動をどのように支援していくのかという視点で考えなくてはいけません。知識・技能や思考力・判断力・表現力、学びに向かう力・人間性という力を、生徒がどのような学習プロセスを通じて養っていくのか。その生徒のスキルアップをどう支援するかということが、新しい学習指導要領ではより強く求められています。

それは、冒頭にご紹介した文部科学大臣のメッセージの中にある「生徒を主語にした高等学校教育の実現」という言葉に凝縮されています。これは、以前から示されてきた「学習指導要領改訂の方向性」のトライアングルのそれぞれに、主語として「生徒が」をつけて読むとイメージしやすいです。すなわち「生徒が、何ができるようになるか」「生徒が、何を学ぶか」「生徒が、どのように学ぶか」が大事だということです。

ICTを基盤としながらも、生徒自身のペースで、生徒が学び深めたいことを個に応じて支援することが基本となります。もし、一斉に同じことを取り組ませればそれでよいという考え方があるとすれば、それは学習指導要領の考え方に基づいてアップデートすべき部分だと言えます。

学習用ツールも、こうした考え方に基づいた使い方によって生かされるのだと思います。おそらく一斉学習にしか使えないというシステムはないでしょうし、すべての活動を1つの学習用ツールで担保しなければならないということもありません。学校としては、今整備されているICT環境を使って「生徒を主語にした」取り組みをどのように実現していくのかを考えることが大切だと思います。

知的好奇心が刺激されるようなコンピュータ教室も

コンピュータ教室の環境についても同じです。元来コンピュータはどのようにも使える道具ですから、その環境が今後どのように使われるのかは授業者次第、生徒次第ではないかと思います。ただし、学校で生徒が使うICT環境が生徒のイノベーティブな感性を刺激し、クリエーションを促進するような環境になっていることが、Society 5.0がめざす方向性と一致していると思いますので、生徒の知的好奇心が刺激される環境であってほしいです。

『高等学校施設整備指針』の各室計画(第4章)に「図書,コンピュータ,視聴覚教育メディアその他学習に必要な教材等を集中して配置し,生徒の主体的な活動を支える学習・メディアセンター機能を計画することも有効である」といったことも言及されていますので、単にコンピュータが並んでいるだけではなく、探究用の図書も置き、すぐに参照できる環境で活動に取り組んだり、コンピュータとほかの機器を組み合わせて実験・実習に取り組んだりするような幅広い使い方もできるかもしれません。ぜひ、整備指針を参考にしながら主体的な活動を支える環境の充実を図っていただければと思います。

スマート化に向けて進展する時代の人材を育成するために

小・中・高等学校の接続を意識し取り組みを

図2
[出典] 文部科学省(https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/zyouhou/mext_00013.html)
[資料名] GIGAスクール構想のもとでの情報科の指導について

文部科学省では、内閣府の『AI戦略2019』に示されているようにデジタル人材の育成に向け、数理・データサイエンス・AI人材の育成に取り組んでおり、数理・データサイエンスの基礎的リテラシーを小・中・高等学校で身に付けたり、高大接続において入試に情報が追加されたりしています。小・中・高等学校で多くの児童生徒がデータサイエンスやプログラミングの基礎を理解する。その上で、高等学校卒業後、大学などでより専門性が高いエキスパートが育成されるというビジョンを描いています。

初等中等教育では、学習指導要領においてプログラミング教育と統計教育が充実され、小・中・高等学校での連携が強く図られるようになりました図2。今後はプログラミングや統計について、小・中学校で学んだ生徒が高等学校に入学するわけですが、高等学校の先生としてはその流れを受けて、生徒たちの力をさらに伸ばすことを考える必要があります。

