学習指導要領 / 教育の情報化

高等学校における探究と評価 INTERVIEW 各教科の授業で探究的な学びを 「情報活用型プロジェクト学習」を通じて

稲垣 忠

東北学院大学 教授

高等学校は新学習指導要領全面実施。
探究的な学びの実現へ

昨年度で、GIGAスクール構想による児童生徒1人1台端末の環境が、全国の小中学校で整いました。まだハードウェア面、ソフトウェア面でさまざまに課題があるものの、今後、文部科学省による補助などによって着実に課題は解決されていくものと思います。

高等学校でも1人1台端末環境の実現に向けた動きが進んでいますが、今年度から全面実施となった高等学校新学習指導要領(以下、新学習指導要領)に基づく教育課程がはじまりました。

今回の改訂の目玉は探究です。高等学校だけ「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」という名前に変わったことをはじめ、「古典探究」「地理探究」「理数探究」など、探究とつく科目が非常に多く設けられています。今回は、主体的・対話的で深い学びや観点別評価など、本当に多くの変化が起きていますが、探究学習については多くの先生が頭を悩ませています。

探究は、教育課程における究極のゴール

そもそも、なぜ新学習指導要領にこんなにも多くの探究学習が盛り込まれているのでしょうか。その意図をあらためて確認したいと思います。

まず今、人生100年時代といわれるように、人々の平均寿命は延びています。一方、日本の高校生の大学等への進学率は半分程度です。高等学校は学校教育の一区切りとして、社会の中で学び続け、長く続く人生を豊かに送ることができる姿勢と資質・能力を培うことが重要です。

したがって、高等学校で多くの探究科目が設けられているのは、探究を通じて「自ら問題を発見して解決する力」や「学び続ける力」を育み、変化の激しい社会を生き抜く力を生徒に身に付けさせたい、という意図があります。これは新学習指導要領で示される資質・能力にも反映されています。

ですので、探究し続ける人になることが教育課程における究極のゴールであるといっても、大げさではないと思います。

進学校から工業、商業、農業高等学校まで広がる探究学習

では、高等学校では具体的にどのように探究が進んでいるのでしょうか。多様性に富む高等学校の状況を一概には語れませんが、例えば、進学校で探究学習を精力的に取り組む学校がかなり増えています。その背景には、探究することが深い学びに結びつくことや生徒のキャリア形成にとって大事な学びであるという認識が広がっていることが挙げられます。

また、探究学習は大学教育における学びととても相性が良く、そこで培われた力は大学で大いに発揮されます。実際、今、大学教育で注力しているのは、問題発見・解決できる力やさまざまなデータを読み解き活用できる力をもった創造的な人材の育成なのです。

このように、大学が求める学生像が変化しているわけですから、大学入試の制度や出題内容は大きく変化しています。多種・多量のデータや会話文の中から情報を読み取り、その場で判断するような問題が多く出されるようになっています。これまでのように教科の知識を一定量持っているだけでは解くことができません。持っている知識を使って、さまざまな情報と比較して考え、判断できる力まで求められています。

一方で、進学校以外の、比較的地域とのつながりが強い公立の工業、商業、農業高等学校などでも探究学習は盛んです。その地域の新たな街づくりや新しいビジネスを支える人材の育成に向けて、「課題研究」を中心に探究学習を積極的に取り組んできました。そうした学校では、これまでのノウハウを生かして、より実社会と密接に結びついた探究学習の実践が各地で報告されています。

教科の単元レベルで行う探究学習が必要

ひと口に探究学習といっても、探究学習にはさまざまなレベルがあります。例えば総合的な探究の時間や課題研究のように、半年、1年かけて、地域や町あるいは大学とつながって大規模に展開されるもの。逆に、日々の教科、科目の授業において、単元レベルの短いスパンで取り組む探究学習もあります。

しかし、高等学校では、後者の教科、科目の単元レベルで探究的に学ぶ機会があまりありません。

従って、生徒は総合的な探究の時間や課題探究の時間になると、突然「自ら問題を見つけて、問題を解決しなさい」と言われ、まったく性質の異なる学びが求められています。このギャップに戸惑う生徒は少なくありません。日々の授業、つまり教科、科目の学びと総合的な探究の時間や課題探究などとの間を取り持つような、単元レベルでの探究学習が必要です。

そもそも新学習指導要領でいわれる「主体的・対話的で深い学び」の「深い学び」には、探究が含まれているわけですから、教科の学びを探究的にすることが望ましいことは間違いありません。

けれども「教科の授業で探究をすると、授業時数が足りなくなる」「探究に一歩踏み出したいが、授業のイメージがもてず、なかなか踏み出せない」といった、先生方の悩ましい声もたくさん伺います。

そうした先生方にご紹介しているのが「情報活用型プロジェクト学習」という単元レベルで取り組む探究学習です図1

図1情報活用型プロジェクト学習の基本構成

「情報活用型プロジェクト学習」で教科を探究的に学ぶ

情報活用型プロジェクト学習では、課題に対して、子どもたちが主体的に情報を集め、吟味し、じっくりと考えて編集、創造し、切実感を持って他者と伝え合うという学習展開を基本にしています。そのため「収集」「編集」「発信」の学習展開を単元の原則とします。

また収集、編集、発信の前後には、「課題」「評価」と記しています。情報を集める目的となる課題とその評価をセットにして考えるのです。

そして単元全体を貫く「プロジェクトのミッション」を設定します。そもそも探究学習とは、何かしら問題状況があり、それに対して自分なりに考えて、情報を集めて解決していくものです。それを教科で展開するのですから、最終的に教科の学びに落とし込めるような活動の目的、プロジェクトのミッションを設定して学級全体で共有することが重要です。例えば地理であれば、「地域の課題を解決しよう」といった内容です。ミッションを手がかりに生徒たちは課題を設定する練習をします。

生徒の思考過程をシミュレーションする「学習活動カード」「単元デザインシート」

私が主催する勉強会やワークショップでは情報活用型プロジェクト学習を構想する際に、「学習活動カード」と「単元デザインシート」を用います図2-1

図2-1単元デザインシートの例

「学習活動カード」は、aからzまで全26種類あり、これらを収集、編集、発信の各段階で並べて考えます。

図2-2学習活動カード

各カードには2つずつ「問い」が書いてあります図2-2。例えば収集場面の「h.統計資料」のカードには、「何の情報?」「何を読み取る?」という言葉が書かれています。この問いを基に、教員は生徒の学習活動をプロジェクトに合わせて具体的に考えます。つまり、先生が生徒の思考の過程、探究の過程をシミュレーションしながら単元を考えるのです。

生徒の思考の流れが見えた後、探究を支える情報活用能力、単元目標とプロジェクトのミッションを組み合わせたルーブリックを作成し、最後に課題の投げかけやグループワーク、相互評価などの具体的な手だてを考えていきます。ここまでできれば、収集で1、2時間、編集で3時間くらい、と単元の全体像が見えてきます。

授業をつくる際、手だてから学習を組み立てる傾向があります。もちろん手だては重要なのですが、手だてが先行してしまうと、「より深い理解に到達させる」「プロジェクト学習を通して学んだことが役に立つ実感を持たせる」といった生徒の学びや思考過程に対する意識が弱くなってしまいます。ぜひ、学習活動カードを活用して、生徒の思考から探究の学びをつくってほしいと思います。

まずは同じ教科の先生同士で探究の物語をつくる

では、各学校でどのように探究的に学ぶ単元をつくればよいのでしょうか。私は、まずは同じ教科の先生同士で、いくつかの単元計画をつくることをお勧めしています。もちろん、探究が一つの教科で閉じてしまうのは、非常にもったいないことです。しかし、単元の構想段階で、この教科とあの教科を横断させようと教員が想定してしまうと「教科を横断すること」が目的化されてしまい、生徒の探究に無理が生じます。いずれにしても、生徒たちがさまざまに活動し探究をすれば、教科を横断せざるを得なくなります。結果的に教科を横断した、というくらいで構えておいてよいと思います。

「こんな探究ができたら面白いよね」「こんな物語、あんな物語と、探究が広がりそうだ」と思えるような魅力的な題材や単元が見つかれば探究学習はうまくいくと思います。

カリキュラム・マネジメントで生徒の負荷分散を

中、高等学校では、このような情報活用型プロジェクト学習を各科目において年1 単元でよいので取り組んでほしいと考えています。1科目1単元であっても、生徒は複数の科目を履修しているわけですから、その分だけ探究学習を経験できます。

これは生徒の負荷分散も意図しています。例えば、今大学では、あの講義でプレゼンテーション、この講義で動画制作、模擬授業……と学生が同時に複数の課題に追われる状況が生まれています。どの科目の、どの単元で、どの時期に探究学習を展開するのか。生徒の負荷調整の視点でも、カリキュラム・マネジメントはより重要になります。

生徒が自ら学びの質を高めるための
「はしご」としてルーブリックをつくる

思考・判断・表現の評価にルーブリックを生かす

最後に情報活用型プロジェクト学習における評価についてもお話したいと思います。

まず「知識・技能」の評価に関しては、従来どおりにペーパーテストなどを用いて図ればよいと思います。難しいのは「思考・判断・表現」や「主体的に学習に向かう態度」の評価です。