Society 5.0の社会を支える存在になってもらいたい

学習指導要領の考え方と関連しますが、子どもたちには、Society 5.0の社会を支える存在となってもらいたいという思いがあります。近い将来、どの分野に就職をしたとしても、コンピュータやネットワーク、インターネット、システム、AI、データサイエンスといったものと完全に無関係な職種はなくなっていくでしょう。「情報I」「情報Ⅱ」は、Society 5.0の社会を支えていくための基本的な素養です。スマート化に向けて社会が進展しているなかで、その時代の人材を育てているということを念頭に置いて指導していただきたいと思います。情報活用能力を身に付けると、若い感性によってさまざまなクリエーティブなアイデアが生まれます。そうした1人ひとりの発想や感性をしっかりと受け止めて、伸ばしてあげられるようにご指導いただければと思います。

私は、新しい取り組みとは、新しい世界を開拓することだと考えています。先生たちにとっては、新しい教育にチャレンジすることで、新たな教育観が得られるかもしれません。生徒たちにとっては、小・中・高等学校で身に付けた力をイノベーティブな活動、クリエーティブな活動に生かすことで、これまでにない価値を提案する人材となっていくこともあるでしょう。小・中・高等学校で教育を受けた1人ひとりが、クリエーティブな発想で世の中を変える力を持ち得るのです。それを、先生たちのモチベーションとしていただければと思います。

多くの児童生徒が、そのための基礎的な力を小・中・高等学校で身に付けるということに、私は大きな期待を持っており、ぜひイノベーティブな人材を育成してほしいと願っています。

課題の発見と解決の活動には「失敗」という言葉はない

改善プロセスの繰り返しのなかで到達状況を評価する

「生徒を主語にした」といっても、生徒に任せることに不安を感じる先生もいらっしゃると思います。それは、生徒に失敗をさせてはいけないのではないかという気持ちがあるからではないでしょうか。

しかし、自ら課題を発見して解決する活動は、どこまでも改善の繰り返しです。観点別学習状況の評価も、改善に向けたプロセスを繰り返していくなかで、到達状況を見て評価するわけですから、本来「失敗」という言葉はないはずです。一度で、うまくいったのか、いかなかったのかを判断するから成功と失敗に分かれてしまうのであって、あらためて改善に向けた学びを繰り返し、より良い方向をめざせばいいのです。もちろん、最初から「失敗してもいい」とやみくもに取り組ませればいいということではありません。あくまでも「より良い」をめざして取り組むことが前提です。

生徒の時間軸で考え、タイミングを見極める

そういう意味で、生徒の探究活動や課題解決活動をしっかりと見取ることがとても重要になります。生徒1人ひとりの取り組み、学習状況を見て「少し助言が必要かな」と感じたときに手助けをする。改善に向けた活動が活性化するほど、生徒がアクティブになっていきます。そして、生徒が考えたとおりできるようになっていく過程が見えるのですから、先生としてもこれほどうれしいことはないと思います。

もし生徒が「何を手掛かりにして改善すればいいのか分からない」という状況であれば、指導方法を見直すことが必要なのだと思います。ポイントとなるのは「タイミング」ではないでしょうか。生徒たちが「説明がほしいタイミング」もあれば「放っておいてほしいタイミング」もあります。それは、生徒個々に違いますので、実習に取り組ませている間に「説明を聞きたい人はおいで」と声を掛けることも効果的です。あくまでも生徒の時間軸で考えることで、アクティブラーニングにつながっていきます。

とはいえ、生徒が求めているものが目に飛び込んでくるようになり、感じ取れるようになるのは、簡単なことではありません。指導と評価の一体化のサイクルを回し授業改善を繰り返していくしかないと思います。しかし、新しい学習指導要領は、すべての先生がアクティブラーニングに取り組むことを求めています。大切なのは先生たちも改善を繰り返すことです。先生にも「失敗」という言葉はないのです。

先ほども申しましたが、情報活用能力が身に付けば生徒自身の感性によってクリエーティブなアイデアが生まれてくるはずです。生徒の内側からあふれてくる思いの下で現れる創造性というものは、やはりエネルギーが違います。ですから先生には、生徒の力を認めて、生徒たちをよく見取り、生徒の時間軸でタイミングをつかみ、資質・能力が身に付くように導く、生徒の学びのよき伴走者となってほしいと思います。

(2022年8月掲載)