思考・判断・表現については、「ルーブリック評価」をお勧めしています。

ルーブリックでは、「S」「A」「B」「C」といった何段階かの水準に対し、それぞれを表す状態を言語化し、その基準で生徒の評価をします図3。評価基準が明確に示されいるので、「Cの人は、こうしたらBになれる」と教員は生徒に分かりやすくアドバイスできますし、生徒が自身の課題を認識して自ら改善することができます。また「先生はこの部分を見たいから、こだわって作ってほしい」と、教員と生徒が共通認識を持って探究学習に臨むこともできます。

図3山崎学園富士見高等学校2年・現代社会「平等権の保障」におけるルーブリック

とても便利なルーブリックですが、各評価基準の検討が非常に大切になります。そして、その検討には難しさもあります。例えば「アイデアを3つ考えたらS」「アイデアを2つ考えたらA」……といった単純な数による基準や「とても」「やや」など副詞をつけただけの基準で学びの質を見取ることはできません。もっと、その教科、単元の学びを質的に捉え、言語化する必要があります。

もし、この評価基準を曖昧にしたまま探究学習を進めてしまうと、生徒は教員から何を求められているのかが分かりませんし、教員も生徒の学びの「深さ」を見抜く視点が定まらなくなってしまいます。

ぜひ、生徒たちが自ら学びの質を高めていくための「はしご」を掛けるようなイメージでルーブリックを検討し、探究学習を展開してほしいと思います。

全国の先生方のルーブリックを集めた「ルーブリックバンク」を公開

情報活用型プロジェクト学習を考える際の参考資料として「Rubric Bank(ルーブリックバンク)」というWebサイトを開設しています。

全国の先生方から寄せられた約1,500件のルーブリックのアイデアを掲載しています。全国の先生方がどの教科の、どの単元で、どのようなプロジェクト学習を展開し、ルーブリックを作成されているのかが分かります。ぜひご覧いただければと思います。

Rubric Bank(ルーブリックバンク)
https://mmt4.cs.tohoku-gakuin.ac.jp/

「主体的に学習に取り組む態度」をどのように評価するか

探究学習において「主体的に学習に取り組む態度」の評価は、まずは生徒の振り返りの記述をしっかりと見ていくことに尽きると思います。具体的な例として、長野県坂城高等学校の「探究ノート」の活用を紹介します図4

図4探究ノート

同校では、探究学習の振り返りに、その日に学んだことやどのような力が身に付いたのかをGoogle Workspace for Educationのスライドで作成された「探究ノート」に入力させています。

生徒が入力する画面は、ワークシートのようなフォーマットになっています。このフォーマットに毎時間振り返りを入力し、蓄積します。そしてこのシートにはスクリプトが組まれていて、教員のスプレッドシートに全生徒の振り返りの記述を転記・集約し、一覧で確認できるようになっています。

この仕組みによって、教員は効率よく振り返りの内容を確認できますし、生徒は過去の自分と今の自分とを見比べながら振り返ることができます。

では、この振り返りの情報を基に教員がどのように「主体的に学習に取り組む態度」を評価しているのでしょうか。同校では、生徒の学びを質的に捉えて評価するために、ルーブリックを用いています。学校教育法施行規則・高等学校設置基準が一部改正され、令和4年4月より、各校の役割(スクール・ミッション)と、入口(入学)から出口(卒業)までの教育活動の指針(スクール・ポリシー)として、「育成を目指す資質・能力に関する方針」「教育課程の編成及び実施に関する方針」「入学者の受入れに関する方針」を策定することになりました。長野県坂城高等学校では「育成を目指す資質・能力」を「レディネス」「コミュニケーション」「コラボレーション」「キャリア」の4つに整理した「坂高版」ルーブリックを策定しています(R4年度より、一部改訂予定)。

探究ノートでは、これらの資質・能力と対応したふりかえりを記入させることで、生徒自身に身につけたい資質・能力を意識させています。教員は探究ノートを見ることで生徒がどんな資質・能力を意識し、どんな学びをしたのか見取ることができます。「主体的に学習に取り組む態度」と関連が高いキャリアに関する部分のルーブリックを抜粋しました図5。また、年に数回、ルーブリックに照らした自己評価をすることで、自身の成長を実感できるよう工夫しています。

図5「坂高版」ルーブリックの一部(G、H項目のみ抜粋)

今回ご紹介した情報活用型プロジェクト学習について、より詳しく解説したWebサイト「つくろう!情報活用型授業」を開設しています。学習活動カードや単元デザインシートをダウンロードすることもできます。ぜひ、ご覧いただき、今後の実践の参考にしていただければと思います。

つくろう! 情報活用型授業
https://ina-lab.net/special/joker/

(2022年4月掲載)